ハーレムの男たち 872話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 我慢しないランスター伯爵 (original) (raw)

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872話 ラティルはゲスターに頼みごとをしたところ、2度も拒絶されました。

◇ラティルも拒否◇

ラティルは、

体を丸めて窓枠に座り、

濃く淹れたお茶を

フーフー冷ましながら飲みました。

お茶の香りと味、温もりに集中し、

怒りを抑えようと努めました。

自分が、いつゲスターを

馬扱いしたというのか。

彼に優れた能力があるから

助けを求めたのに。

しかし、怒りを抑えるのは

容易ではなく、

お茶を飲み終えたラティルは、

机まで、つかつか歩いて行き

引き出しを壊すように開けると、

あらかじめ準備しておいた

ゲスターの誕生日プレゼントを取り出し

ベッドに放り投げてしまいました。

それから、プレゼントの上に

枕と布団を積み上げ、

やたらと叩いているうちに、

少し怒りが解けました。

しかし、しばらくすると、

それさえも力が抜けて、

ラティルは厚い布団の上に

大の字になって、ぐったりとしました。

ラティルは、

これを、どうすればいいのか。

ゲスターは、

助けてくれないと言っているし、

ギルゴールは、最初から

助けてくれるという考えもない。

メラディムも

手伝わないと言っている。

1人でも行くべきか。

しかし、いくら自分でも、

足元が消えたら、どうしようもない。

死ぬことはないけれど、死ぬよりも、

さらに苦しい恐ろしいことが

起きるかもしれない。

シャベルを持って行こうか。

レッサーパンダが作る結界は

土も防いでくれるだろうか。

グリフィンの足をつかんで歩きながら

足元が消えるや否や、

グリフィンがさっと飛び上がれば

どうだろうか?

ラティルが

あれこれ考えていたことは、

扉の外から

「陛下」と呼ばれたことで

散り散りになってしまいました。

ラティルは首を傾げながら

どうしたのかと尋ねました。

侍女がゲスターの来訪を告げると、

ラティルは鐘を鳴らすこともなく、

入ってこいという返事もせず、

布団の下に敷かれている

ゲスターのプレゼントだけを

見下ろしました。

返事をしないまま時間が経つと、

侍女は困ったように

「陛下?」と再度聞いて来ました。

ラティルは、

寝ていると言ってと

不機嫌そうに返事をすると、

目を閉じました。

扉の向こうにいる侍女は慌てて、

振り向くこともできずに

扉だけを見つめていました。

彼女のすぐ後ろには

ゲスターが立っていました。

当然、彼も、

扉の向こうから聞こえてくる返事を

すべて聞いていました。

互いに気まずい時間が1分ほど過ぎた後

皇帝は疲れているようだと

ゲスターは弱々しい声で呟きました。

今にも落ちそうな落ち葉のような声に、

侍女は心が痛みました。

彼女は、何とかゲスターの方を向くと

最近、皇帝は、

色々なことで苦労しているからと

心苦しそうな様子を

見せないようにしながら、

皇帝のために弁護しました。

ゲスターは、

口元に寂しい笑みを浮かべて

踵を返しました。

ゲスターが出て行くと、

応接室に集まっていた侍女たちは

同時にため息をついて

皇帝の部屋を見つめました。

◇一度だけ◇

翌日、ラティルは、

パンとコーヒーだけの朝食を済ませると

いつもより早く部屋を出ました。

ところが階段を下りて

執務室に向かっている途中、

廊下の真ん中に

ゲスターが立っていました。

陛下・・・

ゲスターはラティルを見ると、

哀れな声で呟き、

すぐに近づいて来ました。

その姿が、やつれた鹿のようで、

ラティルは一瞬彼を抱きしめて

どうしたの?

と聞くところでした。

しかし、その代わりにラティルは、

どうしたの?

と淡々と尋ねました。

もちろん、人々の視線を

意識していたので、

普段のような口調は維持しました。

ゲスターのことが恨めしくて

腹が立ちましたが、宮廷人の前で

彼を侮辱したくはありませんでした。

皇帝に会いたくて来たと、

ゲスターは小さな声で呟きながら

両手を合わせて

ラティルをチラッと見ました。

ラティルは、

自分がゲスターの助けなしに

どうやって事を切り抜けるのか

見に来たのかと、

他の人には聞こえないほど小さな声で

皮肉を言いました。

その言葉に、ゲスターの目は

大きな牛のように変わり

そんなはずが・・・違います陛下・・・

と否定すると、涙ぐみました。

今はゲスターに会いたくないと、

ラティルは再び声を小さくして

きっぱり言うと、

さっと彼の前を通り過ぎました。

つかつか廊下を歩いて行くラティルを

ゲスターは追いかけながら、

メラディムもギルゴールも

皇帝の頼みを聞いてくれないのは

同じなのに、

なぜ、自分にだけ怒るのかと

尋ねました。

ラティルは、

ゲスターが一番、

気分が悪くなる断り方をしたからだと

答えました。

ゲスターは、

ギルゴールは葬式をすると言った。

それは思いやりのある断り方なのかと

反論すると、ラティルは、

ギルゴールが変なのは

ゲスターも知っているはずだと

返事をしました。

ゲスターは、

自分が臆病なのも知っているのにと

言い返しましたが、

ギルゴールは断った後に、

自分をちょろちょろと

追いかけ回したりしない。

ゲスターは断ったし、

自分もゲスターに強要しないので、

ちょろちょろ追いかけて来るな。

自分の頼みを断るのが

ゲスターの意思なら、

それに失望するのは自分の意思だと

言うと、周囲から降り注がれる視線を

意識して口をつぐみました。

執務室付近なので、

秘書と侍従、警備兵、官吏、

近衛兵たちが、

口を開けてこちらを眺めていました。

ラティルは咳払いをして

執務室に入ると、扉を閉めました。

ところが、さっと振り向いた瞬間、

ラティルは、机の上に座っている

ランスター伯爵を見つけ

小さな叫び声を上げました。

ラティルは大股で歩いて行くと

ランスター伯爵を

じっと見つめながら、

なぜ、黙って入って来るのかと

尋ねました。

ランスター伯爵は、

君に会いたくて?

と返事をすると、ラティルは

出て行け!

と、地面を指差しながら

叫びました。

ランスター伯爵は鼻で笑うと、

ラティルの椅子まで歩いて行き

座ってしまいました。

ラティルは、

出で行かなければ、椅子ごと投げると

警告しましたが、彼は足を組んで座り

机に片方の腕をついて顎を乗せると、

ひねくれた笑いを浮かべながら、

なぜ、自分を冷遇するのかと

尋ねました。

ラティルは、

その理由が分からないのかと

逆に尋ねました。

ランスター伯爵は、

分からないと答えました。

ラティルは、

本当に分からないのかと尋ねると、

ランスター伯爵が

バカなのではないかと思い

険しい表情をしました。

ランスター伯爵の口元が、

さらに斜めに上がりました。

それから、彼は

実は知っていると答えました。

ラティルは、

それならば出て行けと警告し、

扉を指差しました。

ランスター伯爵は出て行く代わりに

顔を顰めて、

椅子の背にもたれかかりました。

あたかも、自分の椅子のように

振舞う態度に、ラティルは

さらに熱が上がりました。

ラティルは、

出て行かないのなら、

自分が椅子ごと持って追い出すと言うと

袖をまくり上げました。

しかし、ラティルが

椅子を持ち上げるために

両腕を広げて腰を少し曲げた瞬間、

ランスター伯爵は

椅子から突然立ち上がり、

ラティルは両腕を広げて

ランスター伯爵を

抱きしめる形になりました。

どうして抱きしめるの?

ランスター伯爵が口笛を吹くと、

ラティルはさらに熱が上がり、

彼を離すと、

首の後ろを手で押さえました。

我慢しろ。我慢しろ。

彼はとても役に立つ。

我慢しなければ。

いや、でも本当にイライラする。

と呟いていたラティルは、

つかつかと扉へ歩いて行き、

自分が執務室の外へ出て行きました。

そして、回廊を歩いていると、

ランスター伯爵が、すぐそばに現れ、

並んで歩きました。

どうして、付いて来るの!

我慢ができなくなったラティルは

再び声を荒げました。

ただ、じっとしていてくれさえすれば

そのうち残念な気持ちが

収まるはずなのに。

ちょろちょろ追いかけて来て、

人の神経を逆撫でする

ランスター伯爵が、

こんなに憎らしいことは

ありませんでした。

行け!

追いかけて来ないで!

あなたの顔も見たくない!

ラティルがもう一度

冷たい声で叫んだ瞬間、

ランスター伯爵は

ラティルと向かい合って立ち、

歯を食いしばった声で

自分に謝らせるなと警告しました。

ラティルが、

何?

と聞き返すと、ランスター伯爵は

ラトラシルが

しきりにそうするなら、

自分も、もう我慢しないと

答えました。

ラティルは

ランスター伯爵の言葉を

すぐに理解できませんでした。

我慢しないって、

何を我慢しないのか。

今も勝手なことを言っているのにと

思ったラティルは、

ランスター伯爵に向かって

何を我慢しないんだ!

と2度叫ぶと、ランスター伯爵は

ごめんね。 怒らないで。

と謝りました。

ラティルは目を見開いて

ランスター伯爵を、じっと見ました。

ラティルは

何だって?

と尋ねると、

ランスター伯爵は

精一杯シワを寄せた顔で

ラティルを見つめると、

自分は2度は言わないと

歯ぎしりしながら警告しました。

ラティルは、

今謝ってくれたのか。

そうみたいだったけれどと

指摘すると、ランスター伯爵は

そうだけれど、これ以上聞くな。

自分は3度は言わないと

返事をしました。

ラティルは思わず口を開けました。

ゲスターとランスター伯爵は

一体どんな風に

共存しているのだろうか?

誰にでも謝って、

自分のせいではないのに、

とりあえず謝りまくる

自動謝罪ゲスターと、

あの偏屈なプライドの塊である

黒魔術師が、

平和に共存できるのだろうかと

不思議に思いました。

しかし、ランスター伯爵は

ラティルを混乱に陥れておきながら

1人ですっきりしていました。

彼はとても難しい問題を

解決したように、

自分の髪の毛をかき回し、

すぐに落ち着いて

自信満々な笑みを取り戻ると、

よし、行くよ。

代わりに一緒に行こう。

久しぶりの デートということで

一緒に行って来よう。

私たち2人で、

同じ土の中に埋もれてみよう。

と言いました。

ラティルは、

自分は埋もれたくないけれど、

一緒に行くと返事をしました。

ランスター伯爵は、

自分がラトラシルを背負うか

抱いて行くと提案すると、

ラティルは、それは不便なので、

手を握って行くのはどうかと

彼の手をギュッと握りながら

尋ねました。

ランスター伯爵は

悩んでいるようでしたが、

いいよ。

と返事をして

そのまま消えました。

ラティルは、空っぽになった手を

空中で握ったり伸ばしたりして

ため息をつきました。

自分にも、あのようか能力があれば

良かったのに。

本音が、聞こえたり

聞こえなかったりするよりは、

ずっと楽な気がする。

いや、狐の穴が、

できた、できないというよりは

そちらの方がマシだと思いました。

とにかくゲスターの助けを

受けられるようになったので、

あっという間に、問題の場所へ

行けることになりました。

ラティルは、

再び執務室に戻りました。

侍従長の心配◇

ラティルは、

急な案件を中心に処理し、

仕事がある程度終わると、

明後日まで休暇をもらいたいと

侍従長に頼みました。

侍従長は、

離宮に行くのかと尋ねました。

ラティルは、それを否定し、

対怪物部隊小隊の隊員が

ずっと行方不明になっているので

ゲスターと一緒に

現場へ行って来ようと思う。

なるべく早く、

帰って来るつもりだけれど、念のため

多めに取っておいた方がいいと

答えました。

大した話ではないだろうと

思っていた侍従長は、それを聞くと

驚いて目が大きくなりました。

侍従長は、

危ないですよ、陛下。

と心配しましたが、ラティルは

百花とアニャまで消えたので、

自分が行った方がいいと主張しました。

侍従長は、

ゲスターだけ行ってもらったらどうかと

提案しましたが、ラティルは

素っ気なく笑いました。

すでにそのように提案して

断られたという話はしませんでした。

侍従長は、

皇帝が常に危険なことに対して

率先して立ち向かうので心配だと

ため息をついて呟くと、

後ろに立っていた近衛騎士は、

だから皆、皇帝がロードであることを

知っていても、

何も言えないのではないか。

誰よりも国のために

熱心に行動するからと

誇らしげに口を挟みました。

それはそうですが・・・

と答えながらも、侍従長

心配を拭い去ることは

できませんでした。

だからといって、ラティルを

止めることもできませんでした。

侍従長が考えるに、

側室たちが、いくらすごいと言っても

ロードである皇帝が一番強そうでした。

その上、その強い皇帝と

一緒に行くのがゲスターなので

ある程度、安心しました。

このことについて、ラティルは

あえて秘密として処理しなかったため

この話はすぐに広まりました。

ロルド宰相は、

息子が皇帝と2人で

危険な地域に行くという話を聞くと、

嬉しい気持ちよりも

心配の方が大きくなりました。

黒魔術師だろうと何であろうと

彼の目には、ゲスターは

生まれたばかりの小鹿に

過ぎませんでした。

ロルドの息子は、奇怪な手口を

よく知っているから、

しっかり皇帝のお供をしながら

行って来るだろうと、

アトラクシー公爵は、他人事のように

にこにこ笑いながら言いました。

しかし、3時間後。

他人事ではなくなりました。

◇意外な提案◇

ラティルは、いつもより早く

仕事を処理した後、

タッシールに会って、自分が

席を外している間のことについて

話し合いました。

もしも急用ができたら、

タッシールがラティルの所へ

グリフィンを送れるように、

グリフィンは

置いて行くことにしました。

皇配になると、これが問題だ。

一緒に行ければいいのにと

タッシールがぼやくと、ラティルは

タッシールがいるから、安心して

行って来ることができると言って

彼の頬にキスをし、

心から感謝しました。

それから寝室に戻って

カバンを持って行く時、侍女が、

ゲスター、ラナムン、カルレイン、

サーナットの来訪を告げました。

なぜ、他の人たちも来たのかと

ラティルは不思議に思いながら、

全員を部屋に入れました。

ところが、ゲスター以外の3人は

意外な提案をしました。

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ゲスターなのか

ランスター伯爵なのか、

それとも両方なのかは

分かりませんが、

彼らは、ラティルの頼みを断った後

彼女が

どうしてもお願いしたい。

あなたでなければダメと

彼らに懇願して来るのを

待っていたのではないかと思いました。

ところが、ラティルは

彼らの期待通りにならず、

山の上に行った時のように

彼らに対して怒りまくっている。

か弱いゲスターの姿で

会いに行ってもダメ。

ランスター伯爵の姿になったら

さらに怒りまくるラティル。

最後のとどめは

「顔も見たくない」と

言われたことでしょうか。

カルレインやギルゴールでさえ

ゲスターとランスター伯爵の扱いには

気を遣うくらい

彼らは恐ろしい黒魔術師。

彼にとって謝ることは

もしかして、世界が終わるくらい、

衝撃的なことなのかも。

それでも、ラティルに嫌われたくなくて

彼女に謝ったランスター伯爵は、

心からラティルを

愛しているのだと思いました。

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