MITメディアラボ的、TED的な“衒学的アカデミア”に終わりは来るか|ショーンKY (original) (raw)

「衒学的」(pedantic)は「過剰に学者っぽくふるまう」という意味なので、単に「学者っぽくふるまう」の場合「似非」(pseudo)のほうが良いのではないかという指摘がありました。元の文意を出せるように「衒学的」を置き換えると学問風アカデミアとしたいところです……

※この記事は、下記のまとめの抄録に解説文を付けたものです。

MITメディアラボが組織的性犯罪者ジェフリー・エプスタインの資金を、彼が性犯罪者であることを知りながら受け取っていたスキャンダルが大きく報じられている。

性犯罪者の資金で回っていたMITメディアラボ

この件は当初メディアラボ側からするととばっちりと思われていたが、所長の伊藤穣一は、エプスタインがMITの寄付不適格者であることを知りつつ、分散して匿名寄付にしたり迂回名義を使うなどして資金を受け取る、個人のファンドにも出資してもらうなど、すべてを知りながら行っていた「クロ」であることがほぼ確定した。この報道後、彼は所長の職を辞している。

それは、エプスタインがメディアラボに寄付をしていたこと。エプスタインは、ドナルド・トランプやビル・クリントンなど多くのセレブと交友があり、有罪判決後に獄死という異例の事態を遂げたため注目を集めていたものの、当初は伊藤氏にとって"飛び火"のようなものであると見られていた。

— 石田 健, donc イシケン (@ishiken_bot) September 7, 2019

しかしここにきての報道。エプスタインは、MITの寄付データベースに「失格」と記載されていたものの、メディアラボはそれを知りながらも寄付を匿名として処理することで受け取り続けていた。伊藤氏の関与はまだ明かされていないが、MITや同氏が当初おこなっていた説明と乖離していることは明らか。

— 石田 健, donc イシケン (@ishiken_bot) September 7, 2019

“隠蔽は広く知られており、伊藤のスタッフはエプスタインをヴォルデモート、名前を呼んではいけないあの人と呼んでいた”..effort to conceal the lab’s contact with Epstein was so widely known that some staff in the office of Joi Ito, referred to Epstein as Voldemort or “he who must not.. https://t.co/8dPVv4Hs0v

— Kayo Mimizuka (@Kayommz) September 8, 2019

MITメディアラボが拝金主義の体質だったのは、伊藤穣一以前に創設者のネグロポンテの時代からと言ってよい。伊藤穣一にエプスタインの資金を取るよう勧めたのはネグロポンテであり、そのことを公言したからである。

ここの創設者ネグロポンテは悪党だな「伊藤に受け取れと言ったのはオレだ!あの頃に時計を戻したとしても受け取れと言う」とか「今はこんな時代だから、知ってたら受け取れないが、あの時はあんな時代だったから、もし今があの時なら、知っていても受け取る」と断言。呆れる… https://t.co/PD5CAPcddI

— Kダブシャイン🎤1000watt💡korXXtph (@kingkottakromac) September 8, 2019

(´-`).。oO( それにしても、ネグポンの時からメディアラボは日本のことをMITブランドという無形のキャッシュカードで金を引き出すATMくらいにしか考えていなかったのに、見事に引っかかってきた数々の日本企業の情けなさよ… )

— Yuta Kashino (@yutakashino) September 8, 2019

前から言ってるけど、そもそもメディアラボのトップ2が日本人おじさんなのがとてつもなく気持ち悪かった。日本国内でのメディアラボのブランドすごく高かったから日本企業から金流れるし日本人で留学する人やポスト取る人も多くいた。SFCは特に癒着ある。
N〇Tとずぶずぶという印象強い

— ραο (@misssfc2019_no7) September 7, 2019

怪しげな偽科学まがいの「研究」

MITメディアラボについてはもともとあまり快く思っていない人もいた。その多くは、MITメディアラボから出てくる「研究発表」がハッタリ先行で中身がない、と見なしていたものである。

このハッタリ、自己顕示は、結局集金のためであって、エプスタインから金を受け取っていたのと同じ拝金主義的体質から来ているのではないか――というのが外野の勘繰りである。

The Epstein-funded MIT lab has an ambitious project that purports to revolutionize agriculture. Insiders say it's mostly smoke and mirrors. https://t.co/o0G0yUnsfs メディアラボの誰もが農作的なフードコンピュータが詐欺的で、実際には農場の作物をデバイスに入れてデモをしていたそう。

— Yuta Kashino (@yutakashino) September 8, 2019

なんかとうとう地獄の釜が開きましたね。あそこゴミのような実装をTED Talk風の「ビッグ・アイデア」で幻惑させて外部から金を引いてくるのが多くの研究室の基本的な戦略になってますよね…

— Yuta Kashino (@yutakashino) September 8, 2019

MITラボが燃えていますが、ビジネスとテクノロジーを派手に介在させようとする試みは、得てして同じ窪みに落ち込むように思います。私が訳したN, Thriftの「複雑性の場所」は、当時最先端のサンタフェ研究所とビジネス間の協力関係を皮肉たっぷりに分析した物でした(https://t.co/QqwZKT4OzC)。

— Ryo Hayashi(林 凌) (@HR67579657) September 9, 2019

TED talkは「知的番組」という見方も強いものの、意識高い系のハッタリを前面に押し出した芸風でもあり、ハッタリ先行の人間がよく出演している(ハッタリが先行することを揶揄したセルフパロディ回すらある)。ゆえにエリザベス・ホームズのような詐欺師の片棒も担いでいる。この番組をNHKで放送していた際にプレゼンターを務めていたのがMITメディアラボの伊藤穣一とスプツニ子であった。なお、TEDはエプスタイン事件の実行犯であったマクスウェルを慈善家として喋らせたという点も問題視されている。

Just wow, Ghislaine Maxwell had so many supporters even after her involvement with Jeffrey Epstein, and sex trafficking of children was well known. The link to her Ted Talk is available below, see Mission Blue. https://t.co/zKQXUZ5Qva

— Mary Elizabeth (@MaryElizabeth73) September 3, 2019

また、MITメディアラボがそのようなハッタリにアカデミアの箔を押して飾り付けるファクトリとなっていた、という見方も少なくない。

メディアラボはとうとう"Pseudo-academic" (偽アカデミア) とまで呼ばれるようになってしまった。メディアラボにいた経歴すらイメージダウンになりそう
The Problems at MIT and its Media Lab Are Deeper Than Jeffrey Epstein—Data Sheet – Fortune https://t.co/PHzmpFwc1e

— °Freeman Taketcharov (@yT_BME) September 9, 2019

知識人というより実業家の方だったけど「資金調達の天才」とされて、学を修めたことほぼなかったがメディアラボの所長までのぼり詰めたので後からアカデミックなブランドイメージも身につけた感じです。

— ραο (@misssfc2019_no7) September 7, 2019

メディアラボがなんかわからんけどすごそうは文字通りそんな感じ…。社会的意味のあるすごい研究ももちろんたくさんあるけど基本的に加速主義の極みといったところ。WIREDはラボ創設のネグロポンテ(joiディフェンスしてる)からのつながり。

— ραο (@misssfc2019_no7) September 7, 2019

日本で著名なMITメディアラボ出身者の一人であるスプツニ子氏(ちょうどエプスタインの資金が入ってきたころに教職になった)も、アカデミアの人間というより「研究の真似事」「広告代理店みたいな仕事」として批判的に見られることがあった。

日本がほこるフェミニスト様がsex offenderのお金で”研究”(のマネごと)してたのは皮肉が効きすぎですね。

— Kemtaro (@oxt23) September 7, 2019

スプ子さん広告代理店みたいな仕事してるな。
大丈夫かしらアミノ酸コンクリート。護岸工事をするような水域の富栄養化は聞いたことあるけど栄養が足りてないなんて話あったっけ。

— 蟲喰ロトワ 蟲ソムリエ 昆虫農家 @ラオス 次回一時帰国11月予定 (@Mushi_Kurotowa) September 8, 2019

MITメディアラボと直接関係あるわけではないが、スプツニ子氏は「ムーンショット型研究開発制度」の幹事(ビジョナリー会議構成員)を務めている。このムーンショット型研究は怪しげ、ニセ科学、詐欺的と非常に評判が悪いものであった。

また、スプツニ子氏とともに幹事を務める落合陽一氏も、またMITメディアラボと同じジャンルの「研究者」である、と見なされる傾向が強い(ちなみにTEDxに出演している)。彼については〈工学者としては〉中身のある研究発表をしているので詐欺師というわけではないが、宇野常寛あたりとつるんで中身のないテーマだけビッグな〈社会論の〉話をするのは勘弁してもらいたいというのが正直なところである。

落合陽一はナムジュンパイクやMITメディアラボ界隈のような「アーティスト」であって、「研究者」ではない。

>RT

— しろくろこ (@shirokuroko_EA) January 5, 2019

試される「ネットリベラル」の真剣み

「日本がほこるフェミニスト様」という言葉が出てきたが、MITメディアラボはアメリカの東西海岸(の特にアカデミア)で受けそうな派手なイベントを仕掛ける「リベラル」の良い例でもあった。メディアラボ産の発表は社会的意義を強調することが多くそれに必要な部分もあるのだが、社会科学の専門的知識なしにアカデミアの箔をつけて社会を語りたがる、というのは落合陽一と共通する困った点でもある。ただ、彼らはよく目立つこともあって、「リベラル」の界隈の中でも持て囃される傾向があった。

例えば、メディアラボは2017年に「既存のルールを破ってでも社会を変革する素晴らしい取り組みをした人を表彰する『MITメディアラボ不服従賞』」なるものを作っている(しかもhuffpostがいかにも東海岸アカデミアの先進的取り組みという風に報じている)。しかし今回の事件の結果、エプスタイン資金を受け取ったこととの矛盾に対する弁明が求められている。

伊藤はリベラルを代表する高級紙The New York Timesの(社外)取締役も務めている。今回の告発者は、NYTに対して洗いざらい喋っていたのに黙殺されたのでThe New Yorkerに改めてタレ込んだと言っており、関連を疑っている。

伊藤に対してエプスタイン資金を受け取るよう促したと公言して物議を醸したメディアラボの創設者のニコラス・ネグロポンテは、同時にWired Magazineの創刊者の一人だが、Wired Magazineは英語版Wikipediaの"List of political magazines"にて(アメリカ英語での)リベラルに分類されている。

前述したスプツニ子もセクシュアリティ、フェミニズムをテーマとした作風で知られている。今回の件では、「リベラル」的ポーズを取りながらその実「リベラル」から特に批判されているエプスタインの金をとっていたということがアメリカ国内でも非難の的となっているが、彼女の場合は中心テーマがフェミニズムであることから、その批判が直撃するだろう。

スプツニ子!さんがMITで少女を人身売買していたエプスタインのお金で、フェミニズムを標榜するラボを運営し作品制作って、ものすごい批判の対象になるよな…

現場でどこまで知っているか、当時はどれくらいそういう現場をしっていたのか、釈明しないと…

自分が講演の聴衆なら絶対質問するもの…

— HRK (@hncgu) September 9, 2019

一方で、今回の告発についてはラボ内部のMeToo運動であったことも指摘されている。

伊藤穣一告発は、メディアラボでも女性の排除的な構造があり、少女を含む子供を搾取して利益を得る男に対する抗議の文脈が強い。しかも最初女性たちからの告発だけではことが動かなくて男性の同志から声が上がってやっと大きく動いた模様。今後も女性たちから新たな告発がある可能性がある。

— ραο (@misssfc2019_no7) September 7, 2019

とりあえずジョン前田はJOIディフェンスの署名してないぽくて、辞任請求や女性たちの側についている模様。なら尚更ニールが署名したのショックだな……。

— ραο (@misssfc2019_no7) September 7, 2019

また、彼らは右派議員に取り入る政商としての顔も持ち合わせている。これは、伊藤穣一にしても、あるいはムーンショット研究に取り入ったスプツニ子や落合陽一にしてもそうである。

伊藤穰一が島桂次と偶然コネが出来て元部下の畑恵から船田元と懇意になり、自民党の部会に食い込んで若き政商として活躍した頃から遠目に見ているので、今回の件も、実に彼らしいと思うのみ。

— Hironobu SUZUKI (@HironobuSUZUKI) September 9, 2019

まだまだ伊藤穰一が若かった頃、住基ネットのセキュリティでも技術的にデタラメなことをいってはあることないこと煽って商売にしていた。その意味ではむかしからやり方は一貫している。ちなみに、その頃、伊藤穰一と組んでいたのは、櫻井よしこだったりする。

— Hironobu SUZUKI (@HironobuSUZUKI) September 9, 2019

ただ、少なくとも日本の特に官僚の人たちは、ちょっといくらなんでもそういう意識高い系の香具師に弱過ぎないかって思わなくもない。

— はりー (@Woofer30) September 9, 2019

ド派手に目立つように行われるリベラルとしてのメディア活動と、政商として右派議員に取り入る活動、政治的に見ると矛盾した2つの立場をなぜとれるのか――という疑問が湧くが、自己顕示集金システムの一環であると考えれば首尾一貫しているとはいえる。

TED的ハッタリが退潮してくれるか

ここまで何回か引用している柏野雄太氏をはじめとして、TED的なハッタリにアカデミアの箔をつけて展開するカルチャーに対して批判的な人は多い。少なくとも、少なくない。私自身もその一人である。

今まではこのハッタリが研究上のものであったが、今回のスキャンダルで、TED風に派手に展開される「リベラル」の政治行動が、研究上と同様、ええ格好しいのハッタリなのではないか?という疑念が現実のものとなりつつある。The New York Timesでさえ取締役の不祥事は握りつぶした疑惑が出ており、一部の跳ね返りの仕業で片づけられない根深いものがあると言わざるを得ない。

しかしレッシグも、いわゆるリベラルに近いと思われてるはずだが、ニューヨークタイムスや、ニューヨーカーと関係のある人が、実は日本で極右の人たちと「よろしくやっていた」という話が伝わると色々と幻滅以上のことを引き起こすかもね。

— ねずみ王様 (@yeuxqui) September 10, 2019

つまり欧米の市民社会では、リベラルな顔をしてるんだけど、その下部構造となっている日本社会というのは、なんというか汚れ仕事をする場所なんだな。

— ねずみ王様 (@yeuxqui) September 10, 2019

メディアラボ的な手法――ハッタリで研究資金を引っ張る「リベラル」の代表例はイーロン・マスクだろう。彼に関しては、ハッタリ先行ではあるが結果もある程度ついてきている。ロケットに関しては実際成功しているし、電気自動車も一定以上の成果をあげている(労災が多かったりまだ軌道に乗ったわけではなく自転車の上で彼のビジネスがそのまま軌道に乗るかは別としても)。脳-機械インターフェースの新プロジェクトも、(倫理的問題で手を付けにくい方法ではあるが)ガチの脳科学者も先進的と認めるものである。なので、個人的にはハッタリが全部間違っているとは言わない。確かに研究開発をドライブする力にもなり得るものではあろう。「リベラル」的倫理面も、無視するよりはよい。「やらない善よりやる偽善」である。

不祥事はきちんと調査し、批判すべきだし、事実であるなら僕も心から失望する。しかし個別の研究者や実際の研究の中身を精査することなく、組織や分野をまるっと衒学的とかレッテルを張ることは、知的に誠実な態度と言えるのだろうか?

— 稲見昌彦🌧️INAMI Masahiko (@drinami) September 10, 2019

内部でも事態を深く憂慮し、これを機に組織を抜本的に改革し、学術的・社会的な信頼を取り戻すよう議論を始めていると聞きます。まずは推移を見守りたい

— 稲見昌彦🌧️INAMI Masahiko (@drinami) September 10, 2019

PEZY Computingのときもそうだったけど、金の出処が汚いことは問題だとしても、末端の人たちが作ったものには価値のあるものもある。

— はりー (@Woofer30) September 9, 2019

それは私も同意します。次世代の教科書に載るのが良い仕事と言いますが、大風呂敷を一度は広げて「未研究ゾーン、研究史上の虚」を確認し、手を使ってその虚に実を埋めていくのが長く残る研究をする王道だろうとは思います。虚の部分を分からず手だけ動かしてはそうはならないし、虚だけも当然無意味。 https://t.co/ocjgSUwJkz

— ショーンKY (@kyslog) September 9, 2019

しかし、ハッタリで塗り固めたようなものは正直あまり認めたくないものである。今回の事件で、そのあたりの「綱紀粛正」が少し進むとよいと期待している。