ふたりはブギウギ (original) (raw)
中学1年生、12歳の時からの、十年来の友人がいる。
幼馴染で、親友で、理解者。
何かの間違いで私の伝記が出版されたとしたら、彼女の名前は頻出するだろう。
彼女を仮にAちゃんと呼ぼう。
この土曜日は、Aちゃんと久しぶりに1日通して過ごすことができた。
中々お互いの都合が合わず、少しだけ会おう、夜ご飯だけご一緒しよう、なんて時が続いていたから。
社会人になるって、地元から出るって、こういうことだよな、としみじみ実感する。
いつでも会って話せる、そのかけがえのなさを知らなかった学生時代。
知らないからこそ、くだらない、何気ないおしゃべりを心ゆくまで楽しめた。
今は、タイムリミットがあるかのように、無意識に話題を厳選しようとする自分がいる。
次、いつ会えるか分からないから。
聞きたいこと、話したいこと、たくさんあるから。
それでも、会えばたちまち、なんら昔と変わらずくだらない話をしてしまう、そのことが可笑しくて愛おしい、
そんな2人の土曜日。
今回のプランは、Aちゃんの希望を参考に、私が考えさせてもらった。
初めは彼女の提案に驚いた。なんでも、いつも私が過ごしている休日を擬似体験したいという。
※お決まりの休日ルーティーン↓
「こんなんでいいの?」と聞くと、「それがいい」と答える彼女。
そんなわけで、この日の大まかな予定はこうだ。
1.ブギウギおしゃれタイム
2.ベトナムランチ
3.図書館・放送ライブラリー
4.ハロウィンパーティ
5.銭湯
張り切って色々詰め込んだら、朝9時半集合/夜21時半解散という怒涛のスケジュールとなった。「部活並みにみっちりだね」と笑って付き合ってくれるAちゃんは優しい。
1.ブギウギおしゃれタイム
朝ドラ「ブギウギ」にハマっているAちゃん。
(私はテレビがないので観れていない、「買い物ブギー」は歌うのに、ずっとかさ"おき"シヅ子さんだと思っていた。)
朝ドラお馴染み、視聴者の写真投稿を、私たちもやってみようということになった。
ということで、思い思いの昭和レトロな出立ちで集合し、夜のパーティー用の買い出しを済ませてから私の部屋へ。
おしゃべりを弾ませながらメイクやヘアセットをする、なんとも楽しい時間。
恐れ多いことに、Aちゃんは昔から、私のやる事なす事をほめてくれて、時には真似までしてくれる。
姉の真似をしては鬱陶しがられていた私にとって、この上ない喜びだった。
私の自己肯定感は、彼女が伸ばしてくれたようなものだ。
調子に乗って、Aちゃんにメイクや、ヘアセットをさせてもらった。
秋らしいオレンジのメイクと、茶色のワンピースに身を包んだ彼女は、一段と綺麗だった。
2.ベトナムランチ
エスニック料理好き&「外食は家で作れないものを」主義という共通点を持つ私たち。
ならば、と、私が以前から気になっていたベトナム料理のランチを頂くことに。
私はカオマンガイと唐揚げのセット。
Aちゃんはフォーとカオマンガイのセット。
カオマンガイは、だしが効いてもちっとしたご飯で、二人して絶賛だった。
唐揚げも、サクッと加減が絶妙でジューシーで、おいし~い。(隣がお肉屋さんだからかな?)
ちなみに、パクチー大歓迎の私たち。山盛りにしてほしかったくらい。
「唐辛子は辛いから気を付けてくださいね」と店員さんに言われてすぐに、真っ赤な顔で悶える、実はおっちょこちょいなAちゃん。
3.図書館・放送ライブラリー
ここからは「私の休日疑似体験コース」へ。
Aちゃんも読書好きなので、二人で図書館に行くのは初めてではない。
私が図書館でよく巡るコーナーをご紹介しながら、本談議に花を咲かせる。
Aちゃんは、あんびるやすこさんの「なんでも魔女紹介」シリーズが子供のころからのお気に入り。可愛くてキラキラとした作品は、彼女にぴったりだ。
中学の時、グリーンの水玉のシュシュを手作りして私にくれた、裁縫上手の女の子に。
お次は放送ライブラリーへ。
ブギウギの展示やアナウンサー体験もバッチリ楽しんだのち、視聴ブースへ。
「ブーフーウー」の最終回、第37回NHK紅白歌合戦(1986)、8時だョ!全員集合 などなど...ちょっとずついろんな映像を楽しんだ。
中学のころからフィンガー5をきっかけに昭和カルチャーのとりこになった私。
普通なら同年代の子と共有しにくい趣味だが、Aちゃんは貴重な昭和歌謡好き仲間なのだ。(カラオケでは、きまって昭和歌謡タイムがある)
夢中になっていたら、いつの間に日が暮れていた。
ブギウギ写真を撮るために、慌てて山下公園へと向かう。
涼しい秋風とグラデーションの空と、ピンクの月が、美しかった。
セルフタイマーで、苦戦しながらブギウギ写真も撮影した。
採用されなくても、二人の思い出に加わったから、いいよね。
4.ハロウィンパーティ
再び家に戻り、パーティーの支度をする。
自炊しているからといって、人様にふるまえるほどの腕がない私は、何日も前から必死にメニューを考えた。
パーティー料理...秋の味覚...ハロウィン...かぼちゃ...
こ、こんなもんでどうでしょう...
・柿と豆腐の秋サラダ(水抜き塩豆腐)
・カボチャサラダ(くるみ、レーズン、パセリ入り)
・トリュフ風味ブルスケッタ(生ハム、アボカド乗せ)
調理時間をかけない、失敗しない、その2点を意識して、冷製料理づくしとなった。柿のサラダはAちゃんが担当してくれた。
素材自体が良いので、どれもすべて美味しくできてよかった。
そしてなんと、Aちゃんが食後のデザートを作って持ってきてくれた!
"牧場の朝"でつくるティラミスと、紫イモのスイートポテト。
イモ好きな私のために作ってくれたスイートポテトは、素朴な甘さでとっても美味しかった。ティラミスも、濃厚でクリーミーで最高。加糖のヨーグルトで味付けいらずだし、洗い物も手間も少なくていいな~!
ネットで話題のレシピらしく、私も作りたいので忘れないように↓
ありがとう、ごちそうさま!
楽しい楽しい、ハロウィンパーティーだった。
5.銭湯
温泉好きな私たち。プランの最後のお楽しみに、下町の古い銭湯へと向かう。
突然の通り雨が降ってきて、真っ暗な道を二人で傘を差しながら歩いた。
仕事終わりに歩くのと違って、大好きな友達が隣にいると、雨も街灯もキラキラして見えるんだな。
常連さんで賑わう銭湯はかなり熱めの温度で、長風呂派の私たちでも、涼みながらじゃないとのぼせそうだった。(珍しくAちゃんが水風呂に浸かっていたくらい。)
体の芯までポッカポカになって、湯冷めしないうちにAちゃんを駅まで送った。
朝から一緒にいたから、急激にさみしくなってくる。
改札の向こうに消えていくAちゃんに、見えなくなるまで大きく手を振った。
次、いつ会えるか分からないけど。
聞きたいこと、話したいこと、まだ、たくさんあるけど。
野毛の町を歩きながら、Aちゃんがこんなことを口にした。
「お互い家庭が厳しいわけじゃないのに、どうして学生の時、あんまり自由にしなかったんだろうね。」
私は笑って、「たしかに。もっと遊べばよかったって後悔してる」と言ったが、今改めてこう考えている。
確かに私たち(特にAちゃん)は、所謂優等生で真面目で、聞き分けの良い、いい子ちゃんだった。自惚れでも何でもなく。
中一の時は同じクラス。部活も同じ。登下校も一緒の私たちは、生活態度までよく似ていた。
後悔しているのも事実だ。他人の目を気にしたばかりに損したことも多々あるし、ありのままの自分ではないという、違和感もあったから。
どうせ大人になるんだから、子どもの時くらい、子供らしくしてもよかったな。もっと好き勝手やって、失敗して、人に迷惑かければよかったかな。
それでも、
Aちゃんの前では、まさに子どもらしく、ティーンエイジャーらしくいれた。
そして、私らしくいれた。
家族のこと、部活のこと、クラスのこと、苦手な子のこと。
くだらない話から、内緒話まで、いろんなことを話した。
昭和歌謡が好きだってことも、Aちゃんに初めて話した。
周りの子は知らないだろう。
いい子ちゃんの私たちが、どんなくだらない話で、笑ったり、怒ったり、泣いたり、時にはすれ違って、気まずくなって、離れたり、仲直りしたか。
内弁慶で、家では母親に「わがまま娘」として手を焼かれていることも。
以外と頑固で、こだわりがあって、譲れないものだってあることを。
私たちは、いい子ちゃんだからこそ分かり合えたし、心地いい関係性に慣れたのだと思いたい。だから、出会ってから今まで変わらず、人として尊敬しあえる友達でいられたのだと。
家族同然の距離の近さで、時には攻撃的な言葉さえ率直に言い合えるのが「友達」だと主張する人もいるだろう。
だが私は、「親しき中にも礼儀あり」という言葉がぴったりなこの関係が、心から大切で、かけがえのないと思っている。
なかなか会えなくなっても、お互いの知らないことが増えていっても、自信を持って人に自慢できる。
そして、何歳になっても、たとえこの先長い間音沙汰がなくても、変わらない関係でいられると信じている。
Aちゃん。
そんなあなたに、出会えて幸せだよ、ありがとう。
あの時、勇気を出して、階段の上にいる彼女に声をかけた、12歳の私が誇らしいよ。
彼女とはたくさんの約束を交わしている。
小さな約束から、大きな大きな約束まで、ずらりとある。
正直もう、数えきれないくらい。
中でも3つの約束は、繰り返し繰り返し交わし続けている。
30歳になったら、二人でタイムカプセルを開けようね。
お互いの結婚式では、友人代表スピーチをよろしくね。
子どもが生まれたら、助け合おうね。
どんな形になっても果たせたらいいな。
Aちゃんなら、どんな私にも「素敵だね」ってにっこり笑ってくれる。
彼女はそういう人だ。
それがAちゃん。
私の幼馴染で、理解者で、親友。