第9話「ムニムニ運動ホニホニ芸術」(1983年11月27日放送 脚本:浦沢義雄 監督:加藤盟) (original) (raw)
【ストーリー】
「いちご畑でつかまえて」をバックに、海辺を走るヨーコ(若林一美)。花束を手渡すペットントン(声:丸山裕子 スーツアクター:高木政人)。ヨーコはペットントンにキス。それは夢だった。
ヨーコの夢を見て寝ぼけ、ネギ太(高橋利安)にお前は寝過ぎだと言われるペットントンは、ベビーベッドから転落。
ペットントンは、朝からごはんを5膳食すほど食欲旺盛。
ペットントン「おかわりトントン!」
トマト(東啓子)からちょっと太りすぎと言われ、気にするペットントン。
公園で、ヨーコは女友だちと雑誌を見ながら話していた。
ヨーコ「ボーイフレンドは、やっぱりスポーツマンが最高じゃない?」
それを聞いたペットントンはナス夫(佐渡稔)に頼んでコーチしてもらうことに。バッティングセンターで、ボールが頭に当たったナス夫は気絶。ジムでペットントンがボクシングをすると、パンチされたナス夫はのびる。テニスをすると、ボールがガラスを直撃し、その家の主婦が激怒。最後は公園でランニング。
だが、そこへまた友だちと通りがかったヨーコは言う。
ヨーコ「スポーツマンもいいけど、芸術を愛する男性も素敵ね」
ペットントンはナス夫を放置し、今度は芸術にチャレンジすることに。どうすればいいのか、トマトにお伺いを立てる。セロリ(斎藤晴彦)がピアノを叩いて、奇怪な音楽を奏でていた。
トマト「うちで芸術を理解できるのはお母さまだけかもね。ペットントン、お母さまに芸術を教わったら」
そうトマトに言われたセロリは上機嫌。もっとも、トマトは陰で「お世辞に決まってんじゃない」。
ペットントンは、噴水の前でポーズをとるセロリをモデルに絵を描く。
セロリ「ペットントン、見せてごらんなさい。モデルがいいから、けっこう美しく…」
だが出来上がったのはピカソの抽象画のようなイラストで、見せられたセロリは怒る。逃げ出すペットントン。さがすセロリ。
公園にいたヨーコ。ペットントンはヨーコを遠くから見つめてその肖像を描くも、渡そうとすると、ヨーコは彼氏(山口剛)のバイクに乗って行ってしまう。落ち込むペットントン。「SWEET MEMORIES」が流れる。
だがバイクをふたり乗りするヨーコと彼氏の前に、別の女(星野いずみ)が現れる。
ヨーコ「だあれ、あの娘」
女「どこ言ってたのよ、何度も電話したのよ」
彼「ごめんごめん」
ヨーコは機嫌を損ねて、バイクを降りて帰るのだった。
ペットントンをさがすセロリ。そこで屈強な男(ストロング金剛)が砲丸投げをしていた。男は砲丸を「すいません」と取りに来ると、セロリは渡すふりをして、「よいしょ!」とわざと遠方へ投げてしまう。
屈強な男「あのばばあめ!」
ペットントン「ヨーコ…」
そこへジャモラー(声:八代駿)が襲来。
ジャモラー「ペットントンの髪の毛ごちそうジャモラー」
パニック状態のペットントンは、ヨーコとばったり遭遇。絵を隠すペットントン。取り上げるヨーコ。
ヨーコ「ステキじゃない? だあれ、この子?」
ペットントン「ムニェ、ヨーコムニェ、ヨーコ」
ヨーコ「え、あたし?」
「どーぞ」と絵を贈られたヨーコは「この絵、一生大切にするわ」とキス。有頂天のペットントンは「ペーットントン!」と叫んで膨らみ、ヨーコと空に浮かび上がる。
ヨーコ「このままハワイまで行っちゃおう」
それを見つけたセロリがパチンコで攻撃。ふたりは墜落する。気絶するヨーコ。うふふふふと雀躍するセロリだが、先ほどの屈強な男が襲ってきた。砲丸を投げつける男。ペットントンはタイムステッキで時間を巻き戻して、頭で砲丸を跳ね返して男を撃退。喜ぶセロリは、ジャンプしたペットントンの下敷きに。
やがて倒れているヨーコのもとへ、「ヨーコちゃん!」とさっきの彼氏が駆け寄ってきた。
ペットントン「ムニェ!」
ペットントンは肖像画を拾って、泣きながら去ち去る。気がついたヨーコ。
ヨーコ「あら、ペットントンは?」
セロリを背負って帰るペットントン。セロリは頭に氷枕を当てて寝込む。夕食はカレーだが、ペットントンは夕食もとらず、ベランダでヨーコの肖像画を焼く。
ペットントン「ヨーコ…」
平和に食卓を囲むネギ太、ナス夫、トマト。そしてペットントンはまたヨーコの夢を見て、ベビーベッドから落っこちるのだった。
【感想】
ヨーコへの想いを募らせるペットントンの奮戦記。初期の『ペットントン』はヨーコの存在が実に大きく、前回はペットントンを諭す役で、今回はヒロイン役。セロリなど大人が中心で子どもの出番が少なく、中期後期のようなトンデモ性も薄く、初期の典型と言うべきストーリー。後半に屈強な男とトラブルになっていて、通りすがりの奴が脈絡もなく敵というのも、初期にはありがち(この役回りが、中期後期にはストーカー・根本君に移行する)。
ペットントンのせつせつとした恋情が描かれているけれども、このエピソードを見ていると、ヨーコがまさか中盤で出番が消滅してなし崩し的に退場しまうなど信じられない。
ヨーコを相手に照れるペットントンの演技は、丸山裕子氏の声の素晴らしさに加えて、高木政人氏の動きももうほんとに生きているみたいで、スーツアクターの存在を忘れてしまうほど(だがその後でキスされて膨らむペットントンの気色悪い姿によって、感銘がかき消されてしまう)。
前半でセロリがピアノを叩いて奇怪な音楽を奏でているが(斉藤晴彦氏のアドリブ?)、この趣向を生かしたのか、同じ加藤監督の第20話ではセロリによる地獄のコンサートが描かれる。
砲丸投げをしている屈強な男は、元プロレスラーのストロング金剛氏。この時期、『科学戦隊ダイナマン』(1983)、『超電子バイオマン』(1984)などにも出演している。
加藤盟監督は、『ペットントン』では初登板。不思議コメディシリーズでは『バッテンロボ丸』(1982)や『どきんちょ!ネムリン』(1984)を監督。他に映画『東京から来た女の子』(1978)、『オバケちゃん』(1987)など児童文学の映画化を手がけていて、映画・テレビを問わず子ども向け作品の専門家とも言うべきキャリアの持ち主である。『5等になりたい。』(1995)など、アニメーション映画も演出。もっとも今回は大人メインの内容なのだが。
『ペットントン』での加藤監督は、第20、27、33話といった傑作エピソードを撮った。その3本はいきいきした子ども像やシュールな趣向の炸裂など特に優れており、加藤監督の実写映画での仕事とぜひ比較検討してみたいけれども、映画作品は残念ながらソフト化されていないらしく、見る機会はあまりなさそうである(筆者は幼いころに『東京から来た女の子』『オバケちゃん』の原作を愛読していたので、特に映画版は見てみたいもの)。
加藤監督の詳細な経歴は検索しても出てこなかったけれども、日本映画監督協会のサイトによるとすでに亡くなられているようである。