先端技術を駆使した没入型アート・映画やドラマ化が期待できる企画が台湾に集結 (original) (raw)

「Virtual Production of OLD FOX」展示スペースの様子。(写真提供:TAICCA)

映画ナタリーが見たコンテンツビジネスの祭典・2023 TCCF Vol. 3[バックナンバー]

先端技術を駆使した没入型アート・映画やドラマ化が期待できる企画が台湾に集結

2023年12月20日 18:15 8

アジアのコンテンツビジネスの祭典「2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」が11月7日から12日まで台湾・台北で開催された。台湾・文化部(日本の文科省に類似)によって創設された台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー(TAICCA)が主催する同イベントは、映画やドラマ、マンガ、ゲームなど、世界のコンテンツ産業のための展覧会と見本市だ。

映画ナタリーでは現地で取材し、「映画ナタリーが見たコンテンツビジネスの祭典・2023 TCCF」を短期連載中。今回は“文化と技術の融合”を展示したINNOVATIONSと、クリエイターとバイヤーが出会う場所であるPITCHINGにスポットを当てる。さらにTCCFのPITCHINGに参加した深田晃司のコメントも掲載。来年TCCFでチャンスをつかむのはあなたかもしれない?

取材・文 / 金子恭未子

INNOVATIONS

VR(バーチャルリアリティー)やXR(クロスリアリティ)といった先端技術も積極的に支援しているTAICCA。TCCFのINNOVATIONSスペースには、最新技術を駆使した21の没入型アートが展示された。

台湾では近年、官民一体となってコンテンツ産業を支援しており、TAICCAの職員によると、今の台湾は、例えるならさまざまなジャンルのプロが“同じ船”で前に進んでいる状況なのだという。それがさまざまな人種、種族を乗せ進む「スタートレック」の宇宙船を彷彿とさせることから、INNOVATIONSスペースは同ドラマにリスペクトが捧げられた。

注目作をピックアップ!

Virtual Production of OLD FOX

今年の東京国際映画祭で上映された「Old Fox」(原題「老狐狸」)は1989年を舞台とした作品。過去を舞台とした作品を撮影する場合、かつてはセットやグリーンバックが使用されていたが、同作では当時の台北の町並みを再現するためバーチャルプロダクション(※セットの背景に映像を映し出す手法)が用いられた。本展示スペースでは、その舞台裏を垣間見ることができる。

なおTAICCAもバーチャルプロダクションスタジオを経営しており、台湾発作品を技術面でもバックアップしているそうだ。

Onirica ()

暗闇の中に巨大スクリーンが設置された「Onirica ()」。イタリアのボローニャ大学とアメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校がともに制作した同作は、テキストを映像化する技術を用いて作られたものだ。2万8748人の睡眠時の夢を集め、すべてを1時間35分11秒の連続した映像として表現した。

Colored

1955年米アラバマ州、15歳のクローデット・コルビンはバスの中で白人に席を譲らなかったとして罪に問われ、逮捕された。

フランス・台湾合作「Colored」は、フランスの作家タニア・ド・モンテーニュが、コルビンの生涯をテーマに手がけた小説をもとにした作品。AR(拡張現実)技術を用いて、コルビンが逮捕された際の状況を体験することができる。

Love Letters for Aillen: Human vs. AI ChatGPT Interactive Novel Project

近年すさまじい勢いで進化し続けるAIチャットサービス・ChatGPT。同プロジェクトでは作家である寺尾哲也、徐珮芬、劉梓潔、蕭詒徽がそれぞれの役柄でAIのAillenにラブレターをつづり、林新惠がChatGPTを操作した。それぞれと手紙のやり取りをしたAillenが、最後に恋人として選んだのは?

PITCHING

続いて紹介するのは、TCCFのメイン企画の1つであるPITCHINGだ。参加者が企画をプレゼンし、国内外の出資者から支援を募ることができるPITCHINGでは、今年初めて、世界中から企画を募集し、世界29の国と地域から、539の企画の応募があった。同企画ではクリエイターとバイヤーに出会いの場を提供するだけでなく、作り手の背中を押すため国内外の組織などにより29個の賞を用意。全体で500万台湾ドル、日本円でおよそ2300万ほどの賞金が準備された。

今年の主要部門は映像化に期待のかかる映画やドラマの企画を紹介する「Project to Screen」と、台湾の小説やマンガ、ゲームなど優れたストーリー性を持つ作品を紹介し、映像化の可能性を探る「Story to Screen」の2つ。クリエイターは制限時間8分以内にトークやスライド、映像などで自身の企画の魅力をアピールした。

「Project to Screen」は英語がメインとなっており、中国語ができなくても参加可能。TAICCAの職員に聞いたところ、英語が堪能ではない参加者もいるが、プレゼンのために練習し、登壇しているとのことだ。

会場にはミーティングルームも用意されており、クリエイターはバイヤーと直接コミュニケーションを取ることができる。また世界中から参加しているクリエイターと交流することも可能だ。来年、海を超えた共同制作のチャンスをつかむのはあなたかもしれない!?

どんな作品が受賞した?

MOTHER MAYBE

大賞にあたるTAICCA X CNC AWARDを受賞し、3万米ドルを獲得したのが、台湾と日本によるドキュメンタリープロジェクト「雪水消融的季節」とフィリピンの作品「MOTHER MAYBE」だ。同賞はもともと1作に贈られる予定だったが、急遽2作が選ばれることになった。こんなサプライズからも良質な企画をバックアップしようというTAICCAの姿勢が垣間見られる。

「MOTHER MAYBE」は日本の東京で、20年ぶりに母親と再会した息子Benjoを描くコメディだ。母親との時間を楽しむBenjoだったが、彼は母親が夜になるとマナナンガル(羽が生えた吸血妖怪)に変身するという衝撃的な事実を目の当たりにしてしまう。なんとか母親の“病”の治療費を稼ぎたいBenjo。彼は高額な報酬を獲得できる不条理なゲームショーに身を投じていく。

制作者によると、母親がヘルパーとして海外に働きに出るため、母親不在で育つフィリピンの子供が多いのだそう。映像化する際にはフィリピンや日本で撮影したいと意気込んでいた。

深田晃司 コメント

PITCHINGで自身の新作をプレゼンした深田晃司に話を聞いた

PITCHINGに作品を応募することになったのは、私ではなく、プロデューサー主導で決まったんです。ただTAICCAがここ数年いろんな映画を支援していることは知っていました。去年、台湾で「LOVE LIFE」を上映したときに、台湾では文化政策に力を入れていると聞いたんです。TAICCAができてから一気にさまざまなことが整備されたと関係者が話していて。日本でもそういった統括機関が必要だなと思っています。今年5月のカンヌ国際映画祭で、アジア映画アライアンスネットワーク(AFAN)が発足しましたが、台湾はメンバーに入っているけれど、日本は参加していなかった。日本にはそういった窓口になりえる統括組織がない。国益を損なうレベルで影響が出ているのではないかと感じています。TAICCA は日本でいうと、VIPO(映像産業振興機構)が近いポジションなのかなという印象です。

各国のマーケットが力を入れているのは、どれだけ多様な人が集まるかというところだと思います。TAICCAは始まったばかりなので、これからではあると思うんですが、台湾政府が多くの助成などを準備しており、TAICCAも作品に投資したりしていて、熱気も高いので、たくさんの人が集まる場所になっていくのではないかと思います。

【関連記事】国による映画機関の必要性とは、韓国KOFIC委員長が日本側のパートナー不在を指摘