小説版がTVアニメ化、マンガ版は最終章突入!盛り上がる「冰剣の魔術師」の魅力を佐々木宣人×御子柴奈々に聞いた - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

マガジンポケットで連載されている「冰剣の魔術師が世界を統べる~世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する~」が、最新11巻で最終章に突入した。「冰剣の魔術師が世界を統べる」はWebサイト・小説家になろうで3000万超のPVを誇る人気学園ファンタジーのコミカライズ。この1月より小説版をもとにしたTVアニメも放送されており、注目を集めているタイトルだ。

コミックナタリーでは盛り上がりを見せる同作の魅力に迫るべく、マンガ版の執筆を手がける佐々木宣人と、原作者である御子柴奈々に対談をオファー。クライマックスに向けての意気込み、これまでの物語を振り返っての話を聞いた。オンラインにて実現した取材は、画面越しではあるものの、2人にとって初めて顔を合わせる場になったという。最初は緊張していたと話す両者だが、TVアニメの反響をどう受け止めているのか、原作と大きく異なる構成のマンガ版はどう生まれたのかなどを、終始和やかなムードでたっぷり語ってくれた。

取材・文 / 鈴木俊介

作品紹介

マンガ「冰剣の魔術師が世界を統べる~世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する~」1巻

マンガ「冰剣の魔術師が世界を統べる~世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する~」1巻

世界中のエリート魔術師が集う、アーノルド魔術学院。その学院に入学した主人公レイ=ホワイトは、学院始まって以来の一般家庭出身の魔術師だった。周りの貴族出身の魔術師たちは、彼を侮辱し見下した。だがみんなはまだ知らない。彼こそが、世界七大魔術師の中でも最強と謳われる“冰剣の魔術師”であることを!

冰剣の魔術師が世界を統べる~世界最強の魔術師である少年は、魔術学院に入学する~ | マガポケ

“盛り上がってる”アニメ版、原作者はどう見ている?

──小説版のTVアニメ化、そしてマンガ版の100話突破おめでとうございます。せっかく放送中ですので、まずはアニメをご覧になったご感想から伺えますか?(※取材時は第5話までオンエアされていた)

御子柴奈々 現実感がないですね。本当にアニメになってるんだなというのが第一印象です。1話から3話まではちょっとギャグ寄りのテイストだったんですけど、4話の途中からバトルも入って雰囲気が変わり、続く5話はすごくよかったですね。原作1巻のクライマックスにあたるエピソードに、原作5巻の過去編を組み合わせた構成になっていたんですけど、しっかりまとめてくれていて。私もいち視聴者として、すごく楽しんでいます。

佐々木宣人 まだ僕は1話しかアニメを観れていないのですが、Twitterのエゴサで視聴者の反応を見てると、「冰剣」はけっこう、盛り上がっているじゃないですか。

御子柴 はい(笑)。確かに盛り上がっていますね。もちろん、いろいろな意味で……(笑)。

佐々木 御子柴先生と顔を合わせてお話するのは今日が初めてなんで、「触れて大丈夫かな?」と思いつつ口にしたんですが(笑)、でもその盛り上がり方が、途中からいい意味で変わりましたよね。特に4話、5話で視聴者の心をグッと掴んだ。

御子柴 誰かが「不良が犬を拾ったみたい」ということを書いていて、的を射た表現だなと思ったんですよね。別に「冰剣」は悪いことをしていないですけど(笑)、そのくらい視聴者に強い印象を与えたということなのかなと。とにかく5話が高く評価されていたので、私としてもホッとしました。

佐々木 僕がアニメの1話を見て個人的にすごいなと感じたのは、レイ=ホワイトというキャラクターの見せ方です。自分が「冰剣」の1話を描いたときには省いてしまったところ、その要素をむしろ前面に押し出していたので、「そこをピックアップするんだ!」と驚きましたね。

「原作からめちゃくちゃ変えた」マンガ版誕生の舞台裏

──「省いてしまった」のところ詳しくお聞きしたいのですが、そもそも佐々木さんがコミカライズをすることになった経緯は?

佐々木 担当さんに、なろう作品のコミカライズをしないかと声をかけていただいて、いくつか候補がある中で、オススメだと言われたのが「冰剣」でした。連載コンペ用にまず1話を描いてみることになったんですけど、最初に「冰剣」を読んだときは、これを1話にまとめるのは難しいと感じて辞退したんです。1話を読んだ人が続きを読みたくなる作りにするためには、バトルアクションが必要だと思ったんですけど、どうしてもそれを入れることができなそうだった。でも担当さんは、直接連載にはつながらないかもしれないけど、ほかの会議で有利になったりするかもしれないから、気軽に描いてみてほしいとおっしゃって。「それだったら」と、原作からめちゃくちゃ変えて描いたんですよ(笑)。

御子柴 (笑)。

佐々木 だって“無双もの”を期待している読者に、1話を読んで「無双しないじゃん」って思われたら終わりじゃないですか。それでアリウムと授業で剣を交えるシーンを“決闘”に変えて、ド派手な氷のシーンとかも見開きで入れて。連載する気もなかったし、そもそもコンペに出さないんじゃないかと思って、原作にはないことをポンポン描いたんですが、結果として通ったと連絡があって「嘘でしょ?」と。今でも覚えてますけど、夜中1時に、冬の寒空の下で、連載をやるやらないの押し問答をしたんです。結局次の日、焼き肉で餌付けされて、連載することになりました(笑)。

1巻・第1話より、レイが力の片鱗を見せるシーン。

1巻・第1話より、レイが力の片鱗を見せるシーン。

1巻・第1話より、レイが力の片鱗を見せるシーン。

──マンガ版と小説版で、ここまで絵のタッチが違うのも珍しいですよね。それがマンガ版独自の魅力を生んでいると思うのですが。

佐々木 これも「連載にはならないだろう」と思っていたので、キャラクター原案の資料ももらってましたけど、デザインを起こすときも自分の絵で描いてしまって。通ってから「どうしよう」と(笑)。準備することはたくさんあったんですが、1・2話が掲載されるまでも全然時間がなくて、1カ月で110ページ仕上げなくちゃいけないことになり……。どれくらい大変かと言うと、普通の週刊連載だって20ページ×4週間で80ページですよ。しかもコロナでアシスタントさんも呼べなくて。今でも1・2話を見ると冷や汗が出るくらい、大変だった爪痕が残ってます。ですがいろんな人に手伝ってもらってなんとか完成できました。週刊連載はアシスタントさんや編集さんがいないと成立しないので、本当に感謝してます。

小説版「冰剣の魔術師が世界を統べる」1巻の書影。イラストは梱枝りこが手がけている。

小説版「冰剣の魔術師が世界を統べる」1巻の書影。イラストは梱枝りこが手がけている。

小説の内容をそのままマンガにしても面白くない

──御子柴さんは、上がってきたマンガをご覧になっていかがでしたか。

御子柴 いやー戦々恐々としました。もちろんいい意味でなんですが、当時はまだプロデビューもしていなくて、言うなれば素人に毛が生えたような状態。そこに「この方に担当してもらいます」「原稿がこれです」って見せられたのが佐々木さんのマンガで、「こんなにマンガのうまい人が自分の作品を担当してくれるのか!」と。それは震えますよ。このマンガに負けない話作りをしないといけないなと、身が引き締まる思いでした。

──ある意味ではライバルが出現したような?

御子柴 いや、全然敵対視はしていなくて、うれしかったんですけど、下手なことはできないなと。

佐々木 ちなみに僕はめちゃめちゃライバル視してました(笑)。梱枝先生のイラストを知っている人が僕のマンガを読んだら、賛否両論の否は絶対に来る。それを超えてやろう、面白いって言わせてやろうと120%の力を注ぐことができたのは、めぐりめぐって御子柴先生と梱枝先生のおかげです。しかも「冰剣」は“「小説家になろう」で3000万PV突破の超人気作!”という肩書きがあったじゃないですか。すごく大きな壁に見えました。

グレイ教諭。原作では「パリッとしたスーツ姿」「流石に、この学院の教員ということで雰囲気がある」とされる彼女だが、マンガ版ではピアスにタンクトップというラフな出で立ちで、二日酔いの状態で授業に現れるなど、厳格とはほど遠いキャラクターとして登場する。

グレイ教諭。原作では「パリッとしたスーツ姿」「流石に、この学院の教員ということで雰囲気がある」とされる彼女だが、マンガ版ではピアスにタンクトップというラフな出で立ちで、二日酔いの状態で授業に現れるなど、厳格とはほど遠いキャラクターとして登場する。

──おふたりは普段、原作と作画としてはどんなやり取りを?

佐々木 僕がネームを担当さんに渡して、それを担当さん経由で御子柴先生にチェックしてもらっている形なので、直接やり取りをすることはほぼないですね。

御子柴 チェックと言っても、細かい用語とか、あとセリフの“てにをは”が違ってるのに気付いたら伝えるくらいで、いつも目を通してすぐ「OKです!」と返事しちゃうくらいの些細なものです。マンガに関しては佐々木さんを信頼しているというか、個人的にも小説の内容をそのまんまマンガに置き換えるというのは面白くないと思っていて。マンガにはマンガなりの見せ方が絶対ある。私はストーリー重視で、物語としての面白さ、小説として読んだときの面白さを追求していますけど、佐々木さんはマンガとしての面白さを追求してくださっているわけですし、私はマンガのプロではないので、おまかせしたほうが絶対いいものができる。そういう信条でやっています。

佐々木 それを聞けてめちゃめちゃうれしいです(笑)。好き勝手やらせてもらいながらも、ずっとモヤモヤしている部分があったので。担当さんにもよく「原作からこんなに変えていいんですかね?」とこぼしたりしていて。担当さんは「こっちでうまく伝えておきます!」とか言ってくれるんですが、やっぱり御子柴先生がどう思っていらっしゃるか、わからなかったから。