NON「ハレ婚。」インタビュー - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

デリヘル嬢と女子大生のW生活を描いた「デリバリーシンデレラ」で人気を博したNONが、週刊ヤングジャンプ(集英社)からヤングマガジン(講談社)に発表の場を移し、新作「ハレ婚。」で一夫多妻制というテーマに挑む。

コミックナタリーでは1巻発売を記念し、NONにインタビューを敢行。一夫多妻婚=ハレ婚という奇抜なテーマを掲げた理由を聞いた。またエロ描写が多いにも関らず、女性から支持される彼女の魅力を解き明かす。

取材・文/坂本恵 撮影/岸野恵加

“ハレ婚”とは……?

主人公・小春が帰郷した地元で、少子化対策のために施行されている条例「ハーレム婚」。夫1人につき4人まで妻を持つことができ、助成金や住居が支給される。

登場キャラクター

伊達龍之介

3人の妻を持つ夫

伊達龍之介(だてりゅうのすけ)

小春の実家が経営する喫茶店の常連客。職業は明かされていないが、とても金持ちらしい。初対面の小春にいきなり抱きついたり、大金を用意して小春に結婚を申し込んだりと、突拍子もない行動を取る謎の人物。

伊達柚子

第1の妻

伊達柚子(だてゆず)

ハレ婚条例を打ち出した市長の娘。挑発的で派手な外見だが、テンションが上がると方言が出る。伊達家の家事を担当。最年長の26歳。

伊達まどか

第2の妻

伊達まどか(だてまどか)

物静かな印象だが、強烈な毒舌。柚子からは「マグロ女」と呼ばれている。伊達家の家計を担当。21歳。

前園小春

そして第3の妻に……?

前園小春(まえぞのこはる)

主人公。東京で付き合う男はすべて既婚者だったトラウマから、故郷へと逃げ帰る。後先考えない性格。22歳。

NONインタビュー

一夫多妻制にしたら、出産して仕事もしやすいんじゃない?

一夫多妻家族の伊達家。

──まず「ハレ婚」という一夫多妻制をテーマに掲げたきっかけからお伺いしたいのですが。

経緯をお話しすると、前の担当さんに「やっぱりNON先生の魅力は女の子だよ。女の子がいっぱい出てくる、軽い読み味のちょいエロコメディがいいんじゃない?」と言われて。でも私はそういうのあまり興味なくて……人間ドラマとかストーリーに重きを置いたものをやりたかったんです。それで悩んでたら、旦那から「一夫多妻っていう設定はどう?」とアイデアをもらって。

──旦那さんというのは、「ハレ婚。」にも構成として協力されている手塚だいさんですね。

そうです。それで、ああ、それならいろんな問題も起こりうるし、ひとつ屋根の下で男女が複数いるっていう設定も面白いな、と。これなら面白くストーリーを考えながら、ちょいエロも盛り込めるんじゃないかなと思ったのがきっかけです。彼は、少子高齢化や地方の過疎化について色々と調べていたときに、政策として一夫多妻が考えられるんじゃないのかなと思ったのがきっかけだと話してました。確かに聞いてたら、ぶっ飛んだ発想ではあるけど、全然あり得ない話じゃないなって。それを実際に政治家にやってもらうのは無理だから、じゃあマンガの中でやっちゃおう、と。

小春の地元では4人まで奥さんを持つことができるハレ婚制度が導入されていた。

──一夫多妻制のアイデアを実際に旦那さんからもらう、というのもなんだかすごい話ですが(笑)。実際、ハレ婚制度が日本にあったとしたら、NON先生はできると思いますか?

うーん、いまの旦那が新しい嫁を連れてきたらすごく嫌ですけど(笑)。……でももし私が独身で、仕事をしたいけど「結婚もしろ」って言われてプレッシャーがあったとしたら、私は全然ありだと思います。主人公の小春が3000万と引き換えにハレ婚したみたいにじゃないですけど、仕事を続けていいよっていう条件を出してもらえるのであれば、できるかなあ。

──ああ、なるほど。

ハレ婚に対する龍の考え方。

あと、もし子供が生まれたら、育児をやってくれる人、一緒に働く人、家事をしてくれる人って分担できますよね。産休取ってても、ほかの妻が働いて、育児してくれる。まあたぶんそこでいろいろと揉め事があるんでしょうけど(笑)。でもすごく助かると思うんですよね。いま結婚して出産して仕事続けるって、女性は難しいじゃないですか。そういう意味でも、意外とハレ婚っていいんじゃない?(笑)

──NON先生も実際、いまお子さんがいらっしゃるとか。

そうなんです。いま(生後)7カ月です。そんなときに週刊連載をやることになってしまって。旦那も、もともとはサラリーマンだったんですけど、辞めてフリーランスになっているので育児も手伝ってもらってます。昼間は保育園に預けてるんですけど、17時以降は彼が保育士として見てくれてますね。それがなかったら週刊ペースでは連載できてないです。

──これから、そういったリアルな経験も作品に反映されていきそうですね。

育児とか、そういう問題はまだまだこれからですね。

嘘は「一夫多妻制」というもの、ひとつだけ

夫1人、妻3人で結婚式をすることに。神父も渋い顔。

──ハレ婚制度の妻は4人までですが、4人という数字に意味はあるんですか?

これは本当に感覚的なものですね。それぞれの妻の話をちゃんと描きたいなと思ったときに、一番バランスがいいなと思ったのが4人だったんです。ちなみにイスラムの一夫多妻制も4人までなんですよ。たぶん社会的にも、1人の旦那が無制限に嫁を抱え込めるよりは、人数制限があったほうがいいんでしょうね。まあ元々は戦争で旦那さんを亡くした女性を救済するためのシステムで、女をはべらかすためではないので。元担当さんは「20人くらいいたらどう?」って言ってましたけど(笑)。

──まさにハーレムですね、それは。

NON

画面的には派手になるかもしれないですけど、現代の「家族」ってものを考えると、リアリティからかけ離れてしまうな、と。……仮定のものをひとつにしておきたかったんですよね。嘘を「一夫多妻制」というもの、ひとつだけにすれば、リアリティが芽生えると思うんです。嘘をいくつも入れちゃうと、わけわかんなくなってしまうので。

──なるほど。それがこの作品のリアルさを生み出しているんですね。

結婚生活はみんな想像がつくと思うので、想像のつかない一夫多妻をどう盛り込んで、現実と架空のギャップを面白く描いていくか、ですね。

NON(ノン)

NON

1987年生まれ、佐賀県出身。第72回ヤングジャンプ月例MANGAグランプリにて「デリバリーシンデレラ」が準優秀賞を受賞。読み切り掲載などを経て、週刊ヤングジャンプ(集英社)にて2010年から2012年まで、デリヘル嬢と女子大生のW生活を描いた「デリバリーシンデレラ」を連載する。2014年からはヤングマガジン(講談社)にて、一夫多妻婚をテーマとした「ハレ婚。」を連載。同作の構成は、夫である手塚だいが務めている。