脳に埋め込んだ電極で「うつ状態」から「喜びに満ちた状態」へ感情を移行させることに成功 - 科学ニュースメディア!ナゾロジー (original) (raw)

感情を強制起動する脳のツボ

脳に電気刺激を与えてうつ病を治す技術が大幅な進歩をみせている

脳に電気刺激を与えてうつ病を治す技術が大幅な進歩をみせている / Credit:Canva

は心臓と同じく、電気的な臓器です。

そのため近年、うつ病患者に対して脳に電気刺激を行う手法が着目されています。

ただ既存の電気刺激法は非常に大味であり、脳全体に大電流を流す方法がメインでした。

そこでカリフォルニア大学の研究者たちは、5年もの長期に及ぶ臨床試験の結果を元に「神経マッピング技術」を開発しました。

この神経マッピング技術は脳の各地に差し込んだ電極から、患者一人一人の神経回路の特性を認識し、その患者にとって最適な治療部位(刺激場所)をピンポイントで探し出すように設計されています。

そして今回、マッピング技術の性能を確かめるために、難治性うつ病に苦しむ36歳の女性患者に対して、はじめての試験が行われました。

その結果は、まさに驚きでした。

女性患者は覚えている限り5年間、一度も笑ったことがないほどの重いうつ病でしたが、神経マッピングによって発見された最適部位に電気刺激が行われると

「突然、心の底から本物の歓喜と多幸感を感じ、世界に色が戻ったように感じて笑みが絶えない状態に変化した」

とのこと。

この結果は脳への適切な電気刺激が、喜びの感情を強制的に起動し、うつ病に対して有効に働いたことを示します。

しかしより興味深い点は、刺激する場所によって女性患者が感じる喜びの質に違いがあったことがあげられます。

ある場所では「うずくような喜び」が起こり、他の場所では「霧が晴れたような覚せい感」を覚え、また別の場所では「良い本を読むような穏やかな喜びの感覚」を感じたのです。

この結果は、私たちが感じる様々な喜びにはそれぞれ担当する回路が存在していることを示しています。

そして複数存在する喜びの回路のうちのいくつかが、まるでツボのように、個人のうつ状態の改善の鍵となっていたのです。

しかし、電気刺激が研究者たちの手動で、短期間行われるだけの状態では、また症状がぶり返しかねません。

患者が日常生活を取り戻すためには、電気刺激を自動化する必要があります

そこで研究者たちは、いわば電気刺激による感情発生を自動化する方法を考えつきました。