同性愛と家族、そして社会を描いたリアルな物語 ドラマ『スメルズライクグリーンスピリット』感想【ネタバレあり】 (original) (raw)
今回は最終回放送後、一週間が過ぎてしまいましたが、未だいろんな感情が渦巻いて、自分の中で消化しきれていない『スメルズライクグリーンスピリット』の感想です。
ドラマ『スメルズライクグリーンスピリット』感想
原作:未読
ゲイと一括りにしない、多様な描写の妙
最初の1~2話あたりでは、女装っ子がいじめられるシーンが続き、正直、苦手意識が強くて脱落しそうになりました。しかし、物語が進むにつれ、主要キャラクターたちの「ゲイ度合い」ともいえる性的指向の幅が徐々に明らかになり、その描写がとてもリアルで引き込まれました。主要人物の立ち位置をざっくり表にしてみると以下のような感じだと思います。
BLに登場する主人公たちの多くは柳田先生か三島あたりの立ち位置かと。
桐野はTVなどで活躍しているオネエ系芸人さんに近いイメージかな。
なので、同じ「ゲイ」でも、それぞれのキャラクターの感じ方や向き合い方には違いがあり、物語に奥行きを感じました。このグラデーションを通して、多様な生き方が丁寧に描かれている点に深く共感できたのが、このドラマの一つの魅力だと思います。
俳優陣が引き出した、複雑なキャラクターの奥行き
複雑な背景を背負ったキャラクターたちを見事に演じ切った俳優陣には、心から拍手を送りたいです。個人的に印象に残ったのが、桐野役の曽野舜太さんと、柳田役の阿部顕嵐さんの演技でした。まず、桐野役の曽野さんの表情の作り方は本当に見事でした。自分を「アタシ」と初めて呼び、まるで心が解き放たれたように見せる笑顔には、桐野の長年の葛藤が一瞬で感じ取れました。また、夢野に三島のことを相談されたシーンで見せた、様々な感情が交錯する泣き顔や、最終回で自分の本心を抑え込んで、徐々に男性へと戻っていく姿は、どれも忘れられません。曽野さんの細やかな表現力がなければ、芸人さん以外のオネエキャラが苦手な自分としては、このキャラクターをここまで深く受け止めることはできなかったと思います。桐野は家族思いで優しい性格の持ち主でもあり、その愛おしさも伝わってきました。
一方で、桐野とは対照的に『悪役ポジション』で登場した柳田先生もまた、強烈なインパクトを残しました。三島を襲うシーンでの、振り切ったような鬼気迫る演技は、見る側に恐怖を感じさせるほどの迫力でした。もちろん、柳田が三島にしたことは許されるものではありませんが、彼が発する一つ一つのセリフが重く、その過去に秘められた苦しみが伝わってくるようでした。全てを諦め、田舎で静かに暮らすと決めていたにもかかわらず、三島という「好みドストライク」な存在に出会い、抑えていた何かが一気に壊れそうになる気持ちも、完全に理解できないわけではありませんでした。 さらに、柳田にも何らかの救いがあってほしいと願いながら観ていたところ、原作には彼に焦点を当てたスピンオフ作品があるとのこと。彼の背景や内面にさらに深く迫る話が描かれているのかと思うと、ぜひ手に取って読んでみたいです。このように、多面的なキャラクターの魅力を引き出した俳優陣の名演技が、物語をいっそう引き立てていたと感じます。
予想外の結末が問いかける、家族と自分の幸せ
第6話終了時点では、三島と桐野が最終的にくっつき、夢野は何だかんだで女の子と結ばれるのではと思っていましたが、予想を裏切る展開に驚かされました。三島と夢野がカップルになったのも意外でしたが、さらに驚いたのは、あれほど「女性らしさ」に憧れていた桐野が、最終的に女性と結婚し子供を持つ道を選んだことです。主要キャラクターの中で、桐野は最も男性性から離れ、自分を「アタシ」と呼ぶなど、女の子として生きたい思いが強かったはず。母親を幸せにしたいという思いで彼が選んだ道、その選択があまりに重く、切なくもありました。 同性愛者としての生き方、家族との関係、そして本当の『幸せ』とは何か、この作品を通して様々な考えが巡りました。
ありのままで生きられる社会を願って
ここからは少し妄想が膨らんでしまいます。不快に思われる方は、この段落は読み飛ばしていただければと思います。 ドラマ前半のいじめのシーンを見ていると、ふと、かつてニュースで取り上げられたあるいじめ事件が思い出されました。あの事件が報道された際、ネット上で加害者たちに対し「もしかしてゲイではないか」という憶測が飛び交ったことを覚えています。本作でも、登場人物たちが抱える同族嫌悪や好意の裏返しがいじめの背景にあると示され、あの実際のいじめ事件ももしかしたら、最初は似たような状況だったのかもしれないと感じました。 もちろん、いかなる理由であれ、いじめは決して許されない行為です。ただ、本作で三島が語っていた「いつか堂々と自分はこういう人間だって言える日が来るといいな」という言葉には深く考えさせられました。あの事件の加害者たちも、もしも自身の気持ちを隠す必要がなかったとしたら、いじめへと繋がる道ではなく、別の道を選べたのかもしれません。人がありのままの自分を受け入れ、社会で尊重されることで、心の余裕が生まれ、いじめや憎悪に走らない社会になるのではないか。そうした願いが、ドラマを見ながら心に浮かんできました。
今年見たBLドラマの中では間違いなくトップクラスの完成度だったと思います。まだ見てない方はぜひご覧になってみてください。
評価
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★★
演技:★★★★★
エロ度:★☆☆☆☆
メッセージ性:★★★★★
Blu-rayはこちら
原作はこちら