屋内開催「M-1」敗者復活戦、現地レポート (original) (raw)
令和ロマンの優勝で幕を下ろした「M-1グランプリ2023」。この記事では決勝最後の1枠を懸けて東京・新宿住友ビルの三角広場で開催された敗者復活戦の様子をレポートする。
敗者復活戦は2015年に「M-1グランプリ」が復活して以降、決勝が行われるテレビ朝日のすぐ近くにある東京・六本木ヒルズアリーナで毎年実施されている。復活以前の初期の頃から「風が吹きさらす屋外で戦われるもの」というイメージが定着している敗者復活戦。お笑いを楽しむ会場としては観客にとっても過酷だったが、そんな環境も含めて風物詩となっていた。それだけに、”屋内開催”のニュースは大きな話題を集めることに。「夕方のチャイム」「救急車両のサイレン」といったハプニングを回避し、よりよいコンディションでネタが披露されることも期待された。
ルールも大きく変わっている。準決勝で敗退した芸人たちを3ブロックに分け、「1組目vs2組目」「先ほどの勝者vs3組目」「先ほどの勝者vs4組目」……という対戦形式でネタごとに観客(ランダムに選ばれた500名)が審査。各ブロックを勝ち残った3組に芸人審査員が投票し、得票数の多かった1組が決勝への最後の切符を手にする。視聴者が「面白い」と思った3組に投票し(国民投票)、もっとも多くの票を獲得した1組が選ばれる昨年までの方式は、知名度や人気も少なからず結果を左右。今年はそれらにかかわらず“ネタが面白い芸人”にチャンスが広がるのではないかと注目されていた。
前説やCM中、カメラには映らない場面で会場を盛り上げていたのはどりあんず。3時間を超える長丁場を観客と一緒に楽しんだ。芸人審査員は、NON STYLE石田、かまいたち山内、錦鯉・渡辺、マヂカルラブリー・野田クリスタル、アンタッチャブル柴田という「M-1」決勝をよく知る芸人たちが担当。各ブロックの審査には関わらないが、「若手の劇場のレベル、どうなってるんだろう」(野田クリスタル)、「キャバクラだったら延長したい」(渡辺)といった言葉で出場者たちのネタを評価していく。
Aブロックには華山、ぎょうぶ、ロングコートダディ、ニッポンの社長、20世紀、ママタルト、ヘンダーソンが、Bブロックには豪快キャプテン、鬼としみちゃむ、スタミナパン、トム・ブラウン、エバース、ナイチンゲールダンス、オズワルドが、Cブロックにはドーナツ・ピーナツ、きしたかの、シシガシラ、ダイタク、ななまがり、バッテリィズ、フースーヤ(ネタ順)が登場。ネタ後にすぐ結果がわかる対戦形式とあって、決勝経験者のコンビを未経験のコンビが倒すと会場は「おおー!」と興奮に包まれる。観客審査のため納得感も大きい様子。どのコンビにも大きな拍手が送られた。
敗退時のコメントやリアクションも見どころで、ブロックのトリだったヘンダーソンに敗れたママタルトはどてーんとひっくり返るコミカルな負けざまで会場を沸かせる。誰も真似できないぶっとんだ世界を演じたトム・ブラウンは、言葉の掛け合いで見せるエバースに大差で敗れて大笑い。ラストイヤーだったななまがりは、森下が「パラレルワールド」ネタを2つも放り込み、最後までボケの姿勢を貫いて潔くステージを後に。フースーヤは「負けたのはお前のせいだ」とケンカする流れから、「余った具材でチャーハン、チャーハン」を披露して笑いを起こす。CM中には司会の陣内智則に喉の調子を心配された谷口が「スペアの喉あるんで!」と元気に返すなど、終始2人らしい姿を見せていた。
各ブロックを勝ち上がったのは、ヘンダーソン、ナイチンゲールダンス、シシガシラの3組。芸人審査員5名の投票により、ヘンダーソン1票、シシガシラ4票でシシガシラが決勝へと勝ち進んだ。シシガシラは2人で喜びを噛み締め、「朝起きたときは決勝に行くなんて思ってなかった。信じられない……」(脇田)とすぐには実感が湧かないが、会場の応援を受けながら急いで決勝のスタジオへと向かう。ラストイヤーで憧れの舞台まであと一歩だったヘンダーソンは「負けたので引退します……。ウソウソ! テテレー!」と披露したドッキリのネタで笑いを誘った。
昨年までは敗者復活戦の本番中、国民審査(視聴者による暫定的な採点。最後の投票には直接の関係はない)が随時発表され、2020年にはその平均点がもっとも高かったインディアンス田渕が「国民最高ー!」と感謝した直後、最低点だったランジャタイ国崎が「国民最低ー!」と叫んだことも記憶に新しい。今回は対戦結果が出るたびにドラマが生まれ、会場の観戦ムードはいつも以上に白熱していた。ニッポンの社長がオチ寸前でタイムオーバーとなり、爆発音に包まれた場面はネタの世界観と相まって笑いも爆発。その後、結果を待つ間のトークで実際はなんというセリフだったか明かすことができるのも今年の方式ならではだった。