アンジュルム橋迫鈴とアイドルの意外性を考える(前編) (original) (raw)

佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。この企画では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というゲストを毎回招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。14回目となる今回は、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ、アンジュルムのメンバー橋迫鈴に登場してもらった。クールなようでいて無邪気、妹キャラのようでいて姉御肌、おまけに大の爬虫類好きなどアイドルらしからぬ一面も持っている彼女。ハロプロ随一の意外性ガール・橋迫鈴の魅力を前後編の2回にわたり掘り下げていく。

構成 / 望月哲 撮影 / 曽我美芽 イラスト / ナカG

目次

サプライズでアンジュルムに加入

南波一海 ハロー!プロジェクトのメンバーに登場してもらうのは今回が初ですよね。

佐々木敦 かつ単独インタビューという。

橋迫鈴 ありがとうございます。

南波 「なんで自分なんだろう……」って?

橋迫 思ってます(笑)。

佐々木 それは僕が編集部にお願いしたので。僕はコロナ禍が始まる1年前くらいに突然アイドルに興味を持つようになったんですけど、ちょうど同じ時期に橋迫さんがアンジュルムに加入したんですよ。なのでずっと成長を追わせてもらっていて。

橋迫 うれしいです。

佐々木 主にYouTubeを通してですが(笑)。当時リーダーだった竹内朱莉さんが、アンジュルムへの加入を橋迫さんにサプライズで知らせる動画も大好きで何度も観てます。

橋迫 ありがとうございます。

佐々木 橋迫さんのおばあさんの家で、竹内さんが待ち構えているという(笑)。

アンジュルム橋迫鈴《未公開映像》新メンバー発表のウラ側!!

佐々木 アンジュルムへの加入が決まったときはどういう気持ちでしたか?

橋迫 まず竹内さんが祖母の家にいること自体が不思議すぎて、その瞬間に記憶が飛んじゃって。あとで動画を観てこんな表情をしてたんだとか、こんな感想を言ってたんだとか知った感じです。

南波 ああいうのって本当にわからないもんなんですか? 「今日、ちょっと様子おかしいな」みたいな。

橋迫 全然わからなかったです。

佐々木 加入したのは中学生のときですよね。

橋迫 はい。14歳でした。

佐々木 気付いたらステージに立っていたって感じ?

橋迫 そうですね。

南波 橋迫さんがアンジュルムに加入した2019年の7月って、ある意味、グループにとって節目の時期でしたよね。直前の6月に和田彩花さんが卒業して、かつ2期メンバーの勝田里奈さんの卒業も決まっていて。すごくドタバタした時期だったんじゃないかと。

橋迫 そうですね。私が加入する少し前に勝田さんが卒業を発表されて、グループとしてすごく慌ただしい時期だったと思います。私自身は残された短い時間で勝田さんと、たくさん思い出を作りたいなと思っていて。勝田さんの卒業コンサートに出演できたのはうれしかったです。

大人を全員敵として見ていました(笑)

南波 僕の中で橋迫さんって、すごく不思議な人で。新メンバーのイメージがなくならないまま、いつの間にか真ん中よりも上のポジションになっていたというか。

橋迫 ふふふ。

南波 僕は半年に1回くらいアンジュルムのメンバーにインタビューさせてもらう機会があるんですけど、今思えば、橋迫さんにも一時期、ちょっと反抗期っぽい時期がありましたよね? 今は落ち着いてる感じですけど、スタッフの方々とか大人に対してけっこう堅めの態度を取っていて(笑)。

橋迫 (スタッフに)今はもうないですよね?

スタッフ たまにあります(笑)。

一同 ははは。

南波 撮影でも、まったく笑わないみたいな時期がありました。

橋迫 そういうときもありました(笑)。

佐々木 でも仕方ないですよね。年齢的に完全に思春期だから、アイドルじゃなくてもそういう感じはあると思うし。

橋迫 当時は大人を全員敵として見ていました(笑)。今は自分の年齢が高くなって大人の方との距離が近くなった気がします。

南波 メンバー同士でいるときは明るいし、ふざけたりするけど、対大人になると急にクールな感じになっていたのがすごく印象的で。ある時期から橋迫さんは、めっちゃ変わっていきましたよね。後輩メンバーが増えていく中で、だいぶ印象が柔らかくなっていった。

橋迫 もともと人見知りがすごかったんです。最近はしゃべることにも慣れてきて、初対面の方とでも多少しゃべれるようになったんですけど、加入した頃は初対面の方とはひと言もしゃべれないくらいで。

佐々木 先ほど南波くんも話したように、橋迫さんが加入した頃はメンバーの入れ替わりも激しかったから、気持ちが追い付かない部分もあったんじゃないですか?

橋迫 気持ちというよりもパフォーマンスが追い付かなかったですね。ステージでの立ち位置や歌割がどんどん変わっていくので、脳みそを順番に整理していかないと全然追いつけなくて。

佐々木 でも振付を覚えるのは得意なんじゃないですか? 竹内さんが立ち位置を間違えていたのを橋迫さんが教えてあげるという動画がバズりましたよね。あれを観て橋迫さんは振付を覚えるのが早いんだなと思って。持って生まれた能力が発揮されている部分があるんですかね?

橋迫 ダンスの振り覚えは早いほうだと思います。

佐々木 それは努力で獲得したのか、それともやったらできたんですか?

橋迫 やったらできたタイプだと思います。好きなものに対しての覚えが早いっていうか。

アンジュルムだから素のままでいられる

佐々木 橋迫さんのキャラクターが徐々に変わっていったのって、竹内さんからの影響も大きかったんじゃないかと思うんです。

橋迫 竹内さんとの関係が一番大きいと思います。同じ目線で接してくださって、楽屋で一緒にゲームしたりとか、そうやって距離をどんどん縮めてくださったので自分もメンバーに心を開けた感じがありますね。

佐々木 アンジュルムに入ったことで自分が変わったみたいなことってありましたか? ほかのグループに入っていたら、こうはなっていなかったみたいな。

橋迫 逆にアンジュルムに入っているから自分が素のままでいられるって感じですかね。ほかのグループにいたら怒られていると思います(笑)。

佐々木 選ぶほうも適性を見ているのかな。「この子はこのグループがいいだろう」みたいな。

南波 そう考えると想像つかないですね。ほかのグループにいる橋迫さんが。

橋迫 もっと真面目だったと思います(笑)。

南波 BEYOOOOONDSにいたら、たぶん寸劇とかでも、きちんと役割をこなしてやってましたよね(笑)。

橋迫 はい(笑)。

南波 Juice=Juiceだったら大人っぽくなってたのかな?

橋迫 どうでしょう(笑)。

南波 ほかのグループにいたら怒られてるって、普段いったい何をしているんだろうって話ですよね(笑)。アンジュルムでは相当自由にできているっていう。竹内さんが抜けたあともその空気は保たれている?

橋迫 変わってないです。みんなその空間に慣れていて。今の自由な雰囲気が普通っていう感じですね。竹内さんのおかげです。

佐々木 ハロー!プロジェクトのメンバーって、卒業を発表してから実際に卒業するまで、ある程度の期間が設けられることが多いですよね。その間、メンバーの皆さんはどういう気持ちで過ごしているんですか? 例えば竹内さんが卒業するときは、いかがでしたか?

橋迫 寂しい気持ちがありつつも、竹内さんは本当にいつも通りの明るさで普通に接してくださったので、あまり卒業のことを考えず活動することができました。竹内さんの卒業をリアルに実感したのは、ご本人の口から卒業を聞いたときと、卒業された日の2回だけでした。

南波 これは、ハロー!プロジェクトの“あるある”なんですよ。メンバーの卒業について聞いても、みんなだいたい「実感がない」って言うんです。結局「わからない」って答えしか出ないから本当にそうなんだろうなって。卒業するメンバーが、そういう雰囲気にさせないみたいですね。

橋迫 確かに皆さんそうですね。

南波 自分がむしろ知りたいのは、卒業後のメンバーとの関係性で。それはそれで切り替わるんですか? 新しいモードに。

橋迫 寂しさとか意外となくて。竹内さんとはプライベートでも遊んだりもするので特に変化はない感じですね。

佐々木 卒業後に海外に行くとかそういうことではないから簡単に連絡も取れるし、会うこともできますもんね。

橋迫 はい。今まで通りです。

“橋迫軍団”と呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしい(笑)

佐々木 新体制になってしばらく経ちますが、グループの雰囲気で変わったところはありますか?

橋迫 雰囲気はあまり変わらないです。

佐々木 新メンバーの下井谷幸穂さん、後藤花さんはいかがですか?

橋迫 2人ともすごく明るいので竹内さんと同じポジションにいるというか。常に楽屋を明るくしてくれています。

南波 そんな中、ここ最近グループ内における橋迫さんの存在感がどんどん大きくなっている気がするんです。

橋迫 そうですか?(笑)

佐々木 若頭的なポジションで(笑)。あるときから“橋迫軍団”とか言われるようになったじゃないですか。それは後輩がどんどん増えてきたからだと思うんですけど。

南波 “橋迫軍団”について、ご本人にダイレクトで聞ける機会はなかなかないかもしれない(笑)。

橋迫 私はリーダー的なことが得意じゃなくて、昔から陰に隠れていたいタイプなので、自分の名前を使って“軍団”と呼ばれるのはちょっと恥ずかしいというか、そこは名前を変えてほしいなって思います(笑)。

佐々木 橋迫さんは率先して後輩を引っ張っていくというよりも、自然に慕われるタイプなんでしょうね。そういう役回りは、グループ内での序列が変わっていく中で徐々にこなせるようになったんですか?

橋迫 私は人見知りなので後輩が入ってきたときは慣れるのにちょっと時間がかかっちゃうんです。だから自分なりに……例えば一緒にゲームをしたり、そうやって仲よくなります。

南波 以前のインタビューで、アンジュルムのメンバーだと川名凜さんが社交的で憧れると言っていましたよね。ほかのグループの先輩にも積極的に話しかけたり。

橋迫 すごいです。いろんな人に話しかけてます。

佐々木 アンジュルムは全体的に明るくてコミュ力の高いメンバーが多い印象があるんですけど、そんな中で橋迫さんは独特な存在感を放っていて。受けて受けて最後にバーンと行くタイプというか(笑)。

橋迫 慣れたらですね(笑)。何かきっかけがあれば行けます。

南波 でも“軍団”ができるくらいだから、きっとお姉さん的な要素もあったんでしょうね。面倒見がいいとか。

橋迫 妹弟がいるので面倒見はいいほうなのかなって思います。研修生のときにも後輩がいたので、後輩との関わり方は研修生のときに学びました。

ハロプロの先輩後輩シャッフル問題

佐々木 例えば、年齢と加入した順番でグループ内での先輩後輩が入れ替わったりすることがあるじゃないですか? 年上なんだけど後輩みたいな。特にハロー!プロジェクトはグループ内での規律や上下関係がしっかりしている印象があって。そのあたりの感覚も研修生時代に培われた感じですか?

橋迫 そうですね。ただ私自身で言えば、敬語で話したらいいかわからないっていうメンバーはあまりいなくて。逆に私よりも下の子たちが、この人にはどうやってしゃべったらいいんだろうみたいなことを感じているのかなと思います。

佐々木 考えちゃいますよね、それは。何が正しいのかわからなくなる。あまり橋迫さんはそういうことは気にしなくて済んできた感じですか?

橋迫 はい。アンジュルムに加入したときは、皆さん年上だったので。

南波 たまに先輩後輩のバグが起きてますよね(笑)。川村文乃さんが入ったときは、笠原桃奈さんのほうが年下なのに先輩みたいな。あれは難しそうだなと思いました。

佐々木 橋迫さんが先輩の川村さんにタメ口で話しかける動画がありますよね(笑)。あの動画を観ると川村さんがすごくうれしそうで、かつ橋迫さんは照れくさそうにしていて。

橋迫 そうですね。表ではなかなか(笑)。

佐々木 プライベートで遊びに行ったりするときはどうですか? そういった先輩後輩の部分と友達みたいな部分が混ざった感じになるんですか?

橋迫 プライベートではタメ口ですね。お仕事の場では敬語です。

佐々木 マジですか!? プロフェッショナルですね。スイッチが入ったら、ちゃんとしゃべり方と態度が変わるという。きっちり切り替えができるのはハロプロの方々の伝統なんですかね。

橋迫 そうだと思います。

<後編に続く>

橋迫鈴(アンジュルム)

2005年愛知県生まれ。ハロプロ研修生を経て、2019年7月にアンジュルムに加入する。メンバーカラーはピュアレッド。大の爬虫類好きとしても知られている。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。近著に「映画よさようなら」(フィルムアート社)、「増補・決定版 ニッポンの音楽」(扶桑社文庫)がある。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。