「火山活動の中に浸かる」岩手・藤七温泉 (original) (raw)

火山活動の直湧き温泉

温泉が浴槽の下から直接湧き出す、いわゆる「足もと湧出温泉」はけっこうありますが、野湯でない限り火山活動中の噴気地帯のような場所の「足もと湧出温泉」は意外と少ないようです。

浴槽では、温度も成分も湧出量も「人間に都合よく」入浴が可能であるように安定している必要があります。火山活動中の地獄の「噴湯」に浸かるには、有毒ガスがなく、入浴に適した温度で安定した量が湧き続ける必要があり、ましてやそれが旅館の敷地内であるというのは至難の業です。

岩手県秋田県にまたがる「八幡平」は、侵食や噴火によって山頂部が台地のようになだらかになった火山で、「ランクCの活火山」に分類されています。一帯には、後生掛温泉、ふけの湯温泉、玉川温泉、松川温泉などの「有名どころ」が点在しています。そんな中にあって、八幡平の頂上付近の県境に位置するのが藤七(とうしち)温泉彩雲荘です。

藤七温泉彩雲荘全景

藤七温泉は標高1400mに位置し、山形県姥湯温泉(1300m)や大平(おおだいら)温泉(1080m)より高所で、東北地方の温泉宿としては最高所の温泉です。

特筆すべきは、一軒宿の彩雲荘が「地獄」と呼ばれるような噴気地帯の一画にあり、「火山活動によりボコボコと温泉が湧き出す」中に直接入れる温泉であることです。

藤七温泉周辺に広がる地獄(噴気地帯)

温泉が湧き出すくぼみに「すのこ」のようなものが敷かれていて、温泉が湧き出す底なしの地獄に陥ることがないようになっています。一応四角い浴槽らしく角材で区切られていたりします。目の前には噴気が上がり、火薬のような硫化水素の匂いが周りに充満しています。「火山活動の中に浸かっているなあ」と、地獄に身を置いている自分に幸せを感じます。地獄は極楽でした。

こんな開放的な温泉ですが、混浴です。女性の方も「湯あみ着」を着用して普通に入っていらっしゃいます(だから極楽という訳では決してありません‥‥決して‥‥)。

今は24時間自家発電機が稼働している

立地場所が立地場所ということで、一軒家宿の彩雲荘は自家発電です。夕食中に二度停電をしましたが、それも「想定内」の出来事であるため、だれも慌てません。当然、食事も「やみ鍋」状態で続けられます。真っ暗な中で酒を飲みながら、「何か」を箸でつまんで口に入れます。もはや修行です。もちろんテレビはありませんし、Wifiも十分ではなく‥‥、「酒」だけが頼りです。べつに藤七でなくても、いつもそうですが。

藤七温泉彩雲荘の部屋

廊下と天井がかなり傾き平行四辺形の空間に

心地よい温泉に浸かった後は、身体からは火薬のような匂いがし続けました。岐阜に帰ってからもしばらく、洗濯をし続けたにも関わらずタオルや下着から火薬のような硫化水素臭が消えませんでした。おかげで、藤七温泉の余韻を楽しむことができました。

藤七温泉に入浴して、さらに温泉という概念が拡がりました!