佐々木敦×南波一海×私立恵比寿中学・柏木ひなた&小林歌穂、えみこ先生|エビ中はいかにして変わることができたのか? (original) (raw)
佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 9回目 前編[バックナンバー]
エビ中はいかにして変わることができたのか?
私立恵比寿中学・柏木ひなた&小林歌穂、えみこ先生とアイドルの歌唱を考える
2022年3月31日 19:00 199
佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。AKB48グループの3代目総監督・向井地美音に続く9回目のゲストは私立恵比寿中学のメンバー、柏木ひなた&小林歌穂と、彼女たちのボイストレーナーである“えみこ先生”こと西山恵美子。「キングオブ学芸会」という活動初期のキャッチコピーからも明らかなように、ある種の拙さや未完成な部分も含めてグループの魅力であるというところからスタートしたエビ中ではあったが、キャリアを重ねるごとに彼女たちのパフォーマンスは進化を遂げ、今ではすっかり実力派アイドルグループという地位を獲得するまでになった。エビ中はいかにして変わることができたのか? メンバーの成長を陰で支えてきた、えみこ先生の証言を交えて振り返っていこう。
構成 / 望月哲 撮影 / 小財美香子 イラスト / ナカG
個々のいいところをどんどん出していこう
南波一海 えみこ先生は、ちょうど小林さんが加入したタイミングでエビ中の仕事に携わることになったそうですね。
えみこ先生 はい、そうです。
小林歌穂 同期です(笑)。
南波 そもそもどういう流れでエビ中とお仕事することになったんですか?
えみこ先生 私は当時Little Glee Monsterだとか、いくつかのアーティストのレッスンを担当していたんですけど、そのことを知っていた知人がスターダストの方をつないでくれたんです。ちょうどボイストレーナーを探していた時期だったみたいで。
南波 その際に、こういうグループがいて、こういう指導をしてほしいという具体的な話はあったんですか?
えみこ先生 いえ、全然(笑)。アイドルグループのレコーディングがあるので歌入れ前の声出しを手伝ってくださいみたいなざっくりした感じでオファーが来たんです。メンバーが3人(瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃)“転校”するから、サプライズで「Dear Dear Dear」とか2、3曲をライブで歌うみたいな話で。そのレコーディングだったんですね。で、曲を練習し始めたら、みんなオロオロ泣きはじめて。
佐々木敦 メンバー入れ替わりの時期で、歌ってる間にいろんな思い出がよみがえってきちゃったんでしょうね。
えみこ先生 ひなたも泣いてたかな?
柏木ひなた 泣いてた(笑)。泣いて、レコーディングがちゃんとできなかった。
えみこ先生 私はそういう状況すら知らなかったので、「なんで泣いてんの?」みたいな感じで(笑)。そんなに仲がいいグループなんだ、っていうのが最初の印象でしたね。でも当時はその1回でお仕事が終わると思っていたんですよ。
南波 ご自身の中ではレコーディングのための声出し担当という認識だったんですね。
えみこ先生 はい。何もかも知らない状況で参加してしまったので、メンバーの気持ちも汲めなかったし、あまりお役に立てなかったという気持ちが自分の中にありました。
佐々木 でも、結果的にそのあと8年続くことになるわけですよね。
えみこ先生 そうでしたね。
南波 レッスンを受けたメンバーの皆さんにも、なんらかの手応えがあったんじゃないですか?
柏木 それはすごくありました。エビ中って、ずっとボイトレの先生がいるのかいないのかみたいな感じだったんです。レコーディングやライブのたびに違う先生が付くので、その都度、歌い方がどんどん変わっていっちゃって。
佐々木 同じ曲でも先生の指導によって歌い方が変わりますよね。
柏木 そうなんです。歌い方の指導が先生ごとに違うから、みんな試行錯誤してたんですけど、そこに、えみこ先生が現れて。今でも覚えてるんですけど、「幸せの貼り紙はいつも背中に」のレッスンを受けたとき、「歌うことってこんなに楽しいんだ!」って初めて実感できたんですよ。その後スタッフさんに「今日のレッスンどうだった?」って聞かれたので、メンバー全員「あの先生がいいです!」って。
佐々木 なんといういい話。
柏木 みんなして一択だったんですよ。
小林 うん、えみちゃん一択だった。
えみこ先生 ……(突然泣きはじめる)。
柏木 えっ! ちょっと! 泣かないでよ!(笑)
えみこ先生 うれしいこと言ってくれるから……。
柏木 そんな感じで長い間、私たちに付いてくださっています(笑)。
南波 もちろん人間的な魅力もあると思うんですけど、技術的なところでも得られるものがあったわけですよね?
柏木 もともと私立恵比寿中学はメンバーそれぞれの個性を大事にしているグループではあったんですけど、歌に関しては声質や発声を全員そろえていこうという感じだったんです。でも、えみこ先生は、メンバーそれぞれ個性がバラバラなところがこのグループの魅力だということをわかってくださったのか、個々のいいところをどんどん出していこうと言ってくれて。結果のびのび歌えるようになりましたし、それが“エビ中=歌える”というイメージにつながったんじゃないかと思います。あの……そろそろ泣き止んでね(笑)。
えみこ先生 ごめん(笑)。
小林 えみこ先生には「そもそも歌とはなんぞや?」というところから教えていただいて。ちゃんと人に聴いてもらえる歌を歌うには、まずリズムが必要だとか、そういうことを1人ひとりに合ったやり方で教えてくれたんです。
柏木 あと、歌もそうですし、みんなの精神面をえみこ先生が支えてくれてるところもあって。それも私たちにとって大きいです。
小林 大人と私たちの間にいて、「大人はこういうことをみんなに言ってるんだよ」って、いつもわかりやすく伝えてくれるんですよ。
佐々木 メンバーと同じ目線で?
小林 はい。そういう部分でも助けられております(笑)。
柏木 エビ中には結成時から「キングオブ学芸会」というキャッチコピーが付いていて、なんとなく「歌やダンスがあまりうまくできなくても大丈夫だよね」みたいな雰囲気があったんですけど、それを変えてくれたのがえみこ先生だったんです。私たちが成長するために、きちんとダメ出しもしてくださるので。
キャラクターを生かしつつ技術を高めていく
えみこ先生 これはよくお話させていただいてますけど、初めて全員と会ったとき歌穂と(中山)莉子が着ぐるみ着てバックステージをうろちょろしてて(笑)。
小林 懐かしい!
柏木 レンコンと天丼の着ぐるみだ(笑)。
えみこ先生 そう。「何やってるんだろう、この子たち?」みたいな。先ほどもお話ししたように、当時はエビ中について何も知らない状態だったし、アイドルの仕事に本格的に関わるのもほぼ初めてだったから、自分のやり方でしかレッスンができなくて。それこそお腹をふんばらせるために、「うんこー!」って大声で叫んでみたり(笑)。「やっちまったかなー」と思ったんですけど、みんなケタケタ笑ってくれて。
佐々木 逆にそれがよかったのかもしれないですね。今までの先生と違うみたいな。
柏木 まったく違いました(笑)。それが当時の私たちにとってはよかったんです。
小林 どんなことでも笑っちゃう年頃だからね(笑)。
柏木 うまくなりたいというよりも、あの頃は楽しくやりたい気持ちのほうが強くて。
えみこ先生 そう! あの頃、グループの雰囲気がすごく暗かったみたいで。
南波・佐々木 へえー!
柏木 暗いし重いし。
小林 そうだったね。
えみこ先生 彼女たちをずっと撮っていたカメラマンさんから、「あの子たちは人見知りで大人と全然しゃべれなかったんです」って、あとから聞いて驚いたんですけど、私はそんなこと知らないから、最初のレッスンからワーワーギャーギャーやって。みんな普通に話してくれるし、「全然人見知りじゃないですけど?」って感じでしたね。でも今思えば、どこか重い空気はありました。メンバーが卒業するタイミングだったし。
南波 いざ本格的にレッスンを担当するようになって、具体的にはどんなことを意識して指導されたんですか?
えみこ先生 ライブに帯同するようになって、まず気付いたのが、彼女たちがステージで歌いにくそうにしていたことで。レッスンを重ねていくうちに、メンバーのキャラクターがだんだんわかってきたんだけど、それがステージ上で全然出てないなと思ったんです。それぞれ全然性格が違って、キャラクターも立ってるのになんでそれが出ないんだろうって。
佐々木 ボーカルのキャラクターが均一だったんですね。
えみこ先生 そうなんです。あとはやっぱりスキル的な部分も気になりました。私も過去にメジャーデビューして歌手活動をしていた時期があったので、歌のうまい下手に関して言われることの苦しみや痛みは十分わかっているつもりなので、だったら歌はうまいほうがいいよね?って。各自のキャラクターを生かしつつ、そのうえで技術を高めるにはどうしたらいいんだろうと考えるようになりました。……ちゃんと質問に答えられてるかな?
柏木 めちゃめちゃ、ちゃんと答えられてる(笑)。