岡田利規ら時代を切り取るアーティストが「KYOTO EXPERIMENT 2023」にメッセージ - ステージナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2023」が9月30日に開幕する。「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」は、国内外の気鋭のアーティストが集う国際芸術祭。2023年は“まぜまぜ”をキーワードに、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」「Shows(上演プログラム)」「Super Knowledge for the Future[SKF](エクスチェンジプログラム)」を3本柱にした多彩なプログラムが展開する。
本特集では、「Shows」に参加するチェルフィッチュの岡田利規、韓国のマルチアーティストであるイ・ラン、オーストラリアのカンパニー、バック・トゥ・バック・シアターのディレクターであるブルース・グラッドウィン、ダンサーの中間アヤカ、カナダの振付家でライブアーティストのデイナ・ミシェル、アルゼンチンの作家・演出家マリアーノ・ペンソッティによる「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2023」に向けたメッセージを紹介。またディレクターの川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップが、「Shows」以外のプログラムについて見どころを語っているほか、最終ページには全プログラムの紹介を掲載している。
構成 / 熊井玲
「KEX2023」に向け、参加アーティストたちがメッセージ
ただ芝居を観て楽しみたいなあと思って来てくだされば(岡田利規)
チェルフィッチュ「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」
岡田利規©Kikuko Usuyama
──8月の東京公演を経て、どのような手応えを感じていますか?
わたしたちがこの上演を通して問いたかったことの本質がきちんと伝わっているように感じることができました。それは、思っていた以上に、でした。なので手応えとしてはじゅうぶんです!
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
なんの下準備もしなくてよいですのでただ芝居を観て楽しみたいなあと思って来てくださればうれしいです。「KYOTO EXPERIMENT」のほかの参加作品もぜひ観てほしいです。それらとあわせて経験することでわたしたちの「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」もより豊かに楽しめるはずと思いますし、それがフェスティヴァルの醍醐味ですしね。
まっさらの状態から自分を捉え直して(イ・ラン)
イ・ラン「Moshimoshi City:1から不思議を生きてみる | 뚜벅뚜벅 , 1 도 모르는 신기속으로」
イ・ラン©Melmel Chung
──本作の誕生にはどのような思いがあったのですか? 創作のきっかけ、または作品を楽しむヒントを教えてください。
私の作品の誕生の背景には、自分以外の人々がどうやって生きているかということへの興味がまずありました。また、私自身がどこか知らない場所に行って、外から来た人として経験してきたことも大きいかもしれません。自分の属性を一旦置いて、作品を通してまっさらの状態から自分を捉え直してみること。ぜひ歩きやすい靴を用意していらっしゃってください。
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
「KYOTO EXPERIMENT 2023」にアジアのアーティストたちが多く参加していること。また、マイノリティをテーマにした作品が多いことにも興味を持ちました。私の作品も、聞こえない声が聞こえてくるような作品となることを望んでいます。
実際の事件を機にメンバーの感情や思考から生まれた“気の利いた面白い作品”(演出:ブルース・グラッドウィン)
バック・トゥ・バック・シアター「影の獲物になる狩人」
ブルース・グラッドウィン©︎Cherine Fahd
──本作の誕生にはどのような思いがあったのですか? 創作のきっかけ、または作品を楽しむヒントを教えてください。
この作品が誕生するきっかけとなったのは、「ニューヨーク・タイムズ」の非常に衝撃的なある記事でした。アイオワ州にある七面鳥処理工場で、奴隷のような条件のもとで働かされ、七面鳥の解体をしていた知的障害を持つ32人の男性たちが、35年間の後に解放されたというものです。この記事がきっかけとなって、労働者の権利や障害者運動、社会から疎外された人々の搾取について、出演者たちと対話を行いました。
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
現代において、私たちは社会全体としてかなり複雑な概念やたくらみに直面しています。そのために、演者にとってこの作品は、街頭演説の演説台にもなり得るし、同時に厳しい試練の場にもなり得ます。
「影の獲物になる狩人」は、個性的で才能あるメンバーたちの感情や思考から生まれた、気の利いた面白い作品であると、私たちは考えています。ですから、パフォーマンスそのものを楽しんでほしいですし、そこから喚起され得る重要な議論もまた楽しんでいただければと思います。
メンバーのサイモン・ラーティの言葉を借りれば、「観に来て、気に入らなければ、帰ればいい」ということです。
ダンスという現象のために、出来る限りのことを実験します(中間アヤカ)
中間アヤカ「踊場伝説」
中間アヤカ©Bea Borgers
──本作の誕生にはどのような思いがあったのですか? 創作のきっかけ、または作品を楽しむヒントを教えてください。
ダンサーになるため関西にやってきて活動を始め10年が経ち、自分の踊りをどのように残していくことができるか考えるようになりました。関西でコンテンポラリーダンスのコミュニティが形作られてきた場の歴史と、都市の流れの関係性についても気になっていました。私は、ダンスは超常現象のようなものであると思っていて、人々を巻き込み、変化していく都市伝説の在り方にフォーマットとしての可能性を感じています。ダンスという現象のために、出来る限りのことを実験します。
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか? 今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
本来は自然発生的なものであるはずのダンスを“作品”にし、“舞台”で“上演”するという文化に出会ってしまったために、今となっては当たり前に受け入れられているその行為を疑わねばならない羽目になっています。ダンスに似合う場所を探し続けて、今回は外に出ることになりました。関西で長く活動を続けてきたレジェンドや、新しく出会う人たちとも一緒に場を作っていきます。1週間でひとつの作品です。ぜひ通ってほしいです。
開かれた精神と好奇心を持って、想像力を働かせて(デイナ・ミシェル)
デイナ・ミシェル「MIKE」
デイナ・ミシェル©Richmond Lam
──本作の誕生にはどのような思いがあったのですか?
「MIKE」のクリエーションにあたって最も注力したのは、「自分自身と他者に対する信頼がなければ、公的な生(これは、私たちの内面的な生が反映されているものです)を安心して生きることは不可能だ」というアイデアを強調することでした。信頼がなければ、私たちは片側だけ生きているような不調和な状態に停滞してしまうでしょう。いわば、他者の尊重の仕方もわからず、他者の存在を真に認めることすらできない状態で延々と立ち往生する、交通渋滞にはまったようなものです。私たちは、他者を信頼することを学ばねばなりません。この作品では、私たちはまず自分自身の“真の”自己を信頼しなければならないのです。
──創作のきっかけ、または作品を楽しむヒントを教えてください。
この作品を創るにあたって私が強く願っていたのは、自分自身や観客にとって、リズムに乗って、できるだけ生まれ持った流れの中で働くことができるような環境を作ること、そして自分の最適な生き方の様式に対してできるだけ伝導性のある環境を作り上げることでした。「MIKE」に夢中になってくれるお客さんは、開かれた精神と好奇心を持って、想像力を働かそうという意気込みで経験に飛び込んでいける人たちだと思います! まとまった筋書きや明確な答えはありません。観客の皆さんにはぜひ、目の前で繰り広げられることを見、聞き、感じながら、自分なりの解釈を作り上げてほしいと思います。
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか?
皆さんには、くつろいでいただき、むしろ自分の居心地の悪さを招き入れてみて、問いかけてみてほしいと思います。この作品との向き合い方には、完全な正解も間違いもありません。ただし、どこか期待感を緩めて、作品のゆっくりしたペースに身を委ねる力が必要になってくると思います。上演時間は3時間あるので、昼寝をするもよし、休憩を取るもよし。とりとめのない考えを巡らせたり、姿勢を変えたり、泣いたり笑ったり、退屈したり……長時間の上演と付き合うために思い思いのことをする、というのはヒントとして参考になるのではないでしょうか。
──今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
この世界に生きている私が何を感じながら過ごしているか、ということを、ますます反映できるようになってきたと思います。そんな今の時代を生きていることに、わくわくしています。日本の自然と文化には、なんだかとても親しみを感じるんです。そんなこの国で「MIKE」を上演するときに何を感じるか、とても楽しみですね。
この現在は、将来どのように記憶されるか?を想像する(マリアーノ・ペンソッティ)
マリアーノ・ペンソッティ / Grupo Marea「LOS AÑOS(歳月)」
マリアーノ・ペンソッティ©Bea Borgers
──本作の誕生にはどのような思いがあったのですか? 創作のきっかけ、または作品を楽しむヒントを教えてください。
「LOS AÑOS(歳月)」の出発点は、ある人物が30歳のときと60歳のときの人生を同時に物語る、というアイデアでした。ある人が思い描いていた人生と、実際にそうなる人生との間の、時に残酷な対比に興味がありました。私の多くの作品において、時間の経過という概念や、それが人々や社会にどう影響するかということは、中心的な要素であり、繰り返し現れるある種の執着として存在しています。この演劇の場合、主人公のマヌエルはドキュメンタリー映画作家で、若いころに、貧困生活を送る少年についての映画を制作しました。マヌエルは、円熟を迎えた30年後に、その少年を探し出して、彼の人生がどんなものになっているかを知ろうと試み、彼についての新たなドキュメンタリーを作ろうとします。
この作品の最初のバージョンを書いたときには、老年期のマヌエルの人生は、私たちの現在において展開しており、青年マヌエルの人生は30年前の1990年代に展開していました。しかし、その途中でパンデミックが始まり、全く違うことを発展させたいと思うようになりました。突然、若者の人生を2020年代の現在にして、老年期の人生を2050年代とするほうがずっと魅力的に思われるようになったのです。
その理由はまず第一に、パンデミックの間に“未来”という概念が、以前よりずっと問題含みの、不確実で、恐ろしく、しかし同時に魅力的なものになったことです。また、この現在が将来にどのように記憶されるかを想像することを、ますます重要だと感じるようになりました。私たちは数年後に、今経験していることをどう物語るのでしょうか? 私が住んでいる街は、今後30年でどのように変わるでしょうか? 今私たちの身の回りにいる人々の人生は、どうなるのでしょうか?
──「KYOTO EXPERIMENT 2023」の観客に作品のどんなところを楽しんでほしいですか?今回、作品を発表することへの思いを教えてください。
劇中で言及されるのは、ある人が人生を通じて経験する変化が、ユートピアとそこから生まれる破綻した社会との関係性に似ている、ということです。ユートピアと変化は、この作品の中心的な概念として、さまざまな仕方で現れます。例えば、初めのうち主人公は、ヨーロッパの建物のイミテーションであるブエノスアイレスの建物に関するドキュメンタリーを作っています。ヨーロッパにある建物の複製がアルゼンチンで建設された時代がありましたが、それらの元となった建物は、やがて20世紀ヨーロッパの戦禍で破壊され、南米の複製物だけが残ることになりました。それは、同じように未完成のままだったり、イミテーションの形で生きているに過ぎないヨーロッパ主義的ユートピアの、歪んだ反映なのです。
これらの要素のうちいくつかは、将来についての批判的であまり希望的でない展望を示しているように思われるかもしれません。けれども、この作品は悲観的ではありません。むしろ、未来を再考し、未来の可能な姿を描きなおし、どのように未来を変容させることができるかを考え直すための招待なのです。フィクションを通したある種の生命の肯定なのです。
近年、資本主義は、社会を組織するためには資本主義以外の方法などあり得ない、という考えを売り込むことにかなり成功してきました。けれども、私たちははっきりと異なる意見を持っています。だからこそ私たちは、未来をより良くすることはいつも可能だと信じています。私たちは未来を発明することができるからです。この作品は、直近の未来に予見される数々の課題について話し合うことへの開かれた誘いであり、フィクションの文脈の中でさえ、楽観的なのです。
アルゼンチンで活動するインディペンデントのカンパニーである私たちにとって、この作品を日本で発表する機会を得られたことは、夢のようなことです。それも、過去・現在・未来が非常に特殊な形で共存しているように思われる、京都という特別な場所ですから、そこで時間についてのこの作品がどのように共鳴するのか、見届けるのを心から楽しみにしています。