七尾旅人「Long Voyage」再現ツアー閉幕 (original) (raw)

昨年2月から計19公演のワンマンツアー「Long Voyage」を行っていた七尾旅人が、その追加公演となるツアーファイナルを1月8日に神奈川・Yokohama Bay Hallで開催した。

普段は弾き語りで、同じパフォーマンスのない一回性のステージを行うことの多い七尾だが、昨年3月の東名阪公演は初の試みとして、2枚組の最新アルバム「Long Voyage」を曲順通りに再現するというライブを披露。これに手応えを感じた彼は、区切りをつけて次の作品制作に進むために、ツアーの最後にまたこのライブをすることにしたという。バンドメンバーは東名阪公演と同様にShingo Suzuki(B / Ovall)、山本達久(Dr)、小川翔(G)、瀬尾高志(Cb)、TAIHEI(Key / Suchmos、賽)という面々。この信頼する仲間たちとともに、七尾は長く続いた「Long Voyage」ツアーの総決算となるステージを繰り広げた。

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「ツアーが終わるのが名残惜しいのは今回は初めて」

開演時間になり、1人でステージに上がった七尾は、フロアに人がいない状態だと音の反響がわからなかったので今からサウンドチェックをしたいと観客に告げ、バンドメンバー呼び込んでサウンドチェックを開始。チューニングともセッションともつかない気ままな音がライブの始まりを告げた。そして七尾が「このメンバーとセットリストは今までで一番気に入ってて、ずっとやっていたいんだけど、次の課題を受け取った感じがあるので、新曲も溜まってきたし一旦手離れさせたほうがいいのかなって。ツアーが終わるのが名残惜しいのは今回は初めて」と挨拶し、インストナンバー「Long Voyage『流転』」でアルバム再現ライブをスタート。会場が横浜ベイブリッジのすぐ手前ということもあり、「横浜ベイブリッジ 東京は目の前」という歌詞がある「crossing」はこの日のオープニングにピッタリの曲となった。

七尾の歌声に寄り添ってアルバムの世界観を表現する、一体感のあるバンド演奏でライブは進行。「Long Voyage」で描かれている、パンデミックと戦争の時代を生きる人々の相貌と、その先の希望が歌となって紡がれていく。「Wonderful Life」では七尾はギターを下ろしてボーカリストに専念し、曲の終盤にはギターソロと掛け合うように力強いフェイクを披露。この日は小さな子供を連れた観客も多く訪れており、その幼い声が効果音のように曲にアクセントを加えていた。

両親が収容された子供の絶望を迫真の表現で歌にした「入管の歌」、コロンブスの新大陸上陸、最初の奴隷船の出航から近年のBLM運動へと辿る「ソウルフードを君と」、自ら新型コロナウイルスに感染して死にたいと願って家出した少女の実際のエピソードをモチーフにした「リトルガール、ロンリー」と、七尾はさまざまな境遇の人々に寄り添うように優しく歌っていく。普段の彼のライブと比べればカッチリと構成が決まっているとはいえ、「ソウルフードを君と」の曲中では「横浜のソウルフードってなんだろう? 家系ラーメン?」「え、サンマーメン? ああ、確かに!」「横須賀にはポテトチップスを砕いたものが入った『ポテチパン』っていうパンがあって……」など歌いながら観客と普通に会話をしたりと、七尾らしい自由なパフォーマンスも健在。イントロで観客と口笛同士のコール&レスポンスをした「フェスティバルの夜、君だけいない」でDISC 1の収録曲はすべて終わり、ライブは折り返し地点を迎える。

「遠いから関係ない、というのは大嘘なんですよ。遠いから関係がある」

DISC 2の1曲目「Long Voyage『停泊』」で歌われるのは、最初のアフリカ人奴隷を乗せたオランダ船ホワイトライオン号や、座礁沈没した際にイギリス人船長・船員だけが脱出して日本人乗客25名全員が亡くなったノルマントン号、軍部と欧米企業が放射性の産業廃棄物を海中に捨てたためやむなく海賊になったソマリアの漁師たちの船、東日本大震災の時期に陸前高田の海に浮かぶ船、シリアの難民を乗せたゴムボート、パンデミックの最初期に新型コロナウイルスの集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号など、人類の歴史の中で“意図せざる航海”を続けたさまざまな船。ウクライナ侵攻について歌う終盤には、猛烈な攻撃を表すように演奏も激しさを増す。

「ドンセイグッバイ」にはスペシャルゲストとして大比良瑞希が参加。このツアーでデュエットをするのが最後ということもあり、2人は出会った頃のことを懐かしみながら、美しいハーモニーを会場に響かせた。続く「if you just smile(もし君が微笑んだら)」は、筋ジストロフィーという難病を抱えながら呼吸器を付けて歌っていたシンガーソングライター・相羽崇巨からインスパイアされた楽曲。惜しくも昨年末に亡くなった彼との交流について振り返りつつ、七尾は「最後の最後まで夢を語りながら笑いながら死んでいった相羽くんを、僕も見習わなくちゃいけないんだけど、まだまだ修行が足りない」「これからだから焦っちゃダメだよ、みたいに彼に諭していたんだけど、時間がないって思ってたんだろうな。彼に対して自分も、今年しっかり時間を使って何か作りたい」と話し、故人を偲ぶように歌った。さらに「Dogs & Bread」では2年前に血管肉腫で旅立った愛犬の思い出話に花を咲かせ、幼い頃に両親の勤め先のパン屋の倉庫に家族で住み着いた頃の歌「『パン屋の倉庫で』」では当時のエピソードを語った。

「미화(ミファ)」を1人で弾き語りで歌ったあとで、七尾はパレスチナ問題について触れながら「遠いから関係ない、というのは大嘘なんですよ。遠いから関係がある。遠いから物を言うチャンスがある。イスラエルで反対デモをやってる根性ある人もいるけど、下手したら殺されますから」と呼びかけて、最後に「Long Voyage『筏』」を披露。観客とともにシンガロングし、感動的な空気をまといながらアルバム再現ライブのフィナーレを迎えた。

客席にいたやけのはらとDorianが飛び入り参加、パレスチナの人々に捧げた新曲も

あくまでアルバムの再現というコンセプトのため、このツアーでは基本的にアンコールは行われてこなかったが、最後だから無礼講、ということで七尾はアンコールの声に応えて再びステージに。昨年末に作ったばかりの、苦難の中にいるパレスチナの人々に捧げた新曲「Two Palestinians」を披露することにした。しかし曲の説明をしていたはずが、長くMCをしているうちに話がどんどん脱線。観客も笑っている状態で「このテンションで歌うものではない」と判断した七尾は、新曲披露を一旦やめて再びバンドメンバーをステージに呼び込み、「Rollin' Rollin'」を歌うことに。観客として会場に来ていたやけのはらが飛び入り参加し、2人で楽しそうに掛け合いを繰り広げた。曲が終わると、さらにやけのはらが「今日はDorianくんも来てるから」と言ってステージにDorianを呼び込み、戸惑う彼に無茶振りでキーボードを弾かせ、今度はDorianバージョンの「Rollin' Rollin'」をパフォーマンス。ひさびさにそろった3人を含むバンド編成での演奏に、会場は大盛りあがりになった。

続けてバンド編成で「サーカスナイト」が披露されたのち、再びステージ上に七尾が1人残り、仕切り直して「Two Palestinians」を歌う。この曲で彼がモチーフにしたのは、幼くして国を追われ、難民の視点から作品を発表するも暗殺された同世代の2人のパレスチナ人、小説家のガッサーン・カナファーニーとマンガ家のナージー・アル・アリー。七尾はここで、未来への可能性を断ち切ろうとする暴力への抵抗を歌で訴えた。そして最後に彼は、1週間経ったこの日もまだ被害の全容が見えないままの能登半島地震に触れつつ、東日本大震災の発生直後に作って公開した「帰り道」をひさびさに歌唱。祈りを込めるような優しい歌声で、約1年間にわたって続いた「Long Voyage」ツアーに幕を下ろした。

セットリスト

七尾旅人ワンマンツアー「Long Voyage」ファイナル 2024年1月8日 神奈川県 Yokohama Bay Hall

01. Long Voyage「流転」
02. crossing
03. 未来のこと
04. Wonderful Life
05. 入管の歌
06. ソウルフードを君と
07. リトルガール、ロンリー
08. フェスティバルの夜、君だけいない
09. Long Voyage「停泊」
10. 荒れ地
11. ドンセイグッバイ
12. if you just smile(もし君が微笑んだら)
13. Dogs & Bread
14. 『パン屋の倉庫で』
15. ダンス・ウィズ・ミー
16. 미화(ミファ)
17. Long Voyage「筏」
<アンコール>
18. Rollin' Rollin'
19. サーカスナイト
20. Two Palestinians
21. 帰り道

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