【会見レポート】福士誠治らが“エベレスト”登山開始!「インヘリタンス-継承-」熊林弘高演出にもドキドキ (original) (raw)

「インヘリタンス-継承-」の製作発表会が、昨日11月21日に東京・東京芸術劇場 プレイハウス横のCafe des Artsで行われた。

マシュー・ロペスが脚本を手がけた「インヘリタンス-継承-」は、2019年にローレンス・オリヴィエ賞4部門、2020年にトニー賞4部門を受賞した作品。前後編で約6時間30分に及ぶ本作では、現代のアメリカ・ニューヨークを舞台に、六十代、三十代、二十代という3世代のゲイコミュニティの人々が愛と自由を求めて生きる姿が描かれる。今回は熊林弘高が演出を担う。

製作発表会ではまず主催の東京芸術劇場の副館長・鈴木順子氏があいさつ。続いて本公演のスポンサーとなる日本国際交流センター執行理事兼グローバルファンド日本委員会事務局長の伊藤聡子氏が「人々がエイズの恐怖に陥った1980年代から1990年代を時代背景にした舞台作品は数多くありますが、本作は今からほんの数年前が舞台。エイズ問題が今もなお続いていることを教えてくれる作品です」と本作を語った。

そしてメインキャストの福士誠治田中俊介新原泰佑柾木玲弥山路和弘麻実れいが登壇した。福士は「台本を読んだときに、本作の一番深いところに“愛”という言葉があると思いました。どんな形であれ、人が人を愛することは止められない。愛をテーマに僕自身何か伝えることができたら」と話す。また記者からゲイコミュニティの愛を6時間30分をかけて描く意味を問われた福士は、作品のメッセージは観客の受け取り方や感性に委ねたいとしつつ、「次の世代が生きやすくするために伝えていくこと、継承することは1つの愛だと思います。どんなコミュニティも、何かを伝えたり排除したりしながら進化してきたと思いますが、今回は僕たちがゲイコミュニティの愛を表現する。それを描くのにむしろ6時間半に“収まったな”と考えるのが良いのかなというくらい」と考えを述べた。

田中は「お話をいただいたとき相当な覚悟がいる作品だと思いましたが、コロナ禍を経て人と人との関わり合い方が難しくなった今、本作とリンクすることがたくさんあると思い、出演を決意しました。今の時代だからこそ、愛について考えることが必要なのかなと。この作品によって救われる方がいるかもしれない。そんな力を持った作品だと思うので、素敵に仕上げたいと思います」と言葉に力を込める。山路は「来年70歳になりますが、LGBTQという言葉が広まる前から自分の周りでマイノリティの人間を数多く見ました。すでに亡くなった方もいます。彼らが観たかっただろうなと思えるような作品にしたい、と心ひそかに考えています」と胸中を明かした。なお篠井は発熱で欠席となったが、録音メッセージで「この作品は一生に一度あるかないかの大作です。ご覧になる方もなかなか大変なお芝居だと思いますが、良い作品になることを願っています」とコメントした。

製作発表では熊林作品に出演経験のある福士、柾木、山路、麻実が、熊林の稽古スタイルについて「通し稽古の回数が少ない」と明かす場面も。本作が初参加となる田中は「先ほど熊林さんから『通しは1・2回しかやらないからね』と言われ、(同じく初参加の)新原くんと『マジか』という表情で顔を見合わせました(笑)」と振り返る。

新原は「ビビってる新原です(笑)。素敵な先輩方がいらっしゃるので、ちょっと助けていただきながら、全力でがんばりたいと思います」とおちゃめに意気込む。また新原は自身の役どころに触れ「舞台俳優のアダムと男娼のレオという全然違う2役を演じますが、2人とも(田中演じる)トビーを好きになる。さらに、アダムとレオが出会うシーンもある。どんな演出になるかまったくわからず、熊林さんもニヤニヤして『楽しみだね』と言うばかりなので、今からドキドキが止まりません」と期待と不安が入り混じった表情を見せる。熊林演出作品に2度目の参加となる柾木は「熊林さんは映画や舞台の知識が豊富なので、その話を聞けるのがうれしい。前回は役作りにおいて、具体的な作品名や登場人物のイメージを伝えてくれたのがありがたかった」と明かした。

麻実は熊林を「俳優を緊張させず、自由に動くよう促しつつもまとめていく演出家」と称賛する。そして麻実は自身が演じるマーガレットについて「最愛の息子を亡くし、人間として一番大切な尊厳というものに向き合う役。母として息子との絆、そして“息子たち”との絆も表現できたら」と、共演者たちに視線を送りながら語った。

なお本公演はR-15指定となっている。この理由について本作のプロデューサーは「台本上に性行為のシーンがあるため」と説明しつつ「ただ、熊林さんの過去作品における性的シーンは、高い芸術性をもって表現されることが多い。今回も直接的な見せ方ではなく、官能的な美しい表現になるのではないか」と見解を述べた。約2カ月間の稽古に向けて何か準備をしているか?と問われた福士は「本当は2カ月以上欲しい(笑)」と言いながら、「(劇中で)恋人や結婚相手になる方がいますので、彼らに好きになってもらえるように、多少ボディを調整しております(笑)。そこも楽しんでいただけたら」とはにかんだ。

また、製作発表会では熊林のビデオメッセージが流れた。熊林は「初めて出会ったクィア作品は映画『蜘蛛女のキス』でした。ヴィスコンティ、アン・リー、フランソワ・オゾン、グザヴィエ・ドラン、ベルトリッジの『暗殺の森』、ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』、『ムーンライト』……ふと思い出すだけでも、さまざまな国の素晴らしい映画が頭に浮かびます。私にとってクィアの歴史は映画だと言えます。エベレストを装備なしで登らないように、『インヘリタンス』という巨峰を偉大な映画監督から継承したものに背中を押されながら、これから登頂しようとしています。『よくぞこの作品を引き受けていただいた』と感謝を捧げたくなるような、勇敢な俳優とスタッフと共にたどり着いた頂からの眺めがどんなものになるか考えると、その過程の困難さに怖気づくより、楽しみのほうが日に日に勝ってきています」と語った。

公演は来年2月11日から24日まで東京芸術劇場 プレイハウス、3月2日に大阪・森ノ宮ピロティホール、9日に福岡・J:COM北九州芸術劇場 中劇場で行われる。東京公演のチケット販売は11月25日にスタート。

「インヘリタンス-継承-」

2024月2月11日(日・祝)~24日(土)
東京都 東京芸術劇場 プレイハウス

2024年3月2日(土)
大阪府 森ノ宮ピロティホール

2024年3月9日(土)
福岡県 J:COM北九州芸術劇場 中劇場

作:マシュー・ロペス(E・Mフォースターの小説「ハワーズ・エンド」に着想を得る。)
訳:早船歌江子
ドラマターグ:田丸一宏
演出:熊林弘高
出演:福士誠治田中俊介新原泰佑柾木玲弥、百瀬朔、野村祐希、佐藤峻輔、久具巨林、山本直寛、山森大輔、岩瀬亮 / 篠井英介 / 山路和弘 / 麻実れい(後編のみ)

※初出時より本文の内容を変更しました。

全文を表示