マチュー・アマルリックが来日、俳優・監督業の経験回想 (original) (raw)
「彼女のいない部屋」の監督マチュー・アマルリックが来日し、本日9月16日に東京のBunkamuraル・シネマで舞台挨拶に登壇した。
「彼女のいない部屋」は物語の詳細は伏せられており、本国フランスでは「家出をした女性の物語、のようだ」という紹介だけで封切られた作品。主人公クラリスを「ファントム・スレッド」「オールド」のヴィッキー・クリープスが演じた。
アマルリックは「この数年、私たちは離ればなれでようやくお会いできた。ここにいられることをうれしく思います」と日本のファンに笑顔を向ける。来日前、本作のイベントで「ドライブ・マイ・カー」の監督・濱口竜介とオンライン対談を行ったアマルリック。「僕自身、日本の映画にインスパイアされていて、映画を作りながら黒沢清監督、河瀬直美監督、青山真治監督などの影響があると感じました。でも濱口監督の作品はほとんど知らなかったから、だからこそ“いとこ関係”のようなものが表れたんだと思う」と述べ、「ドライブ・マイ・カー」と本作に共通項が見出せたと言及する。また主人公クラリスについて「パラレルワールドを信じていて、亡霊と一緒に生き延びようとしている」人物だと説明し、「我々フランス人は合理主義なところがあって、今生きているのと別の世界を許容しない国民性がある。でもクラリスは死者たちと楽しみながら生きることができるヒロインだと思います」と分析した。
クリープスの起用はポール・トーマス・アンダーソン監督作「ファントム・スレッド」がきっかけだったそう。同作でウェイトレスを演じたクリープスが扉を開けて現れるシーンがあり、脚本を執筆していたアマルリックの脳裏にまさに彼女が“現れた”という。撮影については「本当に楽しく喜びがあふれた現場だった」と述懐。俳優としても経験豊富なアマルリックだが、監督業の際には「役者たちのための“遊び場”をあらかじめ作っておくのが自分の役割」と入念な準備を大切にしていることを明かした。
また劇中でクラリスが出会う見ず知らずの人々との交流に関するエピソードも。アマルリックは「例えば魚屋さんだったり、カフェだったり、ガソリンスタンドだったり。自分とは関係なく人生が続いてるところに足を運びたくなったんじゃないかな」とクラリスの行動について思いを馳せ、「僕自身もちょっと苦しいときに外に出て『この世界は僕のことを全然必要としていない』と我に返ると、自分の悩みが相対化されます。苦しいからこそ、見知らぬ人と話したくなることってありますよね。クラリスもそこに安らぎを見つけたわけです」と主人公への共感を口にする。
17歳頃から映画の制作現場に携わってきたというアマルリック。雑用から編集、小道具スタッフ、監督助手など裏方仕事も経験し、アルノー・デプレシャンに抜擢された主演作「そして僕は恋をする」でブレイクを果たした。「現場では技術スタッフが奔走しているし、俳優たちもいいものにしようと努力している。そこにカメラの前とか後ろとか境界はない」と真摯に語るアマルリック。「今回の作品に関しては、とりわけ俳優としての経験が生きました。クリープスら俳優たちと言葉を介する必要がない。空間の取り方、ちょっとしたしぐさやリズムといったことを今回の作品ではよりよく意識できました」と振り返った。
「彼女のいない部屋」はBunkamura ル・シネマほかで上映中。なおアマルリックは9月19日に愛知・伏見ミリオン座、20日に大阪のシネ・リーブル梅田と京都・京都シネマでも舞台挨拶に登壇する。
※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記
マチュー・アマルリック舞台挨拶
「彼女のいない部屋」
2022年9月19日(月・祝)愛知県 伏見ミリオン座
2022年9月20日(火)大阪府 シネ・リーブル梅田、京都府 京都シネマ
イメージフォーラム・フェスティバル2022
2022年9月18日(日)「Zorn III(2018-2022)」東京都 スパイラルホール
2022年9月24日(土)「トラララ」SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)
出町座・特別企画
2022年9月19日(月・祝)「Zorn III(2018-2022)」京都府 出町座
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