米国史料調査記録(2024年9月/NARA II) (original) (raw)

筆者は2024年9月に1週間ほどワシントンD.C.(正確にはその郊外、メリーランド州カレッジパーク)に滞在し、米国国立公文書館新館(通称NARA II)にて史料調査を行った。反省と備忘録を兼ねて、以前の台湾編と同様にNARA IIの基本情報についてまとめることとしたい。

なお、本情報はあくまでも2024年9月時点のものである。NARA IIのルールは頻繁に変わるようなので、最新情報は同館HPにて確認されたい。

NARA II外観

1. 渡航

前置きが長くなるが、渡航前の準備段階から筆を起こす。**渡航前の準備や学習が史料調査の成否を大きく左右する(実際左右した)**ためである。

フライト

筆者は今回東京⇔ニューヨークの往復便とし、ニューヨークで1泊してから、長距離列車(アムトラック)でD.C.へ移動した。DC直行便と比べてフライトの値段が安く、また後半はニューヨークで調査を行うためだった。アムトラックの出発駅(マンハッタンのPenn Station)も到着駅(D.C.のUnion Station)も市内中心部にあり、地下鉄も使えるため便利ではある。が、アムトラックは指定席ではなく早いもの勝ち方式で、車内の荷物置き場(京成スカイライナーのような形で車両の入り口のところにある)も大きくはないため、スーツケースが大きいとやや大変だった。もしNARA IIのみが目的の場合、予算次第ではあるがDCとの直行便(ダレス国際空港)でよいと思われる。なお、ダレス国際空港からD.C.市内までは地下鉄(Silver Line)で1本で行けるようである。

ホテル

冒頭述べたとおり、NARA IIはカレッジパークという場所にあり、D.C.市内からは車で片道40分ほどかかる。その周辺にはホテルがないためどこかしら離れたところに取る必要がある。詳しくは後述するが、NARA IIまでバスで1本で行けるところを強くおすすめする。

閲覧室の予約

2024年9月現在、NARA IIの開館時間は月曜から金曜の9:00-17:00で、あらかじめHPから閲覧室の予約をする必要がある。文書(Textual)やマイクロ資料などそれぞれで閲覧が必要なようである(筆者は今回文献史料のみを閲覧した)。

アーキビストとの連絡

NARA IIのHPには以下の記載がある。

Researchers may contact Textual Consultation at archives2reference@nara.gov for advance consultation and Researcher Registration at visit_archives2@nara.gov for researcher registration or research room appointment questions.

「may contact」なので「必要なら連絡してもよい」というニュアンスなのかもしれないが、必ず連絡した方がいい。その際には、自分の研究関心が何で、そのためにどんな史料を閲覧したいかをメールに記載する。できれば、自身の研究テーマに関連する先行研究をあらかじめ読み込み、そこで引用されている史料を挙げるなどして、「これこれを読みたい(またはこんな感じのを読みたい)」とまで記載すると具体的になる。すると、(今回筆者がたまたまそうだっただけかもしれないが)アーキビストからは当該史料が入ったBoxの書架住所、また場合によっては関連する史料の情報が送られてくる。この書架情報を事前に入手しておくと、当日現地で自分で調べる手間が省ける。

アーキビストは現地に着いてからも強力な味方となる。NARA IIの史料保管は入り組んでおり、初見の者が独力で見たい史料に辿りつくのはおそらくほぼ不可能なので、積極的にコンタクトを取った方がよいと感じた。なお、アーキビストからのメール返信には2~3週間近く要する(HPにも遅くとも3週間前までは連絡することと案内がある)ので、早めに最初のメールを送る必要がある。

その他

一般的なことではあるが、ESTAの申請を忘れずに。また海外旅行保険にも入っておいた方がよい(クレジットカード附帯の保険では病気がカバーされなかったり、保険金がアメリカで万が一の際に医療を受けるには少なかったりするため)。また、アメリカは日本以上にクレジットカード社会なので、クレカ(タッチ式がおすすめ。ほぼどこでもタッチ式で決済可能)を持っておくことが推奨される。現金はチップぐらいでしか使わなかった。

2. 渡航後、現地にて

最初の登録

(いろいろと端折ったが)いよいよNARA IIに到着。入り口で手荷物検査を済ませたのち、初めての人は向かって右手前にあるRegisterの部屋(正式名称は忘れた)に入る。ここで利用登録を行う。フロントの方の案内に従い、パソコンに情報を打ち込んでいく形。入力後、利用カードが発行される。カードは以前は顔写真付きだったようだが、現在は氏名と利用者番号、QRコードが記載されているのみで、質感もペラペラ。有効期限は1年なので、それを過ぎると来るたびにこの手続きがあるということなのだろう。なお、以前はあったと聞いていた利用に関するオリエンテーション(20-30分かかる)は、なぜかなかった。

荷物の預け入れ

登録後、地下1階に降りてロッカーに荷物を預ける。預ける際に25セント硬貨(quarter)が必要(あとで戻ってくる)。館内には飲食物はもちろん、ノートやペンも持ち込めない。筆者はノートパソコン、その充電器、iPhoneの充電器(iPhoneで史料の写真を撮ったため)のみを持ち込んだ。周りにはスキャナーを持ち込んでいる研究者も多かった印象。なお、閲覧室の出入り口のところに水飲み機があるので、そこで喉を潤すことができる。

閲覧室へ

1階に戻り、閲覧室に入るゲートを通る。その際にノートパソコンやキーボード付きiPadなどは開いて見せる必要がある(なかに何か挟んで持ち込むことを防ぐため)。その際に利用カードのQRコードをスキャンする。以前はあった、機材の登録などの手続きはなくなったようである。

まずは3階へ

調査の最初は3階へあがる。3階にはアーキビストが控えていて、資料目録(Finding Aid)などがずらっと並んでいる部屋がある。事前のアーキビストとのやり取りで見るべきBoxが特定されている場合は、その部屋のテーブルの上にある複写式の申請用紙に必要情報を書いていく。必要情報は以下のとおり。

DATE:記入を忘れがちだが(自分は忘れてしまい、アーキビストに書かせてしまって迷惑をかけた)、申請日の日付。

NAME:LAST→FIRSTの順(これもうっかり逆に書いてしまい、資料を出すときにスタッフを若干混乱させてしまった)。

SERIES OR COLLECTION NAME:見たいBoxが属するシリーズの名前。

RECORD GROUP/COLLECTION DESIGNATION:レコードグループ。例えば国務省なら「59」。

ENTRY NUMBER:当該シリーズに振られた番号。

・**NATIONAL ARCHIVES IDENTIFIER**:何の番号か判然としなかったが、エントリー番号同様に振られている数字を記入。

BOX/ITEM NOS. REQUESTED:見たいBox番号

STACK・ROW・COMPARTMENT・SHELF:いわゆる書架住所

これらはいずれも、わからないところがあればアーキビストに尋ねるのがよい。ただ、申請者も十分身に着けたわけではまったくないが、自力で情報を探すこともできる。

例えば国務省文書(RG59)で言うと、3階の棚に「CENTRAL DECIMAL FILES 19XX-XX FILING MANUAL」というファイルがある。XXには年代が入り、大まかな地域ごとに分かれている(例えば日本関係はFar East)。DECIMALとは十進法ということで、1963年までは、さまざまな政策領域や地域ごとにコードが割り振られ、数字の列として表現することで、それに紐づく特定の政策・地域に関する文書群がまとまって保存されている。例えばアメリカの日本に対する文化政策について見たい場合、511.94…という番号が該当する。5は「Class 5」=「International Informational and Educational Relations」、11はアメリカ、94は日本を表す。

こうして自分が見たい十進法分類を把握したあとに、同じ棚の少し下の方にある「Box List」を見る。これを見ると、先ほど把握した十進法分類に紐づくBoxの書架情報が記載されている。ここに書かれている情報を申請書に転記していく形となる。

申請書を記入したのち、同じ部屋に座っているアーキビストの方から内容を確認してもらい、サインをいただく。これで3階での手続きは終了である。

なお、一度に引き出せるBox数は、明確に何箱までとは言われなかったが、おそらくカートに乗る個数が上限なのだと思う。申請者は最多のときは20箱ほどを一度に出した。また、申請は基本的にRGごとに行うようで、異なるRGの申請は分けて行う必要があるようである。

2階閲覧室へ

申請書にアーキビストのサインをもらったら、その申請書を持って2階の閲覧室へ行く。閲覧室入室時にもノートパソコンを開いて見せ、利用カードのスキャンが必要。

閲覧室の席は自由であるため、空いている席に座ればよい。個人的には、太陽光と影の位置に気を付けて席を選ぶのがよいと思った。というのも、閲覧室は東南に面していて、かつ全面ガラス張り&カーテンなどがまったくないので、午前中は太陽光が強く差し込む。窓に向かって座るとまぶしく、逆に窓に背を向けると、自分の影ができて史料を撮影する際に影が映ってしまう(文字が見えなくなる可能性がある)。窓に対して平行な席(ただし数が限られている)に座るとこれらの問題を軽減できる。

席を確保したら、2階のある史料の出入庫のカウンターへ行く。通常2人のスタッフが座っているので、順番が来たら申請書を渡す。受付後、史料が出てくるまで約45分かかるので、最初の申請の場合は必然的に「待ち」の時間となる。2回目以降は、そのとき読んでいる史料群があと少しで見終わりそうというタイミングで次のものを申請しておけば、待たずに済む。なお、以前は史料を出庫する時間が毎時ちょうどなどと決まっていたが、現在はそういったルールはなく、随時申請・(約45分ほどたったら)出庫できるようである。

史料が見られる状態になると、カウンター横のスクリーンに氏名が表示される(特にアナウンスなどはない)ので、再びカウンターへ行き、ボックスの乗ったカートを受け取る。

複写(撮影)用のタグをもらう

これでようやく史料を「見られる」状態になる。が、このままでは史料の撮影ができない。史料を撮影(またはスキャン。印刷もできるのかもしれないが筆者は行っていないのでよくわからない)する際には「Declassification Slug」をもらう必要がある。撮影や複写が許可されたBoxには機密解除番号(NND番号)が振られていて、Boxの側面に記載してある。その番号がある場合は、閲覧室の両脇にあるカウンターへ行って撮影をしたいと申し出る。すると、その日の最初の申し出の場合は、(正式名称がわからないが)長方形の色のついた紙(スタッフは「カラーペーパー」と呼んでいた気がする)と、「Declassification Slug」という小さい紙片をもらえる。

Slugを受け取ったら、当時にそこにあるノートに氏名とNND番号、時刻を記入する。色のついた紙は座っている席のライトのところに透明な入れ物があるので、そこに差し込んでおく。そして史料を撮影する際に、すべての写真でそのSlugが写り込むように撮影する。これにより、当該写真に写っている史料は機密解除がなされていることを示すことができるためである。

なお、NND番号は史料のテーマごとに振られている。NND番号が同じBoxは同じSlugで撮影することができる。NND番号が変わるたびに先ほどのカウンターへ行って、返却の時刻を記入し、新しいSlugをもらう必要がある(ので、同じNND番号の史料はまとめて一気に閲覧した方が効率がよい)。

以上で閲覧の前に必要な手続きは終了である。あとはひたすら史料を見ていくこととなる。

閲覧室での注意点

閲覧室では常時巡回のスタッフが2、3名いて、不適切な行動をしていると注意を受ける。例えば筆者は以下の注意を受けた。

・カーディガンやジャケットなどの羽織り物を椅子にかけない。常に来ておかなければならない。

・ノートパソコンの上に史料を置いてはいけない。また、充電コードに史料が触れてはいけない(史料をめくる際に注意)。

ほか、基本的な(しかし重要な)注意点として、

1度に見る=テーブルの上に置けるのは、1フォルダーのみ。フォルダーとはBoxのなかに入っている文書を一束ねにしたまとまりのこと。これを守らないと違うフォルダーやBoxに文書が紛れてしまう恐れがあるためである。なお、フォルダーに入っている文書の順番を変えてもいけない(基本的に文書が生成された当時の順番で入っているため)。

・メモをしたいときは閲覧室にあるメモ用紙と鉛筆を使う。ただし、閲覧室内で持ち帰る紙が発生すると、退館時の手続きが若干面倒になる(グリーンバッグと呼ばれるセキュリティボックスに入れて確認するという手続きが生じる)。筆者は結局紙のメモを一度もとらず、すべてパソコンに打ち込んだ。

食事

食事については、1階にカフェテリアがある。サンドイッチなどの軽食やちょっとした定食(?)を購入できるが、筆者は初日だけサンドイッチ(たしか8ドルぐらいした)を買っただけで、残りの日は節約のためにスーパーで買ったサラダを持参して食べた。

退館

16時になると閉館1時間前のアナウンスが、その後30分前、15分前にそれぞれアナウンスが流れる。17時の退館に間に合うようにカートを最初に申請書を出したカウンターへ返却する。その際に「Hold or refile?」と聞かれるが、Holdとはその史料を翌日以降も継続して見ること、Refileは閲覧を終えたので返却することをそれぞれ意味する。なお、Holdは最長でも3営業日までしかできない。

また、「Declassification Slug」とカラーペーパーも、受け取ったカウンターで返却する。

退館時にはノートパソコンを開いての確認と利用カードスキャンを再度行う(前述のとおりほかにも持ち物がある場合は、グリーンバッグによる確認を行う)。1階の受付でも確認を終えたら終了、退館となる。

Holdしていた場合は、翌日は3階に行く必要はなく、直接2階のカウンターへ行けばよい。

3.反省点

①調べたい政策の所管組織をしっかり把握する

これはあまりにも基礎的なことであるが、NARA IIの文書は基本的にその文書を作成した(=当該政策を所管した)官公庁単位で保管されている。そのため、何か政策を調べたい場合には、その政策の所管部局がどこなのかをしっかり把握することが重要である。その保管方式自体は日本の国立公文書館や台湾の国史館も同様だが、アメリカの場合、文書があまりにも厖大すぎるため、日本や台湾ほどデータベース化されておらず、システムで検索しても出てこない場合が多い。そのため3階に行ってFinding Aidなどの各種ファイルを使って自分が知りたい政策の場所を探していくことになるが、そのファイル自体が官公庁ごとにまとまっているため、自分が調べたい政策の所管部局を正確に知っておかなければなかなか見たいものにたどり着けないのである。アタリマエではあるが、アメリカ(特に申請者が関心をもつ対外情報文化政策)の場合、官公庁の再編が頻繁にあるため、「この時期の所管省庁はどこか」を正確に把握しておく必要がある。

②アクセスをよく調べる

筆者は今回、カレッジパーク駅から離れた(車で10分ほど)ところにホテルをとった。価格が比較的安かったのと、そばに大きなスーパーがあることが魅力的だったためである。Google Mapで調べるとNARA IIにはバスの乗換1回(2本のバス)で40分程度でいけるため、まぁいいかと思った次第である。

しかし、このバスの乗り換えが鬼門だった。というのも、アメリカでは(他の国でもそうかもだが)バスが時刻どおりに来ることはほぼなく(なんとなれば来ない日もあった)、しかも1時間に一本とかなので、逃すと完全に待ちぼうけになるからである。1本で行けるのであれば多少の遅れは挽回できるが、2本乗ることになると途端に変数が増えて、首尾よくアクセスできる成功率が著しく下がる。結局筆者はうまく行き帰りできた日の方が少なく、残りはホテル/NARA IIや乗換のバス停のところでUberを使うことを余儀なくされた(なお、Uberの料金は、時間帯で変動するが平均的には11ドルぐらいだった。複数人で行って割り勘するとか、その値段も計算に入れて安めのホテルを取るかすれば、却ってその方がタイパがよいかもしれない)。

なお、2024年9月現在、管見の限り、NARA IIをルートに含む路線バスはWashington D.C. Metro Busの「C8」路線のみである。1時間に1本しかなく、遅れるのはまだいいが早く来て過ぎ去っていくこともザラであった。リアルタイムの運行状況がWashington Metropolitan Area Transit Authorityの公式?アプリ「Metro and Bus」で確認可能。このC8バスはCollege Parkのメトロ(電車)の駅を通り、メリーランド大学のキャンパス内を突っ切っていく路線である。この沿線上にホテルを取るのが一つの選択肢である。

二つ目はワシントンD.C.市内にとることである。市内の公文書館本館(NARA I)から毎朝・毎夕、開館と閉館の時間に合わせて直通バスが運行されている。これに乗ることも簡便でよいと思われる(見た感じそのバスに乗って帰る方がやはり多かった)。

三つ目はNARA IIへの直行バスサービスを出しているホテルに宿泊することである。2024年9月現在ではHoliday Inn Washington-College Pkがそれに該当するようである。

以上のとおり反省点も多く、また想像以上に文書量が多かったため全部見切れなかった悔しさもあるが、大変貴重な経験となった。次に来る際にはより効率的に文書を捌けるようになりたい。