進化を続けるラップアイドル (original) (raw)
the scene of RAP IDOLS 第5回[バックナンバー]
進化を続けるラップアイドル
メンバーの新陳代謝で確立されるオリジナリティ
2018年11月26日 15:07 2
2018年はラップアイドルシーンにおいて重要な年になるであろうし、執筆している11月において、その感触が確かにある。最終回では2018年がなぜ重要な年になっているかを解読したい……のだが、本題に入るにあたり、まずは第2回でラップアイドルのオリジネイターとして紹介したlyrical schoolとライムベリーのその後の動向について紹介したい。
文 / 高木"JET"晋一郎
改めてリリスク、ライムベリーのこれまで
tengal6は2012年6月にT-palette Recordsに加入すると共にlyrical schoolに改名した。翌13年1月にmarikoが卒業、3月にhinaが加入、6月にerikaが卒業、8月にminanが加入。ami、ayaka、mei、minan、hina、yumiで12月にアルバム「date course」をリリースし14年11月にはそれまでのキャリアで最大規模のワンマンとなる「lyrical school oneman live 2014 @ LIQUIDROOM」を開催した。その後もシングルをコンスタントに発売したり出演ライブを増やしたりと、キャリアを順調に伸ばしていく。
そんなリリスクに続くように、ライムベリーも12年10月にT-palette Recordsに加入し、13年3月にシングル「R.O.D. / 世界中にアイラブユー」を、同年7月にFunky Bureauの「Clap Your Hands Together」をサンプリングしたシングル「SUPERMCZTOKYO」を発表。14年4月にMC YUKAが卒業してMC MIRI、MC HIME、DJ HIKARUの3人体制で再始動すると、「清く正しくイルマティック / それがアイドル稼業」というメタ視点をリリックに盛り込んだ佳曲「IDOL ILLMATIC」をリリースした。
15年2月にはMC HIMEとDJ HIKARUが卒業し、それまでプロデューサーを務めていたE-TICKET PRODUCTIONとも契約を解消。3月からMC MIRIと、新加入したMC MISAKIによる2人体制になる。また卒業したMC HIMEとDJ HIKARUは、E-TICKET PRODUCTIONのSoundCloudアカウント上でソロ曲(DJ HIKARU「きみとぼく」、MC HIME「クオリア」)を発表。並行してDJ HIKARUは信岡ひかるとしてアイドル、モデルとしての活動をスタートさせた。さらにE-TICKET PRODUCTIONも吉田凜音と制作した「りんねラップ」など、さまざまなアイドルを客演に迎えたプロデュースアルバム「E TICKET RAP SHOW」をリリース。この企画はシリーズ化されている。
そしてこの後、ラップアイドルシーンに激震が走る。2015年10月にリリスクからhinaが卒業し、元ライムベリーのMC HIMEがリリスクへ加入することが発表されたからだ。
2組はラップアイドルのオリジネイター同士ということもあり、関係が悪いことはなかった……とは思いたいが、「T-Palette感謝祭」などで共演することはあったものの、2マンライブは2012年の「アイドルラップナイト」だけ。アートフォームが非常に近しいグループ同士にも関わらず共演は限られ、ミニマムな音楽ジャンル内では行われやすい、またヒップホップでも定番のコラボやフィーチャリングなどの共同制作も行われなかった。ゆえにリスナーからすると“敵対”とまではいかずとも、非常に強いライバル関係のようにも感じられた。その状況下で、ラップアイドルの中でも屈指のラップスキルを持ちながら、ライムベリー卒業後はアイドル活動を行なっていなかったMC HIME(現hime)が電撃復帰することは、驚きをもって迎えられた。
それからリリスクは激動の2016年を迎える。1月にキングレコードにメジャー移籍すると、4月にはスマホで視聴することに重点を置いたミュージックビデオが話題になったシングル「RUN AND RUN」をリリース。このMVは海外でも賞を獲得した。
5月には初の主演映画「リリカルスクールの未知との遭遇」が公開される。この映画は出演者としてANI(スチャダラパー)やBIKKE(TOKYO NO.1 SOULSET)などが登場するほか、作品のプロデューサーに脱線3のMC BOOがクレジットされるなど、Little Bird Nation色の強い作品となった。
さらにワンマンライブや主催イベントもCLUB CITTA' やZEPP TOKYOなどこれまでよりも大きな会場で開催することが増え盤石に見えたが、体調を崩していたyumiが9月に卒業してしまう。12月に5人体制でフルアルバム「guidebook」をリリースしツアーも開催するが、同ツアー内でami、ayaka、meiが卒業することが発表され、17年2月26日の「lyrical school one man live 2017 “ラストソング”」 でオリジナルメンバーが全員卒業することに。グループはhime、minanの2人に新メンバーを迎えた新体制で活動を続けていくことになる。そして同年4月にhinako、risano、yuuが加入し、5月のワンマンライブ「New Game」で5人体制での活動をスタート。初ワンマンから新曲を多く投入するなど、これまでのリリスクとの“分離”をも感じさせる動きを見せた。
一方、MC MIRIとMC MISAKIの2人で動き出したライムベリーは、アルバム「RHYMEBERRY」を15年12月にリリース。その後16年7月には福円もち(ex. 少女閣下のインターナショナル)がDJ OMOCHIとして加入する。17年6月にはMC YUIKAが加入し、3MC&1DJという結成当初と同じグループ構成に。この体制でシングル「TOKYOチューインガム」を発表するものの8月にMC MISAKIが卒業。現在は2MC&1DJで活動している。
メンバー変更による変化
ここまでざっとではあるが、リリスクとライムベリーの2012~17年の動きを振り返った。本連載ではこれまでもメンバーの変遷に多くの文字数を割いてきたが、ただの文字稼ぎにあらず。なぜなら“メンバー変更によるグループ構成の変化”が、ラップアイドルでは非常に顕著に作品やパフォーマンスに反映されるからである。ここ最近でそれがもっとも表れたのは、リリスクの新体制での活動開始時だろう。
そもそも本連載の第2回でも書いたように、リリスクのオリジナルメンバーはラップにあまり接しておらず、「RAPアイドル / 始めはトーシロー」(lyrical school「6本のマイク」より)なメンバーによって結成されたので、初めは拙いラップだった。しかしキャリアを重ねるにつれてそのパフォーマンス力とアイドル力が高まっていく姿が感じられる“成長物語”の側面があり、それが非常にエモーショナルな部分でもあった。そんな中、熱心なヒップホップリスナーであるhimeやダンス経験のあるrisanoとyuuの加入による部分が大きいと思うが、新体制のメンバーはみな最初から “ラップやパフォーマンスの体幹”が強く、ラップのリズム感やビート感に対してスムーズに体を合わせることができている。その意味でも成長物語的な魅力は残りつつも、ライブアイドルとしての凄みやラップユニットとしての確かさが、現在のリリスクの魅力としてより大きくなっている。
メンバー構成の変化により見え方や聞こえ方がガラリと変わるのは、スキルやフロウ、その人の声や佇まいが楽曲に如実に反映されるラップならではの特徴だろう。ライムベリーで言えばDJ OMOCHIのアニメ声的なハイトーンボイスが楽曲やライブに与える影響、校庭カメラガールドライで言えば、卒業してしまったがさっぴーはろうぃんの情念を感じさせるようなフロウなど、リリスク以外のグループからも多分に感じられる。ほかのアイドルグループ同様、ラップアイドルもメンバーの移り変わりが多く、極端に言えば加入したメンバーがひと月ふた月で卒業してしまうこともままある。ラップは“その人性”が現れやすいスタイルだけに、そういう意味でも“その瞬間にしか観られないライブ”が確実にある。“よく言えば”というエクスキューズは付くが(安定して見られたほうがリスナーとしては心安らかなので)、そういった点もラップアイドルの持つスリリングさだろう。
2018年のラップアイドルシーン
改めて話を本題に戻すと、2018年はラップアイドルにとって重要な事件が数々起こっている。まず4月に、ライムベリーのMC MIRIが2枚目のソロ作「spit it out」をリリースしたこと。彼女は17年からはZeebraなどがパーソナリティを務めるヒップホップ専門のWebラジオ番組「WREP」でパーソナリティを務めたり、「戦極MC BATTLE」や「CINDERELLA MC BATTLE」などのMCバトルにも参戦したりとソロ活動を活発化させている。
リリスクは2月にライブアルバム「“TAKE ME OUT” ON DEC 16」をリリースしたが、この音源となった17年12月のLIQUIDROOMでのワンマンライブでもそうであったように、ライブの演出も進化させている。17年夏の「TOKYO IDOL FESTIVAL」からはminanの骨折というアクシデントを逆手に取り、フォーメーションや定形のダンスがほぼない、いわゆる“普通のラップグループ”が見せるようなパフォーマンスも展開。現在ではそういったフリースタイルと、振り付けを入れたフォーメーションダンスの二刀流でライブを彩っている。さらにリリスクは「TIF」「@JAM」といったアイドルフェスに登場したり、資生堂「モアリップ」のテレビCMに起用されたりと露出も増加している。そんな中、18年6月にアルバム「WORLD'S END」を発表。制作陣にはスチャダラパーのBoseとSHINCO、かせきさいだぁ、Mellow Yellowらヒップホップ界の大御所から、思い出野郎AチームやRyohu(KANDYTOWN)といった気鋭のアーティスト、そして大久保潤也(アナ)や泉水マサチェリー(WEEKEND)、ALI-KICKといった現リリスクの制作を支える面々と、豪華かつツボを押さえた布陣を敷いた。それらの楽曲をしっかり形にできるメンバーのスキルに加え、ラップやパフォーマンスに対する高いモチベーション、グループ全体のクオリティの高まりは、ゲリラリリースされたシングル「秒で終わる夏 take0.0」や、現体制で最大キャパとなったSTUDIO COASTでのツアーファイナル「lyrical school tour 2018 “WORLD'S END”」の圧倒的な充実ぶりからも感じられた。
その他のラップアイドルたち
第3回の前編で紹介した“コウテカトライブ”に目を移すと、校庭カメラガールドライは2月に配信シングル「Girlz Can't」「Toronto Lot」を2作同時リリース。直後にさっぴーはろうぃんが脱退するが、4月に椎名彩花(ex. Stereo Tokyo)が“ぱちょと んぱ”名義で加入する。7月からは全国ツアー「Rainbows over Paradise tour 2018」を行い、そのファイナルとなったUNITのライブでは、レゲエやベースミュージックのイベントで使用されるEastaudioSoundsystemのサウンドシステムを会場に搬入し、異常に低音を響かせるライブを実施。テクノやベースといった音楽性を取り込む彼女たちにふさわしいライブパフォーマンスをオーディエンスに叩き付けた。また8月には7曲入りのシングル「New Way of Lovin'」を発表し、グループの変化を作品としても形にした。
校庭カメラガールアクトレスは、2月にシングル「ミギヒダリ」を、10月には「リリリ」「イナクナル」「マタイツカ」の3曲を配信リリース。さらに自主企画「亀と冷麺」を開催する一方で、メンバーの園田あいかが「ヤングジャンプ制服コレクション 2018」に選抜されたり、雑誌「BUBKA」誌上の「南波一海のライブアイドル a go go!!」へ登場したりと露出の幅を広げていった。そのように活動量、集客、変化に富んだ展開、エッジーさなどにおいて、コウテカトライブも2018年に大きな飛躍を見せている。
同じく第3回で紹介したO'CHAWANZは、ROMANTIC PRODUCTIONのプロデュースのもとコンスタントにライブを行いながら、8月に初のフルアルバム「EPISODE V」を発表した。この作品は、しゅがーしゅららのアニメ声ラップが面白く、ほかのメンバーのおぼつかなさも愛らしい、“ラップアイドル”というパッケージの原点を感じるような作品だった。またO'CHAWANZの外部プロジェクトとして、大ネタをサンプリングしたトラックやヒップホップクラシックのカバーなどヒップホップらしいアプローチで展開するWEST SIDE PRINT CLUBも始動。こちらはO'CHAWANZのメンバーに加え“MCあおぎ”として彼女のサーブ(ex. 963)、“せるちゃい”としてせるふちゃいなしすてむ(ex. 963)が参入するなど、流動的なスタイルで活動中だ。
現在ぴーぴる、れーゆるの2人で活動している963は、8月に待望の1stアルバム「963」を発表した。岩渕竜也がリリックを手がけたアルバム収録曲「NEW」などからは、はっちゃけたライブとはまた打って変わってメロウかつエモーショナルな世界観が感じられ、こちらもグループのカラーが明確になってきたと言えそうだ。
大阪発のUNDERHAIRZは大阪のほか、東京でもワンマンライブを実施。会場は超満員でドリンクの売り上げも記録的なものだったようで、“アルコールとの親和性が高いグループ”の面目躍如といった活躍を見せた。またこれまで会場配布限定で作品を発表してきたが、正規作品のリリースを計画中であることがライブで発表されており、その動向に注目が集まっている。
また“ラップアイドル”を自認していないためにここまで取り上げなかったが、RHYMESETR主催のライブイベント「人間交差点」へ出演し、ラップ曲も数多く制作しているhy4_4yhの存在も記しておきたい。
ほかにもMAGiC BOYZから派生したHONG¥O.JPの登場に加え、E TICKET PRODUCTIONプロデュースによるMIC RAW RUGAの結成(本稿を執筆している11月中旬の段階ではまだ詳細が明らかになっていないが「“女の子ラップ”グループ」という肩書なのでアイドルを自認してはいないようだが)、さらに音源の発売はないが、ライブではオリジナル曲やRHYMESTER「Kids In The Park feat. PUNPEE」のカバーを披露している“まやとありさ”など、新たなグループが登場しているラップアイドルシーン(ほかにも登場していたらぜひ教えてください!)。直近でも12月にWebサイト「musicite / ガチ恋」が企画したイベント「GK NITE」で、リリスクとコウテカが2マンライブを行うなど、その脈動はさらに大きくなっている。
シーンの裾野が広がり、それぞれが独自のアプローチで活動を展開する中、この連載でも触れてきたように2018年においては既存のグループであっても再構築を経てそれに伴い変化して、オリジナリティがより形作られたように思える。その意味でも2019年には明確になってきたフォルムがより鮮明になり、そして各グループが飛躍していくことになるだろう。その飛躍に心から期待と願いを込めつつ、この連載を閉じたい。
<終わり>
※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。
高木"JET"晋一郎
ライター。ヒップホップ、アイドル、ブラックミュージック、ポップスを中心に執筆。共著に「ラップのことば」(P‐Vine BOOKs) 、構成にサイプレス上野「ジャポニカヒップホップ練習帳」(双葉社)など。
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