木村知貴が小さな港町で生きる盲目の青年に (original) (raw)
第16回田辺・弁慶映画祭、第23回TAMA NEW WAVEでグランプリに輝いた「はこぶね」が、8月4日より東京・テアトル新宿ほか全国で順次公開。俳優の磯村勇斗、マンガ家の内田春菊、映画監督の瀬々敬久ら著名人の推薦コメントも到着した。
本作は小さな港町で生きる視力を失った男を主人公に、“視覚に頼らない世界”のあり方と、1人の青年の生き方を描いた作品。主人公は事故で視力を失ってから、時折、おばに面倒を見てもらいながら生活する西村芳則だ。西村は、かつて一緒に通学していた同級生の大畑碧と再会。感性を失わず生きようとする西村の姿は、周囲の人々の心を振るわせていく。
自主・商業の枠にとらわれず、数々の映画に出演してきた木村知貴が西村役で主演。田辺・弁慶映画祭では俳優賞スペシャルメンション、TAMA NEW WAVEではベスト男優賞を受賞した。高見こころが東京で役者をする大畑、外波山文明が認知症の進む祖父を演じたほか、内田が西村の母が他界してから生活の面倒を見るおばに扮している。五十嵐美紀、愛田天麻、森海斗、範多美樹、高橋信二朗、谷口侑人も出演。
監督を務めたのは1989年生まれ、兵庫県出身で映画美学校フィクションコース修了生の大西諒。IT企業の営業から映画配給会社への転職を模索して映画関連のワークショップに参加した際、制作に魅力を感じて美学校に入学した経歴を持つ。30歳の未経験ながら一から映画制作を学び、在学中に複数の短編を監督。「はこぶね」は卒業後に制作した初の長編作となった。
磯村は「世の中を窮屈にさせているのは自分の感性かもしれない。盲目の青年から僕は気付かされた」とコメント。瀬々は「木村知貴の目が良い。拒絶でもなく容認でもなく赦しでもなく、ただ存在している。今を生きるということを徹底的に描いた映画だ。それだけで尊い映画だと思う」と推薦している。そのほかのコメントは下記の通り。YouTubeでは予告編も公開中だ。
磯村勇斗(俳優)コメント
世の中を窮屈にさせているのは自分の感性かもしれない。
盲目の青年から僕は気付かされた。
内田春菊(マンガ家)コメント
あったものがなくなるのはつらい。悲しみに酔う暇もなく次々襲い掛かる現実に、淡々と向き合っていく主人公。彼には、美しい海を見て自分を癒すことすら出来ないのに。
小原治(ポレポレ東中野 / 第23回TAMA NEW WAVEゲストコメンテーター)コメント
芳則は海の中に糸を垂らすように一つ上の視点から現実を俯瞰している。あなたにも、わたしにも、そういうところがある。この映画は、そんな程度に面倒な私たちが生きる地平を、海の中から空の下に呼び戻す。
「人間はお天道様の下で生きている。そのことを忘れちゃダメだ」私が尊敬する映画監督がよく言っていた。この映画も実はそういう素朴なことが映っているんじゃないか。晴れ渡る空を運んでくるような祈りが。だから好きなんです。この映画が。
瀬々敬久(映画監督)コメント
木村知貴の目が良い。拒絶でもなく容認でもなく赦しでもなく、ただ存在している。
今を生きるということを徹底的に描いた映画だ。それだけで尊い映画だと思う。
そのうえで、解放と自由をきっちりと描いていて、
近頃、亡くなった多くの友人たちのことを思い出した。
それにしても、木村知貴の芝居で泣かされる日が来るとは、なんてことだ。
降矢聡(グッチーズ・フリースクール / 映画配給)コメント
たゆたう水面に映る像のように、私たちはおぼろげな関係性のなかで生きている。
視力を失った男、西村の映画である『はこぶね』は、視覚だけではわからない不確かな事柄を、確かな感触とともに描き出す。西村が釣り糸の振動を通して海中を感じるのと同じように、 「はこぶね」を見る私たちは不確かで豊かな人々の生き様に「触れる」ことになるだろう。
松崎健夫(映画評論家)コメント
孤独と孤高との違いは、人と人との繋がり方にある。盲目である主人公がやや孤高の側にいると思わせるのは、わたしたちの人生もまた常に暗中模索であるからなのだろう。
光武蔵人(映画監督)コメント
2017年のゆうばり映画祭で「トータスの旅」(監督: 永山正史)を観て、主演の木村知貴は日本一の映画俳優だと思った。そして今、大西諒監督の「はこぶね」を観て、木村知貴は世界一の映画俳優だと確信した。傑作「はこぶね」、必見。
矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター)コメント
去り行く者ばかりの土地に、留まることもまた人生だ。出て行けない悲しい諦観と、出て行かない意思の強さの両面を、主演の木村知貴が絶妙に醸し出す。盲目の主人公が触覚で世界と繋がるように、ひとつの人生が確かな手触りを伴って伝わってくる。人間味のこもった秀作だ。
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