恋愛アンソロジー「楽園」総力特集、中村明日美子×沙村広明×かずまこを×木尾士目座談会 - コミックナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
中村明日美子、沙村広明、宇仁田ゆみ、鶴田謙二、kashmir、黒咲練導……。白泉社の「楽園 Les paradis」は、女性誌、青年誌、4コマ誌、百合誌など幅広いフィールドから豪華執筆陣を揃えた恋愛アンソロジーだ。
創刊から3年、最新号となる第11号が発売されたこの機にコミックナタリ―にて特集記事を企画したところ、実に17人もの執筆作家が快く参加してくれた。レアな組み合わせの座談会をはじめ、12作家からの描き下ろしイラスト、そして毎号の表紙イラストを手がけているシギサワカヤのコメント付き全号解説と、盛りだくさんの内容でお届けする。
取材・文/岸野恵加 編集/唐木元
中村明日美子×沙村広明×かずまこを×木尾士目 座談会
創刊号カラーで気張ってしまって、全ボツ食らいました(かずま)
──「楽園」という雑誌がほかに類を見ないのは、カオスともいえる執筆陣と、その全員を飯田孝編集長が担当していることだと思うのですが、まずはどのようにみなさんが描くに至ったのかというなれそめみたいなところから伺えればと。明日美子さんとかずまさんは1号目からですね。
かずまこを コミック百合姫(一迅社)でデビューした頃にメールをいただいて、お会いしたら「あなたのマンガがすごく好きだ」と力説してくださったんです。「純水アドレッセンス」の連載中も、毎回電話で感想をくださるという関係が続いていて。それで楽園が誕生するにあたって正式にお話をもらった感じです。
──かずまさんの「ディアティア」は、記念すべき楽園第1号の巻頭カラーを飾りました。
かずま すっごく、プレッシャーでした……! ほかの執筆陣がビッグネームなのを伺ってましたから、まさかそんな新人の自分が、と。やっぱり気張ってしまっていたんでしょうね、第1話はいつもとは違うテイストでネームを描いて、全ボツを食らったりもしました。
中村明日美子 私も、「鉄道少女漫画」が終わって新連載のときに全ボツありましたよ。楽園は日本が舞台のマンガが多いから、全然違うものをぶち込んでみようかなーと思って、50年代くらいのアメリカを舞台にした、レイモンド・カーヴァーみたいな読み切り作品を考えてたんです。けど結局うまくいかなくて、WEB楽園で連載していたものを広げて「君曜日」ができたんです。時間がなかったから、ネームを一晩で32ページ一気に切りました。
沙村広明 32を? 一晩で!?
中村 最近は1日で32切っちゃいますね……。慣れますよ? 沙村さんの(楽園での連載)は、ずっとギャグ6ページですが(笑)。
沙村 楽園からお話をもらったとき、俺、アフタヌーンとgood!アフタヌーン(ともに講談社)で2本やってたんでちょっと余裕がなくて。引き受けるか渋ってたら「でも4カ月にいっぺんですよ?」「短くてもいいですから」っておっしゃるんですよ。それで「短いって何ページくらいですか?」って聞いたら、「10、いや……、6ページ」って。
中村 飯田さんは人をのせるのがうまいんですよね(笑)。
沙村 そうそう。6ページとなると俺はだいたいギャグしか描けないので、ページ数から内容が割り出されたという。「どうしようもないギャグになりますけどいいんですか」って聞いたら「もう何でもやってください」って言ってもらったんです。けどね、参考に送ってもらった楽園の1号を見て、「え、こないだの(依頼)、この雑誌なわけねえよな?」って。
一同 (爆笑)。
沙村さんと僕、明らかに浮いてません?(木尾)
かずま 恋愛アンソロジーだって聞かされてなかったんですか?
沙村 後で聞きましたね(笑)。でも後から木尾さんが加わったんで、これは一緒に変なの描いてくれるぞーと期待してたんですよ。そしたらこれがまた、すごい恋愛欲を刺激するマンガで!
中村 仲間だと思ったのにー! って(笑)。
木尾士目 僕はいまだに仲間だと思ってますけど。沙村さんと僕、明らかに浮いてません?
沙村 いやいや、木尾さんはちゃんと恋愛マンガじゃないですか。俺だって本当は、もう少し恋愛を主体にしていこうと考えてるんですよ。でも飯田さんは度々「ギャグが足りないからここに入れて」って言ってくるんで、気づいたらギャグ寄りに引っ張られてる。せっかく一生懸命、楽園の色に合わせようとしてるのに……(笑)。
かずま あはは。じゃあ沙村さんの「恋愛欲を刺激する」マンガが載る日は来ないですか?
沙村 実は……、「無限(の住人)」が終わったということもあって、近いうち、長いのを何編か描かせてもらうんです。それは真面目にやってみようかと。
中村 いつも真面目に描いているじゃないですか。
木尾 「恋愛に対して」真面目に、ってことですよね?
沙村 そうそう!
中村 あら、木尾さんのフォロー、優しいなあ。木尾さんはどういうふうに声が掛かったんですか?
木尾 昔「げんしけん」の取材で、こっそり行ったコミケで初めてお会いしたんです。そこからだから、飯田さんとは長いお付き合いで。「げんしけん」を気に入っていただいてたようで、感想の電話をよくもらってました。
──またもや感想電話が。
木尾 それで、楽園のWEB増刊が出るタイミングでどうですか? ってお話をいただいて。ページ数少ないし、そんなに深く考えず描いた感じですね。最初はそれ1回だけって話だったんで。
かずま あれ、いつの間にか本誌に……。
木尾 連載するって話になってましたね。そんなようなことを話した記憶はあるんですけど、たくさんの言葉をいっぺんに浴びせられた感じで、経緯が思い出せない……。
一同 あー(深く頷く)。
木尾 飯田さんて、電話してても相づちを入れる暇がないくらい、とにかく話し始めると熱心になっちゃうじゃないですか(笑)。
中村 すごくわかる。私ね、一瞬の隙を突いて「はい」って相づちを挟めるくらいなので、「はい」のバリエーションで、「はい?」とか「は~い」とか「はいッ!」って、色んな感情を表現できるようになりました(笑)。
楽園 第11号 / 2013年2月28日発売 / 880円 / 白泉社
掲載作品
中村明日美子「いっしょに帰ろう楽園くん(仮)」「楽園くん(仮)あるいは猫」「遅れ馳せの楽園くん(仮)」、かずまこを「ダーリング」、沙村広明「殺し屋(ヒットマン)リジィの追憶」、木尾士目「Spotted Flower」、水谷フーカ「14歳の恋」、シギサワカヤ「お前は俺を殺す気か」、黒咲練導「ユエラオ」、宇仁田ゆみ「こうかん法則2」、二宮ひかる「かみさま」、ハルミチヒロ「夜をとめないで」、売野機子「しあわせになりたい」、鶴田謙二「ひたひた」、志摩時緒「あまあま」、kashmir「てるみな」、犬上すくね「アパルトめいと」、あさりよしとお「小惑星に挑む」、仙石寛子「夜毎の指先」「真昼の果て」、西UKO「コレクターズ」「アップ&ダウン」、竹宮ジン「想いの欠片」、平方イコルスン「以後」「ノン察知」、大月悠祐子「彼女達の最終定理」、鬼龍駿河「乙女ループ」、竹田昼「王様の寝床」、武田春人「ろみちゃんの留守番」
中村明日美子(なかむらあすみこ)
1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。
沙村広明(さむらひろあき)
1970年2月千葉県生まれ。1993年、アフタヌーン夏の四季大賞にて「無限の住人」が四季大賞を受賞し、月刊アフタヌーン(講談社)に掲載されデビュー。翌年、連載が開始された同作で、1997年に第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。高いデッサン力に裏打ちされた迫力ある殺陣と奇想天外な設定で、ネオ時代劇と評される。その一方、竹易てあしの変名で「おひっこし」などコメディタッチの短編を執筆するユーモアを持ち合わせる。2008年、「無限の住人」がTVアニメ化された。
木尾士目(きおしもく)
1974年生まれ。1994年に「点の領域」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞を受賞し、同誌に掲載されデビュー。2002年、大学生のオタク系サークルを取り上げた「げんしけん」の連載を開始。オタクブームの立役者となった。同作は作中作「くじびきアンバランス」とともにTVアニメ化され、2010年からは続編となる「げんしけん 二代目」の連載がスタート。そのほかの作品に「四年生」「五年生」「ぢごぷり」などがある。