万年筆用古典インク (iron gall ink, 没食子インク, タンニン鉄インク) の実験結果と評価 ~文献を調査し、自ら実験してきた記録~ (original) (raw)
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鉄を含む万年筆用インクである古典ブルーブラックインク(古典インク, 没食子インク, タンニン鉄インク, iron gall ink)について、文献にあたり、様々な実験をして記事を書いているのですが、たくさんあって自分でも何を書いたか分からなくなることがあるので、ブログのトップにまとめを表示します。秘伝のタレのように継ぎ足しながら書いているため長いです。
これまでの経緯は下記の一連の投稿 (古典ブルーブラックと万年筆と私 または私は如何にして心配するのを止めて古典インクを愛するようになったか - 趣味と物欲) からどうぞ、頑張って書きました^^)ノ
pgary.hatenablog.com
どのインクが、古典インク (iron gall ink, 没食子インク, タンニン鉄インク) なのか調べ続けているわけは以下の記事に書いています。
pgary.hatenablog.com
古典インクは、ある程度の耐水性・耐光性があり、比較的裏抜けや滲み難く、書いた後の色の変化が楽しめ、昔ながらのインキ消しで消すこともできる上、ペン先が汚れたらアスコルビン酸できれいに落とすことができるインクです。耐水性・耐光性では顔料インクに一歩譲りますが、インクの性能云々というより使って楽しいインクだと思います。
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色素が入っていない没食子酸インクの色変化
個人的には古典インクが好きで良く使っていますが、このブログでは以前から、インクの好みは千差万別、好みが9割と主張しています。
pgary.hatenablog.com
更に詳しい情報は、下記の「続きを読む」を押してみてください
古典ブルーブラックの古い常識を疑う
万年筆を使い始めると、まず最初に、「古典インクは鉄ペンを腐食させる、金ペンでは使えない」と教わることが多いと思いますが、ここで言われる鉄ペンというのは昔のスチール製付けペンのイメージを引き摺っていて、現在のステンレスペン先の万年筆であれば古典インクを使用できます *5。実際にプラチナ万年筆は、ステンレスペン先のプレピーに古典ブルーブラックのカートリッジを添付して販売しています。
pgary.hatenablog.com
利便性や機能的な面だけで、古典ブルーブラック不要論をとなえる方もいらっしゃいますが、そもそもそれを言い出したら、何で万年筆を使うんだってことになりませんか?(^^; それはともかく、個人的にはインクは好みが9割だと思っているので、自分で責任を取る限り、好きなインクを好きな万年筆で使えば良いと思います。
pgary.hatenablog.com
古典ブルーブラックに関するQ&A
今や空前の!?万年筆ブーム、新しく万年筆の魅力に取り付かれてインク沼に嵌り、古典ブルーブラック (古典インク) に初めて触れたという方も多いと思うので、Q&A形式で疑問に答えてみたいと思います。
1. 古典ブルーブラックや古典インクという言い方は間違いなの?
悩ましい問題です:所謂古典ブルーブラックを表す言葉として、パーマネントインク、混合型インク、没食子インク、iron gall ink等々色々な言い方があるのですが、どの言葉もちょっとずつ説明し足りないところがあります。正確に言うなら「タンニン酸あるいは没食子酸および鉄イオンを含む万年筆用インク」となり、長いので、この概念を一言で表すなら「古典ブルーブラック」とか「古典インク」と言うのが便利なのです。
詳しくは、古典ブルーブラックという便利な言葉は2ch発? - 趣味と物欲をご覧ください。
2. 古典ブルーブラックは危険なインクなの?
いいえ:何事も使い方次第です。基本を知ってちゃんと使えば大丈夫です。
一口に古典インクと言ってもメーカーによってずいぶん違います。鉄分の多さで比べると、プラチナ<ペリカン<<R&K<ダイアミン レジストラーズ という並びで、鉄分が少ない方がペンには優しいですが、鉄分が多い方が耐水性や耐光性は高い。
また、使われている酸の種類が、プラチナやペリカンは硫酸、R&Kやダイアミン レジストラーズは塩酸で、硫酸の方がペンには優しいが、紙には塩酸の方が優しいかな?くらいの違いがあります。*6
総じて万年筆メーカーの古典インクは万年筆への影響が少なくなるように作られているようです。
2.2 紙への影響は?
没食子インクで書かれた昔の文献で、インク焼けという虫食いの様になる現象が知られています。*9 その原因として、硫酸と鉄イオンが考えられていて、硫酸の代わりに塩酸にすることはできますが、鉄イオンに関しては古典インクを使う限り避けては通れません。ただ、保存性が高い最近の中性紙でも同様の現象が起こるかは、まだ分かりませんので、数十年後にどうなっているか検討が必要でしょう。*10
ちなみに、40年前に古典BBで書かれたノートがブログで紹介されていましたが、それではインク焼けは起こっていませんでした。*11
古典インクが怖いなら、顔料やラメ入りインクだって別の意味で怖いです。怖い怖いといたずらに恐れるのではなく、何に気をつければ良いのかを知り、最後は自己責任だと割り切ってインクは好みが9割だと好きなインクを楽しみましょう。
4. 古典インクのアスコルビン酸洗浄法とは?
このブログで2010年に世界で初めて公開した、安価で安全で効果的な古典インクの洗浄法です。ポーランドのKWZ INKの方も没食子インクについては、アスコルビン酸による洗浄を推奨されており、グローバルに認められた方法です。
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古典インクがペン先等で固まった時に出来ているのは、鉄(II)イオンが酸化された鉄(III)イオンとタンニン酸あるいは没食子酸がキレート化合物を作り、水に溶けなくなったものですから、還元してやることで水に溶けるようになります。酸性にするだけでも効果はありますが、還元性+酸性+キレート能があり、安全性も高いアスコルビン酸 (ビタミンC) が現状ではベストだと思います。
薬局やドラッグストアで購入できる局方品もありますが、食品添加物グレードのもので十分です。大袋で購入して余った分は、料理に使ったり、飲物に混ぜて飲んだりできるので、コストパフォーマンスは高いです。
どうしても洗浄に使う分だけ購入したいという時は、コンビニ等でDHCのビタミンCカプセルを購入し、カプセルを開けて中の粉末のみ溶かして使うという方法があります。
なおビタミンC入りの飲料など液体として売られているものは効果がほとんど無いようです。粉末を使用直前に溶解して使用するのが効果的です。
pgary.hatenablog.com
一見鉄ペンが腐食しているように見えてもアスコルビン酸できれいに落ちることもあるという結果が報告されています。
過去の古典インクに関する記事はここから
下記は直接ラミーに問い合わせた際の返信内容です。
ラミーボトルインク(ブルーブラック)ですが、2011年12月以降に製造されたものは染料系になっております。
特に公式公開は行なっておりません。
また、ラミーは2019年にベニトアイトという名前で古典ブルーブラックを復活させました。
モンブランのミッドナイトブルーも箱の裏に「耐色性に優れています」の記述が無くなったものは、古典ではなくなっています。
Google booksで「趣味の文具箱」の一部が公開されていますが、古典ブルーブラック研究の記事は、Vol.16は4頁中3ページ、Vol.23は2ページとも読むことができます。
どのブルーブラックが古典ブルーブラックか検証するための、実験方法と実験結果が分かります。
- 趣味の文具箱 Vol.16:p64-67のうちP64-66
- 趣味の文具箱 Vol.23:p106-107
プラチナ クラシックインクについて
- プラチナ古典インク新色6色の文具屋さんによるツイートまとめ - 趣味と物欲
- プラチナ古典インクをナガサワ明石店先行販売でゲットされた方のツイートまとめ - 趣味と物欲
- プラチナ クラシックインク (古典インク) が正式販売されて購入された方の感想などまとめ - 趣味と物欲
- プラチナクラシックインクの海外における評価と筆記見本 - 趣味と物欲
古典ブルーブラックインクに関する疑問を検証・考察
- 古典ブルーブラックは危ないインクなのか? - 趣味と物欲:そんなに言われる程危なくはない。
- 古典ブルーブラックインクの黒の色は鉄の錆の色? - 趣味と物欲:錆ではない。
- 古典ブルーブラックインクは酸化鉄を含むインクという違和感 - 趣味と物欲:酸化鉄ではない。
- インクジェットプリンターで没食子酸鉄インク印刷2 iron gall inkでミクダヨー - 趣味と物欲:こんなこともできます。
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没食子酸で初音ミクを描いてみた。
- 鉄ペンと古典ブルーブラックの話は、少なくともパイロットに関しては戦前に解決しているではないですか。 - 趣味と物欲:パイロットの白ペン( ステンレスペン)には使ってもよいとメーカーによるお墨付き
- 古典ブルーブラックインクによるインク焼けに関する現時点での一考察 - 趣味と物欲:そんなに心配しなくてよいと思います。
- 市販の古典ブルーブラックインクは硫酸性か塩酸性か。 - 趣味と物欲:炎色反応を用いる簡易判別法
- 万年筆インクの希釈に関する予測 - 趣味と物欲:希釈の際は保存剤の濃度に注意
- 本来は透明な没食子酸インクの原液 - 趣味と物欲
- 没食子酸鉄インクとタンニン類鉄インクの違いについて。 - 趣味と物欲
- 没食子酸鉄インクとタンニン酸鉄インクに発生する澱の違いと安定化のための方策。 - 趣味と物欲:パイロットインキの古典ブルーブラック安定化特許の解説
- 万年筆用ブルーブラックインク vs ガンヂーインキ消 - 趣味と物欲
アスコルビン酸洗浄法、古典インクを使った万年筆のメンテナンス
- 古典ブルーブラックインクの万年筆へのこびりつきを化学的に落とす。 - 趣味と物欲:アスコルビン酸(ビタミンC)できれいになる。
- 万年筆用古典ブルーブラックインクのアスコルビン酸洗浄法に関するQ&A - 趣味と物欲
- アスコルビン酸の古典ブルーブラックインクの洗浄力をクエン酸やシュウ酸と比較する。 - 趣味と物欲:やっぱりアスコルビン酸がよいみたい。
- 古典ブルーブラックインクの汚れの方は結局何で落ちるのか。 - 趣味と物欲
- アスコルビン酸による古典ブルーブラックの洗浄には、pHよりも還元性の寄与が大きい。 - 趣味と物欲
- アスコルビン酸で古典ブルーブラックインクの筆記線は消えるか。 - 趣味と物欲
市販のブルーブラックインク (顔料インクも) を試験する
- モンブランのパーマネントブラックが顔料か染料のどちらかと言えば、、、。 - 趣味と物欲:やっぱり顔料みたいです。
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自作インクの色見本
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未完成の自作インク
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他の方のインクに関するページへのリンク
- 万年筆評価の部屋 解説【インキと科學】へのリンク
- 万年筆評価の部屋:解説【萬年筆と科學】 その79 ハンガリー・イタリアの萬年筆業界 解説【萬年筆と科學】へのリンク
- 万年筆評価の部屋 【パイロット会社案内】 へのリンク
- 古典ブルーブラックインクの保存性 40年の歳月は如何 | マンボウの昼寝 - 楽天ブログ モンブランのBBですが紙も傷まずしっかり残っています。
- http://lowtech-romantica.net/2018/06/16/fp-igink-02/ 鉄ペンに古典インクを入れ2ヶ月後に腐食した様に見えるシミはアスコルビン酸できれいに落ちるという実験結果
- コラム:アスコルビン酸による万年筆の洗浄|A pinch of ink
- 5分で読める「古典インクのすすめ」 - 御茶ノ雫
- 5分で読める「古典インクのすすめ」 - 黒猫陛下の書斎
- 中世のインクと刺さないハチの意外な関係(井手竜也/ハチ研究者) | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
- 5分で読める古典インクのすすめ(その2) - 黒猫陛下の書斎
- 書けなくなった万年筆をビタミンCで復活させる - 黒猫陛下の書斎
- icoro : これからはじめる万年筆入門 ? たかがインク、されどインク
- ズボラな自分だけど古典インクを使いたい!プラチナ万年筆なら、なんとかしてくれるさ!! | HERMITCRAB
- 古典インクを入れてたTWSBI DIAMOND 580を洗浄する | HERMITCRAB
- 没食子インク - Wikipedia
- Iron gall ink - Wikipedia, the free encyclopedia
- インクあれこれ(インクに関するご質問) プラチナ万年筆株式会社
- http://kwzink.com/language/en/ ポーランドの化学者が作るIron gall ink
- The Iron Gall Ink Website
- lightfastness 油性、ゲル、水性ボールペン、サインペン、万年筆の耐光性と耐水性のテスト結果
- 彩飾写本の作り方 | 羊皮紙工房
- 消えてしまったインクの話(ヘッドライン:化学を学習する意識-市民として必要な基礎・基本の化学II) | CiNii Research
- 歴史的インクとその問題点 | CiNii Research iMeasureIncさんから情報をいただきました。
- 万年筆ブルーブラックインクの教材化
- 古典インクの化学<図説>|INOUE Tomohiro 超おすすめ!
- インクのフラッシュ(Sheen)の原理を考える|INOUE Tomohiro 超おすすめ!