cero×坂本慎太郎|リズムを中心に考える歌とアンサンブルの関係 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
ceroが5月16日に4枚目のオリジナルアルバム「POLY LIFE MULTI SOUL」をリリース。音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して、メンバーが敬愛する坂本慎太郎との対談を実施した。
約3年ぶりとなるニューアルバムで、ブラジル音楽やアフリカ音楽、そしてテン年代以降のビートミュージック、現代ジャズなど、さまざまなリズムを持ち前のポップセンスで楽曲に取り入れ、ハイブリッドな音楽性をさらに進化させることに成功したcero。かたや坂本は、ゆらゆら帝国後期からソロ最新アルバム「できれば愛を」に至るまで、音と音の“間”や“ズレ”を重視した独自のリズム感を追及してきた。今回の対談では“リズム”を中心テーマに、アーティストとしてのお互いの印象から、歌とバンドアンサンブルの関係やアレンジの構築法といったクリエイションの細部まで、両者にじっくりと語り合ってもらった。
また特集の後半では、「『POLY LIFE MULTI SOUL』に影響を与えた楽曲」というテーマのもとceroの3人がセレクトしたApple Musicのプレイリストを掲載している。
取材・文 / 松永良平 撮影 / 相澤心也
オヤジ趣味の音楽も聴いてるような若者たち
──ceroの3人はゆらゆら帝国やソロアーティストとしての坂本慎太郎の作品は知っていたし聴いてきていたと思うんですが、坂本さんは下の世代のバンドであるceroについて、いつ興味を持ったんですか?
坂本慎太郎 え? いつだろう? 普通に話題になっていて、名前は聞いたりしていたと思うんですけど……最初に曲を聴いたのはアルバムじゃなくて、YouTubeとかでミュージックビデオかライブ映像を観たのかな。(ceroのメンバーは)今、何歳くらいなんですか?
髙城晶平(Vo, G, Flute) みんな33歳です。
坂本 1stアルバム(「WORLD RECORD」)を出したのは震災後?
髙城 直前ですね(2011年1月26日発表)。
坂本 僕がソロアルバムを作り始めたのがちょうどその時期で、周りの状況とか全然知らずに自宅やスタジオに籠って作業をしてたんです。そのあとぐらいに、今まで自分の周辺のライブハウスにいたような感じの人たちじゃなくて、レコードをいっぱい聴いてる若者がやってるようなバンドがいろいろいるっていうことをなんとなく知って。しかも、ちょっとオヤジ趣味の音楽も聴いてるような若者と言うか(笑)。
──その中の1つとしてceroをなんとなく認識していたという感じだったんですね。より直接的なつながりで言うと、ceroと親しいVIDEOくん(VIDEOTAPEMUSIC)が坂本さんと知り合ったのがきっかけになりますか?(参照:坂本慎太郎「悲しみのない世界」がVIDEOTAPEMUSICによって映像化)
髙城 見汐麻衣さんがきっかけかも?
坂本 いや、友達に連れられてRoji(髙城が家族で経営している阿佐ヶ谷のバー)に行ったことかな。その前に、VIDEOくんが「Patricia Pombo」という変名でやっていたカシオトーンの宅録CDを偶然買ってたんだけど、それがRojiにも置いてあって驚いたのを覚えてますね。
髙城 僕が働いていた日に、坂本さんがモタコさん(石井モタコ / オシリペンペンズ)たちと来て話してた印象があります。モタコさんが「やっぱり坂本さんは関西の人やなー」みたいな話をしてた(笑)。
人生のベストライブがゆらゆら帝国
──一方、ceroの3人が坂本さんを知ったきっかけは?
髙城 はしもっちゃんは、長らく人生のベストライブとしてゆらゆら帝国を挙げていたよね。
橋本翼(G, Cho) 大学生だった2005年5月にSHIBUYA-AXで観たゆらゆら帝国のワンマンライブがすごく印象的で。先輩が物販のバイトをしてたのでその手伝いで入れてもらったんですけど、僕はがっつりライブを観させてもらって。演奏も外の出音も圧倒的で、とにかく素晴らしかった。それが、ずっと自分の中でのベストライブでした。
荒内佑(Key, Sampler, Cho) 僕は彼女がゆらゆら帝国がすごく好きで、昔よく一緒に聴いてましたね。「冷たいギフト」の歌詞がすごくいいんだって彼女が言ってました。
髙城 僕は、ちゃんとアルバムで聴いたのは意外と遅くて、「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」くらいでした。ジャケットのアートワークを含めて、ガーッと自分に入ってきた印象です。
──ざっくり言うと、髙城くんと坂本さんって“芸大 / 美大出身”という共通項もあって、単純に音楽だけじゃなく、アート面と言うか、MVやビジュアルの作り方を含めた打ち出しについても興味を持ったところがあったんじゃないかと思うんですが。
髙城 あー、そうですね。坂本さんに対して本当にすごいなと憧れるのは、そういうトータルコーディネートが一貫してるところ。ビジュアルとかも全部含めて、音楽作品として血が通ってるなという印象を昔から持ってます。
──今の話は、2000年代の半ばくらいにあくまで憧れの対象としての坂本さんがいたということなんですが、そこから、2009年発表のゆらゆら帝国のラストアルバム「空洞です」を経て、2011年の「幻とのつきあい方」以降の坂本さんのソロへと向かう展開って、リズム面だったり、アレンジだったり、ブラックミュージック的な要素が音楽に入っていきますよね。その変化は少なからずceroやその世代のミュージシャンに影響を与えたものだと思うんです。
坂本 ソロを始めたときは、単純に家で好きで聴いてるような音楽と同じような音質とかサウンドの規模感を感じられるようなものを自分でも作りたいと思ってたんですよ。宅録みたいな音楽が好きだったから、響きが全然ない感じとか、大きいコンサート会場でやるような感じじゃなくて狭いところでやるような音とか、そういうのを意識しましたね。ブラックミュージックは好きなんですけど、そのままやろうとしてもできないんで「モロになんないように」というのを考えたかもしれない。
髙城 ゆらゆら帝国の後半とか、特に坂本さんがソロになってからの作品では、パーカッションの印象がすごく強いんです。それまで日本の、僕らの界隈の音楽でパーカッションの要素が強く押し出されることって、長らくなかったと思っていて。それをすごく新鮮に感じた気がします。
坂本 ソロを始めた頃は、コンガに意識がありましたね。最初は、ベースとドラムとコンガと歌とコーラスみたいなアルバムにしようと思ってたんです。ギターや鍵盤は入れたくなかったんだけど、1枚ずっとそれだとやっぱり面白くなくて。で、結局ああいう感じになったんです。
髙城 今、自分たちの周りにもパーカッションが重要な役割を果たしてるバンドがすごく増えていると思っていて。僕らと同じカクバリズム所属のYOUR SONG IS GOODや思い出野郎Aチームもそうだし、D.A.N.のサウンドにサポートの小林うてなちゃんという存在が及ぼしている影響も大きいと思うんですよ。
坂本 ソロを始めた頃、俺の好きな音楽には全部コンガが入ってるってことに気付いたんですよ。カーティス・メイフィールドやT.Rexとか。グルーヴィな音楽じゃなくても、70年代の歌謡曲にも、だいたいコンガが入っていたり。ESGとかもそうですよね。自分でも練習したんですけど、コンガの才能はなかった(笑)。