「かげきしょうじょ!!」アニメ化&新刊発売記念特集 おかずクラブ・オカリナインタビュー - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
「かげきしょうじょ!!」のアニメ化が決定した。斉木久美子がメロディ(白泉社)にて連載中の同作は、未婚の女性のみが入ることを許される“紅華歌劇団”のトップスターを目指す少女たちが織りなす“スポ根×ミュージカル”マンガ。お察しの通り、宝塚歌劇団をモチーフにした舞台設定の魅力もさることながら、ステージの上で天賦の才能を発揮する主人公、国民的アイドルグループ出身の親友や切磋琢磨する仲間たち、主人公の“家族”の謎、“トップ様”たちの輝き、ときに熱くときにほろ苦いストーリーと、マンガを読む楽しさを存分に味わわせてくれる作品だ。アニメ化を喜ぶファンも多いことだろう。
コミックナタリーでは、アニメ化と11月5日に10巻が発売されることを記念して、「かげきしょうじょ!!」ファンであるおかずクラブのオカリナにインタビューを実施。読みながら「そんなことあるのかよ……!」と打ちひしがれたり、「さらさってジャンプの主人公じゃん!」と持論を述べたりと、ファン心を全開にしてその魅力を力説してもらった。
取材・文 / 青柳美帆子 撮影 / 入江達也 ヘアメイク / 小松るみ
「かげきしょうじょ!!」は女の子の“スポ根”マンガ
──オカリナさんのYouTubeチャンネルでは、「マンガを読むだけ」「ごはんを食べるだけ」の動画がアップされています。そこで「かげきしょうじょ!!」を無言で読んでいらっしゃいましたね。
ええ、「かげきしょうじょ!!」の9巻が出たばかりのタイミングだったと思います。YouTubeはもともと、森三中の黒沢(かずこ)さんに「始めてみたら?」と勧められたんです。「ごはんを食べているだけの動画でもいいから」と言われて、食べているだけ、マンガを読んでいるだけの動画をアップするようになりまして。あの動画では、「このマンガ、面白いしみんな見てほしいな」という気持ちで読んでいました。
──オカリナさんと「かげきしょうじょ!!」の出会いはどのようなものだったんでしょうか。
本屋さんでしたね。私の近所の本屋さんは、たまに試し読みを見せてくれるようになっていて、そこで前日譚の「かげきしょうじょ!」を気になって手に取りました。今は白泉社から「シーズンゼロ」として単行本化されていますが、私が最初に読んだのはヤングジャンプコミックス版。そこから続きが気になって買い続けています。
──ヤングジャンプコミックス版が出たのは2013年から2014年なので、かなり前からの読者なんですね。どんなところに魅力を感じたのでしょうか。
まず話が面白い! 女性だけの劇団「紅華(こうか)歌劇団」と、そのトップスターを目指して入学してくる生徒たち……という、宝塚歌劇団をモチーフにしたような舞台設定。しかもそこに、“男しか入れない”歌舞伎の世界に挫折した主人公のさらさや、国民的人気アイドルグループ・JPX48という、AKB48をオマージュしているようなグループの出身者である奈良っちも入ってくる。舞台、キャラクター、そしてそこから生まれるストーリーのどれもが魅力的です。
──紅華歌劇団のインスパイア元である宝塚の世界のことは、オカリナさんはどれくらい知っていらっしゃいましたか?
「入学するのは倍率がすごいんだろうな」とか「上下関係がぴっちりしてるんだろうな」とか、ふわっとしたイメージしかなくて。だからこそ“知らない世界”を見ることができる面白さ、スポーツではないですがスポ根マンガ的な面白さがありました。絵がきれいで華やかなので、普段あんまりマンガを読まない人やスポ根マンガを避けている人にもオススメできます。
──スポ根マンガ。言われてみれば、確かにそうですね。
女の子のスポ根マンガってなかなか見ないけど、「かげきしょうじょ!!」はまさにスポ根ミュージカルマンガ。歌や演技の才能といった“1つ秀でたものがあればいける”というきらめく夢の世界を描きつつも、“とはいえ努力だけじゃどうにもならない”というシビアなところも隠さないのがステキだと思います。
──努力をしていることは前提で、でもそれだけではどうしようもないことがある……。キラキラと輝いている10代の少女たちに、理不尽な現実が時折訪れますもんね。
はい。「かげきしょうじょ!!」の世界では、まず学校に入学するラストチャンスが高校3年生。しかも身長が伸びすぎるとどんなになりたくても娘役になれなかったり、親の経済状況が大きく影響していたり……そもそも、紅華は女性しか入れない。さらさが最初の夢を折られた歌舞伎の世界は男性しか入れない。生まれたらどうしようもないことに阻まれる世界で、わかりやすい夢物語ではないんですよね。
──オカリナさんがいるお笑いの世界も、努力だけでは報われないことがあるという意味で、近いものがあるような気がします。
「M-1グランプリ」のような、期限のあるものを目指しているとそうかもしれません。でも、それ以外はお笑い芸人って期限がないんですよ。何歳からやってもいいし、チャンスの幅が広い。その「M-1」だって出場資格が「結成10年以内」から「15年以内」に延びていて、間口が広がっています。もちろんチャンスを掴めるか掴めないかというのはありますが、どこかで大成する可能性があると思っていて。金銭的な苦労も、バイトすればなんとかなるとみんな思っているし(笑)。
──「かげきしょうじょ!!」では、金銭的な問題で夢を阻まれるキャラクターが描かれました。
そうなんですよ……。「かげきしょうじょ!!」はみんな努力をしているうえで、本人の才能や努力ではどうしようもない現実を描いているシビアさがあって、読みながら「そんなことあるのかよ……!」と打ちひしがれる瞬間がいくつもあります。さまざまな“壁”に阻まれている人たちが、紅華でも歌舞伎でもいる。そこを吹っ切っていくことを描いているのがすごいんですけれども。
さらさは“ジャンプの主人公”
──本作は、さまざまな女の子たちが登場します。オカリナさんが好きなキャラトップ3は誰でしょうか。
私は“圧倒的”だったり一生懸命だったりする人が好きなんです。だから基本的に主人公を好きになることが多くて、「ONE PIECE」ならルフィ、「鬼滅の刃」なら炭治郎が好き。「かげきしょうじょ!!」の中で3人挙げるとすると、さらさ、愛ちゃん(奈良田愛)、聖先輩ですね。さらさはまっすぐ前を向いて振り向かないタイプの主人公。器の大きさというか……見えているものが1人だけ違うんですよね。まっすぐ前を向いて振り向かないし、意図せず人を巻き込んで引っ張ってくれる。さらさは私、「(週刊少年)ジャンプの主人公じゃん!」って思うんです。
──ジャンプの主人公?
私たちが通ってきたジャンプの主人公って、「不遇な少年時代を送りがち」というところがあるかなと思っていて。ナルトにしてもルフィにしても、「お前なんかが火影や海賊王になれるわけない」と夢をぶちこわす人間が現れて、それを跳ねのけてきているんですよね。“壁”になる相手を否定して、夢を貫く力がある。
──さらさの場合は、紅華歌劇団に入る前に抱いていた「歌舞伎の世界で助六になる」という夢が否定されています。
そう、「女の子は絶対に助六にはなれない」と。それを受けてさらさは、きっと助六への未練はありつつも、紅華歌劇団のトップスターになるという新たな夢を追いかけています。そして“さらさはジャンプの主人公説”を裏付けるものがもう1つあるんですけど、ジャンプの主人公って「最初は気付いてないけど実はすごい人の血が流れている」ことが多い! まだ完全には明らかにはなっていませんが、さらさは歌舞伎の世界に“血のつながり”がある。見た演技を完璧にトレースできる才能があって、舞台度胸もある。さらさって「2階席まで見えている」んですよ。
──演技の授業のエピソードですね。実際にいるのは先生1人だけど、さらさは舞台に立って2階席まで埋めている自分の姿を想像できているという。
才能があって、紅華の世界に向けて努力もしている。これは勝てない……と思いますね。
──ちなみにオカリナさんは舞台に立っているとき、2階席は見えていますか?
顔が見えているという意味でなら、劇場の形にもよりますがお客さんが思っているよりも見えてますよ! 2階席もバッチリ見えます。私は動くものを見ちゃうほうなので、すごくよくお客さんの顔が見えますね。あの人はうれしそうに見ているなとか、ちょっと退屈してそうだなとか。お客さんは、「きっと演者には見えてないだろう」と思って油断しないでいていただければと思います(笑)。
──よく演者さんが言う「2階席、見えてるよー!」はサービスじゃなくて本当だったんですね……! さらさの魅力を語っていただきましたが、愛ちゃんはどんなところに惹かれますか。
愛ちゃんは、最初の頃と全然印象が違うキャラクター。JPX48在籍時やこれまでにトラウマになる経験があって、「女性だけの空間に行きたい」と紅華に入ってくる子です。紅華の世界自体に思い入れはなかったけれど、さらさと出会ったことで「紅華のスターになりたい」と思っていく。さらさが持つ、人を変える力でもありますし、9巻では「愛ちゃん、ついに腹をくくったな……!」と感じました。
──もう1人の主人公というか、どんどん成長していくキャラクターですよね。
ええ、「ちっちゃい子が突然大人になった」ところがあるなと。これまでずっと友達がいなくて、さらさが初めての友達じゃないですか。距離の詰め方がわからなかったり、「女の子の友達付き合いは一緒にトイレに行くものだ」と思って空回ったり、さらさの彼氏だという暁也に疑いを抱いて絡んだり。でもさらさのためだったらがんばれる一面や、周りをちゃんと見ている能力の高さ、自分を客観視できる力、JPX時代の経験をなかったことにせず紅華の中で生かせる道を探っているところがすごいなって。
──最後は聖先輩。さらさたちの1学年上の先輩で、華やかでしたたかな女性です。
聖先輩は好きという言葉で表せないというか……腹くくっているカッコよさがある。5巻の最後に収録されているスピンオフは、聖が紅華音楽学校に入部する前のお話ですが、誰になんと言われようと夢を目指していて、誰よりも紅華への思いがあって、周りにバカにされたとしてもものともしないことがわかります。入学後はさらさたちに対して「意地悪な先輩」をちゃんとやっているのもよくないですか? 紅華への愛の強さが意地の悪さにもつながるところがありつつ、でも「誰にも負けたくないって思っていたら凄く嫌な子になってたの」と自分でも言っていたとおり、そういう自分のことを客観的にわかっている人。「かげきしょうじょ!!」の登場人物の中で、さらさとは違った意味で1人だけちょっと異質だと思います。
──聖先輩は、読み進めていくとどんどん印象が変わっていきますよね。どんどん好きになってしまう。
そうそう、そうなんですよ! ストーリーの中で好きなエピソードを挙げると、冬組のトップスター里見星のスピンオフ、10年に1度の紅華大運動会、そして聖先輩に関するものになるくらい、聖先輩のエピソードは心に残りました。これから「かげきしょうじょ!!」を読む人も多いと思うのでネタバレは避けますが……「かげきしょうじょ!!」の世界が現実とつながっているんだなと思わせてくれたというか、やるせない気持ちでいっぱいになったというか……。聖先輩がこの先どういった方向に進むのか、斉木久美子先生がどうやって聖先輩を描いていくのかがとても気になっています。