nesskoDiary (original) (raw)

映画ファンの手帳です by nessko 2019年、日本; 監督:森淳一; 主演:吉岡里帆浜中なつめ(吉岡里帆)は、新人警察官として世に出た矢先に交通事故を起こし、同乗していた弟は死亡、自身は視力を失う。警察官を辞めた後、盲導犬と共に道を歩いていたなつめは、自分を追い越して行ったスケボーに乗った人(高杉真宙)が車と接触事故を起こしたことに気づき、心配してそちらに駆け寄った際に事故を起こした車の中から「助けて…」と窓を叩いてうったえる若い女性の声を聞く。なつめは警察に目撃した事件を伝え、そのときのスケボーに乗っていた人にも証言してもらおうとするが、……2011年の韓国映画「ブラインド」の日本版リメイク、だそうです。はらはらどきどき謎解きサスペンス。はらはらどきどきが主体で、はらはらどきどきのためのおはなし作りになっているのですが、この映画はこれでいいと思いました。観ている間はそれくらい、はらはらどきどき、で、掴まれました。主演の吉岡里帆と高杉真宙がいいです。盲導犬パル役のわんさんの好演も見逃せません!劇中では、視覚障碍者がどのように外界を把握するか、どのようにパソコンやスマホを活用しているのかを見せてくれます。そしてそれが、はらはらどきどきにつながっていく。制作陣は、過去の名作を咀嚼して自分のものにしているのがわかります。なので、映画ファンには彼らがお手本にしたであろう過去の映画を探し当てるお楽しみもありますよ。 2022年、フランス; 監督:クリスチャン・カリオン; 主演:リーヌ・ルノー、ダニー・ブーンタクシー運転手シャルル(ダニー・ブーン)は、借金を抱え免停寸前でいら立つことが増えた。そんな折、ある婦人を老人ホームまで送る仕事を受ける。老人ホームに行くマドレーヌ(リーヌ・ルノー)は、シャルルに自分が生まれ育った地区など思い出の場所に寄り道してくれないかと頼む。……91分。リーヌ・ルノーはフランスの国民的シャンソン歌手、ダニー・ブーンはフランスの国民的コメディアン、だそうで、二人ともとても感じがいい。シャルルは46歳、マドレーヌが92歳で、マドレーヌは「あら、孫みたいな歳ね」と笑う。二人の波長が合ったのと、祖母と孫のような年齢差がほどよい距離感を生み、マドレーヌは自分の半生を語り、シャルルも自分のことをマドレーヌに話して聞いてもらえる。そんなひとときが、二人にとって充実した時間になります。コメディタッチの人情噺ではあるのですが、マドレーヌにはおどろきの過去もある。40年代、50年代に若き日を過ごしたマドレーヌの話はシャルルにとっては自分の生まれる前の世界、戦争や女性の人権がないがしろにされていた時代、マドレーヌはけんめいに生き抜いてきました。そしていうのです、そのころの服やジャズはすてきだったのよ、とも。寄り道する場所に、建物の壁にプレートが付けられていて、そこに昔ここで何があったかを書いてある、その場所に居た人を追悼する文言が刻まれている。フランスにはパリだけでなく、こういうプレートがあって、街をめぐるだけでちょっとした歴史めぐりができるようになっているそうです。歴史上の人物の名をつけた通りも多い。スリリングで心温まるロードムービー、フランス映画らしいリアリズムがいいかんじで効いていました。 1950年、アメリカ; 監督:ミッチェル・ライゼン; 主演:アラン・ラッド戦争中にイタリアで起きた事件の真相を究明すべく、アメリカ人がイタリアに乗り込む。ケイリー大尉(アラン・ラッド)は、ナチスドイツに占領されたイタリア北部の町に潜入し、パルチザンと協力して対ナチス作戦を行おうとしていた際、秘密基地として使用していたイタリアの古城がドイツ軍に襲撃され戦友を失う。戦後、ナチスドイツに密告した犯人を突き止めようとケイリーはイタリアに渡る。……82分、白黒。終戦直後のイタリア北部を舞台にしたミステリ。アメリカ人にとってはぷち異世界になるであろうイタリアの町、主要登場人物のロマンスも絡んで、古き良き時代のアメリカ娯楽映画に仕上がっていました。アラン・ラッドは、日本では西部劇「シェーン」が有名ですが、本来はミステリーみたいな現代劇で人気があったスターだそうです。この映画でも主人公ケイリーの造形はちょっとハードボイルド風で、こういうのが流行った時代だったのかなあ、と。こういう昔の白黒映画だとはまりますね。そして、劇中では「モナリザ」という曲が効果的に使われています。子役時代のラス・タンブリンが出ているのもお楽しみ。ケイリーが泊っているホテルに踏み込んできた警察をまいて逃げるところとか、マルクス兄弟の「オペラは踊る」で見た、部屋をぐるぐる移動するギャグシーンを思い出しました。この映画ではサスペンスになってますが、動きは共通してますよね。あと、宿に泊まった人を訪ねて事情を聞く際に買い物させられるのか車が物でいっぱいになってたりするのも喜劇風だし。そういえば、ウド・キアが老美容師を演じた「スワンソング」では、その老美容師が盗癖があるこまった人物になってましたが、あれはハーポ・マルクスにつながる姿だし、「I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE 」のスヌーピーも、しゃべらずひたすら動きで笑いを生む姿がハーポみたいだった。マルクス兄弟の影響力は、すごい!ともかく、この映画は謎解きサスペンスとして楽しめます。おはなしもうまくできていました。 2018年、日本; 監督:原田眞人; 主演:木村拓哉、二宮和也駆け出しの検事・沖野(二宮和也)は、エリート検事・最上(木村拓哉)の下で、ある殺人事件を担当することになった。沖野は取り調べに力を入れるが、徐々に最上の様子がおかしいことに気づく。……原作は雫井脩介。木村拓哉と二宮和也の二大スター競演、そのためゆったり楽しめるスター映画の外観を保っていますが、内容は「L.A.コンフィデンシャル」を思い出さされる群像劇寄りです。ひとつの事件の捜査から、過去の未解決事件の記憶が呼び覚まされて、エリート検事である最上の妄執が滲みだす。結果、「ダーティハリー」もびっくりの暴走モードに入っていきます。検事としての在り方を模索中の新人沖野は、あこがれの先輩とはいえ、検事としてよからぬ方向に進む最上を看過できない。検事の仕事ぶり、容疑者の取り調べが見所で、仕事場の様子や場所への移動を映像で見せて流れにめりはりをつけている、このあたり映画のたのしさ。政治の世界もからんできます。あと、取り調べの場面では演劇的な盛り上がりもあり。冤罪の問題にも触れられていて、ニュースを見ていると検察といえばこちらが大問題ではというのがあるのですが、劇中の犯罪者のぷっつんぶりがすごいので、最上の気持ちもわかるかなみたいにはなる(よくないけど)。木村拓哉、二宮和也、どちらもいい役者、これからも楽しませてくれそうです。 2013年、日本; 監督:白石和彌; 主演:山田孝之雑誌ジャーナリストの藤井(山田孝之)は、死刑囚となったヤクザの須藤(ピエール瀧)から自分が関わった殺人事件でまだ表に出ていないものがあり、その首謀者である「先生」(リリー・フランキー)はまだのうのうと生きている、それが許せない、その事件を明るみに出して「先生」を裁いてもらいたいと告白される。須藤から得た情報をもとに、藤井は調査を始める。……ノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)が原作。これをもとにしたドラマ。雑誌ジャーナリストの調査や取材の様子が見られます。題名通り凶悪なヤクザの所業、気持ち悪い場面が出てきますが、70年代の映画風なタッチ、ニューシネマ風とでもいうのですか、それがマッチした絵作り、ホラー映画みたいな露骨なグロは避けて凶悪さを描き出していました。個人的に映画で観るのが好きな日本の地方の風景が観られて、この映画では緑あふれるというよりは、秋から冬にかけてのちょっと枯れ草枯れ葉が目立つ、茶色に傾いた景色が主。ヤクザのいる部屋もタバコのヤニで薄汚れて黄ばんだかんじで、それがこのドラマの色合いになっている。雑誌ジャーナリストは、ノンフィクションやこういう映画をたのしむわたしたちの先兵でもありますが、こういう事件が報道されると興味津々で見てしまうわたしたちのことも映画に取り込まれていました。ピエール瀧には一世一代の当たり役になったのじゃないでしょうか。あと、脇役で出て来た白川和子が地味に光りますね。『新潮45』ですが、掲載された政治家の発言が差別的だとネット炎上し、それがもとで廃刊になってしまいましたね。政治家の不適切な発言が糾弾されるのはともかく、雑誌自体がそのせいで消えるのはおかしいんじゃないか、というのはあります。ネットの普及で雑誌自体が衰退しつつあり、では全部ネットで間に合うのか、というと、この映画で観られる雑誌ジャーナリストの調査や取材というのは雑誌という媒体があってこそ可能になるんじゃないか。ネットの普及は同時に紙媒体の貴重さを思い知らされる面も伴っているのですが、本や雑誌を読まない人のネット上でのつぶやきの洪水に押し流されそうで心配です。
ファン申請