「High Life」谷賢一×古河耕史×ROLLY 鼎談 / 吉田悠(Open Reel Ensemble) - ステージナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

Sony Music Artistsの主催公演「SMA_STAGE」が始動。記念すべき第1弾公演の演目に選ばれたのは、カナダの劇作家リー・マクドゥーガルの処女作、薬物中毒の男4人が織りなす悲喜劇「High Life」だ。初演時、内容の過激さゆえに脱稿から上演まで2年を要したこの戯曲に、演出の谷賢一、そして古河耕史、細田善彦、伊藤祐輝、ROLLYの4人が挑戦する。

さらに本作には、Open Reel Ensembleの吉田悠、吉田匡、Molt Beatsの山口元輝、映像作家の清水貴栄といったクリエイター陣も参加。演劇、音楽、映像、それぞれのセクションが100パーセントの力でぶつかり合うこの作品に、彼らはどのように向き合っているのか? 谷、古河、ROLLYの3人に話を聞いたほか、劇伴を手がける吉田悠がステージナタリーにコメントを寄せた。

取材・文 / 興野汐里 撮影 / 三浦一喜

──本作では、人生に行き詰まった薬物中毒の男4人が一発逆転を狙い、大金のためにある計略を企てます。古河耕史さんとROLLYさんは、細田善彦さん、伊藤祐輝さんと共に過激かつ反社会的な4人の男を演じますが、お二人は本作の戯曲を読んでどんな印象を受けましたか?

ROLLY リーダー格のディック、ジャイアンみたいなバグ、弱虫でいつも足手まといになってしまうドニー、色男のビリー、4人の男性の色合いが1人ずつ違う。バイオレンスで怖いイメージがあるけれど、どこかユーモラスで奇妙な友情を描いていて、笑えるところもある作品だなと。観る人によっては最悪な話にも取れるし、夢の中にいるような作品にも取れる。それから、4人がトリップするシーンはお客さんも一緒にトリップできそうですよね。ヤクザ映画を観たあと、自分が強くなった気がするじゃないですか(笑)。それと同じで、劇場に入ったときと劇場から出るときとではきっと違う感情を抱いているはずです。

古河耕史 僕は、“あったけえ話”だなと思いました。この4人の会話って飾らないし、忖度しないし、炎上しない。

谷賢一 ははは(笑)。

古河 携帯電話がそれほど普及していない1990年代に、社会性のない者同士が会って話さないといけないという状況も面白いですよね。20年以上前の戯曲なので古い話という印象は当然ありますけど、この世界を一緒に体験してもらえれば「人間って面白いな」と思ってもらえるんじゃないかなと思います。

──ROLLYさんからもお話があったように、出演者の皆さんはそれぞれ特徴的なジャンキーの4人を演じます。登場人物と実際の4人の関係性で共通する点があれば教えてください。

ROLLY

ROLLY 古河さんは、ディックみたいにみんなをリードしていってくれる人です。ビリーを演じる細田さんは物静かだけどやっぱり色男。僕は、ミュージシャンでありながらお芝居にも出るフラフラしたコウモリ男でね。バグ役の伊藤さんだけは違って、彼自身はすごく真面目でジェントルマン。お芝居の中に出てくるバグは狂犬だから本人とのギャップがすごいね。あと、彼の肉体美には本当に惚れ惚れします。

──劇中に伊藤さんが服を脱がれるシーンが……?

谷 稽古中にテンションを上げるために「脱いでみましょう」ということになって、そのときのリミッターが外れた感じの演技がとてもよかったんです。「通報されるだろうな、この人」っていうリアリティが滲み出ていたので、本番もこれでいこうかなと。

ROLLY 「君の肉体はダビデ像みたいだね」という話を伊藤さんにしたら、「実は子供の頃に博物館でダビデ像を見て、自分もこんなふうになりたい」と思ったそうで。それからダビデを目指してきたらしいですよ。

──実話ですか?(笑)

ROLLY なんと実話です(笑)。

古河 ダビデ像の模型を実際に買って、参考にしてたって言ってましたもんね。

──伊藤さんもかなり突き詰めていらっしゃる方なんですね(笑)。

古河 そうですね。真面目だけど振り切っちゃってる。

ROLLY 男しかいない現場だから男子校の部室みたいな話をずっとしてて、「ナンパをしたことがあるか」っていうのを稽古の合間に告白し合ったんです。僕と古河さんは経験がなくて。

古河 ROLLYさん、僕もね、1回くらいはあります(笑)。

谷 あるの!?(笑)

──ちなみに谷さんは……?

谷 ないんですよ。でもナンパのやり方を教えてもらったのでこれから試してみようと思ってます。

一同 (笑)。

谷さんは“闘う演出家”(古河)

──古河さんと谷さんはこれまで、Théâtre des Annales(テアトル・ド・アナール)の作品などでご一緒されてきました。谷さんが思う、俳優・古河耕史とはどんな存在ですか?

古河耕史

古河 恥ずかしいっすね、これ(笑)。

谷 耕史くんは天才、かな。感覚的な人か技術的に優れている人、どちらかに寄りがちだと思うんですよ、俳優さんって。でも彼は鋭い感性と優れたテクニックを持ち合わせている。どちらも秀でている稀有な存在だと思います。バランスがいいって言うと全体的に弱い感じがするけれども、彼はそれぞれが一級品なんですよね。だから今回もすごく濃い世界観を持った悪党を演じてくれると思ったんです。今までご一緒した作品も今回も、芝居の核になってくれていますし、すごく助けてもらっています。

──古河さんは、今のお話を受けていかがですか?

古河 谷さんは大天才だと思います。

谷 嫌だね、この流れ(笑)。

古河 ははは!(笑) とにかく、一緒に演劇を作るにはうってつけの人ですね。“闘う演出家”みたいなイメージかなあ。あと優しいです。もちろん厳しいところもあるんですけど、心の底から演劇を大事にしていらっしゃるので、愛がある人だなって思いますね。

──谷さんは今年、白井晃さんが出演された「三文オペラ」の演出を手がけられ、ROLLYさんは白井さんが演出を務めた「三文オペラ」(2007年)に出演されています。お二人も間接的な関わりをお持ちですよね。

ROLLY 谷さんとは、今年上演された「三文オペラ」を観に行ったときに初めてお話をしました。実を言うと僕は、谷さんが翻訳された「クリンドルクラックス!」(2012年)にも出演していたんですよ。それに「三文オペラ」で音楽監督をやっていたドレスコーズの志磨遼平さんもよく知っている仲なので、やっぱりご縁があるなと。そういえば今回、谷さんの現場で初体験だったことがあって。演劇の現場って最初は本読み稽古から始めて、次に立ち稽古っていうのをやるんですけど、谷さんの場合はその間に“半立ち稽古”っていうのが入るんです。

──“半立ち”というのは?

谷 真面目に答えると、台本を持った状態で立ち稽古をするという、読み合わせと立ち稽古の中間みたいなものですね。

ROLLY 僕、そのネーミングがなんとなく男子校っぽくて気に入ってるんです(笑)。

──ダブルミーニングですね(笑)。今も少しお話が出ましたが、谷さんはミュージシャンの方との共同制作が続きます。

谷賢一

谷 ご覧の通り、ソファだったりテレビだったり、いろいろながらくたが舞台上にたくさん置いてあるんですけど、ここにさらにインダストリアルな匂いのする楽器が加わる予定です(参照:生演奏×映像の効果でトリップ、「High Life」谷賢一が稽古で構想明かす)。明らかにこの世のものではないということがわかる衣装を着けたミュージシャンたちが常にステージ上に存在していて、ディック、ビリー、バグ、ドニーの4人を見つめている。4人の精神がドラッグによって覚醒した瞬間に、ミュージシャンたちも動き出して、彼らの内面世界で起こっていることを音楽で表現してもらおうと思っています。じっと見守っている悪魔みたいな存在になるといいなと。

──後方に設置されたパネルに映像が投影されるということですが、抽象的な映像を使用するのか、または具体的な映像を使うのかなど、現段階での構想を教えてください。

谷 抽象と具象、どちらも盛り込む予定です。幾何学模様のようなものが展開していくこともあれば、具象物が次々と動いていくこともある。薬物中毒の彼らが見ているであろう幻覚を想像しながら、シーンごとにチョイスしていければ。

──ROLLYさんは今回、俳優としての参加となりますが、ミュージシャンとして刺激される部分もあるのではないでしょうか?

ROLLY ……やっぱり(ギターを)弾きたくなるでしょうね。

谷 弾いちゃうって手もありますけどね。

ROLLY そうなったら、僕のお客さんは喜んでくれると思います(笑)。ポンと楽器を渡されて「なんでもいいから弾いてみて」って言われたら、一般的には皆さん困ると思うんですけど、僕らミュージシャンはその逆で、楽器を持ってるときのほうが逆にリラックスできるというか。