中田裕二「Sanctuary」インタビュー|さらに奥行きを増した“中田節”がここに - 音楽ナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
歌の中から匂い立つ色気、ムード、醸し出されるダンディズム。その背景にいにしえの歌謡曲が持っていた艶のある色彩を滲ませながら、現行のR&Bなど洋楽のトレンドとも向き合いつつ、自らの世界観を広げてきたシンガーソングライター、中田裕二。彼が、前作「NOBODY KNOWS」から1年あまりを経て5月15日にニューアルバム「Sanctuary」をリリースする。本作では奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、白根賢一(GREAT3)、平泉光司(benzo、COUCH)、隅倉弘至(初恋の嵐)といったライブメンバーをはじめ、前作でも彼の世界観に新たなエッセンスを加えたTomi Yoらがアレンジ面で大きな役割を果たしながら、さらに奥行きの深い“中田節”を聴かせるものとなった。
音楽ナタリーでは、ニューアルバムに込めた思いや、自身の傾倒する音楽について中田に話を聞いた。
取材・文 / 久保田泰平 撮影 / 塚原孝顕
Tomi Yoとの実験で生まれた音楽
──アルバム「Sanctuary」、聴かせていただきました。今作も紛うことなき中田裕二の世界観が映し出された作品になったかと思うんですが、タイトル曲の「サンクチュアリ」の歌い出しに「誰も知らない」という歌詞があって、前作のタイトル「NOBODY KNOWS」につながってるのかなと。
たまたま……ですね(笑)。実は、「サンクチュアリ」は、前々作の「thickness」を録っているときにできていて、なんとなくテイストが違うかなと思って寝かせていた曲なんですよ。それ以外の曲は、ほぼ「NOBODY KNOWS」以降に作ったものですけどね。
──そうだったんですね。とはいえ、「NOBODY KNOWS」の雰囲気は引き継いでいる印象があります。前作に続いてアレンジャーのクレジットにTomi Yoさんが入ってますし。
そうですね。Tomiさんともまた一緒にやりたかったですし、アレンジの面で他者を巻き込みながらやっていくスタイルは踏襲して、それをさらに進化させようかなという狙いはありました。やはり、「NOBODY KNOWS」で新しい世界が開けた感触があったので。
──Tomi Yoさんは前作よりも多い5曲を手がけられています。特に印象的だと思ったのは「月の憂い」という曲で、こういったバラード曲との相性がいいというか、サウンドに広がりが出ますよね。
バラードってアレンジが同じ感じになってしまいがちなので、音のバリエーションは確かに広がりました。
──雰囲気的には1988年頃の安全地帯を思わせる……安全地帯にも「月に濡れたふたり」という曲がありましたけど(笑)。
Tomiさんは玉置浩二さんとも一緒にやってますから、遠からずですよ(笑)。でも実際、「安全地帯のこの曲みたいに」という要望を伝えたりはしていないですけど、作品におけるTomiさんの位置付けが、僕の中では安全地帯における(共同プロデューサーの)星勝さんみたいなイメージなんです。「月の憂い」に関しては、最近のR&Bのビートを組み合わせてみたいという話をしながら仕上げてもらった曲で。
──Tomi Yoさんとのやりとりは、前作と同じような感じで?
そうですね、最近こんな音楽を気持ちよく聴いてるんで、こういうビートの感じにしてほしいんですとか、参考にできる音源とかを聴かせて、キックはこの曲みたいな感じでとか、そういうことを細かく話しながら進めていきました。作った曲のもとの雰囲気とアレンジの参考にしたい曲の雰囲気が全然違ったりすることもあるから、僕のオーダーを忠実に表現してくれるのは彼しかいないなと思って。丸投げでアレンジをお願いしているわけではないので、感覚的には一緒に実験してもらってる感じが強いですかね。
リア充なら音楽はやってない
──最近気持ちよく聴いているのは、R&Bとか?
はい、トラックが古めかしい感じのやつとかはよく聴いてます。今回のアルバムは、ゆったりとしたものにしたいなと考えていたので、ヒップホップ世代の海外のシンガーソングライターもよく聴いていましたね。最近だと、マーヴェリック・セイバーとか。今っぽい質感で音数が少なくて、なおかつビンテージなソウルも通ってるっていう、そういう人のアルバムはよく聴いてます。
──「ゆったりとしたものにしたい」ということでは、アルバムの1曲目からその感じがうかがえますね。とはいえ、歌詞は世の中への皮肉めいたメッセージというか、反抗というか。
リア充的な表現にはならないんですよね(笑)。リア充だったら音楽をやってないかも知れないです。音楽が吐き出し口の1つではあるから、自然とそういう歌詞が出てきますね。
──前作からの1年は、相変わらずバンド編成のツアーと弾き語りツアーの2本立てというライブ活動を行ってきましたけど、その中でも作品に反映されるようなトピックはあったりしますか?
何か大きな出来事があってという感じではないですけど、日々いろいろ感じることはあるので、そういう刺激を曲に落とし込んでる感じですかね。どんどん移り変わっていくシーンの様子を傍目に見ながら。前はそれを無視したり、無視はせずとも真逆を行こうかなってついつい反発心が働いたようなサウンドを作りがちだったんですけど、前作でTomiさんたちと一緒に楽曲を制作していくようになって、一応、時代は見据えながら、その中でどういう物作りをしていこうかなと思うようになりました。しかも自分に似合った形でというのは、ここ最近よく考えながらやってますね。
──「自分に似合った形」っていうのは、決して「売れ線」を狙うということではないですよね。
そうですね、それをやっちゃうと、もとも子もなくなっちゃうというか。今まで積み上げてきた自分の音楽の面白みもあるから、そこをどう、時代遅れではなくて、時代に則って見せられるかという感じですね。既存のお客さんを大事にしたうえで、新しいお客さんも取り込んでいきたいという意識は常にありますから。まあ、新しいというのは、単純に若い人たちとかっていうことではなくて、同じ世代でも僕を知らない人はいっぱいいるだろうから、そのきっかけをどう作っていくかですね。
──ドラマの主題歌に起用されるとか(笑)。
めちゃくちゃやりたいですけどね。ハードボイルドなやつとかで。得意ですよ、きっと(笑)。
──より外側に向けた作業ということでは、今年3月に出たCIVILIANのコラボレーションCD「邂逅ノ午前零時」の収録曲「campanula」をプロデュースしてましたよね。CIVILIANとは昨年のツーマンライブで椿屋四重奏の曲を一緒に演奏したりして。
バンドのプロデュースとか前からめちゃめちゃやりたかったんですよ。なかなかきっかけがなかったんですけど、うれしいことにオファーがあって。もともと、椿屋をやってたときもプロデューサー目線でやってたところはありましたからね、けっこう好きなんですよ、プロデュース作業。