アニメ「蟲師 続章」長濱博史監督インタビュー - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
「蟲師」が帰ってきた。漆原友紀による新作「日蝕む翳」が月刊アフタヌーン1月号、2月号(講談社)に前後篇で掲載され、1月4日には「日蝕む翳」が早くもアニメ化。1期のスタッフが再集結し、特別篇として1時間のスペシャルアニメを制作した。そして、4月からはついにアニメ2期「蟲師 続章」がスタートする。
コミックナタリーではこれを記念し、長濱博史監督にインタビューを敢行。1期終了より約8年経ったいま、やっと動き出すアニメ「蟲師」についての並々ならぬ思いを語ってもらった。
取材・文/増田桃子 撮影/坂本恵
僕たちが作らない限り、2期は動かない
──まずはアニメ「蟲師」2期の制作が決定した時のご感想を聞かせて下さい。
「やっとか!」って感じですね。やっと決まったと。
──約8年ぶりですからね。
本当は1期が終わってすぐに続きがやりたかったんです。漆原(友紀)さんとも「続きやりたいです」って話をしていたし、アフタヌーン編集部も「1期のスタッフで作ってくれるなら、全面的にお任せします」と言ってくれたので。でもそう言ってる間に、8年も経ってしまいましたからね。もしほかに2期を作りたいという人が出てきたらどうしよう、みたいな話もしてたんですけど、アフタヌーン編集部に「それはないない(笑)」と笑われまして。「あなたたちがやらない限りは2期は動かないから」と。
──それは1期のハードルが高すぎて?
そうですね(笑)。「1期を観て『俺ならもっとうまくやる』って人がいるってことでしょ? そんな人出てこないよ」って。ありがたいことです。
──2期の話が上がったのは何がきっかけだったんでしょうか。
アニプレックスのプロデューサーの岩上(敦宏)さんから、突然ポンッと話が来て。僕が「1期と同じことをやりますよ。2期だからって『もっとダイナミックに』とか『もっとCGを使って』って言われても出来ませんよ」と聞いたら、「むしろ同じことをやってほしい。同じスタッフで同じことを同じように納得いくまでやってくれればいいです」と言ってくださったので、じゃあやりましょうと。
「蟲師」の新作がスタートするってことには特別な意味がある
──2期に先駆けて、1月に特別篇の「日蝕む翳」がオンエアされました。この作品はどういった位置づけだったのでしょうか?
2期に向けてベストな環境を整えるための準備、と言いますか。8年待ってくれたファンの人もそうだし、漆原さんもそうだし、もちろん自分たちも、待ちに待っていた2期なので、「蟲師」の新作がスタートすることには特別な意味があるんです。だからどういった形で見せていくべきか、そのタイミングをどこに定めるかは大事でした。
──慎重に、準備に準備を重ねていたんですね。
はい。でもTVアニメって動き始めると止まらないんですよ。息つく暇もなくなるんです。だからスタートを慎重に決めたかった。講談社やアニプレックスともたくさん話をして。制作サイドとしては1月に放送する準備は出来ているけど、まず1月に1、2話だけ放送して「『蟲師』が帰ってきたぞ」っていう下地を作って、4月に新シリーズ開幕というのはどうか、とか。そしたら、ちょうどその話を進めている時期に、実は漆原さんが「蟲師」の新作を描かれていることがわかって。
──それが「日蝕む翳」と。
そうなんです。特別にネームを読ませてもらって、これは素晴らしいと。まず新年一発目に「日蝕む翳」を1時間の特別篇として放送したら、きっと2期に向けて良いベースが出来ると思ったんです。すぐに「作りたいです」とお願いをして。
──でもその時点ではまだマンガは完成してないんですよね?
そうですね、まだネームの段階だったので、「ネームを元にアニメーションを作っていきましょう」と言いました。編集部や漆原さんは「そんなことが可能なんですか?」って仰ってましたけど(笑)。
──その話があがったのはいつ頃なんでしょうか。
7月か8月くらいですかね。オンエアまで半年切ってて、しかも1時間ものってなると、さすがに無茶だよなとも思ったんですけど、総作画監督の馬越(嘉彦)さんやスタッフに話をしたら、「ムリ」っていう人は1人もいなかったです。
──でも普段のアニメ制作とはやり方が違いますよね?
そうですね。こちらがアニメを作っているときに、漆原さんもペン入れを進めている状況でしたので、上がった原稿を見せてもらいながら、細かく補正していくという、ほぼ同時進行。セリフも絵コンテの段階と本番では当然違ってくるので、アフレコのときにやっとセリフが完成するような状況でした。あと、いつもの「蟲師」のやり方だと、絵コンテで描ききれないわかりづらい構図は原作を参照してくださいという指示でOKだったんですよ。でもそれが今回は出来なかったので、その点は苦労しました。
──そこまで同時進行だと、共同制作のオリジナルアニメのようなものですよね。
いえ、今回はちゃんと漆原さんの原作があるので。実は1期のときから、いつかはオリジナルをやりたいねって、みんなで話はしてるんですけど。実現できたらうれしいですね。
漆原友紀(うるしばらゆき)
アフタヌーン四季賞1998年冬のコンテストにて「蟲師」が四季大賞を受賞し月刊アフタヌーン(講談社)でデビュー。同年、アフタヌーンシーズン増刊(講談社)にて投稿作と同名の連載を開始。現実には存在しない蟲という特殊な存在を用いた、一話完結主体の秀逸な話作りで人気を得る。同作にて2003年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2006年に第30回講談社漫画賞一般部門を受賞。アニメ、小説、ゲームなど多数のメディアミックスがなされ、2007年には監督大友克洋、主演オダギリジョーによる実写映画化が話題を集めた。
長濱博史(ながはまひろし)
1990年、マッドハウスに入社。「YAWARA!」などさまざまな作品に参加した後、フリーランスになる。1996年に「少女革命ウテナ」のコンセプトデザインを担当し、以降はプリプロダクションとしての作品参加も増えていく。2005年には「蟲師」にて初監督を務め、高い評価を獲得。東京国際アニメフェアでは、第5回東京アニメアワードのテレビ部門にて優秀作品賞を受賞した。このほか代表作は、OVA版「デトロイト・メタル・シティ」「惡の華」など。(長濱の「濱」は正しくは旧字体)
(c)漆原友紀/講談社・アニプレックス