【文楽】『生写朝顔話』~見ごたえたっぷりのメロドラマ&お家騒動 (original) (raw)

生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)と読みます。

こんなお話

お家騒動に深雪と阿曾次郎の恋愛が絡んでくるというお話。会ってはまた別れるというメロドラマチックな展開だけれど、阿曾次郎、もっとしっかり深雪を離さずにいて!という思いもする。

恋の発端【宇治川蛍狩りの段】起

恋の発端で、ファンタジック。宇治川の蛍狩りという背景も美しければ、和歌をしたためた短冊が深雪の乗っている船に舞い降りてしまい、また阿曾次郎は深雪の三味線の音に聞きほれるというシチュエーションもとても素敵。絡んでくる悪い奴をえいや~と追い払って、二人は恋に落ちるという、なんとも正統派なラブストーリーではないかいな♪

しかし、国許から火急の用事と連絡があり、深雪が取りすがるのを振り切り、阿曾次郎はすっとんで行ってしまうのだ。

〽船は舫い(もやい)をとくとくと、こぎ出す船子 妹と背の、遠ざかるこそ

ああ、悲しや。また離れ離れに【明石浦船別れの段】承

石浦。遠くには風待ちをしている船がたくさん。手前には秋月弓之助、深雪親子が乗る船が大きく描かれている。空にはぽっかり大きな月。この辺の背景も美しいんだなあ。

阿曾次郎が書いて渡した朝顔の歌がその船から聞こえてきたので、船に深雪が乗っていることがわかり、二人は再会。連れていってほしいと懇願する深雪。両親へ置手紙を書こうとしますが、阿曾次郎、乞われて用意した料紙を海に落としてしまう(もう~!)

仕方がないので、深雪は書置きをするために、親の乗る船にいったん戻るのだが、折あしく風が吹き始め、船が動き始めて二人はまた別れ別れに! お~メロドラマ

〽阿曾次郎が舟へ投げ込む扇の別れ、後しら浪を隔ての船、つながぬ縁ぞ

このあと、深雪は家出。道中山賊につかまり人買いに売られてしまうが逃げのびる(ココ、カット)

不幸へまっしぐらな深雪【浜松小屋の段】転

ついに深雪は目を病み、盲目の物乞いに。このあたり、ちょっと『袖萩祭文』っぽい。そして、分かれ分かれになっていた乳母浅香と再会するも、人買いと争った浅香は絶命。浅香は、守り刀を深雪に渡してこれを嶋田宿にいる自分の親、古部吉三郎を訪ねるよう深雪に言い残す。

場内もみな笑い薬を飲まされる【嶋田宿笑い薬の段】チャリ場

長いお話でダレちゃって、浜松小屋の段です~っと夢の国へ行った私だが、ここはカンフル剤の如くチャリ場でおおいに笑わせてくれて、あとは最後まで怒涛の流れ。

で、ここは本当に笑った笑った。筋はどうということはなくて、駒沢次郎左衛門(阿曾次郎が改名)を毒殺しようとする一味が失敗するというところ。

悪者一味のよからぬ気配を察した宿の主人徳右衛門が、毒を入れた湯を笑い薬を入れた湯に取り換えておいたものだから、解毒剤を飲んだうえで毒見をした悪い医者 萩の祐仙が笑いが止まらなくなって、暗殺失敗という話だ。

萩の祐仙の人形が勘十郎、太夫が織太夫、三味線が藤蔵。頭(かしら)は祐仙。

傑作「チーム萩の祐仙」

勘十郎さんが、今さらですがうまいでしょう?萩の祐仙という医者が下から上へ見上げるように、人の敵味方を判断するみたいな表情、せかせかとした落ち着かないお茶のたて方、ずるっこいしぐさなど、本当にうまくて。隣の部屋に行こうとするときに柱に頭をぶつけてしまうコントみたいな一瞬の動きも、まったく自然で。

そして織太夫さん、今さらですがうまいでしょう?

「ひひひひ。ほほほ。拙者もあははは。笑うまいと存ずれど、何か腹の底から湧き出るようにあははは、いやもうとどまりました。もう笑わんぞ。笑わんというたら~」と延々と笑い続けて、こちらの腹の底も、なんだかムズムズとしてきておかしくて笑ってしまう。

三味線の藤蔵さんも、今さらですがうまいんだけれど、ここでは弾かない場面も多い。じーっとなんだか真面目くさった顔をしているが、心なしか笑いをこらえて、無理やり真面目な顔をしているように見える。口角が変な風に上がっているような、「今日、やりすぎやろ」って思っているような。はははは。ああ、おかしい。

というわけで、場内もみんなクスクス、ムズムズ、プッ。という「場内全員笑い薬の段」なのであった。今思い出してもおかしい。

再び会うもまた別れ別れに【宿屋の段】

駒沢(阿曾次郎)は部屋で朝顔の歌が記されているついたてを見て、深雪がいることを知る。深雪は朝顔という名前にして、呼ばれると客に歌を歌っているのだった。

駒沢は、朝顔が深雪であることがわかったけれども名乗れず(なんでやねん)、深雪は目が見えないため駒沢に気が付かず。駒沢は、金、薬、扇を徳右衛門に託して去る。(これが、気に喰わない。しっかり抱きとめてあげましょうよ)

何と驚きの結末が【大井川の段】結

ここも背景が美しかった。大井川の流れがどどんといっぱいに描かれて迫力がある。

駒沢を追って大井川まできた深雪だったが、大雨のため、川止めとなってしまった(ほら、また会えなくなったじゃないの)

深雪を追って来た徳右衛門と秋月家の奴関助。関助に浅香は死に、守り刀を父親に渡すように言われたことを話していると、いきなり徳右衛門が割腹。

なんと、徳右衛門は浅香の父親だった。甲子の年の生まれである徳右衛門の生き血を、駒沢が与えた薬と共に深雪が飲むと、あら不思議。深雪の両目はたちまち治り、徳右衛門は息を引き取る。

というところで終わりで、めでたしめでたし?なのか。えっと阿曾次郎と深雪の恋の行方はどうなるのかな?そこまで調べていないので、すみません。その後どうなるのかわかりませんが、わかれば追記します。

とにかく、1時半開演終演5時半。休憩は10分が2回のみだから、疲れた。が、ロマンティックで起伏に富んでいて(正直、浜松小屋の段で意識が飛んだが)笑いもあって、見ごたえ十分。

ただ、狂いそうなほど恋焦がれる深雪に対して、ちょっと阿曾次郎には、もうちっと真剣に深雪に向き合ってほしかったなとは思うけれど、じっと朝顔の歌を聞くところなどは哀愁が漂っていてなかなかいい男っぷりであった。

床本集

ところで、東京の文楽公演ではなくなっている床本集が、大阪ではありました。

やはり、いいですよね。読み返すと美しい文章にたくさん出会えます。

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東京でも復活、たのんます。