問題な王子様 168話 外伝 15話 ネタバレ 原作 あらすじ フォールド (original) (raw)

168話 エルナはビョルンに乗馬を習うことになりましたが・・・

その教師は詐欺師でした。

初めての乗馬レッスンまでは、

まあまあ良い教師の姿を見せていた

ビョルンは、2日目から

徐々に本性を現し始めました。

エルナが怖がって悲鳴を上げると

目を細め、

腰を立てることができなくて、

途方に暮れている姿を眺める時は、

若干、苛立ち混じりのため息を

吐いたりもしました。

それでも、なんとか平穏の中で

維持されていた乗馬のレッスンは

昨日の夕方、破局を迎えました。

白い帽子と手袋を身に着けた

淑女のドロテアが、背中に

大公妃を乗せるようになってから

まだ1週間しか

経っていませんでした。

リサは服のブラシを置くと、

もうすぐ王子が外出すると

思うけれど、

本当に見送りに出ないのかと

心配そうに聞きました。

その言葉に

エルナの瞳が小さく揺れましたが、

意地を張って、頷きました。

そして、

夏祭りの準備で忙しいので、

しばらくは

見送りと出迎えに行けないと思うと

淡々と返事をした後、

エルナは応接室へ行きました。

机の横で派手に輝いている

醜い象の彫刻を見ると、今更ながら

怒りがこみ上げて来ました。

リサに言った言葉は、

単に、顔を見るのも嫌な夫を

見送りたくなかったためだけの

言い訳ではありませんでした。

この夏、エルナは

社交シーズンの数々の行事や

婦人会の活動、

それに目前に迫った夏祭りまで、

忙しさのあまり、

早朝から夜遅くまで

一休みもできない日が

頻繁にありました。

そんな中でも、時間をかけて

乗馬を習うと決心したのは、

ただビョルンのためでした。

それは、彼がしてくれた

下手な愛の約束だったし、

エルナにとって、その愛が

大切だったからでした。

結局、このような侮辱を

受けることになるとは

夢にも思いませんでしたが。

室内装飾家の助言に従って

あの酷い彫刻を捨てるべきだったと

後悔しながら、エルナは

金色の象が守っている

机の前に座りました。

顔色を窺っていたリサが去ると、

応接室は深い静寂に包まれました。

馬よりも劣る馬鹿扱いされた。

昨日のことは、

それ以外の、どんな言葉でも

説明できそうにありませんでした。

ドロテアの背中にくっついたまま

ブルブル震えて降りて来たエルナを

しばらく眺めていたビョルンは、

一体何が問題なのかと、

ため息混じりに質問しました。

そして、

どうして、このような教師と

このような馬で、

このような乗馬ができるのか

私を理解させてみるように。

根本的な問題が分からなければ

解決できないようだからと

言いました。

むしろ怒ってくれた方が良かったのに

感情の高低のない落ち着いた声と、

極めて冷徹な目つきが

エルナを、より一層悲しく

惨めにさせました。

それでも、

エルナは、ぐっと堪えて

自分が下手だから・・・と

淑女らしい謝罪をしようとしましたが

ビョルンは、

その途中でエルナの言葉を遮り、

謝罪ではなく

説明するようにと言うと、

もう一度深いため息をつきました。

エルナは、頭のてっぺんまで

怒りがこみ上げて来ましたが、

それでも、ぐっと堪えて、

「怖いから。

もしドロテアがミスをしたり、

急に走り出して、

私を落としたりしたら・・・」

と、彼が望む説明をしてみようと

努めました。

しかし、ビョルンは、

彼自身が求めた説明まで遮り

曖昧な顔で笑いながら、

ドロテアは完璧だ。

おそらく、今頃は、エルナより

このレッスンを

よく理解しているだろうと

言いました。

エルナは、

今、自分が、馬より劣っているという

話をしているのかと尋ねました。

呆れているエルナの前でも

眉一つ動かさず、

まさか、エルナは、

本当にドロテアより優れていると

思っているのではないだろう?

と、より厚かましく尋ねる

その男の顔色には、相変わらず、

冷たい理知が宿っていました。

だから、その言葉は

ビョルンの完全な本心でした。

屈辱的なレッスンは

これ以上、淑女の礼儀を

考えられなくなったエルナの怒りで

幕を閉じました。

火のように怒るエルナの前でも、

彼はこれといった

感情的な動揺を示しませんでした。

じっと見つめていて、

ただ可愛くて

可笑しいと言わんばかりに、

くすくす笑ったのが全て。

頑として駄々をこねる子供に

接するような態度でした。

エレナは、生々しく浮かんで来る

その記憶を消すように

ギュッと目を閉じました。

数字を10まで数えるのを

2回繰り返して、ようやく心を

落ち着かせることができました。

自分の乗馬の実力が

非常に足りないこと、ドロテアは

よく訓練された賢い馬で、

ビョルン・デナイスタは

優れた騎手であることを、

もちろん、エルナも

よく知っていました。

だから彼の言葉のように

問題は自分にあるのが確実でしたが、

人は概して、正しい言葉に怒るもので

それが、あのように

非情な暴言なら猶更でした。

息を整えたエルナが

つい目を開いた時、部屋の中は、

さらに明るい光に染まっていました。

いつの間にかビョルンを乗せた馬車が

出発する時間でした。

窓際に近づき、

少し見てみようと思った気持ちを

変えたエルナは、

机に置かれている書類を広げて

ペンを握りました。

今日も与えられた仕事は

山ほどあるので、

あの非常に無礼な男のために

時間を浪費するわけには

いきませんでした。

シュベリン大公妃の応接室は、

ペンで書く音と低いため息の音で

満たされ始めました。

彼が自ら現れたということは、

この場の誰もが

知っている事実だけれど、

誰があいつを

何度も呼んだのかという

苛立たし気な質問を湛えた目が

ポーカーマットの上を

忙しく行き来しました。

その、ごたごたした雰囲気の中で

ゲームは終わりました。

勝者は、予告もなく現れて

場を荒らした、

シュべリン社交クラブの

カードルームの非情な虐殺者

ビョルン・デナイスタでした。

頭を上げて時間を確認した

ビョルンは、

椅子の背もたれに

深く寄りかかって座り、

新しい葉巻を一本吸いました。

もしやという希望を抱いた

輩の顔には、

すぐに絶望の色が浮かびました。

どうやら今日は、

適当に楽しんで

立ち去るつもりはなさそうでした。

少しばかり、自暴自棄になった

カード屋たちは、

再びくだらない冗談を交わしながら

クスクス笑い始めました。

競馬と投資、社交界の綺麗な淑女など

普段と変わらない話題が、

しばし休憩中のカードテーブルを

熱くしました。

最後には、ボートレースで、

どのチームが優勝するか予想して

お金を賭ける意見が

熱く行き来しました。

王太子が参加しないせいで、

万年有力な優勝候補チームの戦力が

弱まったため、

今年は誰がトロフィーを持ち上げるか

簡単には予想できませんでした。

ビョルンは葉巻の煙越しに、

退屈な光景を見ました。

皆、王太子が不参加の理由を

執拗に聞きたがっている様子でしたが

簡単に口を開くことは

できませんでした。

そういえば、

そのボートレースが

目前に迫っていることを

ビョルンは、ようやく思い出しました。

その日の祭りを準備するのに

忙しいエルナが、

葉巻の煙の間に短く浮び上がって

消えていきました。

彼女は、

命がけの戦いに臨むかのように

この夏のシーズンを

過ごしていました。

そんなに努力する必要はないと

助言しても無駄でした。

健康が心配になるほどでしたが

昨日のことを考えてみると、

それは無駄な老婆心のようでした。

青い炎が揺れるような目で睨みつけ

大声で叫んでいた勢いが

どれだけ、すごかったことか。

まさに猛獣のような姿でした。

勝手に飛躍して、怒って、すねる。

多分に感情的に振舞うエルナを

彼は全く理解できませんでした。

あれは問題を解決するための

質問だったので、

客観的に答えれば良いことでした。

そうしてこそ、

その難関を打開する方策を

立てることができたのに、

エルナは、

その気がないように見えたので、

この辺で手を引くことにしました。

二度とレッスンを共にしないと

宣言したので、

エルナもそれを望むはずでした。

乗馬を学び続ける意志があれば、

専門的にレッスンしてくれる先生を

付けてやるし、そうでなければ

あの馬は

売ってしまえば済むことでした。

「ビョルン、抜けるのか?」と言う

レナードの声を聞いて初めて

新しいゲームが始まったことに

気づきました。

「いや」と返事をし

時計をちらりと見たビョルンは

テーブルの前に座り

葉巻の煙を深く吸い込みました。

「始めて」と

煙と共に吐き出した言葉には

微かな嘲笑が込められていました。

ついて来ないで。顔も見たくない。

顔が真っ赤になるほど怒った

エルナはその言葉を最後に

放牧場を離れました。

どうせ、その気がなかったので、

ビョルンは喜んで

妻の意に従いました。

夕食の食卓に現れず、

自分の寝室の扉に鍵をかける

幼稚な反抗も、すべて理解し、

尊重してやりました。

可愛がってやるにも

最低ラインがある。

過ちを犯したなら喜んで謝るけれど

このような無理強いと甘えまで

受け入れるつもりは

全くありませんでした。

どうせ、静かに放っておけば

自ずと疲れてくるだろうから。

手に握ったカードを確認した

ビョルンは、無表情で

グラスを握りました。

グラスの中で

カタカタと鳴る氷の音の合間から

神経に触れる秒針の音が流れました。

次のカードを受け取ったビョルンは

無意識のうちに再び時計を見ました。

レッスンの1時間前。

エルナが、あんなばかげたことを

しなかったら、

今頃、大公邸に戻る馬車の中に

座っている時間でした。

今度はペーターが

ビョルンを呼びました。

グラスにかけておいた葉巻を

唇の間にくわえたビョルンは、

ようやく、

再びゲームに臨みました。

なかなか集中できない彼を見る

カード屋たちの顔には、

徐々に喜びの色が漂い始めました。

もしかすると、この前、

あの狼に取られたお金を

回収できるかもしれない。

再びカードが配られ

賭けをする番が来ました。

皆の視線は、当然のように

ビョルン・デナイスタに

集中しました。

何を考えているのか分からない顔で

自分のカードを確認した彼は、

視線を上げて時計を見た後、

クスクス笑いました。

あれは、また何か

新しい、張ったりだろうか?

緊張が高まった頃、

ビョルンは、ゆっくりと唇を開き

「フォールド」と

ゲームを降りると宣言した彼は、

席を立ち、悠々と

カードルームを離れました。

扉が閉まると、ペーターは、

今回のゲームは、何だか様子が

全く違っているような気がしたと

興奮して笑いました。

カードの女神が愛する王子が

自分から降りてくれたので、

今回の試合は、

彼が勝利することが明らかでした。

ところで、

どれほど悪いカードのせいで

ビョルン・デナイスタが

棄権するのかと、

閉ざされた扉を眺めながら

疑問を抱いていたレナードが、

ビョルンが去った席に

残っているカードをめくりました。

その瞬間、

もう一度、静寂が訪れました。

フルハウス。 異変がない限り、

今回のゲームでも、彼が大きく

勝ったはずのカードでした。

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ビョルンにとって馬を乗ることなんて

朝飯前だけれど、エルナは

馬に乗って、いつもより

地面が遠くなっただけでも

恐怖を感じたのではないかと

思います。

その気持ちをビョルンが

分かってくれれば良かったのにと

思いますが、できる人は

できない人の気持ちが

分からないものだと思います。

エルナに怒られても、

自分のしたことを

一生懸命正当化していましたが、

すでに、その時点でビョルンは

自分が悪かったのではないかと

認め始めたのかもしれません。

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いつもたくさんのコメントを

ありがとうございます。

また、私の体のこともお気遣いいただき

ありがとうございます。

来客があったり、一日外出したりと

机の前に座る時間が

取れなかったことと、

朝晩の気温差のせいで

自律神経の働きが乱れて、

今一つ、体調が良くなく、

おまけに持病の腰痛が悪化したり、

他にも様々な要因が重なって

少し無気力状態になり、

記事のストックを

使い果たしてしまいました。

明日は、4時に記事をUPできませんが

夕方までには掲載できると思いますので

お待ちいただければと思います。

今回の画像もAIで作成しました。

できれば、ドロテアの画像に

したかったのですが、

思うようなものが作れず

断念しました。

余談ですが・・・

小中学生の頃、体育の授業で

皆が当たり前のようにできる

跳び箱の台上前転、

鉄棒の連続回り、

マット運動の倒立前転が、

怖くてどうしてもできず、

きっと先生や同級生は

「何で、こんなことができないんだ」

と思っていたと思います。

今日のお話を読んで、

遠い昔のことを思い出しました。

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