愚者はのらくら月へゆく (original) (raw)

小林賢太郎の新作を生で見れるってのはいつ何時でも嬉しいものですね。KREVAとコラボした『KREVA CLASS』が素晴らしい公演だったので、今回はいつもの面子でどんなコントを見せてくれるのか楽しみ。

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KAATの大スタジオ。三段階の高さがついた舞台、手前にはいつも通り箱と枠で出来たセット。これだけで「あぁ小林賢太郎の公演だな」と思える美術。座席は本当に劇場のほぼ中央でした。運が良すぎる。

開演直前。事前にnoteでアナウンスがあった通り、前説に賢太郎さんご本人登場。生で見るのは何年振りだろう。表舞台に立たなくなった芸能人って急激に老けるイメージがあって、なんか宮崎駿みたいな感じになってたらどうしよう、沢田研二みたいに太ってたらどうしようとか思ってたけど、51歳、銀髪眼鏡、スーツ姿にスニーカー。バチくそイケオジでした。ちょいと顔の皺が増えたかなってぐらい。

そして公演についてのアナウンス。今作のテーマは「食」と「パラレルワールド」だそう。並行食堂ってそういうことですね。ゆっくりと観客を見渡しながら賢太郎さん退場。もうこの時点でちょっとお腹いっぱいなのですが、公演はこれから。

以下、コントの軽い感想。ネタバレも含むので、これから見るよという方はご注意ください。

いきますね。

1本目、タイトルでもある食堂コント。のっけから店員と常連客が日本語のあやふやさをテーマにした会話を繰り広げ、一気に小林賢太郎ワールドが展開していく。新規の客が訪れてそわそわしだす店員と常連客。そしてまさかのオチ。年々自由になっていくなあ。

2本目は定番の同音異義語コント。初日ということもあったのか、やり取りがちょっと丁寧すぎた感。探り探り、これから変化していく事でしょう。

お次は雰囲気ある人のコント。松本さんと辻本さんの存在そのものが活かされた内容だったけど、ちょっと辻本さんの小市民感が面白すぎた。ただ歩いてるだけなのに爆笑が起きるってズルすぎる。愛されおもしろ男・辻本耕志。

ここら辺から順番が曖昧。

キャンプのコント。「鼻の薬ってアレグリアだっけ?」「アレグリアはサーカスだろ」「あ、アレジオンか」「アレジオンは花じゃない?」似たような言葉を延々と間違え続けるやり取りは日本語の魔術師の真骨頂。辻本さんと加藤さんの力の抜けたボケ合戦がたまらん。それだけでは終わらせないのもいい。2人だけのミニマルな会話劇にしては壮大なオチ。今回の中では一番好みなコントだった。

料理教室コント。前半ではまたナンセンスな言葉遊びコントかなぁと思わせておいて、後半にぞわわな展開が。ちゃんと各コントに幅を見せてくれる。

バーコント。カクテルって名前だけじゃ素人には何がなんだか分からないよね。知ったかぶる店員にちゃんと理由があるのが良い。松本さんときな子さんの兄妹、微笑ましい。

透明店長。見えない店長とバイト達のいざこざ。高崎さんの声圧が光る。後半のノリが日本語学校だ!ちゃんと別の展開を見せていくところは流石。ただ前半もっと展開があって良かった気もした。

食彩の王国』のような、日本の伝統的な食文化を紹介する番組のパロディコント。風土記とフード記は見事な言葉遊び。こういうツッコミもボケも存在しない、ただただバカバカしいコント、大好き。

そしてラストは長尺のレストランコント。飄々とした加藤さんとリアクション王・竹井さんのナンセンスな会話が笑いを増幅させていく。辻本さんの伝家の宝刀・腹立つおぼっちゃまや、高崎さんの伝家の宝刀・全身タイツなど、全員の良さを余すとこなく堪能した感じ。最後はしっかり全コントをまとめて終幕。

初日ならではの固さや探り探りな雰囲気などを感じつつも、日本語の面白さ、コントの幅広さと美しさ、改めて堪能させてもらいました。シアター・コントロニカになってから賢太郎さんのコントもより自由になってきた気がするし、あてがきが増えたのもいい影響な気がする。絶対的エースの辻本さんと安心安全の竹井さんの二本柱はびくともしないし、高崎さんと松本さんは自分の色を出してメキメキ輝き出してるし、 きな子さんの柔和さと狂気を兼ね備えた存在が新しい風を吹き込んでる。そして個人的には加藤啓さんが辻本竹井コンビに次いで、小林賢太郎作品にかけがえの無い存在になりつつあるのではと思えて嬉しい。あそこであんなダンス踊れないよ。やっぱりコント好きだな。笑えるって幸せだな。

楽しかったと思う一方で、久しぶりに短編コント集ではなく『ロールシャッハ』や『うるう』のような長編舞台も見てみたいなという思いも湧き上がってきた。それこそ来年に脚本・演出の舞台が決まっているわけだけど、外部から委託されたものではない、小林賢太郎による小林賢太郎のための舞台が生まれる時を、今は楽しみにしたい。