ナタリードラマ倶楽部 2023年秋クールを語り尽くす(後編)) (original) (raw)

イラスト / トモマツユキ

ナタリードラマ倶楽部 Vol. 2[バックナンバー]

「コタツがない家」「ゆりあ先生の赤い糸」「セクシー田中さん」「マイ・セカンド・アオハル」……明日菜子×綿貫大介コンビがドラマ談議

2023年11月24日 18:30 10

放送・配信中のドラマについて語りまくる新連載「ナタリードラマ倶楽部」。Vol. 2となる今回は2023年秋クールの後編として、再びドラマウォッチャーの明日菜子と綿貫大介に集まってもらった。

後編で取り上げるのは10月3週目以降にスタートした作品。「コタツがない家」の仲直りシーンに涙し、「セクシー田中さん」の朱里を応援……そして「マイ・セカンド・アオハル」の今後を考えずにはいられない2人の、楽しいおしゃべりをお届けする。

取材・文 / 尾崎南・脇菜々香 題字イラスト / トモマツユキ

目次

「コタツがない家」は未来のために作っている作品(綿貫)

──今回の2023年秋後編では、10月3週目以降にスタートしたドラマを対象にお話を伺います。お二人が特に好きな作品は?

明日菜子 後編のラインナップは、けっこうマニアックで攻めている作品が多いですね。私は「コタツがない家」かな。

綿貫大介 全部テイストが違うから評価軸がバラバラですが……私も「コタツがない家」ですね。

明日菜子 劇中で北村一輝さん演じるマンガ編集者・土門さんが言っていたように、舅と夫のいさかいを描くのはホームドラマとして新しい。男性である金子茂樹さんが、ある意味自覚しながら脚本を書いているのが斬新で、金子茂樹版「渡る世間は鬼ばかり」だと思ってます!

綿貫 (小池栄子演じる)主人公の万里江は、ウェディングプランナーとして会社を経営する社長。まだ“社長=男”のイメージがある中で女性の活躍を意識しているところがいいですよね。ただ、“ダメ男たちを支える”という設定は自己犠牲的でもあるので描き方が難しいところ。だからこそダメ男たちをどれだけチャーミングに描けるかが大切だと思っていて。金子さんが手がけたドラマ「俺の話は長い」の(生田斗真演じる)岸辺満はそこがうまかったんですけど、そのキャラを三等分にしていると考えると、まだ1人ひとりのキャラは弱い。ただ金子さんは、石川さゆりさんが歌う主題歌「ダメ男数え唄」の歌詞を書いたり、ダメ男たちを愛せるポイントを上手に作ろうとしている。これから視聴者が、彼らをどれだけ愛せるかというのがポイントだと思います。あとはタイトルに入っているコタツの重要性が隠されているのも気になる。近年のテレビにはホームドラマが足りていないと思っているので、毎週楽しみに観ています。

明日菜子 第4話で(HiHi Jets作間龍斗演じる)息子の順基とケンカした万里江が、昔のDVDで順基の小さい頃の運動会の映像を観るシーンが本当によかったです。

綿貫 あのシーンは泣けましたね。さらに翌日のバスのシーンもよかった。手の振り方とか、順基と万里江だけに通じる“許し合う態度”がよく伝わった。

明日菜子 高校生の息子と母親のリアルなやり取りって感じでしたよね。

──失恋のショックで暴走し万里江を責めてしまった順基でしたが、翌日謝るところにかわいげを感じましたね。(吉岡秀隆演じる夫・)悠作も、順基に対し万里江をかばう発言をしていて、いいところあるなと。

綿貫 わかります。悠作はこのあと、マンガを描くのかな? 完成したら感動しちゃうかもしれない(笑)。

明日菜子 あと悠作や順基のシーンはフィクションだと思って割り切れるけど、小林薫さん演じる父・達男が入ってくるとリアルさが増して……!

綿貫 それで言うと第1話で、万里江が山中で警察に保護された達男を迎えにいくシーン。警察署で達男は「帰りは俺が運転するから」「こいつ(万里江)の運転なんて危なっかしくておちおち寝てらんないっすよ」と言うくせに、次のシーンで思いっきり万里江が運転していた(笑)。人前では強く出ちゃう“お父さん像”がリアルでした。

明日菜子 「コタツがない家」はある意味、女性が男性のケアをする話だと思うんですが、なぜか気持ちよく観ています。万里江には家以外にも会社というコミュニティがあって、家族に振り回されながらも自分の人生の主導権をちゃんと握っている感じがするからかな。それで言うと同じくホームドラマである「ゆりあ先生の赤い糸」は、クローズな見え方がしますよね。

綿貫 「コタツがない家」でやろうとしてることって、けっこう未来的ですよね。正直今の日本のジェンダーギャップだと、万里江ほど稼いで家族を養える女性はまだまだ少ない。だから共感を狙っているというより、未来のために作っている作品だと思います。視聴者としてはコメディとして楽しむのが正解なんだろうな。

ゆりあが自宅に住まわせているのって、社会的に立場が弱いとされる人たち(明日菜子)

──それで言うと「ゆりあ先生の赤い糸」のほうが、共感しやすいかもしれませんね。

綿貫 「ゆりあ先生の赤い糸」は90年代のドラマっぽいなーと思って観ています。センセーショナルな要素がたくさん詰め込まれていて気になります。何より菅野美穂さんのキャラが好きだから、彼女のパワフルさに助けられている。別の方がゆりあをしんどく演じていたら、つらくて観ていられないかも。このドラマは、キャストが最高じゃないですか?

明日菜子 映画「蜜蜂と遠雷」で俳優デビューした鈴鹿央士さんが松岡茉優さんと再び共演し、一緒に物語の土台を支えているのが胸熱です……!

綿貫 みちる役の松岡さん、ご本人のキャラクターとは違うんだろうけど、おっとりしていて、“こういう人いる”と思えます。ゆりあにとっては夫・吾良の愛人疑惑の人物だから、描き方によってはめちゃくちゃ悪い人に見えるはずなのに。

明日菜子 「ゆりあ先生の赤い糸」はしっかりしたテーマがありそうですよね。ゆりあが自宅に住まわせているのって、同性愛者・シングルマザー・高齢者と社会的に立場が弱いとされる人たち。描きたいことはわかるのですが、着地点がまだわからない!

──当初は怒涛の展開にゆりあを「かわいそう……」と思っていましたが、ゆりあが夫の愛人に助けられる場面もありますよね。(※)

※編集部注:主人公・ゆりあの夫はある日突然、意識不明状態に。やがて次々に夫の彼氏や、シングルマザーの彼女が現れる。ゆりあは彼らと共同生活をしながら、夫の介護をする道を選ぶ。

明日菜子 そうなんですよ! 愛人に家のことを頼むなんて……と思っていたけど、よく考えたらヘルパーより都合がつきやすいし、私がゆりあでも割り切って頼るかも(笑)。あとはタイトルの「赤い糸」がどう結び付いていくのか……。

綿貫 第3話以降、ゆりあ自身の恋愛の話も進んできましたね。

明日菜子 そうですね。ただ、そこが物語の主軸ではないと思うんです。どこに行きつくのか、今後が気になります。

「木南晴夏 体型維持」で検索(明日菜子)

──明日菜子さんは「ゆりあ先生の赤い糸」「セクシー田中さん」「マイ・セカンド・アオハル」は“女性の年齢呪縛問題”を扱っているとおっしゃっていましたね。

明日菜子 そうなんです。この3作品は「◯◯歳だから」というのがキーワードだと思ってます。「ゆりあ先生の赤い糸」でも、ゆりあが歳下の男性と恋愛するとき“おばさんだから……”と自分を卑下していて。

──「セクシー田中さん」でも主人公の田中京子が自分を卑下する発言をしますよね。

綿貫 木南晴夏さんはいつもの快活なキャラクターではなく、抑えた演技をしていますよね。それはまさに「私なんて……」という田中さんの気持ちを体現するためだと思う。

明日菜子 「木南晴夏 体型維持」で検索しようとしたら、予測変換ですぐに出てきました(笑)。木南さんはパンが好きだし、みんな気になるのかも。また、めるる(生見愛瑠)が朱里を演じたことに意味があると思う。同世代の視聴者に訴求力があるから、ナイスキャスティングだなって。朱里の23歳という設定が絶妙ですよね。今では「23歳なんて若いじゃん!」と思うけど、当時は「もうおばさんだから」と言ってたなって(笑)。

綿貫 23歳がそのポイントなんだ!

明日菜子 学生から社会人に変わるタイミングなんですかね。朱里が“もう若くない”というスタンスでいるのがリアルだなと思いました。綿貫さんに聞きたかったんですが、毎熊克哉さん演じる笙野のキャラクターの描き方がけっこう露骨じゃないですか?

綿貫 このあと(笙野の)性格が好転していく予測を立てながら観ているのですが、それを見越して朱里がちゃんと笙野に怒るのがいい。笙野を悪く見せないように、ちゃんとキレる人を用意しているからうまいなって。だけどもう第4話(座談会実施時点)でしょ? まだ変わってない!(笑) 田中さんに対してずっとひどい態度なのに、近付いてくるから彼はどういう感情なんだ……。

──ちなみに田中さんは40歳、笙野は36歳、(前田公輝演じる)小西は35歳の設定です。

綿貫 笙野、同世代なんだし田中さんのことおばさんって言う権利なくない!?

明日菜子 確かに(笑)。でも、(笙野のような発言をする人が)現実にいないとは言い切れないと思います。男性キャラクターの中では、小西がマシに見えますね……。

綿貫 「セクシー田中さん」は何より、年齢差のある田中さんと朱里のシスターフッドが観ていて楽しいですよね。例えばバディモノだと、最初にどちらかが相手を嫌っていたり噛み合わない中で徐々に好きになるパターンもあるけど、朱里はベリーダンスを見たときから田中さんにいっさいのネガティブ感情を持つことなく“好き!”と突き進むのがめちゃめちゃよくて。特に説明なく“好き!”なのがいいんですよ。

明日菜子 若い女の子の「年齢を重ねたらどうしよう」という不安を打ち消すためには、魅力的なロールモデルを見つけるのが最善策だと思うんですよね。でもロールモデルにもその人の人生があるから、一方的に理想を押し付けるのは危ういなとも思っていて。「セクシー田中さん」第4話では、(THE RAMPAGE川村壱馬演じる)進吾が朱里に「田中さんがキラキラしてないと不安になるんでしょ? それも依存じゃね?」と言う場面がありました。あのとき、年齢差シスターフッドの盲点をついたなと感じて、この作品への信頼度が一気に上がりました。

綿貫 たしかに相手をロールモデル的な見方をするのは危ういですよね。対等ではないから、シスターフッドの関係でもなくなってしまう。朱里には田中さんをそういうふうに見ないでほしいなあ。

明日菜子 朱里は進吾の言葉を受けて、田中さんに願いを託すんじゃなくて自分で発表会に出ようと思ったのがすごくよかった。2人は与え・与えられる関係だから素敵です。