ジェニーハイ川谷絵音、小籔千豊インタビュー|「もうイロモノじゃなくなった」5人が生み出す新たなクラシック - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
ジェニーハイが3作目となるオリジナルアルバム「ジェニークラシック」を完成させた。映画「ハケンアニメ!」主題歌の「エクレール」、ゲストボーカルにyamaを迎えた「モンスター」といった話題曲を含む全12曲が収められた本作は、異色のバンドが異色なままにスタンダードを作り上げたような、「ジェニークラシック」というタイトルに相応しい名作に仕上がっている。7月より過去最大規模のホールツアーを控え、9月には4年ぶりに開催される「コヤブソニック」への出演も決まっている中、川谷絵音と小籔千豊にバンドの現在地について語ってもらった。
取材・文 / 金子厚武インタビュー撮影 / 大城為喜
ジェニーハイはもうイロモノじゃなくなった
──もともとジェニーハイは「芸人2人がリズム隊」という特徴がありつつ、そこをエクスキューズにはしないで、シンプルにいい音楽、いい演奏を目指してこれまで活動してきたと思うんですけど、「ジェニークラシック」を聴いて、いよいよ本当になんのエクスキューズもいらない、シンプルにめちゃめちゃいいアルバムを完成させたなと感じました。
川谷絵音(G, Produce) 1枚目のアルバム(2019年発表の「ジェニーハイストーリー」)は新垣(隆 / Key)さんのピアノがとにかく目立ってたんですよね。誰がメンバーかというのは抜きにして、純粋に音として聴いたときのジェニーハイの一番のインパクトはピアノだったから、最初はそれを押してたんです。で、今回も新垣さんは強烈なピアノを弾いてるんですけど、だんだんリズム隊の演奏が複雑になってきて、ピアノがいい意味で目立たなくなってきた。エンジニアさんの中でもドラムとベースを目立たせた方がいいと感じた部分が多かったのか、ピアノがちょっと奥まった感じのミックスになっていたり。今回もピアノは1枚目と同じぐらい弾いてるんですけど、そう聞こえないのはドラムとベースが変わってきたから。それでよりバンドっぽくなったというか、新垣さんが僕らの横でソロリサイタルをやってる感じだったのが、今回でようやくピアノがバンドに溶け込むようになったと思います。
川谷絵音(G, Produce)
──もちろんソロだったりでピアノが目立つところも多いけど、アルバム全体を通して言うと、リズム隊が目立つところもあるし、管弦が目立つところもあるし、歌やギターが目立つところももちろんある。トータルとしての完成度が上がっているなと。
川谷 そうですね。前はYouTubeのコメントを見ると「ピアノがすごい」みたいなものが8割ぐらいだった気がするんですけど、だんだんほかも褒められるようになってきて。ジェニーハイがもうイロモノじゃなくなったというか、音楽を普通に評価してくれる人が増えた。このアルバムは特に、今までで一番音楽的に評価されるんじゃないかなと思います。
──本当にそういう印象で。だから「ジェニークラシック」というタイトルの“クラシック”は音楽ジャンルのことでもあるだろうけど、「名作」みたいな意味の“クラシック”でもあるんだろうなと感じました。
川谷 自分の中では「これが1枚目」という感覚なんです。新垣さんもいるし、クラシック要素もあるから、原点に立ち返るみたいな意味もあるし。3枚目にしてようやくジェニーハイがちゃんとバンドになった感覚があったので、このタイトルにしました。
──小籔さんは今作の手応えをどのように感じていますか?
小籔千豊(Dr) 自分がメンバーじゃなかったらすごくいいと思うだろうなというか……車で山に行くときにかけたり、スマホに落としたりしてるんやろうなと思います。音楽的な詳しいことはわからないですけど、「めっちゃええやん」と思う曲も何個かあるし、「こんなんもあんねや」という曲もあるし、いろいろ面白いアルバムやなって。ただ僕としては、課題曲を渡されて、なるべくレコーディングがスムーズに終わるようにレッスンをするだけなので、「今回のドラムはこうで」とか、そんなことを考えるのはまだ10年先ですね。
──小籔さんは1stアルバムのときからずっとそのスタンスでやってらっしゃると思うんですけど、それは今回も変わらないと。
小籔 新喜劇でもそうなんですけど、組織の中におるときは完全な歯車になることを目指すんです。今は未発達の歯車だけど、全体の動きが悪くならない程度にはしたい。僕がもっとがんばればほかのところももっと回るようになるかもしれないと思って、そこに徹してきたつもりです。もともとがド下手やったんで、何年か前よりはできることも増えてるでしょうけど、フェスとかに出ると「めっちゃうまいやん」って人らがゴロゴロおるわけで。それでもジェニーハイというバンドを面白がる人たちもおるはずやから、そこは最大限、僕らのことを好きな人のために真摯に、エンタテインメントとして、満足してもらえるようにできる限りのことをやるだけですね。
小籔千豊(Dr)
本当にバンドっぽくなったと思います
──これまでのジェニーハイは5人それぞれが忙しいからなかなか集まれなくて、別々でレコーディングしながら長いスパンをかけて作品を作っていたと思うんですけど、そこに関しては今回も変わらずですか?
川谷 変わらずですね。1人ずつ録りました。
小籔 P(川谷)がドラマ撮ってるときに僕はドラム録ってました。普通逆なんですけどね。僕がドラマやって、Pがレコーディングはわかるんですけど。
──川谷さんの中ではアルバムのイメージや方向性はどの程度ありましたか?
川谷 初期のインディゴ(indigo la End)やゲス(ゲスの極み乙女)に近いぐらいのフラットさで曲を作れるようになってきました。特にドラムとベースに対しては、「ここちょっとやりすぎないようにしよう」と思うことがなくなって、わりと難しいことも普通にやっている。バラードっぽい曲でも難しいフィルが入っていたり、ベースはスラップっぽいフレーズを弾いていたり、遊びのようなものも入れるようになったので、普通にハイレベルなアレンジになってると思います。
──先ほどおっしゃっていたように、「新垣さんのピアノを目立たせるために、リズム隊はあえてシンプルに」みたいなことがなくなって、カッコいいと思ったらそれが難しいフレーズだったとしても普通に入れていると。
川谷 昔はピアノのフレーズから曲を作ったりしていたんですけど、今回はリズムからスタートしてる曲が多くて。ほかのバンドでもだいたいリズムから決めているので、そこも同じになってきましたね。今までだったら「ここ四つ打ちでいいか」と思っていたところを“五つ打ち”にしたり、もうちょっと歌に絡むようにしたり、アレンジがそういう方向にいくようになったし、それができるようなってきた。その間をピアノが縫うように入っていたり、全部がいいバランスになって、本当にバンドっぽくなったと思います。
──その変化が作品性にも表れていますよね。これまでは自己紹介ラップがあったり、「ダイエッター典子」「バイトリーダー典子」からなる“典子シリーズ”があったりして、それをやればファンの人たちは喜んでくれていたと思うけど、今回に関してはさっきおっしゃっていた通り、もっとシンプルに、とにかく音楽的にカッコいいものを作ったという印象です。
川谷 前は「典子シリーズを作ろう」みたいにガワから入ってたんですけど、今回はタイアップ曲が多かったこともあって、それ以外の曲は「アルバムの中で足りないものを作ろう」という感じでした。「バラードがないから『贅沢』のような曲を作ろう」とか、そういう作り方もほかのバンドとほぼ一緒ですね。
左から川谷絵音(G, Produce)、小籔千豊(Dr)。
「歌いやすいものを作ろう」という意識
──小籔さんがドラマーとしての視点で見て、アルバムの中で特に印象的だった曲を挙げていただけますか?
小籔 ドラマー視点とかはあんまりわからないですけど……「クラシックハイ」は聴いてすぐに「好きかも」と思いました。歌に入ってもノリがいい感じで、一番好きかもしれないです。あとはラップの曲も今回好きなんが多いかな。
──「クラシックハイ」はどういうイメージで作ったんですか?
川谷 さっきも言ったように今回はタイアップの曲が多かったから、全体のバランスを考えながらいろいろ作ったんですけど、「クラシックハイ」はリード曲っぽい曲を意識して最後に作りました。これも五つ打ちのけっこう難しいフレーズが出てくるから、途中で栄太郎(ジェニーハイをサポートしているindigo la Endの佐藤栄太郎)に「これ難しすぎるから、もっとシンプルにしよう」と提案されたんですけど、「いや、挑戦してみよう」と言って。各パートそれぞれにチャレンジングなフレーズを入れて、ちゃんとジェニーハイが新しい方向に進んでる感じを出したいなと思ったんです。
──小籔さんはそれにチャレンジしつつ、少しずつできるようになることで喜びを感じている?
小籔 この曲は、まだできひんときでもなんか好きでしたね。めっちゃむずいところがあって、そこばっかりをずっとレッスンしてたんですよ。でも、家とかで自分の音を聴かんと曲だけ聴いてるのも楽しかったです。僕は傾向として明るい曲のほうが好きなんですけど、「声雫」とか「モンスター feat. yama」も最初から「めっちゃ好きかも」と思いました。
──「クラシックハイ」はストリングスも印象的ですが、すでに「ジェニークラシック」というタイトルも見えたうえで、タイトル曲らしい曲を目指したわけですか?
川谷 そうですね。「クラシックハイ」という曲名は最初から決めてました。サビの歌詞は歌いながら出てきたもので、歌った瞬間からこの歌詞だったし、「フフフ」も演奏してたら出てきたので、そのまま採用して。パッと出てきたメロはみんな歌えると思うので、あんまりごちゃごちゃ変えるよりも、最初の印象でやった方がいいなと思ったんです。これは自分にも当てはまるんですけど、ボカロとかも含めて今のJ-POPはどんどん複雑化しているというか。みんながメロディを外そう外そうという方向に向かっている。でも今回は「そっちに行くんだ」と思われるようなメロディにはならないように、歌いやすいものを作ろうと意識しました。