「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」10年の構想を経て舞台化!花總まりが見せる“新しい私” - ステージナタリー 特集・インタビュー (original) (raw)

カナダの作家アンドリュー・カウフマンによる小説「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」が、演出家・G2による10年の構想を経て舞台化される。本作で描かれるのは、奇妙な強盗に“魂の51%”を奪われた13人の被害者たちの物語。“魂の51%”を奪われたことによって、身体が縮んでいってしまうステイシー役を花總まり、ステイシーの夫である“僕”役を谷原章介が演じる。ファンタスティックな設定がちりばめられたこの作品を、主演の花總はどのように捉えているのか? 本格的な稽古が始まった3月上旬、花總に話を聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)

“新しい私”を見せたい

──アンドリュー・カウフマンの小説「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」は、2010年(日本では2013年)に出版され、独創的な世界観が人気を博しました。原作を読んで、どのような感想を持ちましたか?

まず、「世の中にこんな発想をする方がいらっしゃるんだ!」と衝撃を受けました。「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」では、風変わりな強盗から「今持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」「私はあなた達の魂の51%を手にした。それによりあなた達の身に奇妙な出来事が起きる。自ら魂の51%を回復しない限り、命を落とすことになるだろう」と言われた13人の被害者が、それぞれ信じられないような出来事に見舞われます。“魂の51%”を奪われたステイシーの身長が縮んでいくという設定をはじめ、13人全員のエピソードすべてが奇想天外だと感じました。ただ、被害者1人ひとりに起きた事象ももちろん興味深いのですが、作品の軸になっているのは、やはりステイシーと“僕”夫妻の物語だと思うんです。原作を読み終えたとき、心がほっこりして、何か大切なものに気付かされたような感覚になる、奥深い作品だと感じました。

花總まり

花總まり

──夫婦役を演じる谷原章介さんとは今回が初共演となります。

谷原さんはテレビドラマへの出演や司会業をされている姿をよくお見かけしていました。実際お会いしてみて、声質がとても素敵な方だなと思いましたね。今は少しずついろいろなお話をして、谷原さんの素顔を知っていっている段階なのですが、実は同学年だということがわかって、一気に距離が縮まったような気がしました。「今回の稽古場では、お互いをあだ名で呼び合ってみましょう」ということになり、私は「しょうちゃん」、谷原さんは「はなちゃん」と呼んでいます(笑)。ステイシーと“僕”は決定的に仲が悪いわけではないんだけれど、なんとなくギクシャクしている夫婦。表現の仕方を間違えると、そのギクシャク感が伝わらず、何事もない仲の良い夫婦に見えてしまうので、微妙なニュアンスを調整しながら、谷原さんと2人でステイシーと“僕”の関係性を築いていっているところです。

舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」ビジュアル

舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」ビジュアル

──花總さんは、ご自身が演じるステイシーをどのような人物として捉えていますか?

ステイシーは数学を愛してやまない女性で、何事も数学によって解き明かせると思っている人。それを象徴するように、彼女は高校2年生のときから使っている電卓を“最も思い入れのある物”として強盗に差し出します。また原作の小説や台本を読んで感じたのは、小さな子供を抱え、子育てで手いっぱいになっているうちに、夫との関係がおざなりになってしまったのではないかと。そんな中、自分の身長が縮んでいってしまうという不可思議な出来事に直面しますが、ステイシーは決して絶望することなく、現状を打破しようとしている気がします。これまで出演してきた作品だと、自分の中にある引き出しからアイデアを出して役作りをすることが多かったのですが、ステイシーに関しては意外と難しいなと思っていて……。自分の中でまだつかみきれていない部分がありますが、ステイシーを通して“新しい私”をお見せできたら良いなと思います。

“舞台だからこそ表現できるマジック”を大切に

──G2さんは、舞台「ガラスの仮面」や新作歌舞伎「NARUTO-ナルト-」といった原作ものの作品から、ご自身が書き下ろした「月とシネマ2023」のような作品まで、さまざまな作品の演出を手がけています。今回、G2さんが10年にわたって構想を練り、「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」の舞台化が実現することとなりました。

今G2さんの中で、長年の願いがようやく結実する興奮と、自分の頭の中で考えていたことをスタッフ・キャストと共に具現化することへの不安が入り混じっていると思うのですが、G2さんはそのときに考えていることをストレートに伝えてくださるので、俳優として迷うことがなく、とてもやりやすいです。1つの場面ができあがると「うわあ! (この先の展開が)見えた見えた!」と喜んでくださいますし、検討の余地がある場合は「うーん、ちょっとまだ見えてこないなあ」「ここはもう少しこのように表現してほしいです」と声をかけてくださいます。

花總まり

花總まり

──“妻が縮む”“夫が雪だるまになる”“老いた母が98人に分裂する”など、ファンタスティックな展開がどのような演出で表現されるのか、非常に興味深いところです。

現段階ではまだ具体的なことは申し上げられないのですが、G2さんが最初のお稽古の日に「『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の仕掛けをどのように表現するのか、周囲から聞かれることが多い」「舞台ならではの手法を使って、お客様と共に過ごす“生の空間”でこの作品を作ることを大事にしたい」とおっしゃっていました。なので、私たち俳優は“舞台だからこそ表現できるマジック”を大切にして、お客様に「原作の独特な世界観が舞台上でしっかりと表されていたね」と思っていただけるようにがんばりたいです。俳優はもちろん、音楽や振付、舞台美術、照明、音響など、スタッフの方々も含めてカンパニー一丸となり、総合芸術として作品を立ち上げることがとても重要な舞台になるのではないかと思っています。

──舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」の公式サイトには、花總さんの「歌の表現にも注目して欲しい」というコピーが記載されています。また、音楽をかみむら周平さん、振付を山田うんさんが担当するなど、さまざまなジャンルで活躍するクリエイター陣がクレジットされているのも本作の注目ポイントの1つとなりそうです。

基本的にはストレートプレイなので、ミュージカルのように歌うことはないと思うんです。歌なのか、声なのか、音なのか、表現方法によって変わると思いますが、自分の声がこの作品の一部になることができるのであれば、それはすごく素敵なことだなと思います。ダンスに関しては、うんさんが本作の不思議な世界観にぴったりな振付をつけてくださるのではないかと。ステイシーはそこまでダンスシーンが多くはないんじゃないかな?と予想していますが、もしガンガンに踊っていたら劇場でびっくりしてください(笑)。

思い入れのある物を差し出すとしたら…

──舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」では、平埜生成さん扮する強盗が「今持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」という要求を13人の被害者たちに突きつけます。もし花總さんご自身がこの要求をされた場合、どんなものを差し出しますか?

やっぱり、長年持っているものを渡すと思うんですよね。そうすると、いつも持ち歩いている小さい薬袋かな(笑)。お稽古で音を取るときに使っているキーボードも、長く使っていて思い入れがあるものの1つです。ただ、携帯は差し出せないと思いますね。さすがにちょっとムードがないので(笑)。

花總まり

花總まり

──確かに携帯を奪われたら、現実的で趣がないかもしれませんね(笑)。原作小説には、現実世界におけるさまざまな事象のメタファーがちりばめられていますが、ステイシーの身長が縮むことはどのようなことを意味していると思われますか?

まだ答えにたどり着けていないんですよね……。ステイシーは強盗に電卓を渡したことによって身長が縮んでいくことになりますが、“縮む”ということと、ステイシーと“僕”夫妻の距離感には何か関係があるのかもしれません。

とあるキャストの方がG2さんに「“魂の51%”を取られてこのような状態に陥ったのは、もしかするとこういう理由があったんでしょうか?」と聞いたら、G2さんが「そういう解釈の仕方もあると思います」とおっしゃっていたんです。これからお稽古を重ねていくうちに、私も「あれって、こういうことだったのかも!」と自分なりに理解できる日が来るんじゃないかなって。本番の幕が開いてからハッとするかもしれないし、公演が終わってから、あるいは数年後に気が付く場合もあると思います。

──舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」は、観客にとっても非常に考察しがいがある作品だと感じます。

そうですね。観る方によって捉え方がまったく違う作品だと思います。よくお客様からお手紙をいただくことがあるのですが、「この方には、あの作品がこういうふうに見えていたんだ。すごい! 読みが深い!」と感じることがあって、お客様から教えていただくことがたくさんあるんですよ。今回の舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」では、また新しい気付きがありそうで楽しみです。

舞台「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」は、作る側も観る側にとってもイマジネーションが大事な作品なので、豊かな想像力をもって観に来ていただきたいですね。ステイシーをはじめとする登場人物も、女性、男性、若い方、年配の方など、幅広い年齢層の個性豊かなキャラクターたちがたくさん出てくるので、さまざまな年代の方にご覧いただきたいですし、観劇を通して自分なりの答えを見つけ出していただけたらと思います。

花總まり

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