映画ナタリー編集部が選ぶ、2023年の映画・ドラマ (original) (raw)
A24の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が第95回アカデミー賞で作品賞を含む7冠を達成したほか、「バービー」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が世界的に大ヒットし、宮崎駿による約10年ぶりの長編「君たちはどう生きるか」が一切宣伝なしで公開された2023年。この記事では、映画ナタリー編集部の中から12人が選んだ今年のお気に入り映画・ドラマを紹介する。
目次
- ささやかな友情を切り取ったネオ西部劇にしみじみ
- 血眼でのめり込んだセオリーガン無視の韓国ドラマ
- 地獄絵図なクリスマスディナーと、人生のハンドルを握り直す中年男性
- しれっと再開したうまい定食屋のように
- 人生で初めて朝ドラにどハマり
- 上映中は“決断”の連続、ぶん回され体験に酔いしれろ
- 3カ月間生きがいだった純愛ストーリー
- みんな愛してる!あのヒーロー集団、最高の幕引き
- 泣けてくるほどかわいい、2人にしかわからない世界
- おしゃべりな貝は粋で勇敢
- 「食べちゃいたいほど好き」という究極のホラーに戦慄
- 帰ってきた巨匠
- 画像ギャラリー(全13件)
ささやかな友情を切り取ったネオ西部劇にしみじみ
- 映画「ファースト・カウ」
- 映画「TAR/ター」
- 映画「aftersun/アフターサン」
- 映画「ほつれる」
- ドラマ「ブラッシュアップライフ」
「ファースト・カウ」
まず始まり方と終わり方が最高に好き。ブッチとサンダンスを100倍さりげなくしたような2人の友情に胸がいっぱいになり、鑑賞後はドーナツを買いに走りました。
「TAR/ター」
大好きな「リトル・チルドレン」から待つこと15年以上、トッド・フィールドの人物描写は相変わらずキレッキレ。ターが子供時代にもらった金メダルを胸にぶら下げ、昔のVHSを観るシーンがたまらないです。
「aftersun/アフターサン」
私自身がいつまで経っても大人になれないように、あの頃の父も母もきっと自分の想像よりずっと幼なかったのだ、ということを思い知らされた1本。自分自身の断片的な記憶もよみがえり、クライマックスではおいおい泣きました。
「ほつれる」
派手なシーンは一切ないのに引き込まれてしまう演出、回想がほぼないのに関係性が伝わってくる役者陣の演技はうまいの一言。終わりかけた夫婦のやり取りは、“見てられなさ”がえぐい!
「ブラッシュアップライフ」
バカリズム節全開の細かすぎる描写に笑い、ラストに向けての「まどマギ」的展開に泣いた1作。友人との他愛ない会話こそ人生の宝物だと感じる内容は、「イニシェリン島の精霊」と真逆で面白かったです。
そのほか、鑑賞後は“女将さんと今野“のCMさえマルチバースものに見えた「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、息子を持つ母として身につまされた「怪物」、ツルハシの便利さに目覚めた「SISU/シス 不死身の男」などに心つかまれた1年でした。2024年は「ボーはおそれている」が楽しみすぎて、パジャマを着て待機中。(編集長 / 黛木綿子)
血眼でのめり込んだセオリーガン無視の韓国ドラマ
- ドラマ「ヒップタッチの女王」
- 映画「コンパートメントNo.6」
- 映画「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」
- 映画「フェイブルマンズ」
- 映画「枯れ葉」
明かりがぽっと灯るような映画が好きで、そんな作品を選びました。「コンパートメントNo.6」はその最たる1本。極寒の地を走る寝台列車、寂寥感の中に爽やかな風が吹くラストで胸がいっぱいに。フランスのアニメ「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」は創作することで自分たちの心を救う作者コンビに泣かされ、絵本を飛び出しちょこまか駆け回るニコラに元気をもらいました。
“映画”を描く作品には無条件で惹かれがちですが、スピルバーグの自伝的映画「フェイブルマンズ」は“作家の業”の物語だったことに驚き。カウリスマキ引退からの復帰作「枯れ葉」は、改めて“大好きな監督の新作を映画館で観る”という体験の尊さよ。ヒロインの最高にチャーミングなウインクを食らいました。
など挙げましたが、結局のところ韓ドラの怪作「ヒップタッチの女王」(すごい邦題!)に記憶をかっさらわれてしまったような。“お尻を触ると記憶を読み取れる”サイコメトラー獣医が、動物のお尻をモフモフして飼い主のトラブル解決!から一転、なぜか人が次々と殺されヘビーな展開に……。二転三転四転五転、ジャンルさえも行き来する自由な脚本にブンブン振り回され、最終話を観た直後は「ぜえ、ぜえ」と息切れしていました。(副編集長 / 金須晶子)
地獄絵図なクリスマスディナーと、人生のハンドルを握り直す中年男性
- ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」シーズン2
- 映画「ファースト・カウ」
- 映画「逆転のトライアングル」
- 映画「TAR/ター」
- 映画「ニモーナ」
世界的に有名なレストランで働いていたシェフが、兄の遺したサンドイッチ店の立て直しに奔走する「一流シェフのファミリーレストラン」。タイトルから受ける印象とは180度違う、荒々しい物語が展開されるこのドラマのシーズン2を今年1番の作品に選びました。
新しい“地獄絵図”を見せてもらったのは、クリスマスディナーが題材の第6話。久しぶりに食卓を囲んだ家族は息をするように罵り合い、ゲスト出演者のジョン・バーンサルが一言「お前のフォークを借りてもいいか?」。クリスマスディナーのシーンで「とにかくみんなが無事でありますように」と願ったのは初めてです。そしてその思いが届くことはなく、家には“あれ”が突っ込んできます。
続く第7話は涙なしには観られませんでした。サンドイッチ店で居場所を見つけられず何をやっても空回り、そんな自分のことを愛せない中年男性が、あることをきっかけに人生のハンドルを握り直す。「何かを始めるのに遅すぎることはない」というテーマを、テイラー・スウィフトの曲に乗せて描いた大好きな回です。
製作が決まっているシーズン3でも、ヒリヒリした凄惨な回と、優しくて劇的な回の両方に期待しながら、配信を楽しみにしてます。(副編集長 / 小澤康平)
しれっと再開したうまい定食屋のように
- 映画「枯れ葉」
- ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」シーズン2
- 映画「ほつれる」
- 映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
- ドラマ「THE LAST OF US」シーズン1
「枯れ葉」
閉店したうまい定食屋がしれっと再開したので行ってみたら、味付けもメニューも店主のぶっきらぼうな感じもほとんど変わっていないのにやっぱりものすごくうまかった、みたいな映画。もう一度、小さな映画館でフィルムで観たいです。
「一流シェフのファミリーレストラン」シーズン2
これを観るためにディズニープラスに入ってもいいという人がいるのも納得のドラマ。第7話でしみじみ感動し、怒涛の最終話で某バンドの楽曲が流れるシーンに血がたぎりました。
「ほつれる」
主人公の夫が秀逸。方向性は違うけど、ドラマ「コタツがない家」の夫と「ほつれる」の夫が2023年の夫ツートップです。主人公とある人物が差し向かいで話すシーンも薄気味悪くて最高。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
同じスタッフで「総員玉砕せよ!」も映像化していただけないでしょうか。同様に戦争を背景とした「窓ぎわのトットちゃん」とあわせて観たい1作。
「THE LAST OF US」シーズン1
原作のゲームをプレイしたことはないのですが、既存のポストアポカリプスものと一線を画す第3話の余韻があまりに濃厚でした。
次点として挙げておきたいのは映画「ザ・キラー」、ドラマ「ウルトラマンブレーザー」(特に第9話「オトノホシ」)。2024年は「ボーはおそれている」「オッペンハイマー」、そして現時点で日本公開未定ですが「The Zone of Interest(原題)」「Civil War(原題)」に期待しています。(平野彰)
人生で初めて朝ドラにどハマり
人生で初めてどハマりしている朝ドラ+国内の実写の劇映画から4本。毎朝8時に自動でつくテレビに飛び起きて「ブギウギ」を観ているんですが、これまで朝ドラに触れてこなかった身からすると、この毎朝ルーティンで楽しむ時間感覚がとっても新鮮。11月の「ワテのお母ちゃん」の時点でもう十分クライマックスを味わったのに、まだ話数的に半分もいってない? あと4カ月も毎朝あるの? 朝ドラ、ヤバいと驚きました。個人的な神回は3話、13話、18話、25話、30話、35話、39話、47話~49話とあげ始めたらきりがないですが、音楽ドラマとして歌唱シーンの山場を全部ハズしてないのがすごい。趣里の全身を使った躍動感とフルコーラスに驚愕した一発目の「ラッパと娘」、大阪に帰る秋山(伊原六花)のタップとのシンクロが泣かせる「センチメンタル・ダイナ」、そして戦争で死んだ弟に捧げる戦意高揚のようで戦時下の現実をたっぷり皮肉る「大空の弟」。このあと有名な「東京ブギウギ」「買物ブギー」が控えているのかと思うと、どうにかなりそう。歌うことを制限された戦時下で、つよぽんが言った「くそ食らえだ」は、日本の戦中・戦後を描いた作品が多かった今年、一番食らった一言です。「枯れ葉」の「ひどい戦争!」と並ぶパワー。歌つながりだと、「花腐し」から山口百恵「さよならの向う側」のカラオケ(誰が歌うかはぜひ映画で確認を)、「PLASTIC」でエクスネ・ケディの音楽に導かれる2人のシーンが、自分の快楽原則に従った結果、記憶に残った2つでした。伊原六花の「恋ってチョコレートの味がするらしいですよ」も忘れられない!(奥富敏晴)
上映中は“決断”の連続、ぶん回され体験に酔いしれろ
ストップモーションアニメ「オオカミの家」を初めて観たときは膨大な情報に混乱しました。画面のあちこちがひっきりなしに動くのでとにかく追うので精一杯。何を見るのかを自分自身で決めなくてはいけないため、上映中は決断の連続です。もう訳がわからない、ぶん回される体験をぜひ楽しんでほしいです。
モンゴルの映画「冬眠さえできれば」では、薪すら買えないほど貧しい家の男子高校生が描かれます。雪が降る夜、主人公がクラスメイトの家の前までやって来たのに「寒いからもう部屋に入るわ」と扉をすぐ閉められてしまうシーン。この場面が一番切なかったです。いいよな、クラスメイトのうちはあったかいんだもんなと心の中でつぶやきました。
やったね、カウリスマキが戻って来た!といそいそ観に行ったのが「枯れ葉」。映画館の前で女を待つ男、男が去ったあとに彼の吸い殻を見つける女。大量に残された吸い殻が、男の愛情と忍耐強さを感じさせます。じんわり。
韓国映画「別れる決心」では刑事の男、被疑者の女が交わすエロティックな視線がたまらない。「ラスト、コーション」で好きになったタン・ウェイの妖艶さは増すばかり。誇り高い刑事が恋慕によって「僕は完全に崩壊しました」と言うくだりで拍手しました。
ドラマ「サムダルリへようこそ」は、喧嘩になった男女のワカメ投げシーンが最高です。叫び、泣き、酒を飲み、友人と肩を組む。こんなにシンプルで楽しいことがあるでしょうか!(田尻和花)
3カ月間生きがいだった純愛ストーリー
- ドラマ「18歳、新妻、不倫します。」
- ドラマ「卿卿日常 ~宮廷を彩る幸せレシピ~」
- ドラマ「黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~」
- 映画「流水落花」
- 映画「赤い糸 輪廻のひみつ」
「18歳、新妻、不倫します。」
少女マンガ原作ならではのちょっと日常から浮いた軽やかなパートと実写だからこそ表現できる生っぽい場面。藤井流星さんも、矢吹奈子ちゃんも、その行き来が見事で、どっぷり物語の世界につかりました。カロリーと糖度が高すぎるエピソードの連打にすっかりのぼせていたら、まさかの急転直下……全10話ひたすら釘付けになった作品です。深夜2時過ぎに目覚ましをかけて、待機する日々が恋しい。
「卿卿日常 ~宮廷を彩る幸せレシピ~」
古い価値観に立ち向かい、自らの力で道を切り開いていく女性たちをすがすがしく描いている一方で、そうではない生き方を選択している人、そう生きられない人も決して否定しない包容力のある作品です。正室と側室の友情にグッときました。
「黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~」
“江湖で暴れ回るチャオ・ルースーが観てみたい!”という願いを叶えてくれた1本。まったくそんなつもりなんかないのに、ただそばにいるだけで、誰かの価値観を根底から揺らしてしまう──そんなヒロインを演じたときの、彼女の輝きたるや。日本未上陸ですが「偷偷藏不住」も夢中になりました。
「流水落花」
里親としてさまざまな子供たちを受け入れてきた女性の物語。こちらが感情的になっているのに、そんなことお構いなしに淡々と進んでいく日常により心を乱されました。大阪アジアン映画祭で観たのですが、この1本だけで新幹線代もホテル代もチャラになったと思えた映画です。
「赤い糸 輪廻のひみつ」
摩訶不思議な世界観や下ネタを気楽に楽しんでいたら、中盤ギデンズ・コーマジックにがつんとやられます。ビビアン・ソン、ワン・ジンというダブルヒロインの贅沢さ。どちらにも心臓射抜かれました。犬が活躍する映画としてもお薦め。(金子恭未子)
みんな愛してる!あのヒーロー集団、最高の幕引き
- 映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」
- 映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」
- ドラマ「ロキ」シーズン2
- 映画「屋根裏のラジャー」
- ドラマ「ムービング」
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」
最高の幕引きでした。こんなに笑って泣けて、“家族愛”のあるヒーロー集団はガーディアンズ以外考えられない。またマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)で会えることを楽しみにしてます。グルートの言葉を借りて……みんな愛してる。
「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」
スパイダーマンの哀しき定めに抗ったマイルスが今後どうなるのか。早く続編が観たい!
「ロキ」シーズン2
あの頃とは意味も表情もまったく違う“For you, for all of us.”に痺れた。東京コミコン2023最高でしたね!
「屋根裏のラジャー」
ラジャーとアマンダの絆、エミリたちイマジナリの物語に心が揺さぶられっぱなしでした(4回泣いた)。推しは骨っこガリガリ。
「ムービング」
特殊能力者たちのアクションはもちろん、青春、スパイ、家族、あらゆるジャンルを1つの作品で楽しめる! ワクワクしながら毎話観ていた「HEROES/ヒーローズ」を思い出しました。
2024年は「マダム・ウェブ」「クレイヴン・ザ・ハンター」、そして「ヴェノム」シリーズ第3弾といったソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の展開に期待してます。(小宮駿貴)
泣けてくるほどかわいい、2人にしかわからない世界
- 映画「こいびとのみつけかた」
- 映画「ポトフ 美食家と料理人」
- 映画「ナポレオン」
- 映画「小説家の映画」
- ドラマ「大奥」
「こいびとのみつけかた」
2人にしかわからない世界にいるトワと園子の姿が泣けてくるほどかわいく......そして胸をギューっとつかまれるような切なさがありました。やがて2人が互いの心の深淵に触れていく物語の展開にも引き込まれました。たった1人でも、世の中にわかり合える人がいることの尊さを感じられる映画です。
「ポトフ 美食家と料理人」
最高峰のグルメ映画だー!!と言いたくなるような美食の数々にうっとり。お庭での婚約発表のシーンは、あまりの美しさにポストカード化を強く希望です。
「ナポレオン」
まさに“愛憎入り混じる”という表現がぴったりなナポレオンと妻・ジョゼフィーヌの歪んだ関係性にゾクゾク。ホアキン・フェニックスの仏頂面が最高です。
「小説家の映画」
ホン・サンスらしいクセになる登場人物たちの会話が面白かったです。人との出会いに喜んだかと思えば、人の失礼な発言に怒ったり、「人間って可笑しいなあ、いいなあ」とじんわり思う作品です。
「大奥」
“史実をエッセンスにしたファンタジー”という印象で、その塩梅がとても上手でどハマりしました。まっすぐに国のために奔走する人が出てきたかと思うと、とんでもない悪女がドロドロの展開にしてきたり……最後の最後まで目が離せませんでした!
挙げた作品のほかでは、「バビロン」でハリウッド映画界でのし上がって行くマニーを演じたディエゴ・カルバが素敵でした。 2024年は濱口竜介、三宅唱、ビクトル・エリセの新作が楽しみです!(尾崎南)
おしゃべりな貝は粋で勇敢
- 映画「マルセル 靴をはいた小さな貝」
- ドラマ「City Lives」
- ドラマ「ブラッシュアップライフ」
- 映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」
- 映画「ザ・ホエール」
今年一番癒されたのは、YouTube発のモキュメンタリー作品「マルセル 靴をはいた小さな貝」。主人公のしゃべる貝・マルセルが粋で、優しくて、勇敢なのは、1人でたくさんの寂しさを乗り越えてきたから。1歩ずつ成長する姿に自分自身も背中を押されつつ、これをストップモーション×実写で作り切る技術とエネルギーにしびれました。
モキュメンタリー好きとしてもう1つ挙げたいのは、SFドラマ「City Lives」。“世界最大の生き物<街>の生態を調査する“というトンデモ設定ながら、人間そっくりの“擬態住民”や、<街>が人間に仕掛ける地味な嫌がらせなどのディテール、物語の展開が妙にリアルで納得感があります。深夜枠でこのVFXが観られたのもすごい!
ドラマでは「ブラッシュアップライフ」も外せません。“めちゃくちゃ大人びたことを言う子供”が好きな私は、それを主人公の言動として必然的に成立させた1話からワクワクしっぱなし! そして8話、あのトンネルの前で見せた安藤サクラの涙が忘れられない。
また「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」では、冒頭から「『Creep』できたか!」と心をつかまれ、友情に泣かされ、ガモーラの「私たち、楽しかった?」というセリフにシリーズが完結してしまう寂しさが押し寄せてまた涙。ブレンダン・フレイザーの主演作「ザ・ホエール」では、疎遠だった娘と向き合う主人公の姿を通して、誰かから“信じられる”ことがどれだけ尊い経験なのかと考えさせられました。(脇菜々香)
「食べちゃいたいほど好き」という究極のホラーに戦慄
- 映画「ボーンズ アンド オール」
- 映画「別れる決心」
- 映画「ヴィレッジ」
- ドラマ「フェンス」
- ドラマ「0.5の男」
「ボーンズ アンド オール」
“愛すること=相手と同化すること”という究極の価値観を見ました。リアルすぎる描写に目を瞑りながらもどこか美しさを感じ、80年代の空気感とティモシー×テイラーの儚い逃避行にひたすら身を委ねた一作です。
「別れる決心」
激しい描写のイメージだったパク・チャヌクの抑制された演出に驚き。タン・ウェイの妖艶さとミステリアスさにパク・ヘイルの不気味さも相まって「愛はオカルトなんだな」という結論に達しました。
「ヴィレッジ」
日本のムラ社会を描いた作品としては「ガンニバル」もよかったけれど、“死んだ目”で見つめる横浜流星に引きつけられたこちらに一票。能を組み合わせた演出も個人的には好きでした。
「フェンス」
沖縄の米軍基地問題を野木亜紀子の力強い脚本で炙り出していく物語に毎話圧倒されっぱなしでした。修学旅行でフェンスの外側から基地を見たこととか思い出したり。
「0.5の男」
沖田修一の世界をWOWOWドラマで堪能できるということがまず贅沢。2世帯の狭間で飄々と暮らす松田龍平がツボでした。甥っ子と戦隊ヒーローのダンスをするシーンが特に好き。続編観たい……。(大畑渡瑠)
帰ってきた巨匠
- 映画「枯れ葉」
- 映画「逆転のトライアングル」
- 映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
- 映画「怪物」
- 映画「君たちはどう生きるか」
引退宣言から6年、アキ・カウリスマキが帰ってきた。色調、カメラワーク、音楽(劇中に登場する姉妹デュオ・マウステテュトットが最高)、ストーリーテリング、ユーモア、そして犬──隅々までカウリスマキ節は健在。6年前に感じた絶望の深さにより、一番好きな映画監督がカウリスマキであることを自覚した私にとって、至極の81分間でした。
ジャンルやテーマは違えど「枯れ葉」同様に弱者の奮闘を描いた「逆転のトライアングル」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」も好みな作品。特に前者のシニカルなテイストはツボにハマりました(ハエとか)。また、個人的な話ですが、20年以上前に単身中国へ長期間の取材に行って不安気な私を食事に連れて行ってくれたり、スタジオを案内してくれたりと信じられないほど親切にしてくれたミシェル・ヨーが「エブエブ」でオスカーを手にしたこともうれしかったです。
日本映画2本はまったく別の個人的な基準でセレクト。「怪物」には、主人公たちと同世代の息子を持つ親として心揺さぶられました。息子との対話を増やし、もうすっかり多感な少年なのだと知ることができたのはこの作品のおかげだと感じています。そして、最後の1本は「君たちはどう生きるか」。映画館で息子と宮崎アニメの新作を観ることができるなんて……。いつまでも忘れることのない夏の思い出になりそうです。(スーパーバイザー / 岡大)
※宮崎駿の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記