「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」特集 - 映画ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
ウディ・アレンの監督作「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」が、7月3日に全国公開される。この映画は、アレンが幾度も描いてきた米マンハッタンの街を舞台に、運命に翻弄される大学生カップルの週末をつづったロマンティックコメディ。ティモシー・シャラメとエル・ファニングが主人公カップルを演じ、セレーナ・ゴメスやジュード・ロウが共演に名を連ねた。
北米では2018年に封切り予定だったが、「#MeToo」運動の影響で中止となった本作。2019年初夏のポーランドでの公開を皮切りにヨーロッパでの上映が始まり、このたび日本でも公開される運びとなった。映画ナタリーの特集では、そんな「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」の作品としての魅力に迫る。前半では今をときめく実力派俳優シャラメの名シーンを、イラストとファンの声を交えて紹介。また後半では、「脱脱脱脱17」などで知られる映画監督・松本花奈にレビューを執筆してもらった。22歳にして最前線で活躍する彼女は、アレン流王道ラブコメとも言える本作をどう捉えたのか?
文 / 浅見みなほ イラスト / おおやまゆりこ レビュー(P2) / 松本花奈
「君の名前で僕を呼んで」や「ビューティフル・ボーイ」での繊細な演技が評価され、主人公に恋する幼なじみ役で出演した「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」での好演も記憶に新しいティモシー・シャラメ。本作で彼は、モラトリアム真っ只中のニューヨーカー・ギャツビーを演じている。劇中では、エル・ファニング演じる天真爛漫な恋人アシュレーに予定をドタキャンされ、セレーナ・ゴメス扮する元恋人の妹チャンに再会するという、彼の予想もつかない週末が映し出されていく。
このコーナーでは、本作でシャラメが見せてくれるさまざまな一面を、すでに作品を鑑賞したファンの声とともにお届けする。さらにイラストレーターのおおやまゆりこに、ファンアンケートで圧倒的人気だったシャラメの“ピアノ弾き語りシーン”を描き下ろしてもらった。
イラスト / おおやまゆりこ
偶然再会したチャンの実家に立ち寄ったギャツビーは、そこにあったピアノでチェット・ベイカーの演奏などで知られるジャズの名曲「Everything Happens to Me」を弾き語る。「ゴルフの約束をすると決まって雨が降る、パーティを開くと上の階の男から苦情」「たった一度の恋、君でなければ駄目なのに」と、不運な男の失恋を歌う切ない声は、恵まれた環境で育ちながらも満たされない彼の人生を浮き彫りにしていく。どの現代音楽よりもジョージ・ガーシュウィンを愛する懐古主義のギャツビーについて、アレンは「音楽でもなんでも、昔のものが好きなんだ。それと雨の日もね」と話している。
ジャズをバックにした主人公のナレーションで始まるオープニングは、まさに“THE ウディ・アレン映画”。これまでのアレン作品の主人公もそうだったように、ラルフローレンの定番ジャケットに身を包み、ジャズの名曲を愛し、ポーカーに勤しむギャツビーは「アニー・ホール」の若きアレンを彷彿とさせる。またF・スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」の主人公のように、本作のギャツビーは過去に生きる人間。アレンは「ギャンブルは彼にとってノルタルジックでロマンティックなもの。ブロードウェイが賭博やどんちゃん騒ぎであふれていたとするデイモン・ラニアンの小説の世界を思い起こさせるもので、彼はそこに強いロマンを抱いている」と解説する。
アシュレーの学生新聞用の取材のため、一緒にマンハッタンに行くことが決まったギャツビー。ニューヨーカーの彼は、アリゾナ出身の彼女に街を案内したくてたまらない。「カーライルを予約する。ピアニストが名曲を弾き語りするバーがあるんだ」「父のコネでミュージカルの『ハミルトン』のチケットを」とウキウキで計画を語るギャツビーだったが、彼女の頭は取材のことでいっぱいのようで……。彼の分刻みのプランは跡形もなく崩れていくことになるが、“時間”を本作のテーマに据えたアレンは「ニューヨークでは予定通り物事は進まない。常に時間との闘いだ。時間を操ったりしようとすることは、結局無理なんだ」と述べている。
取材で忙しいアシュレーにデートの予定をドタキャンされたギャツビーは、1人マンハッタンをさまようはめに。暇つぶしに友人の映画撮影に参加したところ、途中で雨が降り始める。カールヘアから水滴をしたたらせるギャツビーは色気満点。アレンは雨に込めた狙いを「ロマンスや愛の象徴にしたかった」「雨を憂鬱だと考えるアシュレーに対し、ギャツビーはロマンティックだと捉える」と明かす。「カフェ・ソサエティ」「女と男の観覧車」に続き撮影を担当したヴィットリオ・ストラーロが「ギャツビーが曇天のもとでアシュレーを呼ぶシーンでは、明るく情熱的な彼女のいる場所に暖かな光を照らした」と話す通り、登場人物の性格は照明やカメラワークでも表現されている。
ギャツビーは映画の撮影現場で、成長したチャンと再会する。そこでキスの演技を求められるギャツビーだったが、アシュレーへの罪悪感から乗り切れず、チャンから「口を閉じたままキス!?」とダメ出しを食らう。さらに、元恋人が自分のキスを「10段階中4」と評価していたことを聞かされてしまい……。
アシュレーが今何をしているのか気が気でないギャツビーは、タクシーで偶然再会したチャンに「今の僕は砂漠をさまよってる気分さ」と弱音を吐くありさま。チャンに「彼女に優先順位を付けろと言えば?」と促されたギャツビーは勢いで電話をかけるが、すぐ弱気に。「何を話せば?」とチャンに助けを求め、「優柔不断な人ね、姉が別れた理由がわかった」とあきれられ……。