経済安保で注目される今こそ (original) (raw)

本書は、今月に出版されたばかりの「日本の半導体70年史」。筆者の牧本次夫氏からいただいたものである。トランジスタ時代からの業界の推移を、インサイダーの目で記述してある。

筆者が技術分野としてこの業界を目指したきっかけは、ソニートランジスタラジオの登場(1955年)だった。民生品も軍用品も電子化が急速に進み、部品間の接続(ケーブル)が増していった。「ミサイルが1ポンド軽ければ1マイル遠くに飛ばせる」ので、トランジスタは接続部分を極小化できる集積回路(IC)へと進化し、多くの機器を軽量化することに寄与した。

さらに集積度を高めたLSIは、例えば電卓に使われて50万円ほどだったものを10万円以下で販売できるようにした。もちろんコンピュータにもLSIは使われたが、より大量に売れたのが半導体のメモリ(DRAM/SRAM)。

やがてマイコンの登場は、コンピュータを卓上におけるまでにする。そしてデジカメ・ゲーム機・通信装置・PDAや携帯電話を小型・高性能化し、各種機器をインテリジェント(&ネットワーク)化した。ついには各種パーソナル専用機器の機能をすべて持ったスマホが登場し、現在のデジタル社会(*1)を作っている。

DRAMなどでは世界を席巻した日本の半導体産業だが、政治的な取引材料(日米半導体交渉)にされたり、より深い知的所有権の抗争に巻き込まれる。特にアプリケーションやOSが絡んでくるPC以降は、良いものを作るだけでは立ち行かなくなった。何を作るべきかを考えて、川上(製造装置・材料等)から川下(アプリケーション)までセットにした産業体制構築が望ましいとある。次世代アプリとしては、自動運転車・会話可能なロボット・ドローンなどが期待できる。

日本政府や産業界が、経済安保関連で半導体産業に注力している今、次の70年を考えるためにこれまでの70年を知っておく必要があるでしょう。政府関係含め業界人には、是非一読をお願いしたいです。

*1:1997年に英国で出版された「Digital Nomad遊牧民)」が予見したもの