「Mommy/マミー」グザヴィエ・ドラン - 映画ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
世界の映画界が待ち望んだ若きスター監督、グザヴィエ・ドラン。19歳で監督デビューすると、瞬く間に映画界の寵児となり、25歳で発表した5作目「Mommy/マミー」では、カンヌ国際映画祭審査員特別賞をジャン=リュック・ゴダールと同時受賞。“新しい波”の到来を象徴する存在だ。
映画ナタリーはモントリオールでドランの独占インタビューに成功。最新作「Mommy/マミー」について、先人たちについて、映画界の常識を打ち破る異才らしい本音を語ってもらった。
聞き手 / 岡本太陽 構成・文 / 岡大 撮影 / Shayne Laverdière
母親というのは誰にとっても原点だからね
──「Mommy/マミー」はあなたのデビュー作「マイ・マザー」と同じく、母親、母性をテーマにした作品と言えますが、原点回帰したのはなぜですか?
今回は、母親の勇気と強さ、そして尊厳を描きたかった。ダイアンとカイラという2人の母親は、困難に直面しても決して屈しない。そして尊厳を守るために戦っているんだ。同じ映画を2度撮っても意味がないと思っているけど、母と息子というテーマへ回帰できたのはうれしく思っているんだ。内容はまったく違うし、母親というのは誰にとっても原点だからね。
──ワインを飲みながら交わすダイアンとカイラの会話が、とてもリアルで印象的でした。
子役のときから大人に囲まれて仕事してきたし、シングルマザーだった母やその友人とともに過ごすのが僕にとっての日常だった。だからダイアンとカイラは僕が子供の頃に周りにいた人たちさ。友達がいなかったから、僕は同年代の子たちとは遊ぶこともなくて、母や大叔母、父の妹ら女性たちに育てられたんだ。人が会話しているのを見たり聞いたりするのが好きで、笑い方や泣き方まで細かく真似していたよ。僕はとにかく大人を観察してばかりいる子だったんだ。
──ステレオタイプな人物が一切登場しませんが、どうやって個性豊かなキャラクターを造形していったんですか?
キャラクターは自然に生まれるものだから説明はできないな。僕が書きたいのは、その人物が生きるための権利、社会の中に溶け込むための権利、または普通の人たちと共存するための権利を勝ち取ろうと闘う物語。だから、シチュエーションに負けてしまうキャラクターじゃなく、どんなときも強いキャラクターが好きなんだ。悲しげな人間はあまり描きたくない。そして、傷付きやすく、面白おかしくて、優しいキャラクターに惹かれるんだ。心の広さが伝わってくるような話し方や態度で、人生観がにじみ出ているような人物がいいね。まあ、一言で言うなら味のあるキャラクターかな。
人生は悲劇的だけどいつだって希望はある
──アスペクト比1:1の画面、しかもその効果を最大限に発揮したシーンが斬新でした。どういう意図でこのアスペクト比を採用したんですか?
1:1の画面でPV(Indochine「College Boy」)を撮影した後、この比率から独特なエモーションが生まれることに気づいたんだ。正方形のフレームに顔を収めると、とてもシンプルに映る。余計なものは付け足せないし、ごまかしが利かないんだ。キャラクターが主役になって、観客の視線も否応なしに集まり、目が離せなくなる。
──本作の音楽はダイアンの亡き夫が生前に作った“ベスト盤”という設定のようですが、選曲は自分でしたんですか?
このベスト盤はダイアンの夫が好きな曲を集めたものではなくて、カリフォルニアに車で家族旅行したときに彼らが聴いていた曲、という設定なんだ。彼は亡くなる前に、旅で聴いた曲を集めたミックステープを作って言うんだ、「この曲を覚えて旅がどんなに楽しかったか思い出すんだ」って。選曲は自分でしたよ。聴いていてワクワクするような曲で構成したつもりさ。2000年代のヒットソングは気分をハッピーにしてくれる曲が多かったから、あの家族もハッピーになるんじゃないかと思ってね。
──「Mommy/マミー」には出演せず、監督に専念されていますが、いかがでしたか?
僕は監督をやっていてもその仕事だけに専念できない。僕が役者を演出するときは、彼らと一緒に演技してみせるからね。役割を明確に線引きするのは、僕のスタイルじゃない。役者とアイデアを共有するんだ、「僕ならこうするんだけど、そのやり方は考えたことがあるかい?」ってね。そうやって一緒にアートを作り上げる感覚なんだ。監督をやるからこそ、そのとき学んだたくさんの知識が役者をやる上で生かせるし、役者をやっていたからこそ監督をやる上で生かせる知識もたくさんある。ありがたいことだよ。膨大な情報を得ることができて、鏡の向こう側にも自由に行き来できるんだから。
──冒頭から悲劇の予感がするのに、不思議と重苦しさのない解放的な後味が残ります。
たしかに映画の中で悲劇は起こってしまう。その物語の冒頭になぜ法律に関する説明を加えたかというと、ダイアンとスティーヴ、そしてカイラがブランチしたり、サイクリングに出かけたりして楽しんでいても、その冒頭文が必ず観客の心のどこかで引っかかってしまうことを狙ったからなんだ。でも冒頭文はキャラクターとはなんの関係もなくて、観客にとっての情報にしか過ぎない。キャラクターは映画の中で幸せな時間を生きられるんだ。それが過ぎ去ってしまうまではね。人生は悲劇的だけどいつだって希望はある、そう感じさせる映画にしたかったんだ。
「Mommy/マミー」2015年4月25日公開
架空の世界のカナダで、スキャンダラスな法律が成立した。発達障害児を持つ親が何らかの困難に陥った場合は、自らの意思で子の養育を放棄し、施設に入院させる権利が保障されたのだ。ダイアン・デュプレは15歳の息子、スティーヴと暮らすシングルマザー。ADHD(多動性障害)があるスティーヴは、他人に対して攻撃的な態度を取りがちで、彼の面倒を見ることにダイアンは不安を感じている。そんな2人はある日、引きこもり気味で吃音の悩みを抱えた隣人、カイラと知り合う。次第に親交を深め、家族に似た関係性を築いていくが……。
スタッフ
監督・脚本・製作:グザヴィエ・ドラン
キャスト
ダイアン:アンヌ・ドルヴァル
カイラ:スザンヌ・クレマン
スティーヴ:アントワン=オリヴィエ・ピロン
Photo Credit by Shayne Laverdière / (c)2014 une filiale de Metafilms inc.
グザヴィエ・ドラン
1989年3月20日生まれ、カナダ出身。6歳より子役としてキャリアをスタートさせ、19歳のときに「マイ・マザー」で監督デビュー。これまでに4本の長編映画を発表し、すべての作品がヴェネツィア、カンヌなどの主要な映画祭へ正式出品された。「Mommy/マミー」ではジャン=リュック・ゴダール監督とともに、カンヌ国際映画祭の審査員特別賞に輝いた。ハリウッドを舞台にした次回作「The Death and Life of John F. Donovan(原題)」は、セレブリティの日常やマスメディアの洗脳を暴くブラックコメディ。ジェシカ・チャステイン、キット・ハリントン、スーザン・サランドンらを起用し、初の英語劇に挑戦する。俳優として出演した「エレファント・ソング」の公開を2015年6月に控えている。