少女失格 (original) (raw)

急がなくちゃ、何も無駄にしないように、全部やらなきゃ、繰り返しにならないように。昨日も今日も明日も明後日も前も後ろも右も左もない、今死なないように精一杯やろうと思う。

世界が憎い、人間が憎い、自分に対する憤りが、エネルギーが、外側に向いていく。分らない、何も分からない、わかることがない。どこかに行ってしまいたいが、どこにも行けない。家に帰っても帰りたい。悲しい、慰めには値しない、気休めにもならない言葉が脳味噌でチラつく。雨。

何も身に付いていない。知識も技術も生きる術も。手の中をすり抜けていく、どうしても掴みきれない、ものにできない、ただ時間だけが過ぎていき、そこに見出せるものは何もない。無関心ではない、だが全てが中途半端である。生きているのに、生きている気がしない。もう何も考えたくない、思考を止めたい、次から次に溢れ出すものがうっとおしい。考えれば考えるほど馬鹿になる。頭が痛くなる。考えたくない。歩いて帰宅する道のりにて、些細な自由を感じるほどの、手軽な不自由さが本当に嫌いだ。

机の上でくねくねしている。狂ってしまいそうだと口に出したとて、その衝動がどうにかなるわけではない。積読本が読めない、ギターが上手くさわれない、眠って起きて電車に乗る。定期代6ヶ月3万円。耳栓をする。椅子に座る。誰かが話している。100分間4000円。朦朧とする意識を正す。ノートをとる。盗まれない知識が欲しい。私は一体この場所に何をしに来たんだろう。私がしたいことはなんだろう。先生には分かんないことが知りたい。

叫んでいる。頭の中で、いつになく、殺すと誰かが叫んでいる。

薬を飲む、1ヶ月2000円。きみに好きだという。それは本当だと、本当に本当だと繰り返してみる。身銭を切って、勝ち逃げみたいに死にたいよ。

ヘラヘラしたくない。ぼくはぼくを孤独だとは思わない。一人で立てる。一人で考えられる。誰かに縋っていると人をみると悲しくなる。自分のプライドがミシミシと音を立てている。誰かと一緒でないと動けない人になりたくない。自分の意志と自分の信念にまたがって生きる。ぼくの美学を、美徳をお前らがわかるな。と思う。

買い物に出ると大きな音が鳴っていた。花火だと思ったが雷だった。しばらくして小雨が降り出し、相変わらずついてないと思う。

悲しいことや苦しいことは終わらない。続かないけど終わらない。そう言うものだ。二十歳になったら完全に幸せになれるわけでもない。大人になって、今まで理解できなかった歌詞のフレーズやら広告の謳い文句やらに共感できるようになって、世界の幅が少しだけど広くなって、俯瞰で物事を見られるようになって、感情的じゃなくなっていくのかもしれない。繰り返す地続きの現実に飽きて、目の前にあるものでは感動も絶望もできなくなって、逃避としての芸術を求めるのかもしれない。

それでも生きることを選択する必要がある。なぜならもう大人だから。平凡でもボンクラでもクソでも可哀想でも生きていかなきゃいけない。それが、それが本当に苦しいな。

哲学は寂しい。もう思い出せない人をなんとかして思い出したいと思ってしまうな。