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漫画村を巨大化させた大手出版社のずさん対応…身内からも批判「コンテンツを預かる義務を果たせず」

類似海賊版サイト出現までのイタチごっこ

被害総額3200億円(コンテンツ海外流通促進機構・CODA集計)の未曾有の著作権事件へと発展している漫画村問題。サイト自体は17日午後3時から接続出来ない状態となり、実質閉鎖とも囁かれている。

だが、政府・総務省によるISP(インターネットサービスプロバイダ)へのブロッキング要請の法的根拠をめぐり、新たな議論も浮上している。ブロッキングが憲法上の「通信の秘密」に抵触する可能性があるため、漫画村をとりまく現況が本当にブロッキングの前提条件となる”緊急避難”にあたるのか、つまり「大手出版社がどこまで海賊版対策に取り組んできたのか」が問題となっているのだ。

これに関連して、独自調査に動いていた山本一郎氏が18日、このような記事を発信した。

「漫画村」ブロッキング問題、どこからも被害届が出ておらず捜査着手されていなかった可能性
http://pret.yakan-hiko.com/2018/04/18/yamamoto_180418_ex/

これに対して翌19日に大手出版社の集英社は「海賊版サイトへの出版社の対応に関して、誤った情報の流布が見られる」「捜査機関と協力して厳正に対応している」とする声明を発表。集英社は13日にも「長年、海賊版サイトに対して様々な対策をとってきまいりました」「これからも刑事・民事の両面で厳しく対応していきます」と声明を出していたが、それらがテキストではなく画像(jpeg)だったため、ソーシャルメディア上では「検索避けではないか」などとする声も出ていた。

すると、今度は山本氏が集英社に対して、公開質問状を発表した。

違法サイト「漫画村」に関する集英社への公開質問状
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180420-00084246/

(1)集英社の主張する「厳正な対応」は著作権者の被害届提出や刑事告訴は含まれるのか、(2)自由民主党・甘利明氏への働きかけが行われたというのは事実か、(3)総務省総務審議官はなぜ民間事業者に法的リスクを負わせる「要請」を事前照会したかと、具体的な項目を挙げての質問をYahoo!ニュースで展開したのだ。

集英社は『ワンピース』をはじめ強力なコンテンツを有する、言わずと知れたマンガ業界のトップランナーである。それゆえコンテンツ産業の在り方と未来を占う意味でもその回答に注目が集まっている。

■大手出版社は”コンテンツを預かる義務”を果たしていない?

集英社はこれまで2度、「著作権の敵」に勝利している。一つは16年11月に逮捕者を出した「自炊代行業者」だ。書籍や雑誌をスキャナを使ってデジタルデータに変換する「自炊」の代行については、16年3月に最高裁で業者側に賠償命令が出たことを受け、著作権法違反の疑いで京都府警が逮捕に動いている。

そしてもう一つは、昨年9月に熊本県警などが逮捕した「ネタバレサイト」だ。こちらは人気漫画雑誌の販売前に掲載作品の複写画像をインターネット上に掲載するもので、有名な”2大ネタバレサイト”の運営者らが「著作権法違反」容疑で摘発されている。

この両件は巧妙にプロバイダやサーバを海外に移した漫画村にくらべ、比較的「著作権法違反」で立件しやすい案件かと思われる。だが、前者に関しては、出版社7社が事業者98社に電子化を許諾しない旨を書面で通知をするなど業界全体で反対キャンペーンをはっていたものの、最高裁で「著作権侵害」を勝ち得た原告は作家たちに限られた。浅田次郎、大沢在昌、東野圭吾、林真理子、永井豪、弘兼憲史、武論尊(敬称略)の7名であって出版社ではなかったのだ。

また、後者に関しても、10年以上前から存在が確認されながら長年摘発を逃れてきた背景には、出版社が告訴に動かなかったことがある。14年3月に閉鎖したネタバレサイト「なるとちゃんねる」の管理人は、閉鎖にあたり「実は出版業界の大手である某社さんの中の人との話し合いをもって下すこととなりました」とのコメントを出していることから、刑事告訴ではなく、あくまで告訴をチラつかせた「要請」を続けたものと推測される。ちなみに熊本県警は「昨春から捜査に着手し、文化庁や出版社、作者と連携して今年9月にサイト運営者ら5人を逮捕した」としているが、この時点での刑事告訴があったかは不明だ。

結果的に大手出版社は形の上で「勝ち」を得ているが、自ら率先して著作権者たちを守るべく、旗ふり役を買って出て業者と闘っている印象はまるでない。「厳正な対応」なのかは甚だ疑問である。

こうした背景について、漫画界の身内ともいうべき人物からも批判の声が飛んでいる。恋愛コメディ漫画『やれたかも委員会』の原作者・吉田貴司氏は自身のTwitterで、漫画村の問題に関連して「悪いのは時代についていけてない出版社の供給の仕方。コンテンツを預かっている義務を果たしてない」と出版社の姿勢をばっさり斬っている。その上で「漫画村を潰そうとしてる人たちって、漫画村が潰れたら単行本の売り上げが元に戻るとでも思ってるのか。戻るわけない。読者は読めないなら読まなくなるだけ。他に娯楽は山ほどある。モンハンやってヒカキンを見ると思う」と厳しいコメントを投稿した。

日本屈指のコンテンツホルダーである大手出版社が、範を示して闘う矜持を見せてくれなければ、クリエーターたちのモチベーションは下がる一方で、才能の流出という事態を招きかねないのではないか。山本氏の問いかけに、集英社が漫画界の未来を照らす明解な回答をしてくれることを期待したい。

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