「デジタル梁山泊」になれなかったよ (original) (raw)

2023年発表の本書は、朝日新聞ドバイ支局長だったが本書にある取材を通じて退職した記者伊藤喜之氏の「ガーシー事件始末記」。ドバイを拠点に芸能人らについての暴露を繰り返し、幾多の訴追も受けていた東谷義和らのドバイでの行動をインタビューを重ねて記したものだ。

東谷は今月で53歳になる(*1)。日本でバーのチェーンを展開するなどして芸能界との交流が深い。ただ本人は酒は飲めず、糖尿病を抱え、ギャンブル依存症である。麻雀は強かったようで、一晩で数百万円を動かす勝負をしていた。ギャンブルでカネに困り、BTSに会わせてやるなどといって詐欺を働き、ツテを頼ってドバイに逃げてきた。

UAEは「懐の深い国」で、政治的な亡命者(*2)が身を寄せるし、オリガルヒなどの富裕層も居を構えている。日本からもクセのある人物(本書に言う黒幕A)などが集まる場所だ。

東谷の周りに、日本で有罪判決を受けた「脛に傷」の男たちが集まってきて、東谷が詐欺被害を償うために始めた「暴露系ユーチューブチャンネル」をサポートしていた。最初は親交あった芸能人の暴露をしていたのだが、視聴者からの「告発」も受けるようになって、アクセスは稼げるのだが裏取りは不十分になっていく。

人気にあずかろうとしたNHK党の(当時)立花党首からの勧めもあって、東谷は参議院選挙に立候補して当選する。2022年の誕生日は、表紙にあるように満面の笑みで祝っている。東谷は「ワンピース」や「水滸伝」が好きで、ドバイで「梁山泊」をしたかったようだ。しかし、その後日本の警察からの圧力が強くなって、窮地に陥る。

本書出版後、東谷は参議院を除名され、国際手配を受けて帰国し逮捕・収監されている。僕は芸能スキャンダルくらいに思い注意を払わなかったのだが、政界にも影響してきたので改めて事件の経緯・背景を知りたかった。本書でその目的は果たせましたよ。

*1:東谷義和 - Wikipedia

*2:例えばタイのタクシン元首相ら