映画「ちょっと今から仕事やめてくる」公開記念 コブクロ×福士蒼汰×工藤阿須加 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

コブクロが約1年半ぶりとなるニューシングル「心」をリリースした。映画「ちょっと今から仕事やめてくる」の主題歌として制作されたこの曲は、ドラマチックなメロディ、壮大なスケール感を備えたアレンジ、「心が 生きているなら / 誰も 一人じゃない」というメッセージを込めた歌詞が1つになった感動的なバラードナンバーに仕上がっている。

音楽ナタリーでは、コブクロの小渕健太郎、黒田俊介、そして映画の主人公・ヤマモトを演じた福士蒼汰、ブラック企業で働く青山隆を演じた工藤阿須加の座談会を実施。主題歌「心」の制作秘話、映画に込められたメッセージ性、仕事に対する考え方などについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

“心”そのものを歌いたいと思ったのは、今回が初めてなんです

──コブクロのニューシングル「心」は、小渕さんが実際に映画を観たうえで楽曲を書かれたとか。

コブクロ、福士蒼汰、工藤阿須加。

小渕健太郎(コブクロ) はい。完成した映画を観させてもらって、そのときの印象を基にまず歌詞を書いて。観終った直後に書いたメモがあるんですが、福士さん、工藤さんが演じたヤマモトと青山の関係性や、失ったものを取り戻そうとする姿を歌にしたいと思ったんですよね。

黒田俊介(コブクロ) 小渕から上がってきた曲を聴いたとき「(映画の内容が)小渕自身の経験に当てはまってるから、この歌詞とメロディが出てきたんだろうな」と思って。すぐに「これはいいね」という話をしました。

小渕 18歳から4年間、大阪で営業マンをやっていたことがあるんです。もうね、映画のまんまだったんですよ。もしかしたら当時の上司のほうが怖かったかもしれないけど(笑)。

工藤阿須加 え、そうなんですか!?

「ちょっと今から仕事やめてくる」より。

──吉田鋼太郎さんが演じるブラック企業の上司もめちゃくちゃ怖いですけどね。福士さん、工藤さんは「心」を聴いて、どんなふうに感じましたか?

福士蒼汰 初めて聴いたのが映画の試写だったんですが、「この映画の世界を包んでくれる歌だな」と思いました。この曲の歌詞とメロディが映画を代弁してくれているというか。あと、すごく口ずさみたくなる曲なんです。1回聴いただけで口からスッと出てきて。

工藤 映画が完成して、コブクロさんの曲を聴かせてもらったときは、自分自身が救われたような感覚になりました。映画と音楽が重なることで生まれる力は、これほどまでに大きいのかと思いました。

小渕 うれしいですね。これまでも歌詞の中で“心”という言葉を使ってきたんですが、“心”そのものを歌いたいと思ったのは、今回が初めてなんです。人間の心は他人には見えないので、表情はにこやかにしていても、心はそうじゃないこともあると思うんですよ。「本当は楽しくないのに楽しそうにしなくちゃいけない」みたいなことが続くと、心がどんどん疲れていくじゃないですか。そのうちにバランスが取れなくなって、その人の中で歯車が狂い始めて……。2、3日なら大丈夫かもしれないけど、それが1カ月くらい続くと様子がちょっとおかしくなったり。

「心が生きているなら 誰も一人じゃない」は本当にヤマモトと青山にピッタリ

──まさに映画の中の青山のような状況ですよね。パワハラ上司に追い詰められて、心身のバランスを失ってしまうので。

小渕 そうなってしまうと、心を浄化するのに時間がかかってしまうと思うんです。ヤマモトと青山も手と手を取り合いながら、なんとか心を取り戻そうとするんだけど、初めからガッチリと1つになっているわけではなくて。

工藤 そうですね。

左から福士蒼汰、工藤阿須加。

小渕 2人で手探りで進んでいきながら、お互いが相手の心に寄り添って。相手ができないことをやってあげて、言えないことを言ってあげることで、「もともと自分はこういう人間だった」ということに気付くんですよね。そういうことは僕自身にも経験があるし、この映画が伝えたいことの1つなのかなと。

──ヤマモトと青山の関係の変化、そこで生まれる深い友情がこの映画の核ですからね。

福士 そうなんです。自分が演じたヤマモトも、ある出来事がきっかけになって、心が半分になってしまっているんです。ストーリーの中ではヤマモトが青山を助けようとするんですが、「実はヤマモトが助けてもらってるんだ」ということを常に考えていました。暗闇の中にいる2人が光に向かって歩いていくような意識で演じていたというか。

工藤 「心」の歌詞にある「心が生きているなら 誰も一人じゃない」は、本当に2人にピッタリだなと思います。青山は自分から心を閉ざして1人になってしまうんですが、それはまさに心が死んでいくような感じだと思っていて。ヤマモトと出会うことで心を取り戻すきっかけをつかむわけですが、この歌を聴いたときに、青山というキャラクターの全部のピースがそろったような気がしたんですよね。

「何かあったら、やめてもいい」という気持ちが心を楽にしてくれる

──それにしても青山が追い詰められていくシーンには胸が詰まりました。仕事がうまくいかず、どんどん目が死んでいく演技がすごくて。

「ちょっと今から仕事やめてくる」より。

黒田 目が死んでいくって、それ、褒めてるんですか?(笑)

小渕 (笑)。でも、そこはポイントですよね。僕は「心」という曲を通して、“心は腐ることもある”ということも表現したかったんです。「湿った段ボールの中に / 君を閉じ込めていた」という歌詞があるんですが、風通しが悪くて、光が入らない場所にずっといると、中に入ってるものは腐るじゃないですか。映画の中で、実家から段ボールで送られてきた野菜を青山が腐らせてしまうように。

工藤 そうですね。

小渕 食べられなくなった野菜は捨てられるけど、心は捨てる場所がないんですよ。新しい心と取り換えることもできないし、そのまま生きていくしかない。カビが生えても、腐ってしまったとしても、死ぬまでこの心で生きていかなくちゃいけない……そういうふうに思えれば、心は再生できると思うんです。そのきっかけになるのが、誰かが差し伸べる手なんですよね。無理矢理に窓をこじ開けようとすれば拒否されるかもしれないけど、タイミングを見ながら、ちょっとずつ風を通してあげて。そのときにお互いを認め合って、傷跡をしっかり見ることができれば、光は必ず見えてくるんじゃないかなって。「心」の中でそういう表現ができたのも、会社員として働いた経験があるからだと思いますね。

黒田 僕は小渕とは真逆で、社会人の経験がまったくないんです。ただ、同じ場所に立って同じことをしていたとしても、自分の気持ち次第で前向きに捉えることはできると思っていて。“すべては自分の心次第”という部分で、この曲と自分を重ね合ってる感じなんですよね。例えばライブのときも「少しでもいい歌を届けたい。そのためにはどうしたらいいだろう?」ということしか考えないので。

福士蒼汰

福士 そうなんですか。自分はヤマモトと少し似ていて、かなり楽観的なんです。こんなことを言っていいのかわからないですけど、「何かあったら、やめてもいい」という気持ちをどこかに持っていて。その意識が心を楽にしてくれるし、逆に「仕事をがんばろう」という気持ちにつながるんです。自分の中である意味逃げ道を用意することで、心の余裕が生まれるという。基本的にポジティブだし、あまり悩んだりしないんですが。「寝るか、行動するか」という感じなので。

黒田 小渕と同じタイプですね。

小渕 そうかもね(笑)。

黒田俊介

黒田 僕はわりと悩んでしまうほうなんですけどね。ネガティブなところがあるからこそポジティブになろうとするんだけど、小渕にはそんな必要すらないですから。この世で起こったことを最初からすべてプラスに捉えてしまうので。

小渕 黒田とは真逆かもしれないですね。もしかしたら、そうなれたのもサラリーマン生活のおかげだと思います。あの4年間は僕の人生の中で、一番キツかったんですよ。そのときと現在を照らし合わせることで、今が明るく見えることもあるんじゃないかなって。僕自身、音楽をやり始めてからはつらいと思ったことがないですからね。ただ、うまくいってるときは怖いですね。追い風が吹いてるときこそ、黒田と2人でしっかり足元を見るようにしているし、「ブレないように」と意識しながら進むようにしていて。そういうことを繰り返しながら、来年で20年になるっていう。

工藤 すごいですね。

小渕 むしろ逆境のほうが楽しいんですよ。「これを乗り越えたら強くなれる」と思うし、きついことを経験すると勲章をもらえたような気分になるので。苦労は買ってでもしろ、なんて言うじゃないですか。

黒田 僕は全然楽しくないですけどね、逆境なんて。

福士・工藤 ははははは!(笑)