「1122 いいふうふ」今泉力哉×今泉かおり対談、夫婦合作で贈る“一緒にいることをあきらめない2人”の物語 - 映画ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

渡辺ペコのマンガを実写化したドラマ「1122 いいふうふ」の世界独占配信が、本日6月14日にPrime Videoでスタートした。

本作では子供を持たず、セックスレスとはいえ仲良しな30代の夫婦が、今後もいい関係を保つために“婚外恋愛許可制”を始めるさまが描かれる。ダブル主演の高畑充希と岡田将生が、Webデザイナーとして働く妻・相原(あいはら)一子(いちこ)と、妻公認の恋人がいる文具メーカー勤務の夫・相原(あいはら)二也(おとや)をそれぞれ演じる。二也の恋人・柏木美月役で西野七瀬、美月の夫・柏木志朗役で高良健吾も共演。監督を今泉力哉が務め、脚本を妻の今泉かおりが執筆した。2人にとって今作が初の夫婦合作となった。

本作の配信を記念して映画ナタリー、コミックナタリーで特集を展開。映画ナタリーでは今泉夫妻にインタビューを実施した。2人は“ある種のノリ“で動き出した夫婦合作の紆余曲折、「すごいな」と思わされたという高畑の演技、感情があふれ出た岡田の“泣き”を振り返る。そして互いに間近で仕事をし、感じたことも明かした。コミックナタリーでは作品レビュー、原作者・渡辺ペコのメールインタビューを掲載中。

取材・文 / 岸野恵加撮影 / 望月宏樹

最初はある種のノリで夫婦合作を提案(力哉)

──初の夫婦合作となりますが、脚本を今泉かおりさんが担当するということは、今泉力哉さんからのご提案だったそうですね。

今泉力哉 妻はもともと看護師として働いていて、その合間で自主映画の監督をしていたのですが、しばらく作品は作っていなかったんです。看護師として家計を支えてくれていて。で、僕の収入が安定してきたのもあり、数年前に一番下の子が小学校に上がるタイミングで仕事を辞めていて。それで(プロデューサーの)佐藤順子さんからこの作品のお話をいただいたときに、「夫婦の話だし、家にいて時間もあるから、妻に振ってみても面白いかも?」って。この題材で夫婦合作ということで話題になったらいいかなという思いもあり、最初はある種のノリでした。

今泉力哉

今泉力哉

今泉かおり もともとまた映画の仕事をしたいと思っていたんですが、映画「聴こえてる、ふりをしただけ」(2012年)以来10年以上やっていなかったし、商業作品の経験もなかったので、確認用のプロット(※筋書きや構成)を書きながら「これでダメだったら、脚本は書かせてもらえないかな」と思っていました。やらせていただけると決まってすごくうれしかったです。

──夫婦というものの在り方に深く切り込んでいくこの作品を、夫婦合作で手がけると最初に知ったときは、正直「すごいな……」と思いました。

力哉 改めて考えると、なかなかの題材を妻に振ったな、とあとから思いましたね(笑)。夫婦のことに深く向き合うことになりかねない怖さはあると思ったので、そういう話を具体的にするというよりは、基本的には妻に委ねて書いてもらいました。

かおり 自分に重ねすぎるとつらくなりそうだなと思いつつ、描かれている題材は、私にとってはかなりフィクショナルな世界で。不倫はコソコソするものというイメージだったので、オープンにする“婚外恋愛許可制”というのは面白いな、とまず思いました。夫婦である相原(あいはら)一子(いちこ)と二也(おとや)は、いろいろなことを努力しながら、とにかく2人で一緒にいることをあきらめないんですよね。そこがこの作品の一番のポイントだと思ったし、しっかり表現したいと思いました。

「1122 いいふうふ」より、左から岡田将生演じる相原二也、高畑充希演じる相原一子。

「1122 いいふうふ」より、左から岡田将生演じる相原二也、高畑充希演じる相原一子。

力哉 僕も同じように考えていました。2人は“一緒にいるために”、公認不倫というアイデアを出している。そういう考え方は、現実世界でもあり得るんじゃないかなと思ったんです。マンガだと絵のきれいさもあってサラリと読めてしまうものを、生身の人間が演じても毛嫌いされないもの、不愉快にならないものにできるか、かつ「フィクションじゃん」と思われないようなリアリティをいかに持たせられるか……をすごく考えましたね。

渡辺ペコ先生はすごくセリフにこだわりのある方なんだろうなと(かおり)

──マンガを映像化するにあたっては、リアリティを追求するとそのまま表現できない部分も多いと思うんです。でも今回のドラマでは、マンガのセリフがそのまま使われている部分が多いことに驚きました。渡辺ペコ先生のセリフはテンポがよく、独特な魅力がありますが、「夫に痛くされた」や「豆まきみたいに言わないで」など、実生活では出てこないような言い回しもそのまま採用されていて、でも違和感がなかったんです。忠実に盛り込むことを意識したのでしょうか?

マンガ「1122」第1巻カバーイラスト

マンガ「1122」第1巻カバーイラスト

かおり そうですね。原作者の渡辺ペコ先生はすごくセリフにこだわりのある方なんだろうなと感じて、あまり変えないほうがいいかなと、わりとそのままにしたんです。一方で監督もセリフにこだわりのある人なので、「監督次第で変えてもいいよ」と伝えつつ、脚本を渡しました。

今泉かおり

今泉かおり

力哉 セリフは完全に自分の好みに寄せるときと寄せないときがあって、自分が好きなしゃべり言葉くらいまで落とし込む場合もあるんですが、今作はマンガのセリフのニュアンスを生かさないと空気が変わってしまうと思いました。ただやっぱり文章として読むのと発語で聞くのでは違うので、ペコさんと一度食事をさせてもらったときに「場合によってはわかりやすい言葉に変えてもいいですか?」とお聞きしたんです。「音としての感覚までは意識していなかったので、伝わるのが難しい場合は変えても大丈夫ですよ」と言ってくれましたね。

──では、現場でテストをしてから言い回しを変えた部分もありましたか?

力哉 はい。自分は1回役者に好きにやってもらってから、ずれていたら調整していく演出スタイルなので、そんな検証を都度しながら進めていました。さっきおっしゃっていた、ベッドで二也に突き飛ばされた一子が「夫に痛くされた」とこぼすシーンは、撮影したベッドのヘッドボードがクッションタイプだったんですよね。なので「これは頭をぶつけても深刻な雰囲気にはならなそうだから、マンガそのままの言い方で成り立ちそうだな」と考えたりもしました(笑)。

高畑充希さんはフィクショナルな芝居がうまい(力哉)、岡田将生さんの二也は原作とは違う新鮮な二也(かおり)

──そうした特徴的な言い回しも、(一子役の)高畑充希さんと(二也役の)岡田将生さんが生み出す絶妙な温度感によって、しっくりくる表現になっていたように感じます。

力哉 高畑さんは、ちょっとオーバーに演じるのがすごく上手で。それは僕が演出で持ってはいけない部分なんですよね。例えば一子が和室に入ってきて「ビリーズブートキャンプ」のDVDを探すシーン。普通リアルにやるなら、探しているそぶりをしながら扉を開けるか、ダラダラ入ってきて探す感じになると思うんです。でも高畑さんは扉を開けて一瞬ピタッと止まって、そこから入ってくる。そういうフィクショナルな芝居がめちゃくちゃうまい人ですね。それは無意識にかもしれないんですけど、編集したあとの画が頭の中で想像できているというか。瞬時に把握しているんだろうな、と。現場で何度も「すごいな」と思っていました。

高畑充希演じる相原一子。

高畑充希演じる相原一子。

かおり 高畑さんは、もう雰囲気が全部一子ちゃんになっていましたよね。私は原作を読んで、一子には身長が少し高いイメージがあったんです。高畑さんはそこまで身長が高くないし、岡田さんとの身長差もけっこうあったんですが、映像を観てみるとしっかり、原作のちょっとマニッシュな一子の雰囲気があって。もともと高畑さん自身にもそういう部分があるのかもしれないけど、しっかり表現されているなと思いました。逆に、岡田さんはオリジナルの二也になっている気がして。

力哉 原作とちょっと違うよね。

かおり 岡田さんの二也のほうが少し天然っぽいというか、おっとり感が強い印象。そこは自分で肉付けしてきてくれたんじゃないかな。原作とは違う新鮮な二也で、面白かったです。

岡田将生演じる相原二也。

岡田将生演じる相原二也。

──確かに原作の二也よりも、悪気のない感じが強まっていたかもしれないですね。

かおり そうなんですよね(笑)。天然ゆえに憎たらしいというか、素でやっている感じ……原作のほうが少しスマートに見えるというか。

力哉 なるほどね。どっちがよかったのか、実は僕はいまだにわかっていなくて。でも、一歩天然側に振らないと、岡田さん自身が生理的に無理だったのかなという気がするんですよ。不倫という行動の意味のすべてをわかっていてスマートにこなしているより、ある種の天然というか、自然とそうしてしまう人の感じで演じたほうが、リアリティを保てたのかなという気がします。岡田さん、「ちょっと泣きすぎじゃない?」ってくらい泣いている場面もあって(笑)。

──アドリブで涙を流していたんですか?

力哉 自然な感情だと思うので、アドリブというのとも違うのですが。別れるかどうかを一子と話し合うシーンで、嫌だ、つらい、って感情があふれすぎていて。でも感情でやっているから止めづらいなと、言葉を選んで少し黙っていたら、岡田さんのほうから「すみません! こんなに泣いちゃダメですよね! わかってます……」と。「あ、気付いてくれてる。よかった」と思って、でも僕も「いや、でも本当に気持ちがあふれて泣いちゃうときはいいですよ」と伝えたら、次のテイクでもがっつり泣いていて(笑)。あんまり二也が泣いてしまうと一子が悪人っぽく見えてしまう懸念もあった場面なので、難しかったですね。でも、たとえ憎たらしさがあっても、嫌な人や策略的な人だという印象は、岡田さんが生み出す雰囲気によってまったく感じませんでした。

──二也の婚外恋愛の相手である柏木美月と、その夫の柏木志朗が真剣にぶつかりあうさまにも、とても胸を打たれました。志朗は冷徹で家庭を顧みないという難しい役どころですが、高良健吾さんが演じることによって、説得力と人間味が生まれている気がしました。

力哉 志朗は一番嫌なやつに見えてしまう可能性がある人物ですよね。でも後半にかけて一番変化していくキャラクターでもあって。しっかり描かないと、唐突に改心したように見えてしまう可能性もある。だから脚本で、子供のことに悩んでいる描写を少し追加したよね?

かおり 書店で育児書を探すシーンは原作にはなくて、足した部分です。私からすると志朗が一番現実感のないキャラクターなので、ともすれば「こんなに冷たい人いるのかな?」と思われる気がして。その背景をよりわかりやすくしたほうがいいかなと思いました。

左から高良健吾演じる柏木志朗、千葉惣二朗演じる柏木ひろ、西野七瀬演じる柏木美月。

左から高良健吾演じる柏木志朗、千葉惣二朗演じる柏木ひろ、西野七瀬演じる柏木美月。

──志朗と美月の息子のひろくんは発達に遅れがある子で、美月がその育児に悩むさまが丁寧に描かれていました。お二人も3児の親ですが、子役の演技についてはどのようなことを意識しましたか?

力哉 子役のオーディションは時期を分けて2回やって、たくさんの子に会いました。(ひろ役の)千葉惣二朗くんはおそらく映像の経験があまりなくて、撮影中にカメラを見ちゃったり、1回カットが掛かるとどっかに行っちゃったり(笑)。大変なこともあったんですけど、うまさや技術が見えてしまうとこの役はもう無理なんですよね。ある種の落ち着きのなさや奔放さを生かして撮りたかった。本当に彼でよかったなと思っています。それに発達の度合いってグラデーションだから、ただオーバーにやるのも違うし、表現するのが難しくて。助監督もいろいろ調べてくれて、適した温度感になった気がしています。

──西野七瀬さんが演じる美月は、メイクや服装などからも疲れた主婦という印象がより強調されていて、西野さんの新境地を見た気がしました。でも「こんなにも育児の重さを背負っていたらそうなるよな」という説得力があり、とてもリアルで。

西野七瀬演じる柏木美月。

西野七瀬演じる柏木美月。

力哉 それはヘアメイク部と衣装部のおかげですね。クランクインのとき、西野さんの髪が少し乱れているように感じて、僕は「ちょっと整えたほうがよくない?」って思っちゃったんですよ(笑)。でも編集でつながったものを観たら「こういうことか」と。きれいにするのは簡単だけど、乱すのは難しい。自主映画の頃から知り合いのヘアメイクさんなので、信頼感は高かったですね。

かおり 自分も「ほかの子ができるのに、うちの子はこれがまだできない」とか、子育てに悩んだ時期があったので、「美月は本当につらいんだろうな」と思いながら書いていました。西野さんには乃木坂46時代のキラキラとしたイメージが強かったんですけど、お母さんに見えたし、西野さんがもともと持っている品のよさというか上品な感じが、美月にすごく合っていると感じました。ゆっくりな話し方もイメージ通りでしたね。