絵本のむし (original) (raw)
「ヤナギ通りのおばけやしき」
ルイス・スロボドキン 作 小宮 由 訳
2019年 瑞雲社
(オリジナル初版1959年)
ルイス・スロボドキン/小宮由 瑞雲舎 2019年08月14日頃
10月なのでハロウィンの話を。
(実は「ちいさなたいこ」もカボチャが出てくるから選んだけど、さすがに無理がありすぎたなと思って)
ルイス・スロボドキンさんによる児童書。
原題は ”TRICK OR TREAT” で、初版発行は1959年のようです。
ハロウィンの日に、ヤナギ通りにある おばけやしき と呼ばれる一軒の家に子どもが訪ねてしまう事から始まります。
trick or treat の "trick" がおそらくダブルミーニングになっており、そっちの意味のトリック?!となる少し意外な展開。
怖いことはなく、終始ほのぼのとした温かいおはなしです。
挿絵も多く、話も長くないですが、字は小さめ。
自分で読むなら小学校2年生くらいからかな?
ルイス・スロボドキンさんはウクライナルーツのアメリカ生まれの方で、子ども向けの本や挿絵をたくさん手掛けられていますが、もともと彫刻家でもあるそうです。
レトロな雰囲気の絵が素敵で、服装や雰囲気に50年代のアメリカが感じられてとても良きです。
今見てもとてもスタイリッシュですね〜。
東京都写真美術館で11月3日までやっている
「いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ」
に子供たちと行ってきました。
絵本「100かいだてのいえ」シリーズでお馴染みのいわいとしおさんですが、メディアアーティストでもあります。
都民の日は無料なので、混んでるかなあと思いつつ行ってみたところ、やはりとても混んでいました。
とても良い展示でしたので、普通の日にお金を払って行っても全然構わなかったなと後から思いました(そんなに高くないし‥)。
展示の内容はよく知らないまま行ったのですが、絵本の原画(デジタルプリント)も少しだけありましたがほとんどは体験できる映像装置とメディアアートです。
「19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」というサブタイトルのとおり、19世紀に作られたゾートロープ(回転のぞき絵)やフェナキストスコープ(おどろき盤)という丸い円盤を回転させて鏡に映して見る映像装置などの展示が沢山ありました。
本物の19世紀の映像装置(レプリカ含む)は写真美術館が所蔵しているものだそうです。
実際に回転させて体験できるためひとりひとりにとても時間がかかってしまいますが、置いてある数も結構多いので混んでいても何もせず待つ時間というのは意外と少なかったです(「映像装置としてのピアノ」というメディアアート作品だけは体験したい人達の長い待機列ができていて、かなり待ちました)。
メディアアートって大人でも面白さが分からない物も多かったりしますが、いわいさんの作品は体験できるし動きを見る、というシンプルさから子どもにもわかりやすく面白くて良かったです。子どもたちも楽しんでいました。
「100かいだてのいえ」シリーズファンの子には嬉しい、「鏡の100かいだてのいえ」という合わせ鏡を使った大きめの立体作品もありました。
合わせ鏡なので100かいだてではなく階数無限大なのですが(笑)
あと、いわいさんの原点となった小学生の時に描いたパラパラ漫画なんかも展示されていたんです!ちゃんと取ってあるのがすごい。
子どもからすると「100かいだてシリーズの人」という認識になると思いますが、それを入り口に映像装置の歴史やメディアアートの面白さに触れることができる、良い企画でした。
大人気シリーズ「100かいだてのいえ」は現在6冊出ています。
「100かいだてのいえ」
いわいとしお
2008年 偕成社
ちゃんとストーリーもありつつ、次はどんな住民が住んでいるんだろう、と想像するのも楽しく、また覗き見る住民たちの生活が面白くて見るたびに発見があるような絵本です。
もともと自身のお子さんに数を教えるために思いついたとか。なのでもちろん100まで数える練習にもなります!
最新作「ぬまの100かいだてのいえ」
我が家はボードブック版の「100かいだてのいえ ミニ」を所有しています。
お出かけの時に持って行くのにちょうど良いサイズなので。
お出かけに持って行く本はすぐに飽きないよう、細かく描かれている絵本が理想ですから〜
逆に、細かく書き込まれた細部をじっくり見たい場合は大型絵本もあるそうです。
幼稚園とかにあったらテンション上がるやつですね!
「ちいさなたいこ」
松岡享子 さく 秋野不矩 え
これは娘の幼稚園にあって知った絵本なのですが、福音館書店のこのサイズでこの絵の雰囲気の絵本だと「ももたろう」や「うらしまたろう」と似ているため、この本もそういった昔話シリーズなんだな、でも今までに見た事ない本だな、と思っていました。
それもそのはず、この本は2011年出版で、昔話ではなくオリジナルの話だったんです!
もとい、初版は1974年に出たこどものとも221号でした。が、それが2011年まで復刊されずにいたという事なのでしょうか?
作者は松岡享子さん、翻訳家であり児童文学作家であり児童文学研究者でもある児童文学界の超有名人です(何か軽い言い方で申し訳ないけど)。
2022年にお亡くなりになっています。
作品だと「とこちゃんはどこ」とか「おふろだいすき」とか、翻訳はそれこそめちゃくちゃ沢山手掛けていらっしゃる。
絵は日本画家の秋野不矩さんで、同じく福音館書店から出ている「うらしまたろう」の絵も秋野さんが手掛けられています。
内容は、本当に昔話のようで、創作昔話とでもいうような感じです。
おじいさんとおばあさんが暮らしていましたが、ある日育てていたかぼちゃの中から祭囃子が聞こえてくる‥ という内容。
ラストは幸せに暮らしました‥なのか遠い世界へ行ってしまったのか、淋しさのような何とも言えない余白があります。
福音館書店によると「知る人ぞ知る幻の名作」らしいけど、それが40年近く復刊されていなかったのは勿体なさすぎませんか‥ こんな有名作家による作品でもそんなことあるのかという感想です。
こどものとも や かがくのとも は名作も多いのに、ハードカバーにならずに絶版になっている作品も多くあるのかもと思うと残念です。
秋野不矩さんの絵の「うらしまたろう」
絵が本当に美しいです。
「おともださにナリマ小」
たかどの ほうこ 作 にしむら あつこ 絵
2005年 フレーベル館
たかどの ほうこ/にしむら あつこ フレーベル館 2005年05月01日頃
タイトルの意味は、もちろん「おともだちになりましょう」なんですが、
表記がちょっと覚えにくいので検索する時は注意ですね笑
小学校低学年向け、1年生から読めると思います。
(以下ネタバレ)
ハルオは全校で1クラスしかない小学校の1年生、ある日学校に行くとどうもみんなの様子がおかしい。
それもそのはず、彼は人間の小学校とクラスメイト丸ごとそっくりに化けたキツネの小学校に来てしまっていたのです。
キツネの小学校でハルオは人間そっくりに化けられているという事で優等生に!
一方その頃、人間の小学校にはハルオに化けたキツネが‥
いつもと同じ学校、同じメンバーなのに少しずつ様子がおかしいといういわばパラレルワールドに入って行くような展開が面白い。
キツネのこども達は皆頑張って字を書きますが、文字が反対になっていたり漢字やカタカナがめちゃくちゃに混ざっていたりします。
タイトルの「おともださにナリマ小」はそんなキツネの書いた文章。
以前紹介した「ねこが見た話」と同じ たかどのほうこ さんの作品ですが、「ねこが〜」と違ってこちらは児童書らしい児童書という感じ。少しませた子には子供っぽいと感じるかも。
話はざっくり前半と後半に分かれていて、一気に読める感じです。
絵も可愛い。
人間に化けたキツネの子は髪型や服装にどうしても違和感が残る仕上がりになっているそうなんですが、それが何とも可愛いのです。
「いたずらトロルと音楽隊」
アニタ・ローベル 作 安藤 紀子 訳
2018年 ロクリン社
アニタ・ローベル/安藤 紀子 ロクリン社 2018年04月03日頃
とある音楽隊がトロル達によっていたずらされてしまい、変な音しか出なくなってしまったので、それをトロル達に元に戻してもらおうとする話。
トロル達は困ったいたずら者だけど、奥さんには弱い、というオチが面白い。
絵がとても美しいなと思ったら、アーノルド・ローベルさんの奥様(元)であるアニタ・ローベルさんの作品でした。
一枚一枚の絵が大変細かく美しく描かれています。文章の周りや絵に縁(フチ)が描かれていて、中世絵画のような感じ(上手く言えてないけど伝わるかなあ‥)。
アニタ・ローベルさんはアーノルド・ローベルさんと同じくポーランド出身。
夫婦揃って絵本作家なのは知っていましたが、アニタさんの絵本は初めて読んだかもしれない。
夫婦で共作した絵本もいくつかあります(夫婦で制作した絵本はアーノルドさんが文、アニタさんが絵を担当されています)。
アーノルド・ローベルさんはのちにゲイをカミングアウトし、お二人は離婚しています。色々あったのでしょう。
アニタさんはご存命で、ニューヨーク在住だそうです。
アニタさんはユダヤ人で、ポーランドの強制収容所で生き延びたという壮絶な生い立ちがあり、子供の頃の体験を綴った本も出版されています。
今度、探して読んでみたいと思います。
「ねこが見た話」
たかどの ほうこ
たかどのほうこ/瓜南直子 株式会社 福音館書店 1998年05月03日頃
絵本や児童文学を多数執筆されている、たかどのほうこさんによる児童書。
小学校低学年向け。
べらんめえ口調みたいな野良猫の視点で語る、落語みたいな講談みたいな少しふしぎな話。 ちょっと「世にも奇妙な物語」みたいな感じも。
全然怖くはないです。
落語っぽい特徴ある語り口ゆえに自分で読むのが少し難しいかもな、と思い、私は何話か読んであげました。
短い話4話で構成されているオムニバス形式で、4話はそれぞれ繋がってはいないので、読んであげる量としてもわりとちょうど良いです。
レビューを読むと教科書や国語のテキストとしても使われたりしていたようです。
ふしぎな話ではあるけれど、子どもっぽくなくて大人でも楽しめるような内容で、男女問わず楽しめると思います。
学校が出てきたりもしないです。
余談ですが「世にも奇妙な物語」て言うとなんか世代がわかっちゃう感じですね。
今だとあれかな、「岸辺露伴」シリーズみたいな感じかな〜
「貨物船のはなし」に引き続き柳原良平さんの船の絵本を紹介させて下さい。
「たぐぼーとのいちにち」
2004年 福音館書店 (初版 1959年発行)
タグボートって知っていますか?港で働く、大型の船を押したり引っ張ったりして着岸・離岸の手伝いをしたりする、小さいけれど力持ちの船です。
そのタグボートの1日を紹介する絵本で、タグボートの仕事がよくわかります。
文はフランス文学者で詩人の、小海永二さん。
前回紹介した「貨物船のはなし」と違って、小さい子ども向けになっています。
もともと「こどものとも」シリーズから出ていたようですし。
終盤で移民船「あるぜんちな丸」が出航する場面があり、初めて読んだ時はそんな昔の本なの?とちょっとびっくりしましたが、1959年に初版が発行されたそうなのでそんな昔の本でした!
柳原さんの古さを全く感じさせない絵柄のせいで気づきませんでした(船は自動車よりもデザインの移り変わりも緩やかですし)。
色使いや構図もとてもスタイリッシュです。
あるぜんちな丸 は「貨物船のはなし」にも登場し「たいへん美しい船」と紹介されていたので、柳原さんにとって戦後復興を象徴するような思い入れのある船なのかも、と想像しました。
古い絵本ですがタグボートの仕事は今とさほど変わっていないと思います。
ただ貨物の積み下ろしに艀(はしけ)を使っていますが、今は大きな港なら貨物船やコンテナ船も港に直接荷下ろしできるようになっているので、そこは今と違うところですね。
50年代までは港が浅くて接岸できなかったため、貨物の積み下ろしは艀を使うのが一般的だったようです。
柳原さんが京都市立美術大学を卒業されたのが1954年だったそうで、卒業後サントリーに入社、1959年にサントリーを退社されているのでこの絵本はサントリーを退社した年に出ていることになります。
ていうか、サントリーには新卒から5年間しか在籍していなかったのですね!その中で「アンクルトリス」という傑作が生まれていたのか‥‥。
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ここから先は私個人の備忘録というか、この絵本に登場するあるぜんちな丸周辺に関して個人的に気になって調べた内容なので、興味のある人だけどうぞ。(長いです)
戦前から続いたブラジルへの移住政策は戦後も続き、戦後ブラジルに移住された方は約6万8千人にのぼるそうです。その方達を遠くブラジルまで運んでいたのが南米航路客船のあるぜんちな丸 や、ぶらじる丸。
この本に出てくる あるぜんちな丸は二代目で、(初代あるぜんちな丸も移住客船だったが戦時中に徴用されて空母「海鷹」になっている)神戸港から南米への移住者を送り出していたとのこと。
処女航海が1958年だそうで、文中に「あたらしい いみんせん」とあるので、この絵本に描かれた場面もその時のものかもしれません。
処女航海ではドミニカ移民174名、ブラジル移民540名、パラグアイ移民134名およびその他乗客224名が乗船していたそうです。ブラジル移民だけではなかったんですね(そもそも船名‥)
移民船と言ってしまうととなんだか人がぎゅうぎゅうに詰め込まれたあまり良いものではないように聞こえてしまいますが、れっきとした客船であり、移民は移民室ですが一等船室や公室は豪華で、ハワイ航路には天皇をはじめ皇族の方々も乗船した事もあるようです。
当時、あるぜんちな丸は日本の最新最大の客船でしたが、南米移住者の減少につきその後は純客船に改造され、初代「にっぽん丸」となったそうです。(今のにっぽん丸は三代目)
現在にっぽん丸を運航している「商船三井クルーズ」という会社は、元々「日本移住船」という社名で、そこがあるぜんちな丸などを保有管理していたわけですね。
あるぜんちな丸は解体されてもうありませんが、姉妹船「ぶらじる丸」は紆余曲折を経てなんと今は中国の湛江で観光施設となっているそうです(!)
https://40anos.nikkeybrasil.com.br/jp/biografia.php?cod=1345
船に歴史あり、です。
↑ところで検索していて見つけたこのHP自体、「あるぜんちな丸同船者寄稿集」というものすごいものでした。
内容もすごいボリュームで、こんなものが読めてしまうとは、久しぶりに古き良きインターネットを感じました。
ブラジルに移住した方々、特に戦前に国策として進められた移民政策のもとブラジルに渡った方々の苦難の歴史は、恥ずかしながら大人になってようやくその詳細を知ったところです。
そんな話を知っているため「たぐぼーとのいちにち」で華やかに見送られているあるぜんちな丸も、複雑な思いで見てしまいます。
ちなみに、ブラジル移民の方達の苦難の歴史は、「その女、ジルバ」という漫画でよく知ることができました。漫画自体も面白く、とてもお勧めです。
(ドラマ化もされていましたね、1話以降見ていないためドラマの出来はわかりませんが)
ところで、あるぜんちな丸に乗船していたドミニカへの移住者の方々。
この方達もドミニカに渡った後大変過酷な目に遭っていたそうで‥
2006年に日本国政府と和解し、2022年(!)にはドミニカ政府から正式に補償金の支払いが始まっているそうです。
ドミニカ共和国、日本人移民に補償金支払い…事前に約束した農地割り当てず : 読売新聞
移民問題というと現代では主に日本に来る人のことを想像しますが、満洲に関してもそうですが過去にはほぼ騙されるような形で日本から国外に渡り、戦争や国家に翻弄され過酷な運命を辿った方々が大勢いるという事も忘れずにいたいと思います。