主演・沢田研二が四季折々の食と向き合う、「土を喰らう十二ヵ月」“二度おいしい”イラストエッセイも - 映画ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
沢田研二が主演を務めた「土を喰らう十二ヵ月」の豪華版Blu-ray / DVDが、5月10日に発売された。
水上勉によるエッセイ「土を喰う日々 —わが精進十二ヵ月—」を原案に、中江裕司が映画化した本作。人里離れた信州の山荘で山菜やきのこを採り、畑で育てた野菜を料理して、季節の移ろいを感じながら原稿をしたためる作家ツトムの姿が描かれる。ツトムに扮した沢田は本作での演技が評価され、第96回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第77回毎日映画コンクール男優主演賞ほか国内映画賞を数々受賞した。また、彼の担当編集者・真知子を松たか子が演じ、劇中の料理は料理研究家の土井善晴が手がけている。
この特集では、唐仁原多里によるイラストと、柴﨑里絵子によるレビューで本作の魅力を深掘り。1年半もの時間を掛け、豊かな自然と向き合って撮影された本作の見どころを解説していく。
イラスト / 唐仁原多里文 / 柴﨑里絵子(レビュー)
唐仁原多里がイラストを描き下ろし
唐仁原多里によるイラスト。
唐仁原多里によるイラスト。
柴﨑里絵子 レビュー
俳優・沢田研二とその手
沢田研二が演じる作家ツトムは信州の山荘で、山の実りや畑で育てた野菜を料理しながら原稿と向き合う生活を送っている。沢田の演技は作品を彩る精進料理のように一切の無駄がなく、その佇まいに一層の深みを与えているのが彼の手だ。アーティストとしてマイクを持ち、歌に合わせてたばこをくゆらせたり、感情を表現してきたセクシーな沢田の手は、さまざまな人生経験を経てしわが刻まれ、円熟の境地に達している。その手こそ、ペンを握り、旬の食材を採って料理をするツトムを語るのに必要不可欠な存在なのだ。その物語を語る手をカメラが丁寧に追いかける。沢田は料理の手際もなかなか。自宅でもぬか床を混ぜている(※)というのだから納得だ。
※編集部注:豪華版Blu-rayに収録されているスペシャルメイキングの中で、沢田が明かしている。
沢田研二演じるツトム。
土井善晴が手がけた“旬を食す”料理
立春には小芋の網焼きと干し柿、小暑は梅酢。義母の通夜ぶるまいにはごま豆腐となすの油味噌に、みょうがのおにぎり。献立は畑と相談し、採れたてを焼き、和え、羽釜で米を炊く。本作の見どころの一つである、食欲をこれでもかと焚き付けてくるツトムの手料理の数々は、料理研究家の土井善晴が担当。こだわりぬいた道具を使い、吟味された器で出される旬の素材を使った料理は、画面を通しておこげや出汁の匂いがふわっと漂ってきそうなほど。料理シーンはワンテイクのみ。作り、盛り付け、食べるところまで一気に撮ったという。松たか子演じるツトムの恋人の真知子が、待ちきれないとばかりに次々と旬の料理を口いっぱいに放り込む姿から、そのライブ感と、どんな食レポも敵わない「おいしい」が伝わってくる。
「土を喰らう十二ヵ月」より、通夜ぶるまいで提供されるみょうがのおにぎり。
「土を喰らう十二ヵ月」メイキングより、左から中江裕司、土井善晴、沢田研二。
二十四節気に寄り添った撮影
北アルプスをのぞむ信州を舞台に、四季の移ろいを主人公とともに体感している気持ちになるのは、ドキュメンタリー的なリアルな映像作りにある。作品で使う素材はすべて本物であることにこだわり、畑を一から耕し、スタッフが現地に移り住んでほうれん草や大根、茄子やきゅうりはもとより、あげくには胡麻まで、20種類以上の野菜を育て、季節に合わせて収穫できるようスケジュールを組んだという徹底ぶり。自然が発する音や、山に姿を現す動物たちの姿も、1年半の撮影期間中に出会ったものをカメラに収めているのだろう。臨場感が湧いてくる。一方で思いがけないうれしいサプライズもある。感情がほとばしるシーンで流れるパワフルなジャズのサウンドだ。人が食べることで生きているように、生命を感じさせるジャズが静かなる映画を力強く動かしていく。
「土を喰らう十二ヵ月」より、ツトムの部屋の窓から見える景色。
「土を喰らう十二ヵ月」より、ツトムが住む古民家。