サッカー、いや教育関係者必読の書。早熟な才能と「根性」の不都合な関係。(木崎伸也) (original) (raw)

「あまりにも早い時期に競技に熟達した人間を相手にするのは非常に難しい。そうした人は新たなことに挑戦しないし、モチベーションを維持するのが困難だ」

スティーブン・フランシス(ジャマイカの陸上コーチ)

サッカーの育成関係者であれば、必ず読むべき本がある。デンマーク出身のラスムス・アンカーセンが記した『トップアスリート量産地に学ぶ 最高の人材を見出す技術』(清水由貴子・磯川典子訳、CCCメディアハウス)だ。

元サッカー選手のアンカーセンが「才能」に興味を持ったのは、デンマークのFCミッティランのアカデミーで働いていたときのことだ。スカウトが誰も目をつけなかったシモン・ケアー(当時15歳)が他の誰よりも成長し、DFとしてパレルモ、ヴォルフスブルク、ローマとステップアップしたからだ。

ケアーはアカデミーの枠が余ったから人数合わせで入ったにすぎず、もし他の有望選手が断っていなければ見過ごされていた人材だ。いったい才能とは何なのか。アンカーセンは育成の謎を解きたいと考えた。

そして彼は仕事を辞め、優れたアスリートを生み出している人材の宝庫(ゴールドマイン)を訪れる旅に出た。その結果をまとめたのが上述の本だ。世界40カ国で出版され、日本では2012年に発売された。アンカーセンはサッカーの枠を越えて、能力開発のエキスパートとして活躍するようになる。

再び彼がサッカー界で注目されたのは、2014年のことだ。当時イングランド3部にいたブレントフォードFC(現2部)のオーナー、マシュー・ベナムが本に感銘を受け、「コンサルタントになってくれないか」と声をかけたのだ。

ベナムもアンカーセンに劣らず異才の人だ。オックスフォード大学卒業後にロンドンの金融街でデリバティブの専門家として働き、数学理論をサッカーの予想に応用するプロギャンブラーに転じた。その予想システムを販売して大きな利益をあげ、ブレントフォードのオーナーになった。