小南泰葉「キメラ」インタビュー - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

“生と死”や“光と闇”について、激しくも真っすぐな感情をむき出しにした言葉で歌い続ける小南泰葉。彼女は2枚のミニアルバムと1枚のシングルの発表を経て、ついに待望の1stフルアルバム「キメラ」を完成させた。自身が「聴かなくていいもの、見なくてもいいものをすべて手に取り舐めるように観察し作り上げた」と語るこのアルバムは、どれも人間の深層心理が反映された、目を背けることができない楽曲ばかり。

これらの楽曲の核心に深く迫ろうとすると、小南はときおり言葉に詰まりながらも、曲に込めた覚悟を口にする。「キメラ」について、彼女にたっぷりと聞いた。

取材・文 / 吉田可奈 撮影 / 福本和洋

聴いていると全部のできごとを思い出す

──ついに待望のアルバムが完成しましたね。

ついに、ですね。インディーズの頃からこのアルバムのために走り続けていたので、私にとってこのアルバムはスタートではなく、ゴールなんです。

──1stアルバムって、普通なら始まりなのに!

小南泰葉

そうなんですよね(笑)。でも、今まで私の人生は投げ出してばかりだったので、ここまでちゃんと何かを成し遂げた経験ってひとつもないんです。小さな頃から学校は行かなくなるし、集団生活をすることからも逃げ出すし、習い事も続かない。そういう意味ではちゃんとゴールテープを切れた経験が初めてなんですよ。だから、明日から何をしていいかわからないんです。

──では曲作りしましょうか(笑)。

あははは(笑)。ですよね! 本当にそう思います(笑)。でも、今まで「キメラ」のことしか考えてなかったので、先のことが考えられないんですよ。今は「あしたのジョー」のラストシーンみたいに、真っ白な灰になっている感じです。

──アルバム収録曲を見ていると、インディーズの頃から大切にしている曲とメジャーでリリースした曲が混在していて、ある意味ベスト盤のようですね。

そうですね。今の小南泰葉のベストアルバムだと思っています。

──改めて振り返ってみて、どんなアルバムになったと思いますか?

この作品はコンセプトアルバムではないので、それぞれ自由に書いた曲で構成されているんです。でも基本的に私が自由に曲を書いたら、同じような内容になるのでまとまるんですよ。この冬に録って収録した曲もあれば、3年前に作って出すのをためらっていた曲もあったりして、私が音楽活動を再開してからのこの3年間を手に取るように感じられる作品になっています。聴いていると全部のできごとを思い出すんです。ライブハウスで歌ったことや、フェスのステージから見たお客さんの顔、レコーディング中に食べたお菓子とか……この3年間、本当にこのアルバムのために歌っていたんだなって実感するんです。

「やさしい嘘」のためのアルバムと言ってもいい

──収録曲の話に移ると、「やさしい嘘」はずっと音源化が待たれていた曲ですね。

「やさしい嘘」は、どんなときもライブの最後に必ず歌っているほどすごく大切な曲なんです。だから絶対によいタイミングでリリースしたかったんですね。

──その“よいタイミング”が1stアルバムだったと。

はい。この曲をリリースするベストなタイミングを考えたときに、“1stアルバムのリード曲としてリリースするしかない”と思ったんです。だからこのアルバムは「やさしい嘘」のためのアルバムと言ってしまっていいかもしれない。

──ほかの曲に比べて言葉選びもサウンドもすごくシンプルですよね。

小南泰葉

そうなんです。私にとってはめちゃくちゃ古い曲で、かつ私のことをずっと支えてくれた曲なんです。一方で「嘘憑きとサルヴァドール」みたいな激しい曲から聴いてくれていた人からしたら、“おやおや小南、丸くなったんじゃないか?”って思うかもしれないですね(笑)。でも「やさしい嘘」も間違いなく私の曲であり、私の一部なんです。

──では「やさしい嘘」はどんな思いで作ったんですか?

「やさしい嘘」は曲作りを始めた頃に、何も考えずに書いた曲なんです。何か題材があって、そこから“何を届けたい”とかそういう思いがあったわけでもなく、生と死や家族や友達のことなどを考えて産み落としたらすごくストレートでシンプルな表現になって。でもこの曲以降は、辞書や本を引っ張り出して言葉を探しながらパズルのように曲を作っているので、「やさしい嘘」はある種、小南泰葉の原点のような曲だと思っているんです。だからサウンドも、私の中の普遍的なコード進行やメロディがすごく打ち出されているなって思うんですよ。

──歌い方も少しほかの曲と違いますよね。

よく言われます。普段のようなアコースティックセットで歌うときは、息を吐くように自由に歌っていて、自然体なんです。でも「嘘憑きとサルヴァドール」のようなバンドでのライブとなると、また違うんですよね。収まりがいいというか……だから今回、「やさしい嘘」はバンドバージョンもアコースティックバージョンも両方よさがあると思うのですが、このアルバムではバンドバージョンを楽しんでもらいたいと思って。

──ライブではバンドバージョンで演奏するんですか?

……どうだろう(笑)。今のところアコースティックバージョンに慣れているので、やるんだったらアコースティクかも。となるとバンドバージョンはアルバムでしか聴けないので、ぜひCDで聴いてもらいたいです!

小南泰葉(こみなみやすは)

小南泰葉

関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。同年6月に行った東阪名での初ワンマンツアーは、全公演完売と注目度の高さを伺わせる。9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月には2012年2作目となるミニアルバム「121212」を発表した。2013年5月にはメジャー1stアルバム「キメラ」を発表。自身が切り絵をまとう衝撃的なアートワークでも話題を呼んだ。