【ネタバレ】たんとんとん #13 (original) (raw)

TBS 1971年8月24日

あらすじ

文子(榊原るみ)は竜作(近藤正臣)と結婚したいと思っていた。竜作も文子を嫌いではなかったが、一級建築士の資格を取るという夢があったので、文子が他の男と結婚しても祝福するつもりでいた。

君のいる空

2024.1.22 BS松竹東急録画。

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尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。

*

江波竜作:近藤正臣…先輩大工。

石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。

*

安さん:太宰久雄…建具屋。

夏川朝子:岩崎和子…健一の元クラスメイト。

*

そば屋の親父:中島元…益夫の父。

あんちゃん:樋浦勉…駅前の床屋。

益夫:池田二三夫…文子の働くそば屋の息子。

ボウリング場

レーンの上の壁に「昭和46年 松竹友の会 第7回 クラス別月例大会開催!!」と書かれた大きな紙が貼ってある。

一人雑誌を読んで待っていた文子のもとに健一が現れた。

健一「しょうがねえなあ、年中いっぱいで」

文子「1時間ぐらいだって」

健一「ちきしょう。暇人がいるよな、まったく」

文子は話があるからボウリングをやらなくてもいいか健一に聞く。まだ申し込んでないなら出ようと健一は言うが、周りがうるさいほうがいいと文子が言い、レーン前ではない場所に移った。

健一「あっ、なんか飲む?」

文子「いいわ」

健一「そう。じゃ、俺は飲むかな」コカ・コーラの自販機前に移動。

文子「あんたが飲むなら私も飲むわよ」

健一「なんだい。遠慮してたのか?」

文子「違うわよ。どっちでもよかったの」

健一「なんにする?」

文子「オレンジ」

健一「よし」

文子「おたくの私がおごるわね」

健一「いいよ。俺は稼ぎがいいんだから」

文子「だってこの間もおごってもらったんだもの」

健一「50円ぐらいでそんなこと言うなよ」オレンジジュースの瓶を差し出す。

文子「じゃ、今度ね」

健一「ああ、いずれうまい物(もん)でもな」

文子「ありがとう」

健一が買ったのは瓶のコカ・コーラで、その場で栓が抜けるようになってるのね。初めて見た。

www.coca-cola.com

このページの「1962年(昭和37年4月) 日本で本格的な自販機の製造が始まる」に載ってる2つの自販機とはどっちも違うんだよな。上は白地に赤の字で大きくロゴがあって、メニューが横に並んでいて、栓抜きがついてる。ネット上でも懐かしの自販機みたいなものの中でもこのドラマと同じ型のがないなあ~。

健一はコーラを口にしながら、元いた席を見るともう人が座っていた。

健一「ねえ、ちょっと詰めてくんない?」

大きなサングラスにくわえたばこ、角刈りの男性。「あっ?」

字幕では”男性”だけど、キャストクレジットの”あんちゃん”の樋浦勉さんは俳優だけではなく声優としても活躍されてる。

健一「2人で座りたいんだけど、ちょっと詰めてくんないかな?」

男性「連れが来るんだよ、俺も」

健一「それまでどいててよ」

男性「しつけえな、おめえも」

健一「いいだろ? 詰めたって別に」

男性「なんだよ? この野郎」立ち上がる。

文子「いいわよ。立ってたって」

健一「いいって。俺はこういうふうにもめたりするの好きなんだよ」

男性「おいこら!」健一の胸を押す。

健一「おい、やんのかよ?」胸ぐらをつかむ。「ホントにやるなら表へ出ろよ」

男性「離せ、うるせえ!」

健一「俺はな、ちょっと見は優しいいい男だけどな、ケンカ慣れしてんだよ、ケンカ慣れ」

男性「うっ…」

健一「俺が強いの分かったかよ?」

男性「離せよ。みっともねえじゃねえか」

健一「人を見て威張んだな。向こう行けよ。向こう行けったら!」

男性「フン! てやんでえ、バカ野郎!」上は無地のジャケット?だけど、下は紫と白の縦じまズボン。健一や文子をにらみつけながら去っていった。

文子「やだわ。あとでなんかされたら」

健一「大丈夫だよ。あいつ、駅前の床屋だもん」

文子「あら、知ってるの?」

健一「やくざとなんかケンカするかい」

文子「びっくりしちゃったわ」

健一「ちょっといいところ見せようと思ってさ」

文子「バカね」

健一「でも格好よかったろ? 少し」

文子「嫌いよ、あんなの」

健一「おとなしけりゃいいってもんじゃないぜ」

文子「見てるわ、あそこで」

健一「ああ? よう! ヘヘッ」コーラ瓶を持った右手を上げる。

文子「子供ね、あんたって」

健一「で、話って、なんだい?」

文子「あんたに話したってしょうがないんだけど」

健一「そんなバカにしたもんじゃないぜ」

文子「うん」

健一「もっとも竜作が冷たいなんてことなら聞きたくはないけどね」

文子「違うの」

健一「うん?」

文子「結婚しようって人がいるの」

健一「えっ? 結婚?」

現場

作業している竜作に声をかける健一。今晩ちょっと話がある、8時ごろパチンコ屋の辺にいろよと竜作に言う。

竜作「なんの用だい?」

健一「そんとき言うよ」

それにしても近藤正臣さんの髪は地毛が茶色なの? すごくきれい。

夜、ビル街をバックに橋を歩く健一と竜作。

健一「どう思うんだ?」

竜作「相手はどんなヤツなんだ?」

健一「どんなヤツだろうと反対だと言えないのかい? 勤めてるとこの息子だとよ」

~かい?という口調、「兄弟」の信吾っぽいと思ってたけど、先日、年末に録画した山田太一さんの追悼番組を見ていたら「ふぞろいの林檎たち」の登場人物もこんな感じだったから、山田太一さんの描く若者の口調なんだね。

竜作「そうか。よくある話だな」

健一「だけどそいつは無理やりなんとかしようなんてヤツじゃなくてさ、気の小さいヤツでさ、自分じゃ言えなくて親が彼女に言ったんだとよ」

竜作「そうか」

健一「そんなヤツだから、親は彼女みたいなしっかり者(もん)がいいと思ったんだろ。親のないことなんか気にしないって彼女を呼んで、ちゃんと頼んだんだとよ」

竜作「それでどうなんだ? 彼女」吸ってたタバコを橋から投げ捨てる。

健一「迷ってんじゃねえか。彼女はお前が好きさ。だけどな、お前がいつまでもそんなふうなら諦めて結婚しちまおうと思ってんだぞ。そば屋の跡取りなら悪(わり)い話じゃねえんだぞ」

橋の欄干にもたれかかり爪を噛む竜作。

健一「いいのかよ? ほっといていいのかよ? かわいそうじゃねえか!」

竜作「お前…」

健一「どうすんだい?」

竜作「なぜそんなムキになるんだよ?」

健一「なぜって…そんなこと当たりめえじゃねえか」

竜作「そうかな?」

健一「だってよ、俺んとこへ相談しに来たんだぞ、彼女。お前んとこ行きたくたって、お前がそんなふうじゃ行きようがねえじゃねえか。行くとこなくて俺を呼び出したんだ。それなら俺だってほっておけねえじゃないか。それをお前はなんだ? ひと事みたいな顔すんな」

竜作「前にも言ったはずだ。俺は今、結婚なんかしたくねえんだよ」

健一「別に今しろって言ってんじゃねえよ。彼女にそんな結婚はよせって言ってやりゃいいんだ」

竜作「分かんねえじゃねえか。もしかしたらいい縁談で彼女、幸せになるかもしれねえじゃねえか」

健一「おい」

竜作「なんだ?」

健一「その男、見に行こうや」

竜作「どこへ?」

健一「彼女の店さ。跡取りならうちにいるだろ」

竜作「イヤだな、俺は」

健一「どんなヤツが彼女と結婚するのか見てみりゃいいんだ。2人いるとこを見ても、お前が平気なら、そんなら勝手にするといいさ」

竜作「俺が行ったら、彼女、どんな気がすると思うんだい?」

健一「喜ぶさ」

竜作「そうかな?」

健一「知らん顔されてるよりマシだからな。来いよ」そのまま橋にもたれかかっている竜作を見て「ついてこいよ」。

文子の働くそば屋へ入って行く健一と竜作。文子も「いらっしゃいませ」と声を出すが、他の客の所にいて、店に入ってきたのが健一たちだと気付いていない。

橋田壽賀子ドラマの「道」のわんこそば屋より広々して見える。座敷席もある。そういえば「あしたからの恋」のやぶ清は一度も店舗すら映ったことないね。

竜作はタバコを吸い始めた。後ろに「冷うどん百円」の紙が貼ってある。

文子「いらっしゃい」

健一「驚いた?」

文子「ちょっとね。(竜作に)いらっしゃい」

竜作「ああ」

文子「(健一に)なんにします?」

健一「カツ丼でも食うかい?」

竜作「フッ…俺はビール」

健一「何言ってんだい。こんなとき酒飲むなんて態度悪いぞ」

文子「いいわよ、ビールだって。カツ丼とビール?」

健一「カツ丼と盛りそば。ビールなんか飲むことねえよ。このうち来て」

文子「だって…」

竜作「いいよ、それで」

文子「じゃ、カツ丼1丁、盛り1枚」テーブルから去る。

益夫の父親「はいよ! カツ丼1丁、盛り1枚ね」

健一「見えねえな、ドラ息子」

働く文子を見る竜作と目が合う文子。竜作はそっと目を伏せる。

健一「ねえ、ちょっと」文子を呼ぶ。

竜作「つまんないこと言うなよ」

健一「いないの? あいつ」

文子「出前に行ってるの」

健一「じゃ、待ってりゃ来るね」

文子「あの人を見に来たの?」

竜作「いや、そういうわけじゃ…」

健一「何言ってんだい。どんなヤツがプロポーズしたかって、こいつ、カッカして見に来たのさ」

竜作「バカなこと言うなよ」

文子「来てくれてうれしいわ。でも、ここじゃ話なんかできないじゃない。あしたでもどっかで会いたいわ」

健一「アパート行けばいいさ。なっ?」

竜作「いや、駅前の『アリス』って喫茶店で待ってるよ」

文子「何時?」

竜作「10時ならいいかな? 夜の」

文子「いいわ」

他の客がいくらですか?と文子に話しかけた。

文子「えっと、220円いただきます」

ひやむぎ百五十円の札も見える。

戸が開く音がし、「ああ、怒られちゃったよ」と益夫が入ってきた。

健一「帰ってきたぞ」

益夫「文ちゃん、怒られちゃったよ」

文子「あら、どうして?」

今まで、字幕で”文子”と書かれていたけど、名前を呼ばれるシーンがなく益夫に”ふみちゃん”と呼ばれて、ようやく文子(ふみこ)だと分かった。

益夫「天丼3つって言ったかい? 宮本さん」

文子「2つよ」

益夫「2つじゃ、お客さんに出せやしないって怒られちゃったよ」

文子「2つって言ったわよ。あの奥さん」

益夫「なあ? 参ったよ、ガミガミ」

奥から益夫の父親が出てきた。「店でそんなことしゃべんじゃないよ」

益夫「うん。参ったよ」厨房へ。

会話中、健一と竜作の席が映っていて、益夫の顔ははっきり映らない。益夫は木下恵介アワーではおなじみ、池田二三夫さん。

隣のテーブルの片づけに来た文子に話しかける健一。「ねえ」

文子「えっ?」

健一「今のがそうなんだろ?」

文子「うん」隣のテーブルの器を片づけて去っていく。

健一「おい、今のがそうなんだってよ」

竜作「ああ」

健一「バカみてえじゃねえか。あんなヤツに取られることねえよ。ホントに」

竜作「ああ」

健一「なんだよ? お前は。ウジウジすんなよ。景気よく文ちゃん俺についてこいって言えよ」

竜作「育ちがいいな、おめえは」

健一「なんだよ? それは」

竜作「皮肉じゃねえんだ。帰り、うち寄ってけよ」

今日は竜作の笑顔が多くていいな~。

健一「なんだ? お前、バカにおとなしいじゃねえか。気味悪いぞ」

竜作「フフッ」

文子に視線を送る竜作と健一。

健一「あんないい子、やっちまうことないよ」

竜作のアパート

竜作や「あしたからの恋」の正三もちゃんと働いてるからちゃんとしたアパートだなあ。「おやじ太鼓」の洋二が住んでたような部屋は出てこないな。

健一「へえ、なるほど」

竜作「なんだい?」

健一「これがお前の部屋か」

竜作「ここのばばあ、ケチでなあ。網戸入れねえから窓開けると蚊が入ってくんだ」蚊取り線香に火をつける。

健一「掃除もお前やんのか?」

竜作「そりゃそうだよ」

健一「洗濯もか?」

竜作「他に誰がやんだい」

健一「うちへ持ってこいよ。おふくろにやらせろよ」←勝手に決めるな。

竜作「そう言ってくれんだけどな、いいんだ。大した洗濯ねえんだ。クリーニング出しちゃうしな」←それもすごい。

健一「なんにもねえ部屋だな」

竜作「水飲むか?」

健一「水?」

竜作「酒もねえし、なんにもねえんだ」

健一「なんにもいらねえよ」

竜作「ああ…お茶入れるか? 暑いけど」

健一「変なのあんじゃねえか」

竜作「うん?」

健一「なんだ? これ」本棚から数冊、本を出す。「これ、お前のか?」

竜作「そりゃ、俺んだよ」

健一「英語、物理、数学…みんなこれ大学受験のじゃねえか」

竜作「うん」

健一「どうすんだ? こんなの」

竜作「受けようと思ってな」

健一「ホントかよ?」

竜作「先の話だよ」

健一「だけど、大学受験のためには、お前」

竜作「高校か?」

健一「あっ、いや。俺は別に偉そうに言うつもりじゃないけど、お前、中学卒業すると行かなかったんだろう? あと」

竜作「検定取ったんだ」

健一「検定?」

竜作「通信教育で高校卒の資格あるんだ」

健一「こりゃ、驚いたな。俺より学歴いいじゃねえか」

中卒で大工の職人歴が3年以上…健一と竜作は同じ歳くらいの設定なんだろうか(実年齢は7歳差)。いやいや、竜作はたばこも酒もやってるしなあ。

竜作「前にも言ったけどな、俺、子供のころいい思いしなかった。だから、いつもいい思いしてるヤツが羨ましくてな。いつか俺だって…って、しょっちゅう、そう思ってたんだ。だから大工になっても、ただ大工じゃ飽き足らねえんだ。すぐ、もっとマシな生活がある。そう思っちゃうんだな。育ちのいいヤツなら大工で恋人と所帯持って、子供の2~3人もできりゃ、それで幸せだと思うんだろうけどな。俺は今に見てろって何度も思いすぎたんだな。だから、建築家になろうとして高校までの免状取ったんだ」

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健一「よくまあ取れたもんだなあ」

竜作「まったくなあ。今はちょっと根気ないんだ」

健一「すげえよ」キラキラした目で言われて、竜作も頬が緩む。

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今は8教科、以前は9教科か~。すげえよ。

竜作「去年資格取ったら、あとは気が抜けちまってな」

健一「どうして?」

竜作「大変だったからな。ホッとしてバーへ行ったりしてな」

健一「そうか。それで新さんと会ったのか」

竜作「あとまだ大学の夜間部へ4~5年、それがダメなら2級建築士の資格取ってジワジワ追い上げてな。とにかく絶対1級の資格取って、でっかくやりたいんだ」

健一「しつこいんだな」

でっかくやりたいとコツコツやってる竜作、えらい!!

竜作「だからな…」

健一「うん?」

竜作「そりゃ確かに彼女と結婚したら多分幸せだろうよ。それぐらいの稼ぎは俺にもあるもんな。しかし、そう簡単に幸せになっちゃ、のしていく気力がなくなっちまうような気がするんだ」

健一「幸せならそれでいいじゃねえか」

竜作「それで済めばいいさ。だけど俺は、いつか後悔するような気がするんだ。ハッ…俺って面倒くさいヤツなんだよ。野心があるんだな。だから、彼女、そば屋の嫁になったほうが幸せなんだ、きっと」

健一「そんなことお前、あした、彼女に会って言うつもりか?」

竜作「言えたら言おうと思うよ」

健一「っていうことは念を押すけど、お前、本当は彼女が好きってことだな? そうなんだな?」

竜作「そういうことだな」

健一「おい、こら。そんなバカなことあるかよ。向こうも好きで、お前も好きで、それで彼女がそば屋の嫁になっちまうなんて、わけが分かんねえじゃねえか」

竜作「そういうことだってあるさ。単純なこと言うなよ」

健一「単純だと? 好きな同士が一緒になるっていうのが、なぜ悪いんだよ」

健一って割と恋愛脳というか…文子が早く結婚したい人ならそば屋とすりゃいい。竜作の野望をかなえてあげたいよ!

自転車で河川敷を走る健一と文子が出会った。

文子「こんにちは」

健一「よく出られたな」

文子「今頃ちょうど暇になるの」

健一「もし会えればと思って電話したんだよ」

文子「何忘れたの?」

健一はトイレへ塗る防腐剤を買いにこの先のトタン屋へ行く途中に河原で会えればと文子に連絡し、仕事が終わってから文子の所に行こうと思っていた。今晩、竜作に会ったとき、バカなことを言うかもしれないが信じちゃダメだと忠告する。

健一「あいつ、そば屋の嫁さんになれって言うかもしれない。あんたのことを好きじゃないって言うかもしれない。でもね、それはウソだからね。あいつ、ホントはあんたのこと好きなんだ。大好きなんだよ」

文子「どうして分かるの?」

健一「俺にはっきり言ったもん」

文子を避ける竜作の態度から健一の言ったことを信じない文子。

健一「あいつには野心があるんだよ。設計技師になってビルだって建てちまおうと思ってんだよ」

文子「だから私を避けるの?」

健一「本人じゃないんだから問い詰められたって困るけどさ、あいつ、まだ若いじゃないか。結婚したくないのも分かるじゃないか。結婚して子供なんかできちゃったら、なかなか思い切ったことできなくなるもんな」

文子「だから、私、他の人と一緒になるって言ってるのよ」

健一「何言ってんだよ。あんた、竜作が好きなんじゃないか」

文子「好きだって、あんなふうじゃ寂しくてしょうがないもの」

健一「好きなら待ってやれよ。何年待ったって、そば屋のあいつより竜作の方がいいよ」

文子「待ってくれって言えば待つわよ。ただ冷たくされてるんじゃ待ってられないわよ。情けなくて」

健一「あいつに俺が言わせるよ」

文子「言うかしら? そんなこと」

健一「今晩言わなくったって、近いうちに言わせるよ、きっと。だから、そば屋の嫁さんなんかになんないでいろよな。俺、初め、竜作、気に入らなかったけど、あいつ、生意気だけど、フッ…いいヤツだよ」

文子「あんたと同じね」

健一「俺はあんなひねくれちゃいないさ」

文子「そうね。あんた、親切だわ」

健一「見ちゃいられないからさ」

文子「ありがとう」

健一「あんた、いい感じだし、いい顔してるし、簡単に嫁さんになっちゃうのがイヤだったんだ」

文子「簡単になんかならないわ」

健一「自分をうんと大事にしろよな」

うなずく文子。

健一「じゃ、俺、急ぐから」

文子「ありがとう」

健一「ううん」自転車をこぎだす。

文子「健ちゃん!」

振り向いて自転車を止める健一。

文子「健ちゃんなんて言っちゃった。もう友達なんだから私のことも文ちゃんって言って」あんた、あんたじゃよそよそしいと言い、私も向こうに帰るから一緒に帰ろうと誘う。

健一「あっ、急ぐから」

文子「私も飛ばすわ」

健一「ハハッ、先に行けよ。あとについていくから」

文子「うん」

並んで自転車を走らせる文子と健一。

夜、喫茶店で会う健一と朝子。急に会いたくなったからと朝子を呼び出した割に黙っている健一。勉強ばかりの朝子はあした神田へ受験雑誌がやっている模擬試験を受けに行く。この前やったとき、かなりいい線いったので、かえって今度は怖いと話す朝子。「本橋君も飯田君も鈴木君も受けるのよ」と言われても生返事の健一。

本橋君が余裕を見せてボウリング行かないかと放課後みんなを誘っても誰も乗らない。尾崎さんは神田まで暑いのに出かけて病気になったら損しちゃう田畑さんに言った等々、朝子がクラスメイトの話をしている中、健一が思い浮かべるのは、喫茶店で待ち合わせて向き合って話をする竜作と文子のこと。

朝子はこんな話つまんないわねと健一の仕事のことを聞く。

健一「俺、新米だけどさ、新築の一部屋任されちゃってんだ」

朝子「一部屋?」

健一「ああ、全部やるのさ。床張りも窓も壁の下地も全部図面見て1人でやってんだ」

朝子「すごいじゃない」

健一「手ぇ抜かないから大変だよ。防腐剤塗って床なんかすごく丁寧にやってんだ」

朝子「防腐剤なんか使うの?」

健一「うん。ちょっと特殊な部屋だからさ」

朝子「どんな部屋?」

健一「小さいのさ。だけどちっちゃくたって窓を切ったりするのは、かえって難しいぐらいさ。タイル屋が褒めてくれたよ」

朝子「タイル使うの? 部屋に?」

健一「いや、部屋ったって寝たり起きたりするとこじゃないからさ」

朝子「お風呂?」

健一「うん、まあ、似たようなもんだな」

朝子「やだ、おトイレ?」

健一「フフッ、まあね」

朝子「やだわ」

健一「そんな笑わないでくれよ」

朝子「だって部屋って言うんですもの」

健一「トイレって言いにくかったんだよ」

トイレと言えば…と試験の前に必ずトイレに入る塚田さんがこの前のテストでバカみたいなカンニングをしたと朝子が話し出すと、また竜作たちのことを思う健一。うんと簡単な公式を忘れちゃう塚田さんは前の席がお坊ちゃんの茂倉君でシャツの背中へ公式を鉛筆で書かせてもらったが、先生にバレて泣いてしまった。生返事の健一。

朝子「世界が違うと話題が違ってきてダメね」

健一「うん」

朝子「悪いわ、話が合わなくて」

健一「しょうがないよ」

朝子「そうね。しょうがないわね」

え~!? 朝子はちゃんと健一に仕事の話題とか振るのに、健一が朝子の話になると興味0になっちゃうだけだよ。かき氷を食べてる健一と朝子。

現場

新さんはいないけど、安さんはいる。

竜作「おう」

健一「なんだよ?」

竜作「人の世話焼くのもいいけどよ、度が過ぎると迷惑なだけだぜ」

健一「なんだと?」

竜作「意見言うのは勝手だけどよ、俺とあの子のことは、結局お前とはなんの関係もねえんだからな。俺があの子に何を言おうと、お前がカッカすることはねえんだよ。あの子はそば屋の嫁になったほうが幸せに決まってるんだ。俺みたいな、ひねくれたの待ってたっていいことはどうせないんだ」

二人が言い争いになっていることに気付き、見守る安さん。

健一「格好いいこと言うな」

竜作「とにかくお前がヤキモキすることはねえんだ。迷惑だぜ」

健一「ちょっと待て」

竜作「なんだ?」

健一「お前に冷たいこと言われて、あの子がどういう気がしたと思うんだ?」

竜作「嫁に行く気になったろうさ」

健一「この野郎」

竜作「お前、なんで彼女のことそんなに気になるんだよ?」

ちょっとずつ近づく安さん。

健一「おめえってヤツは…」

竜作「まさか惚れてんじゃねえだろうな」

健一「なんだと? なんてこと言いやがるんだ」竜作を殴る!

安「やめろ、健坊! 健坊、やめろ! こら、竜作! 竜作、やめないか!」

安さんまで巻き添え食って危ない。もみ合う2人がスローモーションになる。最後の数十秒、ちょっと尺余った!? もみ合う2人の間に入る安さん。(つづく)

ちょっと仲良くなったと思ったら現場でケンカはやめましょう。今日は、もと子、新次郎、堀田とベテラン勢が軒並みいない日だったな。竜作がいっぱい見られて嬉しい半面、ちょっと寂しい。

日本映画専門チャンネル (@nihoneiga) August 27, 2018

たまたま見つけたけど、日本映画専門チャンネルでも「たんとんとん」を放送したことがあったんだな~。

私は2021年に「兄弟」→「二人の世界」→「3人家族」という順番で見たけど、その時は「たんとんとん」は含まれてなかったように思います。3作品をローテーションで放送していて、「3人家族」をスルーしてしまい、「兄弟」から見始めたけど、また「3人家族」から再放送してくれたので見られたんです。それとも山田太一作品だと思わなくてスルーした???

木下恵介アワーはチバテレビTVKTOKYO MXなど関東の地上波で再放送してるみたいだけど、割と字幕なしのところが多いみたい。昔のドラマは今ではしない言い回しもあるので字幕必須!

日本映画専門チャンネルもBS松竹東急も字幕を付けてくれてありがたいと思っています。