nezunomichiの日記 (original) (raw)

憐みの3章

第三章 「RMFはサンドイッチを食べる」

(あらすじ)

エミリーとアンドリューはよく分からないカルト教団の一員。教団が探す不思議な力を持った女性を見つけるため、二人はモーテルに泊まりながら、双子の片割れがいない女性を探し出す毎日。二人が所属しているのはカルトの長であるオミとアカの二人以外と性行為をしてはいけないという見るに怪しいところで、また二人の涙が混ざった水以外飲んではいけなかった。しかし、女性探しをするうちにエミリーはこの禁を不本意にも破ってしまう。

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この章ではエネルギッシュで行動的なエミリーと冷静なアンドリューを中心に話が展開していく。よく分からないカルト教団に所属する二人は教団の主であるオミという男性とアカという女性が運営していた。

教団が探しているのは奇跡を起こす女性。条件は身体的な特徴以外で双子の女性ですでに片割れが死んでいること。エミリーはアナという女性の身体的な特徴をチェックしてから彼女に死体を甦らせるよう指示する。できると答えるアナだが結局できず。探していた女性は別にいるということで一旦モーテルに戻る二人。勝手にいなくなるエミリーに苦言を呈すアンドリュー。エミリーには夫と娘がいて、彼女は家族を置き去りにしたまま、カルト教団に身を置いていた。

ところ変わって教団では太めの女性がオミに私は教団の主である二人以外と性的な関係をもっていないと言っている。この教団ではオミとアカが絶対的な権力者。二人が課したルールに従って生活することこそ、教団の人間の喜びだった。エミリーとアンドリューが教団に戻ってきたところで、太めの女性が高温のサウナに入れられる。これは教団が信者に行う検査で、アカが女性の汗をなめて彼女の無実を宣言。太めの女性はこうして教団の生活に戻ることができた。

一方でエミリーとアンドリューはオミとアカの信頼も厚く、覚えめでたい様子が描写される。ご褒美に二人はオミとアカの好きな方と性行為ができることに。普通にヤバイ。エミリーは教団の一員として奇跡を起こす女性を探すことに熱心だ。新たに資料とお金をもらった二人はまたしても教団の外に足を運ぶ。

レストランらしき場所で食事をとる二人。食事はともかく飲み物は水。教団ではオミとアカの涙が混じった水以外飲んではいけない。外でも教団のルールに忠実な二人にレベッカという女性が話しかける。彼女によれば自分の妹ルースこそ、エミリーたちが探す奇跡を起こす女性だという。連絡先を渡すもアンドリューは彼女に否定的。とにかく資料にあった女性を訪ねるが、その女性はすでに亡くなっていた。

いきなり手がかりが消えてしまったことに頭が痛い二人。エミリーはエミリーで娘の寝室に自分なりに愛情を示そうと教団の水を使って祝福している。帰りにばったり夫と娘に再開するエミリー。娘に夕食を共にしないかと誘われるがやんわりと断る。

モーテルではアンドリューが熱をだしていた。相棒を気遣い、薬と体温計をエミリーが買いに行くと、夫もドラッグストアに用事があったのかまたしても再会する。娘が足を痛めたと聞いて心配になったエミリーは夜、夫と娘のもとに顔を出すが、この選択がエミリーの運命を捻じ曲げる。

夫の方はエミリーに未練があり、何かと引き留めあろうことか彼女にお酒をすすめる。エミリーに因んだオリジナルカクテルだと言うが、エミリーは教団のルールがあるため、水以外飲めない。しかし、エミリーは夫に強く言えず、夫は夫で彼女が飲むお酒に睡眠薬を混ぜている。何も知らずにお酒を飲むエミリー。彼女は一夜で教団のルールである、水以外飲まないというものと、オミとアカ以外と性行為してはいけないという禁を破ってしまう。一夜明けて何があったのかを悟るとエミリーは泣きながらシャワー室で体を洗う。着替えて家を出ると、アンドリューとオミ、アカの三人が待ち構えていた。

教団に帰ると、エミリーは高温のサウナに入れられることに。ここで体内の「汚染された」体液を出し切らなくては教団にはいられない。しかし、エミリーの結果は追放。オミとアカは最初のやさしさはそのままルールを破ったエミリーに用はないと教団の外に追い出し、彼女にわずかばかりの手切れ金を渡すだけ。対するエミリーは泣きじゃくり、二人からもう一度関心を得ようと必死に叫んでいた。

全てを失くしたエミリーはレベッカと連絡を取る。レベッカが自分の昔話を聞かせ、酔って空のプールに頭をぶつけたが、ルースのおかげで一命をとりとめたのだと話す。しかし、教団が探す、奇跡を起こす女性は双子の片割れ。どちらか一方が死んでいないとおかしい。とにかくルースに会うと決めたエミリーは適当な犬の足をナイフで傷つけた。ルースは獣医師。犬を口実に彼女に近づき、とにかくルースが奇跡を起こす女性か確かめる。病院でルースが手当てをした犬の足を確認すると切り傷はあっという間に治っていた。ここでエミリーはルースこそ教団が探してる女性で間違いないと確信する。

ここでレベッカからまた連絡。猛スピードで車を走らせて彼女の元へ行くエミリー。ちなみにエミリーの運転の荒さはこの章の冒頭から描写されている。レベッカは奇跡を起こす女性の条件を満たすいい方法を思いついたと、水着姿でエミリーを迎える。嫌な予感がしたエミリーは急いでレベッカのあとを追うが、彼女は庭にある空のプールに勢いよく飛び込み、全身を強かに打ち付け絶命した。一瞬呆然とするも、エミリーはすぐにルースのもとに向かう。

犬のお礼で彼女と二人きりになり、隙を見て薬を打ち込んで誘拐。この時にルースの身体的な特徴を確認し、さらに安置所でルースが触れた遺体(男性)が蘇るのを見て、エミリーは歓喜のダンスを踊る。ルースがいれば教団に戻れると考えたエミリーは猛スピードで車道を走る。途中で目を覚ましたルースに水をあげようと視線を前面から外した瞬間、対向車とぶつかりかけ、エミリーたちが乗った車は壁にぶつかってしまった。幸い運転手のエミリーはエアバッグのおかげで一命をとりとめたが、後ろにいたルースは車外に放り出され死亡。奇跡を起こす女性も自分の命は甦らせることはできず、エミリーは教団に戻る方法を永遠に失くしてエンディング。

クレジットと一緒にどこかのサンドイッチショップが映し出され、白いシャツを着た男性が食事をしている。ルースが蘇らせた男性はのんびりサンドイッチを注文し、それにケチャップをかけようとしてシャツに跳ねてしまう。ハンカチでシャツに飛び散ったケチャップを拭う時、胸元のポケットにRMFという刺繍があることが判明。ここで章タイトルが回収されて本編は終了する。

この章ではエネルギッシュで行動的なエミリーと冷静なアンドリューを軸に話が進んでいくが、エミリーには夫と娘がいることから彼女がいつかは教団の禁を破ることが予見されている。アンドリューはエミリーに家族がいることを知っており、秘密にするから会いに行けばいいとまで言ってくれる。しかし、二人は教団の忠実な信者で、教団こそ二人の故郷。アンドリューと比べて直感的な行動をとりがちなエミリーは夫の頼みを断れず油断した矢先に全てを失ってしまった。

教団を追放されるときのエミリーは子供のように泣きじゃくり、オミとアカの関心を得ようと必死に縋る様は子供のよう。一見、気が強く自立しているように見えたエミリーも教団という世界に依存していたことが伺える描写だ。アカが夫や娘と一緒に暮らす人生もいいというようなことをエミリーに言い放つが、もしかしたら妻や母親に縛られる自分が嫌でエミリーは家族を捨てたのかもしれない。

教団から追放されたあともエミリーは忠実に教えを守っていた。むしろ禁を破ってからの方がよりいっそう教団に対して献身的だったかもしれない。追放された場所に戻ろうとルースを見つけたまではいいが、最後は彼女を自分の荒い運転が原因で死なせてしまう。エミリ―の戻りたい場所へ二度と戻れなくなって終わったラスト。

この映画ではすべての章を通して、アンバランスな人間関係が描写される。何らかのルールを敷く側とそれに服従する側がおり、彼らは互いに影響し合っているように見えるが、ルールを敷く側には常に代わりがいる。支配者である誰かに従う誰か。ルールを破った服従する側はいつも過剰なまでの献身や忠実さで支配者の関心を得ようとみじめなくらいボロボロになりながら縋り、だいたい失敗する。

第一章のロバートはレイモンドの元に戻ったが、彼の人生はほとんどがレイモンドの管理で成り立っており、自分でお酒の一つも選べないくらいロバートの人間性は脆かった。そしてロバートがレイモンドに従わないとなるや、リタという女性が代わりとしてレイモンドに管理されていたのだ。

第二章では帰ってきたリズはダニエルの指示に従って指を切り落としたり彼に献身的になればなるほど、ダニエルはリズを遠ざける。妻の帰還を切望しているダニエルは自分が知っている妻の帰りを信じてチョコレートの好きなリズを偽物だとして、仕事すらまともにできないほどメンタルを病んだ。最後は帰ってきたリズが肝臓を取り出して死んでしまうが、ダニエルは最後に帰ってきたリズと抱擁を交わす。最初に帰ってきたリズはダニエルが望んだリズにはなれなかった。

第三章は言うまでもなくエミリーだ。カルト教団という分かりやすいものが、彼女のエネルギッシュな振る舞いも行動的な側面も全て滑稽なものにしている。どれだけエミリーが頑張ったところで、あの教団にはオミとアカを信奉する人間がたくさんおり、オミとアカは彼らの中から代わりを見つけ出す。

支配する側には常に財や権力をはじめとした強さがあり、服従する側はその強さによる利益を欲して彼らに従う。そうして従った人間は支配する側に従順で、どこかで反発しても支配する側の庇護で得た豊かさを忘れられず、結果として支配する側の束縛を離れてもなお彼らのルールに縛られようとする。自分から進んで縛られに行く姿は時に滑稽に見えるけれども、当の本人にとっては生死をかけた一大事。なりふり構わず行けるところまで行き、ロバートはRMFという男を車で轢いて殺したし、リズは自分で自分を損ない、エミリーは教団が探していた奇跡を起こす女性を自分の手で死なせる羽目になった。彼らの行動は法律や道徳といった社会のルールから見ればところどころ異常だ。

人間同士の対立はよくある話だけど、この映画では上下関係が出来上がっていて、服従する側はその上下関係を克服できない。対等というものがどこにもないのだ。唯一、第二章は夫婦を軸にして展開されているけれど、帰ってきたリズが夫に見せる献身はどこまで行っても手ごたえがなく、彼女にとっての暴力としてしか機能しなかった。互いに尊重も信頼もない関係はただの暴力だ。結果として自分の人生をまともに切り開くことなく、彼らは皆自分にとって暴力として機能する人間に従い続け、最後は人生の主導権を手放してしまった。

他人に自分の人生を明け渡して楽な生活を送っても、常に不安が付きまとう。服従する側は常に自分を支配する誰かの顔色を見ながら生きる毎日で、そこに自我の発露なんて認められない。その不安を打ち消すためにさらに無茶な献身や忠実さのアピールに励むだけ、何一つ自分のためになることはない。

この映画の人間関係のアンバランスさはお互いを素直に認めることはとても難しいと考えさせられるものだったし、そのアンバランスな関係にには服従する側も望んで従っているところがあるのだと気づかされる。どこか不思議で現実感がない話の連続。それでも見入ってしまったのは生きていれば体験する人間関係のアンバランスさにリアリティを感じたからだろうか。

第二章 RMFは飛んでいる

(あらすじ)

主人公は警察官のダニエル。海洋学者の妻リズが遭難して行方不明になってからというもの憔悴し、上司や同僚から心配されている。友人で同僚のニールとはお互い夫婦ぐるみで仲が良く、落ち込みの激しいダニエルは彼にたびたびリズについて相談していた。ある日、リズが見つかったという連絡があり、ようやく再開したのもつかの間、今までと様子が違う妻に違和感を覚え、ある日ダニエルはくるってしまう。

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次の章である「RMFは飛んでいる」は行方不明になった妻を待つダニエルをメインに据えて展開。警察官のダニエルは妻が失踪してからというもの様子がおかしく、上司からそろそろ限界だと言われるほどリズの失踪にダメージを受けていた。友人で同僚のニールは彼を気遣っていた。ダニエルは自分を支えてくれるニールに深く感謝し、彼と彼の妻をリズがいたころと同じようにディナーに誘う。

ここで、リズがチョコレート嫌いであることがニールの妻マーサの思い出で語られる。とても仲の良い4人組、ニールたちは夫婦そろってリズは帰ってくると励ます。その後、妻のリズが見つかったとの連絡が入り、喜ぶ一同。しかし、妻のリズがどこかおかしい。

容姿はどう見ても妻のリズ。けれども帰ってきて早々、飼い猫に威嚇されたり、嫌いだったはずのチョコレートケーキを食べたり、靴が合わないと言い出す妻にダニエルは違和感を覚えていく。夫婦の共同口座からお金を全額移動させたり、義理の父であるジョージにも注意されるほどダニエルの態度は悪化していく。

再会を待ちわびておきながら、だんだん素っ気なくなるダニエルに妊娠を告げるリズ。とうとうダニエルはリズに「出ていけ」と言ってしまう。夫婦関係の気まずさは仕事にも影響し、信号無視をした若者二人を取り押さえる途中、ダニエルは拳銃でそのうちの一人の手を撃ち、さらには出血がひどいその手にかじりついて(血をなめとろうとして?)しまう。あまりのおかしさにニールも動揺。ダニエルは休職状態になった。

精神科医からは軽度の妄想が入っていると言われたが、肝心のダニエルは妻のリズが姿が同じだけの別人だという考えを強くし、彼女が与える食事を拒むようになっていた。

対して妻のリズは献身的で、自分に冷たいダニエルを必死に支えようとしては無下に扱われる毎日。心配してやってきた父のジョージもダニエルへの非難を強めている。しかし、夫を悪く言うのはいくら父でも許せないと咎めるリズ。ここでリズは「人間が動物で、動物が人間」という話をする。自分が好きなラム肉は犬たちが食べるから口にすることはできず、代わりに犬が食べないチョコレートを食べて生き延びたという。あまりにも不思議な話。リズは毎日減っていくものより、いつもあるものを食べるべきだと考えるようになったと語り、ダニエルへの献身を続ける決意を固める。

一方、ダニエルはリズに対する疑いが強まるために、彼女に無茶苦茶な要求をするようになっていた。それはどの指を切り落としてもいいから、それとカリフラワーを調理して自分に出せというもの。無茶苦茶な指示にさすがのリズも困惑し、お腹の子やこれからのことを考えた末、とうとう自分の左の親指を切り落としてしまう。しばらくの気絶、なんとか調理したものをダニエルに差し出すも、ダニエルはリズの異常な献身を見て、自分の疑念が間違いではないと確信する。

リズがいないある日、自分を尋ねてきた精神科医にリズについて語るダニエル。「自分の指を本当に調理して出してきた」と話し、その料理を「気持ち悪いから猫にやった。彼女はおかしい」と吐露する。さらには「朝、リズは自分で自分の顔と腹を殴っていた」とまで話すダニエル。非常識な内容に困惑を隠せない医師。そのころリズは婦人科に行き、診察を受けていた。顔には痣。リズが流産したことが判明するとともに、女医が怪我の原因をやんわりと聞く。傷はダニエルから受けたと答えるリズ。それでもダニエルは優しいと話すが、完全にDV被害者。見ていて辛かった。

父のジョージからの電話に数日姿を消すと伝え、涙を流しながら家に帰ると、ダニエルがまたしてもリズに要求する。足か肝臓を調理しろと言い放つダニエル。今、目の前にいる妻のリズは偽物だと思っているために容赦がない。しばらく後、リズは椅子の上でぐったりしていた。流れる血、リズは死んでいた。それを見ても何も思わないダニエル。ドアを叩く音がして出るとそこにはダニエルが待ち望んだ妻のリズが笑顔でいる。ダニエルはその妻と抱きしめ合い、第二章のエンディングが入って終わる。

この章では、ダニエルと妻のリズを中心に展開していくわけだけれど、帰ってきたリズが今までのリズと違うことに違和感を覚えたダニエルがどんどん辛辣な態度になっていく。では帰ってきた方のリズはひどい人間かというとそうでもない。たしかにチョコレートを食べるし、細かい描写から今までのリズと異なっている部分があるのは間違いない。しかし、リズのダニエルに対する献身というものはしっかりしており、それこそ自分の体を切り落とすというのは彼女の中には間違いなくダニエルへの愛情があったのだと思う。ただ、ダニエルからすれば自分が愛した妻と相いれない部分がある存在を本当に妻だと思っていいのかという葛藤は自然なことのように見えるから、この話はどう受け取っていいか分からない。

この章では冒頭からダニエルのスマートフォンにノイズ交じりの電話が何度も届く。最初はだれか分からずダニエルは困惑するわけだが、後半これは本物のリズからの連絡だと考える様になり、実際この章のエンディングにはダニエルの元に妻のリズが帰ってくるのだ。最初に帰ってきたリズと最後に帰ってきたリズ。どちらが本物だったのだろうか。ダニエルが受け入れたのは最後に帰ってきたリズだった。

一つ、ヒントになるとすれば途中、最初に帰ってきたリズが語る「人間は動物で、動物が人間だった」という発言だろうか。

しかし、遭難から帰ってきたあと、突然妊娠を告げるリズにダニエルは自分の疑念を一気に強めていき、ここで戻れないくらい二人はすれ違っていた。ダニエルの心の支えは帰ってきたリズではなく、ノイズ交じりの連絡をキャッチするスマートフォンだった。そのスマートフォンも消え、ダニエルはさらに精神状態を悪化させていくのだが、なんというか非現実的なことの連続で周囲の人間はダニエルに寄り添えなくなっていく。

ダニエルが休職してからはリズのお世話が目立つようになっていくが、ダニエルはそんなリズに冷たい。ここでの象徴的な行動はダニエルはリズが与える食事を拒むようになっていたこと。美味しそうな手料理もダニエルは断固としてとらない。そして、リズに体を切り取るような無茶苦茶な指示を出すようになっていく。それから最初に帰ってきたリズは肝臓を取り出すために死に、ダニエルは最後に帰ってきたリズと抱き合うのだが、この章のエンディングではラストに犬たちが人間のように暮らす映像が流れる。リズの言った通り「人間が動物で、動物が人間だった」のだ。

帰ってきたリズの愛情深い献身も受け取る方にその余地がなければ意味がない。ダニエルの求めたリズは今までの自分が知っているチョコレートが嫌いなリズだった。妊娠といった喜ばしい出来事も、ダニエルにとっては得体のしれない恐怖だったのだろう。正直、リズには指を切り落とせと言われた時点で逃げてほしかったなと思う。ダニエルもいなくなった妻を心から思うという意味では深い愛情があったのだろうが、二人の行き違いを見ていると、愛情というものについて考えたくなる章だった。

キライだったものを食べる自分を受け入れた、帰ってきたリズ。好きなラム肉は食べることはできなくて、と語っていたが、このラム肉とチョコレートは何か別の意味を含んでいたのだろうか。この章のリズはダニエルのひどい扱いにも耐えるという意味で忍耐強く、ダニエルに体を分け与えるという意味で献身的だが、その根っこにある愛情はどこか盲目的。自分の体を守るどころか率先して傷つけてしまうリズの振るまいも第一章と同じく、服従する人生に知らず縛られているのではないかと見てしまう。

リズとダニエルはお互いに何を見ていたのか。ダニエルの辛辣な態度に傷ついては涙を零すリズと、リズが帰って来てからどんどん表情が消えていくダニエル。役者さんの演技が見事な章だった。

今日は映画を見てきた。ヨルゴス・ランティモス監督の映画をあと少しで見逃すところだったので、ちょっと焦っていた。なんとか公開期間中に見れたので良し。

エマ・ストーンが出ているので今回も彼女の演技を楽しみ。というわけでざっくり感想を述べていこう。

「憐みの3章」

第一章 RMFの死

(あらすじ)

主人公はロバート・フレッチャー。金髪で妻であるサラとの二人暮らし。子供はいない。仕事では上司の命令に忠実な男である。しかし、自分が常に上司であるレイモンドに従ってばかりの人生に鬱屈としたものを抱え、ある日とうとうレイモンドと仲たがいをしてしまう。

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この章は、白いシャツにRMFという刺繍がされた男がある大きな家に来訪するところからスタートする。場面転換で夜の交差点、金髪の男がある車を狙って、いきなり追突事故を起こす。突然の出来事に見ていた私は置いてけぼりになるが、主人公ロバートのラストに関わる大事なシーンでもある。

それから事故で負傷したロバートが家に帰り、いつも通りに過ごす様子が描写される。決まった通りのお酒、決まった時間に読むべき本。ロバートの生活はがちがちに管理されている。オフィスで電話がなった。対応するロバート。15時に上司のところへ行くよう指示されているが、午後は現場に顔を出さないといけないと断る。しかし、「私なら現場をキャンセルする」という電話相手に押され、ロバートは上司に会う予定を優先した。

呼び出しを受けた先で待っていたのは上司のレイモンド。部下であるロバートを可愛がっている様子だが、「もっと太れと言ったはず」「アンナ・カレーニナは読んだか?」など、やたらとロバートの私生活に口を挟む。おまけにウォッカを所望するロバートにウィスキーを押し付けるところも。ロバートの意志は無視してひたすら自分の考えたことを繰り返させたり、ロバートが自分に従っていないか監視しているような気さえしてくる男。それもそのはず、レイモンドはロバートの私生活まで管理していて、事あるごとにロバートの人生に干渉しているのだ。

上司と親しい間柄と言えば聞こえはいいが、ロバートに対する干渉が異常でこのやりとりだけで結構気持ち悪かった。プライベートでも上司からジョン・マッケンローの壊れたテニスラケットを贈ってもらったり、何かとレイモンドから気に掛けられているロバート。そのためかロバートもレイモンドに逆らえないらしく、彼の指示に従ってしまう。反面、レイモンドに縛り付けられる自分に嫌気がさしているようで、とうとうレイモンドが下したある命令を拒否することに。

それはもう一度交通事故を起こすこと。冒頭であった事故がレイモンドによる指示であることが判明すると同時に、人を殺しかねない命令を指示し、それに従おうとするレイモンドとロバートの関係がただの職場を超えた異常なものであることが明示される。しかし、一度失敗したうえに、無茶苦茶な命令に人を死なせることはできないと固辞し、レイモンドとロバートの気味の悪い主従関係は終わりを告げた、かのように思えた。

レイモンドはロバートに車も家も好きにしろという捨てセリフを吐いて彼の前から姿を消す。ロバートはようやく自由を手に入れたがここから彼の苦難が始まる。レイモンドとの関係が打ち切りになり、妻であるサラに今までのことを暴露したのだ。自分たちの出会いから結婚に至る全てがレイモンドの指示によるもの。愛はあると言っても夫から聞かされる衝撃の事実にサラは絶句。今までの生活すべてがまやかしだと聞かされた彼女は忽然と姿を消す。

驚くべきはロバートにはサラという奥さんがいるのだが、彼女との間に子どもはいなかった。最初はサラの体が原因だという風に作中で語られるが、実はレイモンドに忠実な部下だったロバート自身がサラに中絶薬を盛るなどして、子どもができないようにしていたのだった。ロバートが手に入れた裕福な生活はレイモンドに対する病的なまでの忠実さからくるもの。ロバート自身が何か手に入れたものは一つもなかった。

こうして新しい人生を送ることになったロバートだが、上司であるレイモンドとの関係が終わったので、今までのオフィスにいることはできない。新しい仕事を探そうとするが、レイモンドのコネがない彼はもともと来ていたオファーすらなくなり、一気に転落していく。そんなロバートはあるバーで女性をゲットしようと奇妙な振る舞いを繰り返す。手を痛めたふりをして失敗したので、今度は足を痛めて自分をいたわる優しい女性とのつながりを手に入れたロバート。この時出会った女性がエマ・ストーン演じるリタだった。

リタとの出会いで少しはレイモンドから自立できたかと思っていたが、ディナーに誘ったところ彼女が来ない。連絡を入れるとどうやらリタが交通事故に会ったことが判明。病院に見舞いに行くが、ストレッチャーで見覚えのある男が搬送され、リタがいる病室からレイモンドと彼のお付きの女性が出ていくところを目撃するロバート。

リタの病室にはお見舞いの花が花瓶に生けられている。彼女の安否を気遣い、暇つぶしに本でもとアンナ・カレーニナを差し出すと、リタの会話から非常に聞き覚えのある内容が返ってくる上に、アンナ・カレーニナは読了したばかりだとまで言われる。ところどころ既視感を覚えるロバート。リタがトイレに入っている間、花瓶の花に添えられたメッセージカードを見ると、そこにはレイモンドとお付きの女性の名前が書いてあった。リタのバッグから彼女の車のカギをとり、ロバートはリタの家に入る。豪華な内装の家、机の上にある紙には食事の内容や習慣を事細かに書いたものがあった。おまけに二階に上がるとかつて自分にも贈られたものと同じジョン・マッケンローの壊れたテニスラケットがあった。リタは自分と同じようにレイモンドに管理されている。そう確信したロバートだが、彼の取った行動は驚くべきものだった。

なんと事故で搬送され、意識不明の重体であるRMFを誘拐し、そのまま病院の駐車場で彼を轢いたのだ。それも一回だけではなく何回もだ。RMFはもちろん死亡。ロバートは車に乗って逃走。一体どうなるんだと思った矢先、見えてきたのは大きな屋敷。そうロバートはあのレイモンドのところに向かったのだ。扉を開けて出迎えるのはレイモンドのお付きの女性。ロバートと女性は強く抱きしめ合い、さらにはレイモンドもロバートを歓迎する。一度はレイモンドに逆らい、自分の意志で人生を選んでいくかのように思えたレイモンド。しかし、人生の転落を味わった彼が選んだのはもう一度レイモンドに忠実な人間になることだった。彼は私を失望させないと知っていたと言い放つレイモンド。服従をやめた人間が選んだのはもう一度強さをもった人間に跪くこと。こうして第一章が終わる。

あまりにも奇妙な上司と部下の関係。一見まともそうな主人公ロバートの常軌を逸した献身がこの話の主軸だと思うが、見ていて気持ち悪いことの連続だった。主人公の人生の主導権を握っているのは彼の上司。その上司もロバート自身を大事にしているのではなくロバートをどこまで操れるかに終始こだわっているようにも思える。そしてロバートが嫌だと言えばまた他の誰かを従わせる。それができるくらいの力をレイモンドは持っているのだ。法律や道徳なんぞ関係ないと言わんばかりの暴力的な関係。これがいきなり最初に出てくるのがこの映画。最後は肝心のロバートがレイモンドに屈することを自ら選ぶエンディング。しかし、映像が凝っているのと、音楽や演出もあって、見ているときはずっと画面に向かっていたから不思議だ。こういう感じで奇妙で訳の分からない人間模様が3章分ある。

昨日、浮世絵を見てきた。近場で展示されるということで行ってみると、思ったよりたくさんの人がいて驚く。色使いも鮮やかな浮世絵。肉筆のものから刷ったものまで一枚一枚じっくりと見ることができた。

着物の着こなしが見ていて楽しい。帯の結び方、歩きやすいようしごいて裾を短くして雨の中を走り抜ける女性。美人図では絞りや模様が豪華な着物を着ている女性が細かく描き込まれていて、髪と布で筆致を分けていると説明があった。

鷹をはじめとした動物や植物の絵もあったけれど、羽毛や花びらの一枚一枚に作者の技量を感じて圧倒された。屏風絵をはじめ、江戸時代の文化を肌で感じられるいい機会だった。

久しぶりに文化というものに触れることができて、とても楽しい一日で、出ていくことにはとても気分が明るくなっていたのを思い出す。時間を見つけたらまた行こう。

先日、会社の帰り。チョコの値上がりが話題に出た。

私もチョコが好きだからこの話は素直にショックだ。カカオの生産国で、洪水や違法な採掘による農園の土壌汚染が原因らしく、値上がりはだいぶ続きそうだった。

アイスもケーキもチョコが入ったものを好んでいたけれど、今までのような手軽さで食べるのは難しくなると思うと寂しくなる。

残業二時間が定着している一か月。さすがに辛いので早めに帰ることにした一日。お腹が空いてふらふらだった。忙しいのは分かるけれど、健康と明日のための体力を考えるともう少し明るいうちに帰りたいというのが本音。忙しいからしょうがないけど。

イライラしていてあまり落ち着きがない一日。休憩中にお菓子をばりぼり食べたりとどうも変。疲れがたまっている。気持ちがざわついてしょうがないし、明日で終わりだからと思うけど、やっぱり自分でも変だなと思うくらい感情の起伏が激しくなる。もっとどっしり構えて仕事したい。

どうでもいいけれど父にあげたクッションが思いのほか好評だった。腰が痛いといつも言っていたからどうかなと思ったもので、自分でも触り心地が良くてあわよくば自分用にしようと考えていたが、父曰く「これのおかげで快眠」と幸せそうに言われた。今度買いに行こう。私もゆっくり寝たい。

盆休みも終わりに近づいた今日、なんとなく気分を変えたくて切り花を買いに行った。どこも売り切れ。時期を考えれば当然といえば当然。久しぶりにワインをあけて、テーブルに造花で飾った花瓶を置いて、酒を飲む。

疲れからほとんど寝てばっかりの休みだった。肩こりがひどくて、頭も痛くなるので、父から首回りを冷やしたらとアドバイスをもらったので試したら楽になった。エアコンで部屋を冷やしていても体には熱がこもる。汗の一つでも出れば違うのだろうけど、室内にいることが多いので、それもなかった。

遠出も考えたが、台風や地震の可能性を考えて今年の夏はこじんまりとしたものに。たまには小さくまとまるのもいいよねと買い物ばかりしている。美術館にも行ったりとゆっくりできる時間があったのは嬉しい。

今日も明日も何事もなく普通に過ごせたらいい。