「時光代理人 -LINK CLICK-」をイラストレーター・うごんばが語る。視聴者の感情を“上げて落とす”のがうますぎる、その構成力の妙 - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

1月より放送されている「時光代理人 -LINK CLICK-」は、「撮影者の意識にリンクし、写真の世界に入ることができる能力」を持つトキ/程小時(チョン・シャオシー)と、「その写真の撮影後12時間の出来事を把握できる能力」を持つヒカル/陸光(ルー・グアン)がコンビを組み、2人が営む写真館に舞い込む依頼を解決していくタイムサスペンス・アニメーション。2021年にbilibiliで配信された中国アニメの日本語吹替版で、中国では配信開始からわずか4カ月で総再生回数が1.6億回を突破するなど話題を集めていた。

コミックナタリーでは日本語吹替版「時光代理人 -LINK CLICK-」の最終回を前に、同作の特集を2回にわたって展開している。第2弾として出演してもらったのはイラストレーターとして活躍し、“声優×二次元芸人プロジェクト”「GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)」のコミカライズも手がけたうごんば。「時光代理人 -LINK CLICK-」のキャラクターデザインを担当したINPLICKの絵の魅力、印象的だった劇中のエピソード、視聴者の感情を“上げて落とす”のがうますぎると絶賛する構成力、作品内の背景美術の注目ポイントなどを語ってもらった。

取材 / はるのおと文 / 宮津友徳

──うごんばさんにインタビューのオファーをしたのは、Twitterに投稿された「時光代理人」のファンアートを拝見したのがきっかけでした。本作は2021年に中国で配信が行われ、現在日本で吹替版が放送・配信されています。どのタイミングで作品を知ったのでしょうか。

キャラクターデザイン原案を務めているINPLICKさんの絵がもともと好きで、Twitterをフォローさせていただいていたんです。INPLICKさんはご自身のアカウントに「時光代理人」のイラストを投稿されていたので、日本での放送前から作品自体は知っていて。

──「時光代理人」以外のINPLICKさんのイラストを見てみると、色遣いが印象的なイラストも多いですね。

そうですね。普通の色彩感覚だとこの絵は描けないよな、と思ってすごく惹かれました。もちろん色遣いだけでなく、描かれるキャラクター自体も魅力的だと思います。

──「時光代理人」のキャラクターデザインにはどういった印象を持ちましたか?

トキもヒカルも、パッと見で「すごく特徴がある」と感じるデザインではないと思うんです。実際にファンアートを執筆した際や、今回のお話をいただいてイラストを描いた際もそれぞれのキャラクターらしさを掴むのがすごく難しくて。でもよく観察すると、例えばヒカルで言えば銀髪だけど黒眉だったり、意外と太眉だったりと、いい意味でちょっと心に引っかかる部分があるんです。シンプルなんだけど、どこかに引っかかりを作っていてすごくいいキャラクターデザインだと思いました。

第1話より。トキは撮影者の意識にリンクし、写真の世界に入ることができる能力を持つ。

第1話より。トキは撮影者の意識にリンクし、写真の世界に入ることができる能力を持つ。

第1話より。ヒカルは写真の撮影後12時間の出来事を把握できる能力を持つ。

第1話より。ヒカルは写真の撮影後12時間の出来事を把握できる能力を持つ。

──確かにシルエットを見ただけで誰だかわかるタイプのデザインというよりは、細かい部分に特徴がありますよね。

はい。ほかの部分で言うと、目も印象的ですね。特にトキは情熱的で“思い立ったらすぐに行動”というところがある性格ですが、デザインだけ見るとアンニュイな印象があって。性格とのギャップをすごくうまく表現しているなと感じました。

──今回トキ、ヒカルにリンを加えたスリーショットでイラストを執筆していただきました。リンのキャラクターデザインはどのように感じましたか。

リンもトキやヒカルと同じように、一見すると造形としては割とスタンダードだとは思うんです。でも描くのが難しくて。なんでかなって考えたんですが、目に特徴があるんだと気付いて。クリクリのかわいい目なんですけど、芯の強さが表現されているんですよね。そこをうまく描くのに苦労しました。

第2話より。リンはクライアントの窓口を務めトキとヒカルの商売を手伝っている。

第2話より。リンはクライアントの窓口を務めトキとヒカルの商売を手伝っている。

──ちなみに今回描いたイラストのテーマはどのようなものだったんでしょう。

作中でこの3人が仲良くしているシーンってあまりないと思うんです。今回はファンアートということで自由度が高かったので、3人の仲良しこよしなシーンを描かせていただきました。

うごんば描き下ろしイラスト

うごんばによる描き下ろしイラスト。

視聴者の感情を上げて落とすのが本当に上手

──続いてアニメの内容についての質問です。INPLICKさんのイラストから作品に興味を持たれ、実際に1話を観ていかがでしたか?

「キャラクター目当てで観始めたのに、こんなにハマっちゃうとは!」っていう感じで、1話からすごく面白かったです。自分が最近一人暮らしを始めたということもあって、都会で一人暮らしをしているエマに感情移入しすぎちゃいました。親元を離れてパワハラやセクハラを受けながらも必死に働いていたのに、最後にあんなことになってしまって……。

第1話「エマ」

田舎から出てきたエマは、大手ゲーム会社のCFOの助手として過酷な残業とパワハラに直面し、つらい日々を送っていた。そんな彼女の精神にトキが乗り移り、最終的に問題は解決したかと思われたが……。

第1話より。遅くまで残業するエマ。

第1話より。遅くまで残業するエマ。

第1話より。物語の終盤、エマが目線入りでニュースで放送されている。

第1話より。物語の終盤、エマが目線入りでニュースで放送されている。

──このままハッピーエンドで終わるんだろうな、と思っていたところにあのラストですもんね。

はい(笑)。「時光代理人」って視聴者の感情を上げて落とすのが本当に上手だと思うんです。エマの苦労を見せて共感させて、「問題が解決したので一安心」って思わせたあとで落とすっていう。それに加えて1話ではトキとヒカルの能力の説明もしているじゃないですか。そういう設定の説明とエマの掘り下げを同時にやっていて、話作りがすごく巧みだなって感じました。

──平穏に終わるエピソードももちろんあるものの、第1話で感じた“上げて落とす”刺激がずっと後を引くのがこの作品の面白い部分ですよね。

本当にそうですね。あの1話を観たあとなので、第2話は「大丈夫だよね!? この2人、このあと何かないよね?」って思いながら観ていました(笑)。

第2話「秘伝のレシピ」

依頼人の夏(ナツ)は人気ラーメンチェーン店の女社長。学生時代の親友・林貞(リン・ジェン)とともに開いた小さなラーメン店・林夏麺館を長年2人で協力しながら大きくしてきたが、ある日、厨房担当の林貞が店の看板メニューのレシピを夏に教えないまま店を去ってしまう。夏は裏切った林貞がその味を売りに新たに独立することを恐れ、レシピを入手してほしいと依頼するが……。

第2話より。夏と林貞は長年2人で写真を撮り続けていた。

第2話より。夏と林貞は長年2人で写真を撮り続けていた。

第2話より。2人の懐かしの地で再会する夏と林貞。

第2話より。2人の懐かしの地で再会する夏と林貞。

──今回インタビューにあたって放送前のものも含めて全話視聴していただきましたが、特に印象に残っているエピソードを挙げるならどれになりますか?

今挙げた理由でやっぱり1話は印象的でしたね。それ以外だと4、5話で描かれている地震の話。あの地震って、中国で実際にあった災害がモチーフになっているじゃないですか。

第4話「告白」

依頼人の高校時代に遡り、当時伝えられなかった言葉をみんなに伝えてほしいという依頼をこなしていくトキだったが、ふと今回の任務が順調に進みすぎていることに違和感を覚える。そんな中、今日が2008年5月12日だと聞いたトキは、あることに気が付き……。

第4話より。左から依頼人である陳瀟(チェン・シャオ)、彼が所属するバスケ部のキャプテン・陸鴻斌(ルー・ホンビン)、陸鴻斌の妹で陳瀟が思いを寄せる劉萌(リウ・モン)。

第4話より。左から依頼人である陳瀟(チェン・シャオ)、彼が所属するバスケ部のキャプテン・陸鴻斌(ルー・ホンビン)、陸鴻斌の妹で陳瀟が思いを寄せる劉萌(リウ・モン)。

第4話より。陳瀟の精神に乗り移ったトキは、今日が2008年5月12日だと知り……。

第4話より。陳瀟の精神に乗り移ったトキは、今日が2008年5月12日だと知り……。

──2008年に発生した四川大地震ですね。

架空ではなく実際にあった災害を描くのって、“挑戦的”と言ってしまうと言葉が違うかもしれないですが、制作するうえでいろいろな意見が挙がったと思うんです。そういう中で実際の災害を描くという判断をしてまで伝えたかったことがあったんだろうな、というのが作品から伝わってきて印象に残っています。

第5話より。地震発生時、母親に庇われ難を逃れた陳瀟。

第5話より。地震発生時、母親に庇われ難を逃れた陳瀟。

──「時光代理人」はセクハラやパワハラ問題に実際の災害、中国内の都会と田舎の対比など、時事性や社会性の高いテーマを多く取り扱っているのも特徴です。

視聴者に訴えかけたい思いがあるというのを強く感じますよね。

──その一方で、第6話のような少し箸休めチックな話もあったりして。

番外編 第6話「手合わせ」

内気な少年・劉思文(リウ・スーウェン)は上級生に絡まれていたところを、欧陽(オウヤン)という少女に救われる。頼もしい欧陽に一目惚れした劉思文はその場で思わず告白してしまう。時が経ち、大人になった劉思文は欧陽に結婚してほしいと告げ、彼女の父に許しをもらいに行く。だが、結婚を認めてもらうためには武術の達人である欧陽の父との手合わせで勝たなければいけなかった。何年も手合わせに挑むも欧陽父の秘技の前に負け続けた劉思文は、ひょんなことから知り合ったリンに、わずかな望みを託す。

番外編第6話より。欧陽の父に結婚を認められるため、彼に挑む劉思文。

番外編第6話より。欧陽の父に結婚を認められるため、彼に挑む劉思文。

番外編第6話より。劉思文は老人になるまで欧陽の父に挑み続けていた。

番外編第6話より。劉思文は老人になるまで欧陽の父に挑み続けていた。

私、6話でもラストの純粋な愛を観て「よかったね……」って泣いてしまったんですよ。というか毎回泣いているかもしれません。1話ではエマがお母さんに春巻きを作ってもらったところで泣くし、2話では林貞が1人でタクシーに乗っているところで胸が苦しくなって泣いて。3話のバスケの回でも泣いていたんですが、泣いている中でも「これはハッピーエンドになるのか? それともバッドエンドなのか?」って怖さはありましたね。

──泣けてヒヤヒヤできるというタイプの作品はなかなかないですよね。

そうですね。例えば子供が誘拐されてしまう7、8話のラストなんて、それまでの「時光代理人」の所業を考えたら本当にどっちに転ぶのかわからなかったですし(笑)。そういうところも視聴者の心を掴んでいるポイントなんじゃないかなと思います。